毛利くと毛利さん
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「あ、毛利先輩!」
休み時間、自分の机に座って本を読んでいると
教室の入口から部活の後輩達が私を呼んだ。
あぁ、またどっちかわからない
呼び方だなあと思いつつ返事をすると
案の定、同時に隣からも声が上がった。
「んぁ?」『なに?』
「あっ!す、すみません!利津先輩のほうで…」
後輩達はすかさず訂正しペコペコと頭を下げている。
しまった、という顔をしているから
自分達が悪かったと反省しているように見えるのだけど
こればっかりは、誰も悪くはない。
『毛利くん、ごめんね。私のほうだった』
「あぁ、よう聞いたら“さん”って言うとったね。
つい反応してしもうたわ」
毛利くんは気怠そうな目を擦ってそう言うと
また机に突っ伏して寝てしまった。
隣の席の彼は、休み時間にこうやって寝ていることが多いのだけど
よくこんな風に起き損、とでも言うのか
眠りを邪魔してしまっているから少し申し訳なく思う。
席を立って後輩達のもとへと向かうと
しゅん、とした表情で頭を垂れていた。
「あの、先輩…すみません…」
『大丈夫。彼は優しい人だから。
でも良かったら今度から
私のこと名前で呼んでもらえるかな?』
毛利が二人だとややこしいから、と言うと
後輩達は安心したように笑ってくれた。
私の隣の席に座るのは、毛利寿三郎くん。
男子テニス部のエースで
保健委員で、よく居眠りしてて
明るく元気で、生徒からも先生からも人気者のクラスメートだ。
そんな彼と同じ名字である私は
とにかくいつも“呼ばれ間違い”をしてしまう。
“毛利くん”って言われているのに私が返事をしたり
さっきみたいに“毛利さん”って言われてるのに
毛利くんが返事をしたり。
本当に日常茶飯事だ。
せめて違う席ならまだ良いのだけど
隣に並んでいるものだから、余計にわかりにくい。
早く席替えしないかな。
私達の名前は、けっこうネタにもされる。
先ほどのような出来事があれば
男子が小学生のようなノリで
「よっ、毛利夫妻」なんて言うし
この前の授業なんて先生が
「じゃあ、次の問題を……毛利…くんのほう!」
「うぉっ、俺やんけ。
…あ〜…すんません、聞いてへんかったわあ」
「居眠りしてたんじゃない?
じゃあ、代わりに毛利さんお願い」
『はい。答えは……』
って、「くんのほう、さんのほう」って呼んで
セットで扱うから
なんかもうどっちを呼んでもいい、みたいな
感じになってしまっている。
私はもう半ば諦め状態でいるけれど
毛利くんは、一体どう思っているのだろうか。
そんなある日の放課後
日直の仕事を終えて帰り支度をしていると
見慣れぬノートが机の中に入っていることに気がついた。
何のノートだっけ?と見てみると
表紙には「毛利寿三郎」の名前があった。
いつの間に紛れ込んだのか
いつから持っていたのかはわからないけど
毛利くんは困っているに違いない。
彼は既に部活へと行ってしまったし
連絡先も知らないから、返すのは明日で良いだろうか。
どうしよう、そう悩んでいたら
「あれ?まだおったん?」と明るい声がした。
『あ、うん。日直だったから』
「お疲れさんやね。俺は忘れ物してしもて」
そう言って机の中に手を突っ込みスマホを取り出した。
オレンジ色のスマホケースが眩しくて
彼に似合うなあなってぼんやり見つめていたら
毛利くんは不思議そうに私を見ていた。
「あれ?そのノート俺のやんけ」
『あっ!そうなの!
