蜂蜜みたいなあなた
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小学生の頃から、テニスをしていた。
兄の影響で最初はただ真似っ子していただけの私は
いつの間にか実力をつけ
小学生の大会で優勝できるほどまでに上達した。
だけど、中学生になって
立海女子テニス部に入部してみたものの
なにか、物足りなかった。
確かに私よりも強い人はいなかったけれどそれだけじゃなくて
テニスに想いを込める人達が少なくて
物足りなさを感じていたのだ。
そんなときに、同じクラスだった切原くんに
「じゃあ、男子テニス部見に来いよ。
バケモンが3人もいるんだぜ」
と声をかけられ、私の世界は一変した。
私の知らないテニスの世界が、そこにはあった。
中学生ながらにして
人生を掛けているのではないかと思えるほどの熱量と
気迫に満ちたこの人達を、私は本気で支えたいと思い
女子テニス部を辞めて、男子テニス部へと入部した。
もちろん、マネージャーとして。
それから1年半が経ち
こんなことになるなんて思ってもみなかった。
今私は、テニスの強化合宿のマネージャーとして選ばれ
監督たちの手伝いをすることになったのだ。
有能な監督たちの指導のもと
実力のある選手だけが選ばれるこの合宿で
中学生のみならず高校生のサポートもすることになり
正直なところ、場違い感が拭えない。
『ねえ、切原くん。私本当にここにいていいのかな』
合宿に参加して割とすぐに
同い年の切原くんに聞いたことがあったけど
「まあいいんじゃねーの?アンタ仕事できんじゃん」
って軽く言われて
他の先輩方も自信を持てと励ましてくれた。
それでも、私はなんとなくこの場所に馴染めず
違和感がずっとついて回った。
女子だから、という理由のせいかもしれないけれど。
あれこれモヤモヤしていても、日々は過ぎるわけで
勝ち組負け組とチームに分かれて特訓したかと思えば
いつのまにか目指す舞台は海外へと広がり
いよいよ私の不安は頂点に達しそうになっていた。
『う〜、なんか胃が痛い……』
疲れとストレスのせいか、胃がキリキリとしてきたので
私は医務室へと向かうことにした。
うちの三強にバレたら
すぐにどうしたんだと騒がれるから
こっそりと薬だけをもらうことにするつもりだった。
『失礼します……あ、誰もいないのかな?』
ドアを開けるとそこには誰もいなくて
勝手に薬を取って良いのか悩んでいたら
後ろからガラッと、ドアの開く音がした。
「あれ?純ちゃんやんけ。どないしたん?」
『毛利先輩』
頭を打たないようにドアをくぐって入ってきた毛利先輩は
私を見るとすぐに眉を少し下げて心配な顔をした。
「なんか辛そうやね。どっか具合悪いん?」
『あ、その…ちょっと胃が痛くて。胃薬を貰おうかと』
「それならちょっと待ってな。
確かこの辺にあったと思うんやけど」
『わかるんですか?』
大石さんならまだしも
毛利先輩が薬を探してくれていることが
なんだか不思議に思えたのだけど
先輩は学校で保健委員をやっているそうで
たまに医務室の整理などを手伝っているらしい。
「お、あったで。
これなら錠剤やし飲みやすいんとちゃう?」
『ありがとうございます』
毛利先輩から薬を受け取り説明書を読んでいたら
先輩がうーん、と唸った。
「せや、まだ飲まんで待っとってくれへん?」
『え?あ、はい。いいですけど…』
「すぐ戻ってきやるから!」
そう言うと毛利先輩は勢いよく医務室から出て行った。
毛利先輩とは、今まであまり話したことがなかった。
私が入部したときには、ほぼ幽霊部員のようなものだったし
練習で姿を見かけることがあっても話す機会がなかったのだ。
今日が初めてまともに会話したのだけど
話しやすくて人を惹きつけるタイプの人だと思った。
明るく元気で温かい、そんな人。
現に先輩が出て行ったこの部屋は、薄暗く冷たく感じるから
