春うらら
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「公園になんざ、何の用だ」
『そんなに怖い顔しないでよ~。
たまには良いじゃん。
昔よく一緒に遊んだでしょ?』
春の訪れを感じられる、心地の良い今日。
私は幼馴染みである鳳凰くんと一緒に
近所の公園に来ていた。
彼はU-17の合宿に招集されてからというもの
いっつも不在で
なかなか会うことができなくなってしまっていたから
今日は2ヶ月振りの再会だ。
帰ってきたと思ったら、すぐにどこかへ行ってしまうし
彼のいない間の授業は
私がノートを取ったりしているのだから
もう少しこの献身的な幼馴染を大事にしてほしいと思う。
『ねえ、あっちの広場に行こうよ。大きな木があったよね』
返事がないのはいつものこと。
私のメンタルは、この凄みしかない彼のおかげで
鍛えに鍛えられていて
返事がなくても、睨まれても
ちょっと不機嫌感だされてもへっちゃらだ。
鳳凰くんの手を引くと
嫌そうにしていた割にすんなりついてきてくれる辺り
本当に嫌ってわけではなさそうだし
今日は私に付き合ってもらおう。
だって、またすぐ会えなくなるんだもの。
『あれ…?なくなってる…』
私にとって、思い出の大きな木がなくなってしまった。
ぽつんと残された切り株はまだ新しく
切り口が痛々しく見えた。
「古い木だったからな」
『この前まであったのに…』
つい先週まであったあの大きな木は
なんの木だったのかさえわからないけど
私にとっては、思い出が詰まっている木だった。
幼い頃、私と鳳凰くんはこの木の下で出会った。
私が一人でこの木の下で遊んでいたら
いきなり、ガサガサって音がして
男の子が上から降ってきたのだ。
落ちた拍子に膝を擦りむいたその男の子に
絆創膏を貼ってあげたのが
鳳凰くんと親しくなったきっかけだ。
親しく、といっても
私が単に彼に懐いたといったほうが正解かもしれないけど。
「・・・お前と会ったのは、この木の下でだったな」
『え・・・覚えてたの?』
「あれだけ泣かれりゃな」
そうだった。
泣き虫だった私は、あの時突然の彼の登場に驚いて
泣いてしまったのだ。
思い返すと恥ずかしい。
それでも、どんな理由でも
鳳凰くんが覚えててくれたことが嬉しくて
なんだか胸の奥が、ぽかぽかするような感じがした。
「お前、いつもここに来ていたのか?」
『うん。・・・ここに来ると、落ち着くの。
懐かしいし、ひとりじゃないって思えて』
鳳凰くんは、テニスで強くなって
全国、海外へと行って
色んな意味で遠い存在になってしまった。
私にとって、やんちゃで荒っぽい男の子だったのに
今は大人の男性って感じで、私の知らない鳳凰くんがいて
少し寂しくて、ここに来ていた。
あの頃、一緒にいたときを感じたくて。
『センチメンタルは、私らしくないね!
この木だって、一生懸命生きたんだよね・・・
感謝するべきだよね』
勝手に弱気になっていることを悟られたくなくて
私は鳳凰くんに背を向け、切り株にそっと手を当てた。
いままでありがとう、お疲れ様って呟いていたら
鳳凰くんがドカッと、切り株の上に座った。
『えぇ!今いいとこだったのに、何するの!』
「フンッ。木に会いに来るくらいなら
俺のとこに来れば良いだろうが」
『へ?』
「お前のことだ。どうせ勝手に悲観的になって
ここでの思い出とやらに縋ってたんだろ」
けっこうすごいことを言われた気がしたけど
それよりも
私の気持ちを踏みにじられた気がしてムッとした。
どうしていつもこうやって
土足で強引に人の心にズカズカと入るようなことを言うのだ。
鳳凰くんのバカ、と言おうと思ったら
私の目の前に何かを差し出し、ふわっとしたものが
鼻先に当たった感触がした。
『タンポポ・・・?』
綿毛になったタンポポを受け取ると、子供の頃の記憶が蘇る。
あぁ、そうだ。
泣いた私を泣き止ませるために
鳳凰くんはあの時
今と同じようにタンポポを差し出してくれた。
鼻先に当たった感触がくすぐったくて
私の涙はすぐに引っ込んだ。
そして仏頂面の男の子が差し出すタンポポを
同じように受け取ったんだ。
『・・・ちゃんと、色々覚えててくれてるんだね』
「うるせえ。たまたまだ」
『ねえ。さっき会いに来いって言ってたけど、会いに行ってもいいの?』
「好きにしろ」
『思い出に縋るなってことは、これから先
