残業と戦う君へ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
約束の時間から1時間が経ち
ようやく終えた修正データを保存する。
誰もいない事務所を出るとすぐに
待っている彼に今から向かうと連絡をした。
“おう、お疲れ。気をつけて来いよ“
そんな返信と共に
ハムスターの可愛らしいスタンプが送られてきて
思わずクスッと、笑った。
『ごめん!めっちゃ待たせた…!』
「いいってことよ。先に飲んでたからな」
カウンターに座った十次郎は
ビールを片手にいくつか料理を摘まんでいた。
今日は久しぶりに飲む約束をしていたのに
いきなり残業になってしまって
一時間近く待たせてしまったのだ。
今日こそは定時ダッシュしようと心に決めていたのに。
「いつもこんなに遅いのか?」
『ん~最近は特に遅いかな…』
最近部署異動があり、新しい上司がやって来たのだけど
驚くほど仕事のできない上司だった。
おかげで古株の私にばかり
仕事が回ってきたり、後輩達に教えることが増えたりで
必然的に残業が増えていた。
「お前は面倒見が良いからな。
後輩達にとっては頼りになるんだろう」
『十次郎には負けるって。それに、ミスしてばかりで…』
話ながらちょっと落ち込む。
忙しさからか、普段しないような
初歩的な計算間違いをしたりすることが増えて
自分のキャパの狭さを痛感していた。
情けなくて、恥ずかしくて
私は届いたビールを一気に飲む。
「おいおい飲み過ぎるなよ…」
『大丈夫!』
心配してくれた十次郎の言葉も空しく
疲れからか私の酔いの回りは早かった。
店を出る頃にはちょっとふわふわした気分になっていて
私が道路にふらっと出ないよう
彼にがっしりと腕を掴まれる。
『へへ~、十次郎は本当に誰にでもやさしいねえ』
「…お前にだけだ」
『ん?』
「俺だって誰にでも優しいわけじゃねえ。
…好きな女には、特別にだ」
酔った頭で今言われた言葉を反芻する。
アルコールのせいか、頭がうまく回らない。
『え、と…いま聞き間違い…?』
「間違ってねぇよ。いい加減気づけ。
なんとも思ってない奴と、こんなに毎回飲みに行くか」
ずっと、期待はしていた。
だけどこのちょうど良い関係から抜け出すのが恐くて
私は仕事が忙しいことにかまけて恋愛から逃げていたのだ。
『……酔ってないときに、もう一度聞きたい』
「あたぼうよ。何度でも口説いてやる」
いつの間にか私の小さな手は
彼の逞しくて大きな手に包まれていた。
どっしりと力強く構えて、優しく包んでくれる人。
異性としても好きだけど
人としてもこの人が好きだ。
十次郎みたいな人になりたい、と呟けば
やっぱり酔ってるな、と呆れられたので
私は空いた手で軽くパンチをお見舞いしたのだった。
ようやく終えた修正データを保存する。
誰もいない事務所を出るとすぐに
待っている彼に今から向かうと連絡をした。
“おう、お疲れ。気をつけて来いよ“
そんな返信と共に
ハムスターの可愛らしいスタンプが送られてきて
思わずクスッと、笑った。
『ごめん!めっちゃ待たせた…!』
「いいってことよ。先に飲んでたからな」
カウンターに座った十次郎は
ビールを片手にいくつか料理を摘まんでいた。
今日は久しぶりに飲む約束をしていたのに
いきなり残業になってしまって
一時間近く待たせてしまったのだ。
今日こそは定時ダッシュしようと心に決めていたのに。
「いつもこんなに遅いのか?」
『ん~最近は特に遅いかな…』
最近部署異動があり、新しい上司がやって来たのだけど
驚くほど仕事のできない上司だった。
おかげで古株の私にばかり
仕事が回ってきたり、後輩達に教えることが増えたりで
必然的に残業が増えていた。
「お前は面倒見が良いからな。
後輩達にとっては頼りになるんだろう」
『十次郎には負けるって。それに、ミスしてばかりで…』
話ながらちょっと落ち込む。
忙しさからか、普段しないような
初歩的な計算間違いをしたりすることが増えて
自分のキャパの狭さを痛感していた。
情けなくて、恥ずかしくて
私は届いたビールを一気に飲む。
「おいおい飲み過ぎるなよ…」
『大丈夫!』
心配してくれた十次郎の言葉も空しく
疲れからか私の酔いの回りは早かった。
店を出る頃にはちょっとふわふわした気分になっていて
私が道路にふらっと出ないよう
彼にがっしりと腕を掴まれる。
『へへ~、十次郎は本当に誰にでもやさしいねえ』
「…お前にだけだ」
『ん?』
「俺だって誰にでも優しいわけじゃねえ。
…好きな女には、特別にだ」
酔った頭で今言われた言葉を反芻する。
アルコールのせいか、頭がうまく回らない。
『え、と…いま聞き間違い…?』
「間違ってねぇよ。いい加減気づけ。
なんとも思ってない奴と、こんなに毎回飲みに行くか」
ずっと、期待はしていた。
だけどこのちょうど良い関係から抜け出すのが恐くて
私は仕事が忙しいことにかまけて恋愛から逃げていたのだ。
『……酔ってないときに、もう一度聞きたい』
「あたぼうよ。何度でも口説いてやる」
いつの間にか私の小さな手は
彼の逞しくて大きな手に包まれていた。
どっしりと力強く構えて、優しく包んでくれる人。
異性としても好きだけど
人としてもこの人が好きだ。
十次郎みたいな人になりたい、と呟けば
やっぱり酔ってるな、と呆れられたので
私は空いた手で軽くパンチをお見舞いしたのだった。