いるだけで空気が変わるとは、このことだろう。
しばらく待っていたら
少し乱暴なドアの開く音がして
両手にマグカップを持った毛利先輩が現れた。
「あはは、脚で開けるとか行儀悪いことしてもーた」
『いえ、あの、持ちます……って、これは?』
「白湯にはちみつと、ほんの少しレモン入れて来たんよお。
純ちゃんと一緒に飲もうと思って」
にこにこと笑う毛利先輩の意図が読めずにいたら
先輩は空いているベッドに腰掛け
座りんせーね、と自分の隣をポンポンと叩いた。
失礼します、と呟いて隣に並ぶも少し、緊張する。
「胃薬飲む前に、これ飲んでみてほしくて。
はちみつって、万能なんでっせ。
レモンは入れ過ぎたら逆効果やから
ちょっとだけ入れたんやけど」
『わざわざ先輩が作ってきてくれたんですか?』
「可愛い後輩が辛そうな顔してはったから。
お節介やったかもしれへんけど」
熱いから気をつけて、と言われて一口飲むと
ふわっとしたはちみつの甘さが
じんわりと、身体に染み渡るような感じがして
一気に身体から力が抜けた。
『美味しい…ありがとうございます』
「えへへ、良かったわ。少し効果があるとええんやけど」
『はちみつレモンって疲労効果にも良いですよね?
ちょっと疲れてたのかもしれません』
「ちょっと、やないで。
純ちゃん頑張りすぎでっせ」
毛利先輩の優しい声に、胸を掴まれるような気がした。
気が緩む。
張り詰めていたものが全て緩んでしまう。
『毛利先輩…私、ちゃんとやれてますか?
なんか、未だに私ここにいて良いのか不安で
役に立っている実感もなければ
自分の居場所もない気がして、よく、わからないんです。
マネージャーって、私って、必要なのかな…』
泣きそうになるのを堪えて吐き出した本音は
私がずっと抱えていた不安。
言葉にしたら、もう頑張れないかもしれないと怖くて
ずっと誰にも言えなかった。
私はいらないんじゃないかって。
「何言うてるん?
純ちゃんはちゃんとやれとるやんけ。
寧ろ仕事しすぎでっせ。
胃が痛くなるほど悩んで、頑張って、努力家なんやね」
『いえ、すぐに身体に不調が出るとか情けないです…』
「こら、頑張ってる自分を貶すんはやめんせーね。
自分で自分の首絞めたって、きついだけや。
自分のこと、認めてあげんとずっとしんどいんやから」
『………』
「他の中学生も、高校生の俺等も、監督らも
純ちゃんのこと認めとる。
それに、居場所がないって
純ちゃんの居場所はちゃんとあるやんけ。
立海の皆や、同じ2年生のメンバー、データ収集仲間…
けっこう居場所あるんとちゃう?」
そう言われて立海の皆や
たまに情報交換会をしたりしている日吉くん達や
データ分析を一緒にする柳先輩、乾先輩、観月先輩達の顔が浮かぶ。
気づいていないだけで、私の居場所はあったのだ。
『毛利先輩…ありがとうございます。
なんだか、フラフラしていた気持ちが
固まった気がします。
胃も痛くないですし、元気が出てきました』
「そら良かったわ」
目を細めて柔らかく笑う笑顔に、ドキッと胸が高鳴る。
照れ隠しではちみつレモンを飲んだら
毛利先輩も同じように口にして
「熱っ…!」と声を上げた。
猫舌にしても、熱がりすぎだと笑ったら
同じように一緒に声を出して笑ってくれたのだった。
毛利先輩は、明るく元気で温かくて
はちみつみたいに、優しい甘さに溢れた人だと思ったのだった。
(ちなみになんやけど、俺の横は居場所にならん?)
(え?どういう意味ですか?)
(あ〜、うーんと……せやね、なんて言うか…)
(一緒にいてくれるってことですか?)
(そんな感じ!純ちゃんがしんどい時話聞くのは
俺の専売特許ちゅーことで!)
(じゃあ、先輩がしんどいときは私に任せてくださいね。
はちみつレモンじゃ火傷しちゃうから
乾くんにレシピを聞いて乾汁を…)
(あ!それ知っとるが!アカンやつ!!!)
