ポテトの誘惑
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テスト期間で部活のないある日の放課後
私はとある誘惑と闘っていた。
食べちゃう?いや、我慢したが良いって私。
テレビであれはかなりのカロリーで
魔の食べ物だって言ってたし
しばらくテスト期間で部活がないのだから
こんな太りやすいタイミングで食べたらきっと…
あぁ、でも食べたい!美味しそう!
「なーに店の前で百面相してるん?」
『あ、寿三郎』
気がつけば、クラスメートの寿三郎が
不思議そうな顔をして立っていた。
学校近くの商店街にあるファストフード店の前で
私は一人うーん、と唸っていたのだから
それは不思議な光景だったことだろう。
手に何かカードのような物を持ってるところを見ると
商店街に貼ってあったスタンプラリー中だろうか。
確か趣味だと言っていた気がするし。
「入らへんの?」
『それを悩んでるの』
「悩む?」
意味わからん、とでも言いたげな顔をしている彼に
この悩みは伝わらないだろう。
特に、ムカつくほど脚が長くて
スタイル抜群のこの男には到底無縁の悩みだ。
『…食べたら、太るなぁって』
「太るって…。このくらいで太らへんって」
『太るかもしれないでしょ。
ニキビだってできやすそうで…
女の子にとってこの食べ物は天敵なのっ!』
「ほんなら食べへんの?俺食べよかなって思ってたんやけど」
寿三郎は両手を頭の上で組んで
意地悪そうな笑顔を見せた。
いつもは犬みたいにかわいい顔してるのに
そんな顔もできるのかと彼の意外性に驚く。
『た、食べれば?』
「どれにしよかな。お、ちょうど17時過ぎてるやんけ。
安くなるしこれにしよかや」
これ、と寿三郎が指差すのは
私が食べるかどうか葛藤しているフライドポテト。
17時過ぎから、このポテトとナゲットが安くなる
学生にはうってつけのセットがあるのだ。
「あ、でもこれナゲット2個付くんやった。
一人で食べるんはちょっと量多いなあ。
誰か食べてくれる人……」
恨めしそうな目で睨むと
寿三郎はチラッとこっちを見てニンマリと笑った。
食べようと促してくるけど、その手には乗らない。
これでも同じバレー部の先輩に恋する乙女なのだ。
少しでも可愛く見られたい気持ちがあるから
ここで太るわけにはいかない。
寿三郎にきっぱりと断ってやろうと口を開いた瞬間
私は目の前の光景に唖然とした。
「あれ?高柳じゃん。お疲れ」
ファストフード店から出てきたのは
今しがた姿を思い浮かべていた私の片思いの相手。
『お、お疲れ様です…』
「お前もデートか?彼氏、背高いな〜」
寿三郎を彼氏だと勘違いした先輩に
ちがう、と否定したかったけど
うまく声が出せないでいた。
だって先輩の隣には、華奢で小柄で可愛らしい女性がいて
2人は仲よさげに手を繋いでいたのだ。
お前もって言ったし、どう見ても恋人同士の放課後デート。
私が入る隙間なんて微塵もないほどお似合いの2人を見て
鼻の奥がツンとしてきてしまった。
彼女いたんだ…。
ヤバい、泣くかもしれない、と思った瞬間
寿三郎が私と先輩の間に割って入ってきた。
「はじめまして。1年の毛利言います。
今からここで食べて帰るとこやったんで
すんません、失礼します」
寿三郎はペコっとお辞儀をしたあと
私の手を取ってそのままファストフード店に入った。
チラリと先輩を振り返ると
私たちに笑顔で手を振ってくれていたので
少しだけ頭を下げたのだった。
「ほい。
これならポテトは2人で半分こなるしええやろ?」
『お金…』
「俺のおごりでっせ。ほら、食べんせーね」
寿三郎は私の口にポテトを運ぶ。
さっきまであんなに食べたかったポテトも
今は食べたくないくらいだけど
寿三郎はにこにこと笑っているから、おとなしく口を開く。
熱いから気ぃつけや、と一言伝えてくれて
素直に良いやつだなって思った。
寿三郎には、先輩が好きだとは言ったこともないから
私が元気がない理由はわからないだろうけど
恐らく、何か察してはくれているようで
彼は余計なことは聞かないでくれていた。
「あ、今更やけどナゲットのソース
それぞれ選んでもうたけど…」