このノート、私が間違えて持ってて…ごめんね。
盗ったわけじゃないから!』
「あはは!盗ったなんて思ってへんよお。
失くしたと思ってたんやけど
なんかの拍子に紛れてしもたんやろね」
『そうかもしれないけど…気づかなくてごめん。
それに、なんか、いつも間違われたり
ふたりセットみたいに言われたり、ややこしくてごめんね』
彼がどう思っているのかわからないけど
私はずっと申し訳ないと思っていた。
休み時間に眠りを妨げられたり
夫婦呼ばわりなんて、いい迷惑だろう。
「迷惑とか、面倒とか、そんなこと思ってへんよ」
『え?』
心を読まれたのかと思って顔を上げると
毛利くんは、優しく笑っていた。
「俺としては、けっこう楽しんどるんよ」
『楽しむって…』
「だって毛利さん、いつも俺に一言声掛けてくれはるし
こん前だって、俺のこと優しい人やから大丈夫〜って
言うてくれてたの嬉しかったわ」
後輩達に言った言葉が聞こえていたのかと思うと
恥ずかしくて頬が火照るのを感じた。
『き、聞こえてたんだね…』
「毛利さんが関わると俺の耳、地獄耳になるみたいやんけ」
『あはは、なにそれ』
毛利くんは私が笑うと
眉を下げて少し困ったように笑った。
大きな身体なのに、笑顔がとても可愛らしい。
思えば私はいつも毛利くんに、ごめんねって
言ってばかりで
こうやって笑いながら話をすることはあまりなかったけど
改めて彼と話すと
会話のテンポが合って話しやすいし
私は彼の笑顔を見るのが好きだなって思った。
「そういえば気になってたんやけど
俺んこと、毛利くんって呼ぶの呼びにくくないんけ?」
『え?なんで?』
「単純に同じ名字やから。俺は実はずっと違和感あって」
言われて見れば
今まで毛利さんって呼ばれる時
ちょっとした間があったりしたけど
それは呼びにくいと感じていたせいだったんだ、って
今更ながらわかった。
『言いにくかったら名前で良いよ?
呼び捨てでも、呼びやすいように良いから』
「ええのん!?」
思わぬ声の大きさに驚いていたら
毛利くんは少し恥ずかしそうに
「利津ちゃん」って口にした。
名前くらいって思っていたのに
いざ呼ばれると、くすぐったくて
気恥ずかしい気持ちになったけどなんだか嬉しく思えた。
『わ、私も…名前で呼んでもいい…?』
「もちろんでっせ」
『……寿三郎くん。あはは、ちょっと照れちゃうね』
下の名前で呼ばれることも呼ぶことにも慣れず
笑って誤魔化そうと彼を見ると
寿三郎くんは顔を真っ赤にして口元を押さえていた。
そんなに照れられたら私だって誤魔化せないほど
顔が火照って赤くなる。
「ふたりして、顔真っ赤やね」
『そうみたいだね。こんなの見られたら
また夫婦って言われかねないね』
「…俺、夫婦呼ばわりされるの、嫌じゃないでっせ」
『……奇遇だね、私も、嫌じゃないよ」
次の日明らかに雰囲気の変わった私たちを見て
クラスメートの数人が色めき立っていた。
前はこの冷やかしが面倒な時もあったけど
今はそんなに嫌ではない。
それはどうやら寿三郎くんも同じようで
休み時間になっても
机に突っ伏すことなく過ごしていて
時折こちらに視線を向けて笑いかけてくれる。
この時間がすごく幸せで
自分の中で大切なひとときになっていて
席替えなんてしばらくしたくないなあって願ったのだった。
(そういえば利津ちゃんは
部活の後輩に慕われとるんやね)
(そうかな?寿三郎くんだって慕われてるじゃない。
この前教室まで来てたよね。
あの時中学生もいたけどあ怒られてなかった?)
(あぁ、切原がな、どうしても見たいって言うて大変やったわ)
(見たいってなにを?)
(俺の未来の奥さんを見たかったんやって)
(……へ?)
(今度俺の後輩ら紹介しまっせ)
(えっ?えっ?寿三郎くん、どういう意味??)