兄の影響で最初はただ真似っ子していただけの私は
いつの間にか実力をつけ
小学生の大会で優勝できるほどまでに上達した。
だけど、中学生になって
立海女子テニス部に入部してみたものの
なにか、物足りなかった。
確かに私よりも強い人はいなかったけれどそれだけじゃなくて
テニスに想いを込める人達が少なくて
物足りなさを感じていたのだ。
そんなときに、同じクラスだった切原くんに
「じゃあ、男子テニス部見に来いよ。
バケモンが3人もいるんだぜ」
と声をかけられ、私の世界は一変した。
私の知らないテニスの世界が、そこにはあった。
中学生ながらにして
人生を掛けているのではないかと思えるほどの熱量と
気迫に満ちたこの人達を、私は本気で支えたいと思い
女子テニス部を辞めて、男子テニス部へと入部した。
もちろん、マネージャーとして。
それから1年半が経ち
こんなことになるなんて思ってもみなかった。
今私は、テニスの強化合宿のマネージャーとして選ばれ
監督たちの手伝いをすることになったのだ。
有能な監督たちの指導のもと
実力のある選手だけが選ばれるこの合宿で
中学生のみならず高校生のサポートもすることになり
正直なところ、場違い感が拭えない。
『ねえ、切原くん。私本当にここにいていいのかな』
合宿に参加して割とすぐに
同い年の切原くんに聞いたことがあったけど
「まあいいんじゃねーの?アンタ仕事できんじゃん」
って軽く言われて
他の先輩方も自信を持てと励ましてくれた。
それでも、私はなんとなくこの場所に馴染めず
違和感がずっとついて回った。
女子だから、という理由のせいかもしれないけれど。
あれこれモヤモヤしていても、日々は過ぎるわけで
勝ち組負け組とチームに分かれて特訓したかと思えば
いつのまにか目指す舞台は海外へと広がり
いよいよ私の不安は頂点に達しそうになっていた。
『う〜、なんか胃が痛い……』
疲れとストレスのせいか、胃がキリキリとしてきたので
私は医務室へと向かうことにした。
うちの三強にバレたら
すぐにどうしたんだと騒がれるから
こっそりと薬だけをもらうことにするつもりだった。
『失礼します……あ、誰もいないのかな?』
ドアを開けるとそこには誰もいなくて
勝手に薬を取って良いのか悩んでいたら
後ろからガラッと、ドアの開く音がした。
「あれ?純ちゃんやんけ。どないしたん?」
『毛利先輩』
頭を打たないようにドアをくぐって入ってきた毛利先輩は
私を見るとすぐに眉を少し下げて心配な顔をした。
「なんか辛そうやね。どっか具合悪いん?」
『あ、その…ちょっと胃が痛くて。胃薬を貰おうかと』
「それならちょっと待ってな。
確かこの辺にあったと思うんやけど」
『わかるんですか?』
大石さんならまだしも
毛利先輩が薬を探してくれていることが
なんだか不思議に思えたのだけど
先輩は学校で保健委員をやっているそうで
たまに医務室の整理などを手伝っているらしい。
「お、あったで。
これなら錠剤やし飲みやすいんとちゃう?」
『ありがとうございます』
毛利先輩から薬を受け取り説明書を読んでいたら
先輩がうーん、と唸った。
「せや、まだ飲まんで待っとってくれへん?」
『え?あ、はい。いいですけど…』
「すぐ戻ってきやるから!」
そう言うと毛利先輩は勢いよく医務室から出て行った。
毛利先輩とは、今まであまり話したことがなかった。
私が入部したときには、ほぼ幽霊部員のようなものだったし
練習で姿を見かけることがあっても話す機会がなかったのだ。
今日が初めてまともに会話したのだけど
話しやすくて人を惹きつけるタイプの人だと思った。
明るく元気で温かい、そんな人。
現に先輩が出て行ったこの部屋は、薄暗く冷たく感じるから
いるだけで空気が変わるとは、このことだろう。
しばらく待っていたら
少し乱暴なドアの開く音がして
両手にマグカップを持った毛利先輩が現れた。
「あはは、脚で開けるとか行儀悪いことしてもーた」
『いえ、あの、持ちます……って、これは?』
「白湯にはちみつと、ほんの少しレモン入れて来たんよお。
純ちゃんと一緒に飲もうと思って」
にこにこと笑う毛利先輩の意図が読めずにいたら
先輩は空いているベッドに腰掛け
座りんせーね、と自分の隣をポンポンと叩いた。
失礼します、と呟いて隣に並ぶも少し、緊張する。
「胃薬飲む前に、これ飲んでみてほしくて。
はちみつって、万能なんでっせ。
レモンは入れ過ぎたら逆効果やから
ちょっとだけ入れたんやけど」
『わざわざ先輩が作ってきてくれたんですか?』
「可愛い後輩が辛そうな顔してはったから。
お節介やったかもしれへんけど」
熱いから気をつけて、と言われて一口飲むと
ふわっとしたはちみつの甘さが
じんわりと、身体に染み渡るような感じがして
一気に身体から力が抜けた。
『美味しい…ありがとうございます』
「えへへ、良かったわ。少し効果があるとええんやけど」
『はちみつレモンって疲労効果にも良いですよね?