『大丈夫。どっちも好きだから。
その、さっきからありがとう』
ナゲットにはソースがつく。
マスタードベースとケチャップベース
2種類あるから私がどちらを選んでも大丈夫なように
それぞれ頼んでくれたみたいだ。
ポテトが熱いから気をつけろとか
ソースのこととか
余計なこと聞かないとことか
私の手を引いて店に連れて入ってくれたのも
きっと私の異変を感じてくれたのだろう。
失礼かもしれないけど
こんなに気配りできる人だと思ってなくて
私は深々と頭を下げた。
「いやいや、調子くるうやんけ」
『……あのね、さっきの人にね、片思いしてたの。
彼女さんいるなんて知らなかったからびっくりして』
唐突に話したくなってしまって
寿三郎の相槌なんて無視して一方的に話す。
『素敵な彼女さんだったよね〜。
ポテトで太るとか考えたことないんじゃない?ってくらい華奢で
守りたくなるようなタイプの人で…。
なんか、虚しくなっちゃった』
私は身長は170cm 近いし
華奢どころか逞しい身体付きをしているし
髪だって、部活するのに邪魔だから
短く切っていて女の子らしくはない。
好きな人に彼女がいたってことよりも
どう頑張っても、可愛らしい女の子になれないのだと
現実を突きつけられた気がして気持ちが沈む。
「あん人にはあん人の。
千都世には千都世の良さがあるやんけ。
そら好きな人に、好きな人がおるんは辛いけど
自分のこと、否定する必要はないんとちゃう?」
寿三郎はそう言うとまたポテトを差し出した。
ポテトには、マスタードソースが付いている。
「特別仕様でっせ」
『ありがとう。美味しい!』
寿三郎の笑顔と言葉は
卑屈になっていた私をいとも簡単に救ってくれた。
その後も話をしながら一緒に過ごしていたら
私って本当に先輩のことを好きだったのかなって思うくらい
気持ちがスッキリとしていた。
「調子戻ってきんさった?」
『うん。そうみたい。
私って単純だから、美味しいもの食べたり
楽しいことがあったらすぐに元気になるんだよね』
「それ俺もやねぇ。単純同士ええコンビやんけ」
『そうだね。
あ、ねぇ、そういえばスタンプラリーしてる最中だった?』
そういえば、と
出会い頭に手に持っていたカードを思い出した。
スタンプラリーの途中だったのではないだろうか。
「お、ようわかったね。
そうそう、商店街の企画らしくてやってたんよぉ」
『ごめんね、私のせいで途中だったでしょ?』
「別にいつでもできるし気にせんで…
あー…せや。一緒にやらへん?」
寿三郎は大きな目で
チラッと私の様子を窺うような表情を浮かべた。
やってみたいなと思ってはいたけど
一人ではしにくいから嬉しいお誘いだ。
『うん、やりたい!今からまわる?』
「ん〜今からやと遅くなるかもやし
明日待ち合わせしやらん?」
『うん、いいね。そうしよう…って、今テスト期間だったね。
勉強してないけど…』
「ほんなら、テスト期間は一緒に勉強会して
テスト終わったら打ち上げ兼ねてのスタンプラリーや!」
『あはは!寿三郎とばかり過ごすことになるね!』
一緒に過ごせることが
なんだか嬉しくて、明日からの日々がわくわくする。
ポテトもナゲットもいつの間にかカラになっていて
太るかもと悩んでいた気持ちも
先輩への淡い想いも
全部食べてしまって、綺麗になくなった。
そう告げたら寿三郎は嬉しそうに笑って
俺の焦りもなくなってもーたわ、と言ったけど
その意味がわかるのは、もうちょっとあとになってからだった。
(やっぱ女子は皆太るとか気にしやるんねえ)
(そりゃそうでしょ。恋してなくても気になるよ)
(せやけど千都世はもうちょい太ってもええやんけ)
(えぇ〜やだよ。別に華奢でもないのに)
(何言うてるん。細っこい身体して心配なるわ。
もうちょい食べんせーね)
(太って誰も見向きもしなくなったら寿三郎のせいだからね)
(そのほうが、俺的には安心なんやけど…)
私はとある誘惑と闘っていた。
食べちゃう?いや、我慢したが良いって私。
テレビであれはかなりのカロリーで
魔の食べ物だって言ってたし
しばらくテスト期間で部活がないのだから
こんな太りやすいタイミングで食べたらきっと…
あぁ、でも食べたい!美味しそう!
