“夏のお出かけ特集”
そんな見出しのタイトルに惹かれて
手にとってみた旅行雑誌。
合宿所に缶詰状態の毎日だから
たまにはこういう雑誌で息抜きしたくなる。
パラパラとめくって見てみると
日本各地の避暑地や、海水浴場、夏祭り等
夏のイベント情報が盛りだくさんで
見ているだけで気持ちが弾んでくる。

まあ、高校生だから旅行に行くわけにもいかないし
何より今は合宿中だ。
ちょっと残念だけど、こういうイベントには
今は縁がなさそう。

ぺらっと、次の頁をめくって手が止まった。
見たことのある神社の境内。



「お、これすぐそこの神社やん」

『わっ！び、びっくりした……』

「ハハッ！すまんすまん！驚かしてしもたな」



私の背後から、ぬっと顔を出してきたのは種ヶ島先輩だった。
突然だったのもあるけれど
憧れている人との距離が近すぎて、びっくりしてしまった。



『ここ、やっぱり近くの神社ですよね。
なんか見たことある気がして』

「にしてもタイムリーやわ。
さっき買い出し行ったときにちょうど準備してたんよな〜
今度の金曜からしばらくやるんやて」

『こんなイベントしてたんですね』



この合宿所で夏を過ごすのは2回目なのに
去年は気が付かなった。
初めての合宿でバタバタしていたからかもしれない。
“風鈴祭り”と称されるイベントは
雑誌の情報によると約3,000個もの風鈴が飾られて
無病息災や日々の平穏を祈願するお祭りらしい。
映る写真は涼しげで、とても綺麗だ。
こんなお祭り、好きな人と出掛けてみたい。
女の子ならば、きっと誰もが憧れるシチュエーション。



「一緒に行かへん？」



一瞬、言われたことが理解できず
ぽかんとしていたら
どこかで種ヶ島先輩を呼ぶ声が聞こえてきた。



「なんや呼ばれてしもたわ。
この祭りまだしばらくあるみたいやし考えとい『行きますっ！』



思わず被せて言ったものだから
恥ずかしくなって顔が熱い。
種ヶ島先輩は私の頭をポンポンと撫でて
あとで時間とか連絡するな、と言って去って行った。
社交辞令かもしれない。
二人きりじゃないかもしれない。
そう自分に言い聞かせて
弾む気持ちをなんとか抑えようとするも
今年の夏は、何か違うことが起きるかもしれないと
期待せざるを得ないのだった。





(夏美ちゃん、ごめんなあ。爪が甘かったわ。
やっぱ皆に会うてまうよなあ)
(い、いえ！いいんです。皆と合流するのも楽しいですし…)
(今度こそ、二人きりでリベンジさせてくれへん？)
(えっ！？)
(夜はええムードらしいねん)
(えっ、えっと…)
(作戦練ろな。二人きりの宵闇デートや。
誰にも邪魔させへんで)