(えへへ、なんでもあらへんよお〜)
休み時間、自分の机に座って本を読んでいると
教室の入口から部活の後輩達が私を呼んだ。
あぁ、またどっちかわからない
呼び方だなあと思いつつ返事をすると
案の定、同時に隣からも声が上がった。
「んぁ?」『なに?』
「あっ!す、すみません!利津先輩のほうで…」
後輩達はすかさず訂正しペコペコと頭を下げている。
しまった、という顔をしているから
自分達が悪かったと反省しているように見えるのだけど
こればっかりは、誰も悪くはない。
『毛利くん、ごめんね。私のほうだった』
「あぁ、よう聞いたら“さん”って言うとったね。
つい反応してしもうたわ」
毛利くんは気怠そうな目を擦ってそう言うと
また机に突っ伏して寝てしまった。
隣の席の彼は、休み時間にこうやって寝ていることが多いのだけど
よくこんな風に起き損、とでも言うのか
眠りを邪魔してしまっているから少し申し訳なく思う。
席を立って後輩達のもとへと向かうと
しゅん、とした表情で頭を垂れていた。
「あの、先輩…すみません…」
『大丈夫。彼は優しい人だから。
でも良かったら今度から
私のこと名前で呼んでもらえるかな?』
毛利が二人だとややこしいから、と言うと
後輩達は安心したように笑ってくれた。
私の隣の席に座るのは、毛利寿三郎くん。
男子テニス部のエースで
保健委員で、よく居眠りしてて
明るく元気で、生徒からも先生からも人気者のクラスメートだ。
そんな彼と同じ名字である私は
とにかくいつも“呼ばれ間違い”をしてしまう。
“毛利くん”って言われているのに私が返事をしたり
さっきみたいに“毛利さん”って言われてるのに
毛利くんが返事をしたり。
本当に日常茶飯事だ。
せめて違う席ならまだ良いのだけど
隣に並んでいるものだから、余計にわかりにくい。
早く席替えしないかな。
私達の名前は、けっこうネタにもされる。
先ほどのような出来事があれば
男子が小学生のようなノリで
「よっ、毛利夫妻」なんて言うし
この前の授業なんて先生が
「じゃあ、次の問題を……毛利…くんのほう!」
「うぉっ、俺やんけ。
…あ〜…すんません、聞いてへんかったわあ」
「居眠りしてたんじゃない?
じゃあ、代わりに毛利さんお願い」
『はい。答えは……』
って、「くんのほう、さんのほう」って呼んで
セットで扱うから
なんかもうどっちを呼んでもいい、みたいな
感じになってしまっている。
私はもう半ば諦め状態でいるけれど
毛利くんは、一体どう思っているのだろうか。
そんなある日の放課後
日直の仕事を終えて帰り支度をしていると
見慣れぬノートが机の中に入っていることに気がついた。
何のノートだっけ?と見てみると
表紙には「毛利寿三郎」の名前があった。
いつの間に紛れ込んだのか
いつから持っていたのかはわからないけど
毛利くんは困っているに違いない。
彼は既に部活へと行ってしまったし
連絡先も知らないから、返すのは明日で良いだろうか。
どうしよう、そう悩んでいたら
「あれ?まだおったん?」と明るい声がした。
『あ、うん。日直だったから』
「お疲れさんやね。俺は忘れ物してしもて」
そう言って机の中に手を突っ込みスマホを取り出した。
オレンジ色のスマホケースが眩しくて
彼に似合うなあなってぼんやり見つめていたら
毛利くんは不思議そうに私を見ていた。
「あれ?そのノート俺のやんけ」
『あっ!そうなの!