鳳凰くんに縋ることになっちゃってもいいってこと?』
「好きにしろ」
『ねえ、鳳凰くん。私鳳凰くんが好きだよ』
「フンッ。知ってる」
鳳凰くんの「好きにしろ」は「いい」っていうこと。
彼は照れくさいから、いつもこう言う。
そのことを知っているのは、私だけだ。
彼の言葉一つ一つが嬉しくて
私は、ふぅっと、タンポポに向かって息を吹きかけた。
風に舞う白い綿毛は、鳳凰くんの金色の髪に映えて
目を瞠るほど綺麗だった。
確かに、思い出ばかりに囚われてはいけない。
過去ばかり見ていたら
先のことが見えなくなってしまうから。
だけど、過去に縋りたくなるほど寂しくなっても
不安になっても
これから先、きっと鳳凰くんが傍にいてくれる。
『私、けっこうワガママだからね。
ちゃんと相手してよね』
「何言ってやがる。そんなの、昔からだろうが」
私の息によって全てなくなってしまったタンポポは
すぐにどこかに飛んでいってしまった。
来年、またここに
たくさんのタンポポが咲いたら良いなと思う。
あの切り株が寂しくないように
周りに沢山のタンポポが咲いて
そしてそれを
鳳凰くんと一緒に見に来たいなと思ったのだった。
(本当に合宿所に会いに行ってもいいの?)
(来たいなら勝手に来れば良い)
(行っちゃだめなのかと思ってた)
(誰も駄目だとは行ってねぇ)
(素直に会いに来いって言えば良いのに)
(………)
(彼女だって騒がれても良いの?)
(肯定はせんぞ)
(じゃあ否定もしないでよ)
(…お前、言うようになったじゃねえか)
(おかげさまでね〜。
じゃないと平等院鳳凰の幼馴染なんてやってられませーん)
(フンッ…)
『そんなに怖い顔しないでよ~。
たまには良いじゃん。
昔よく一緒に遊んだでしょ?』
春の訪れを感じられる、心地の良い今日。
私は幼馴染みである鳳凰くんと一緒に
近所の公園に来ていた。
彼はU-17の合宿に招集されてからというもの
いっつも不在で
なかなか会うことができなくなってしまっていたから
今日は2ヶ月振りの再会だ。
帰ってきたと思ったら、すぐにどこかへ行ってしまうし
彼のいない間の授業は
私がノートを取ったりしているのだから
もう少しこの献身的な幼馴染を大事にしてほしいと思う。
『ねえ、あっちの広場に行こうよ。大きな木があったよね』
返事がないのはいつものこと。
私のメンタルは、この凄みしかない彼のおかげで
鍛えに鍛えられていて
返事がなくても、睨まれても
ちょっと不機嫌感だされてもへっちゃらだ。
鳳凰くんの手を引くと
嫌そうにしていた割にすんなりついてきてくれる辺り
本当に嫌ってわけではなさそうだし
今日は私に付き合ってもらおう。
だって、またすぐ会えなくなるんだもの。
『あれ…?なくなってる…』
私にとって、思い出の大きな木がなくなってしまった。
ぽつんと残された切り株はまだ新しく
切り口が痛々しく見えた。
「古い木だったからな」
『この前まであったのに…』
つい先週まであったあの大きな木は
なんの木だったのかさえわからないけど
私にとっては、思い出が詰まっている木だった。
幼い頃、私と鳳凰くんはこの木の下で出会った。
私が一人でこの木の下で遊んでいたら
いきなり、ガサガサって音がして
男の子が上から降ってきたのだ。
落ちた拍子に膝を擦りむいたその男の子に
絆創膏を貼ってあげたのが
鳳凰くんと親しくなったきっかけだ。
親しく、といっても
私が単に彼に懐いたといったほうが正解かもしれないけど。
「・・・お前と会ったのは、この木の下でだったな」
『え・・・覚えてたの?』
「あれだけ泣かれりゃな」
そうだった。
泣き虫だった私は、あの時突然の彼の登場に驚いて
泣いてしまったのだ。
思い返すと恥ずかしい。
それでも、どんな理由でも
鳳凰くんが覚えててくれたことが嬉しくて
なんだか胸の奥が、ぽかぽかするような感じがした。
「お前、いつもここに来ていたのか?」
『うん。・・・ここに来ると、落ち着くの。
懐かしいし、ひとりじゃないって思えて』
鳳凰くんは、テニスで強くなって
全国、海外へと行って
色んな意味で遠い存在になってしまった。
私にとって、やんちゃで荒っぽい男の子だったのに
今は大人の男性って感じで、私の知らない鳳凰くんがいて
少し寂しくて、ここに来ていた。
あの頃、一緒にいたときを感じたくて。
『センチメンタルは、私らしくないね!