ちょっと疲れてたのかもしれません』
「ちょっと、やないで。
純ちゃん頑張りすぎでっせ」
毛利先輩の優しい声に、胸を掴まれるような気がした。
気が緩む。
張り詰めていたものが全て緩んでしまう。
『毛利先輩…私、ちゃんとやれてますか?
なんか、未だに私ここにいて良いのか不安で
役に立っている実感もなければ
自分の居場所もない気がして、よく、わからないんです。
マネージャーって、私って、必要なのかな…』
泣きそうになるのを堪えて吐き出した本音は
私がずっと抱えていた不安。
言葉にしたら、もう頑張れないかもしれないと怖くて
ずっと誰にも言えなかった。
私はいらないんじゃないかって。
「何言うてるん?
純ちゃんはちゃんとやれとるやんけ。
寧ろ仕事しすぎでっせ。
胃が痛くなるほど悩んで、頑張って、努力家なんやね」
『いえ、すぐに身体に不調が出るとか情けないです…』
「こら、頑張ってる自分を貶すんはやめんせーね。
自分で自分の首絞めたって、きついだけや。
自分のこと、認めてあげんとずっとしんどいんやから」
『………』
「他の中学生も、高校生の俺等も、監督らも
純ちゃんのこと認めとる。
それに、居場所がないって
純ちゃんの居場所はちゃんとあるやんけ。
立海の皆や、同じ2年生のメンバー、データ収集仲間…
けっこう居場所あるんとちゃう?」
そう言われて立海の皆や
たまに情報交換会をしたりしている日吉くん達や
データ分析を一緒にする柳先輩、乾先輩、観月先輩達の顔が浮かぶ。
気づいていないだけで、私の居場所はあったのだ。
『毛利先輩…ありがとうございます。
なんだか、フラフラしていた気持ちが
固まった気がします。
胃も痛くないですし、元気が出てきました』
「そら良かったわ」
目を細めて柔らかく笑う笑顔に、ドキッと胸が高鳴る。
照れ隠しではちみつレモンを飲んだら
毛利先輩も同じように口にして
「熱っ…!」と声を上げた。
猫舌にしても、熱がりすぎだと笑ったら
同じように一緒に声を出して笑ってくれたのだった。
毛利先輩は、明るく元気で温かくて
はちみつみたいに、優しい甘さに溢れた人だと思ったのだった。
(ちなみになんやけど、俺の横は居場所にならん?)
(え?どういう意味ですか?)
(あ〜、うーんと……せやね、なんて言うか…)
(一緒にいてくれるってことですか?)
(そんな感じ!純ちゃんがしんどい時話聞くのは
俺の専売特許ちゅーことで!)
(じゃあ、先輩がしんどいときは私に任せてくださいね。
はちみつレモンじゃ火傷しちゃうから
乾くんにレシピを聞いて乾汁を…)
(あ!それ知っとるが!アカンやつ!!!)