このノート、私が間違えて持ってて…ごめんね。
盗ったわけじゃないから!』
「あはは!盗ったなんて思ってへんよお。
失くしたと思ってたんやけど
なんかの拍子に紛れてしもたんやろね」
『そうかもしれないけど…気づかなくてごめん。
それに、なんか、いつも間違われたり
ふたりセットみたいに言われたり、ややこしくてごめんね』
彼がどう思っているのかわからないけど
私はずっと申し訳ないと思っていた。
休み時間に眠りを妨げられたり
夫婦呼ばわりなんて、いい迷惑だろう。
「迷惑とか、面倒とか、そんなこと思ってへんよ」
『え?』
心を読まれたのかと思って顔を上げると
毛利くんは、優しく笑っていた。
「俺としては、けっこう楽しんどるんよ」
『楽しむって…』
「だって毛利さん、いつも俺に一言声掛けてくれはるし
こん前だって、俺のこと優しい人やから大丈夫〜って
言うてくれてたの嬉しかったわ」
後輩達に言った言葉が聞こえていたのかと思うと
恥ずかしくて頬が火照るのを感じた。
『き、聞こえてたんだね…』
「毛利さんが関わると俺の耳、地獄耳になるみたいやんけ」
『あはは、なにそれ』
毛利くんは私が笑うと
眉を下げて少し困ったように笑った。
大きな身体なのに、笑顔がとても可愛らしい。
思えば私はいつも毛利くんに、ごめんねって
言ってばかりで
こうやって笑いながら話をすることはあまりなかったけど
改めて彼と話すと
会話のテンポが合って話しやすいし
私は彼の笑顔を見るのが好きだなって思った。
「そういえば気になってたんやけど
俺んこと、毛利くんって呼ぶの呼びにくくないんけ?」
『え?なんで?』
「単純に同じ名字やから。俺は実はずっと違和感あって」
言われて見れば
今まで毛利さんって呼ばれる時
ちょっとした間があったりしたけど
それは呼びにくいと感じていたせいだったんだ、って
今更ながらわかった。
『言いにくかったら名前で良いよ?
呼び捨てでも、呼びやすいように良いから』
「ええのん!?」
思わぬ声の大きさに驚いていたら
毛利くんは少し恥ずかしそうに
「利津ちゃん」って口にした。
名前くらいって思っていたのに
いざ呼ばれると、くすぐったくて
気恥ずかしい気持ちになったけどなんだか嬉しく思えた。
『わ、私も…名前で呼んでもいい…?』
「もちろんでっせ」
『……寿三郎くん。あはは、ちょっと照れちゃうね』
下の名前で呼ばれることも呼ぶことにも慣れず
笑って誤魔化そうと彼を見ると
寿三郎くんは顔を真っ赤にして口元を押さえていた。
そんなに照れられたら私だって誤魔化せないほど
顔が火照って赤くなる。
「ふたりして、顔真っ赤やね」
『そうみたいだね。こんなの見られたら
また夫婦って言われかねないね』
「…俺、夫婦呼ばわりされるの、嫌じゃないでっせ」
『……奇遇だね、私も、嫌じゃないよ」
次の日明らかに雰囲気の変わった私たちを見て
クラスメートの数人が色めき立っていた。
前はこの冷やかしが面倒な時もあったけど
今はそんなに嫌ではない。
それはどうやら寿三郎くんも同じようで
休み時間になっても
机に突っ伏すことなく過ごしていて
時折こちらに視線を向けて笑いかけてくれる。
この時間がすごく幸せで
自分の中で大切なひとときになっていて
席替えなんてしばらくしたくないなあって願ったのだった。
(そういえば利津ちゃんは
部活の後輩に慕われとるんやね)
(そうかな?寿三郎くんだって慕われてるじゃない。
この前教室まで来てたよね。
あの時中学生もいたけどあ怒られてなかった?)
(あぁ、切原がな、どうしても見たいって言うて大変やったわ)
(見たいってなにを?)
(俺の未来の奥さんを見たかったんやって)
(……へ?)
(今度俺の後輩ら紹介しまっせ)
(えっ?えっ?寿三郎くん、どういう意味??)
(えへへ、なんでもあらへんよお〜)
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