この木だって、一生懸命生きたんだよね・・・
感謝するべきだよね』
勝手に弱気になっていることを悟られたくなくて
私は鳳凰くんに背を向け、切り株にそっと手を当てた。
いままでありがとう、お疲れ様って呟いていたら
鳳凰くんがドカッと、切り株の上に座った。
『えぇ!今いいとこだったのに、何するの!』
「フンッ。木に会いに来るくらいなら
俺のとこに来れば良いだろうが」
『へ?』
「お前のことだ。どうせ勝手に悲観的になって
ここでの思い出とやらに縋ってたんだろ」
けっこうすごいことを言われた気がしたけど
それよりも
私の気持ちを踏みにじられた気がしてムッとした。
どうしていつもこうやって
土足で強引に人の心にズカズカと入るようなことを言うのだ。
鳳凰くんのバカ、と言おうと思ったら
私の目の前に何かを差し出し、ふわっとしたものが
鼻先に当たった感触がした。
『タンポポ・・・?』
綿毛になったタンポポを受け取ると、子供の頃の記憶が蘇る。
あぁ、そうだ。
泣いた私を泣き止ませるために
鳳凰くんはあの時
今と同じようにタンポポを差し出してくれた。
鼻先に当たった感触がくすぐったくて
私の涙はすぐに引っ込んだ。
そして仏頂面の男の子が差し出すタンポポを
同じように受け取ったんだ。
『・・・ちゃんと、色々覚えててくれてるんだね』
「うるせえ。たまたまだ」
『ねえ。さっき会いに来いって言ってたけど、会いに行ってもいいの?』
「好きにしろ」
『思い出に縋るなってことは、これから先
鳳凰くんに縋ることになっちゃってもいいってこと?』
「好きにしろ」
『ねえ、鳳凰くん。私鳳凰くんが好きだよ』
「フンッ。知ってる」
鳳凰くんの「好きにしろ」は「いい」っていうこと。
彼は照れくさいから、いつもこう言う。
そのことを知っているのは、私だけだ。
彼の言葉一つ一つが嬉しくて
私は、ふぅっと、タンポポに向かって息を吹きかけた。
風に舞う白い綿毛は、鳳凰くんの金色の髪に映えて
目を瞠るほど綺麗だった。
確かに、思い出ばかりに囚われてはいけない。
過去ばかり見ていたら
先のことが見えなくなってしまうから。
だけど、過去に縋りたくなるほど寂しくなっても
不安になっても
これから先、きっと鳳凰くんが傍にいてくれる。
『私、けっこうワガママだからね。
ちゃんと相手してよね』
「何言ってやがる。そんなの、昔からだろうが」
私の息によって全てなくなってしまったタンポポは
すぐにどこかに飛んでいってしまった。
来年、またここに
たくさんのタンポポが咲いたら良いなと思う。
あの切り株が寂しくないように
周りに沢山のタンポポが咲いて
そしてそれを
鳳凰くんと一緒に見に来たいなと思ったのだった。
(本当に合宿所に会いに行ってもいいの?)
(来たいなら勝手に来れば良い)
(行っちゃだめなのかと思ってた)
(誰も駄目だとは行ってねぇ)
(素直に会いに来いって言えば良いのに)
(………)
(彼女だって騒がれても良いの?)
(肯定はせんぞ)
(じゃあ否定もしないでよ)
(…お前、言うようになったじゃねえか)
(おかげさまでね〜。
じゃないと平等院鳳凰の幼馴染なんてやってられませーん)
(フンッ…)
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