「なーに店の前で百面相してるん?」
『あ、寿三郎』
気がつけば、クラスメートの寿三郎が
不思議そうな顔をして立っていた。
学校近くの商店街にあるファストフード店の前で
私は一人うーん、と唸っていたのだから
それは不思議な光景だったことだろう。
手に何かカードのような物を持ってるところを見ると
商店街に貼ってあったスタンプラリー中だろうか。
確か趣味だと言っていた気がするし。
「入らへんの?」
『それを悩んでるの』
「悩む?」
意味わからん、とでも言いたげな顔をしている彼に
この悩みは伝わらないだろう。
特に、ムカつくほど脚が長くて
スタイル抜群のこの男には到底無縁の悩みだ。
『…食べたら、太るなぁって』
「太るって…。このくらいで太らへんって」
『太るかもしれないでしょ。
ニキビだってできやすそうで…
女の子にとってこの食べ物は天敵なのっ!』
「ほんなら食べへんの?俺食べよかなって思ってたんやけど」
寿三郎は両手を頭の上で組んで
意地悪そうな笑顔を見せた。
いつもは犬みたいにかわいい顔してるのに
そんな顔もできるのかと彼の意外性に驚く。
『た、食べれば?』
「どれにしよかな。お、ちょうど17時過ぎてるやんけ。
安くなるしこれにしよかや」
これ、と寿三郎が指差すのは
私が食べるかどうか葛藤しているフライドポテト。
17時過ぎから、このポテトとナゲットが安くなる
学生にはうってつけのセットがあるのだ。
「あ、でもこれナゲット2個付くんやった。
一人で食べるんはちょっと量多いなあ。
誰か食べてくれる人……」
恨めしそうな目で睨むと
寿三郎はチラッとこっちを見てニンマリと笑った。
食べようと促してくるけど、その手には乗らない。
これでも同じバレー部の先輩に恋する乙女なのだ。
少しでも可愛く見られたい気持ちがあるから
ここで太るわけにはいかない。
寿三郎にきっぱりと断ってやろうと口を開いた瞬間
私は目の前の光景に唖然とした。
「あれ?高柳じゃん。お疲れ」
ファストフード店から出てきたのは
今しがた姿を思い浮かべていた私の片思いの相手。
『お、お疲れ様です…』
「お前もデートか?彼氏、背高いな〜」
寿三郎を彼氏だと勘違いした先輩に
ちがう、と否定したかったけど
うまく声が出せないでいた。
だって先輩の隣には、華奢で小柄で可愛らしい女性がいて
2人は仲よさげに手を繋いでいたのだ。
お前もって言ったし、どう見ても恋人同士の放課後デート。
私が入る隙間なんて微塵もないほどお似合いの2人を見て
鼻の奥がツンとしてきてしまった。
彼女いたんだ…。
ヤバい、泣くかもしれない、と思った瞬間
寿三郎が私と先輩の間に割って入ってきた。
「はじめまして。1年の毛利言います。
今からここで食べて帰るとこやったんで
すんません、失礼します」
寿三郎はペコっとお辞儀をしたあと
私の手を取ってそのままファストフード店に入った。
チラリと先輩を振り返ると
私たちに笑顔で手を振ってくれていたので
少しだけ頭を下げたのだった。
「ほい。
これならポテトは2人で半分こなるしええやろ?」
『お金…』
「俺のおごりでっせ。ほら、食べんせーね」
寿三郎は私の口にポテトを運ぶ。
さっきまであんなに食べたかったポテトも
今は食べたくないくらいだけど
寿三郎はにこにこと笑っているから、おとなしく口を開く。
熱いから気ぃつけや、と一言伝えてくれて
素直に良いやつだなって思った。
寿三郎には、先輩が好きだとは言ったこともないから
私が元気がない理由はわからないだろうけど
恐らく、何か察してはくれているようで
彼は余計なことは聞かないでくれていた。
「あ、今更やけどナゲットのソース
それぞれ選んでもうたけど…」
『大丈夫。どっちも好きだから。
その、さっきからありがとう』
ナゲットにはソースがつく。
マスタードベースとケチャップベース
2種類あるから私がどちらを選んでも大丈夫なように
それぞれ頼んでくれたみたいだ。
ポテトが熱いから気をつけろとか
ソースのこととか
余計なこと聞かないとことか
私の手を引いて店に連れて入ってくれたのも
きっと私の異変を感じてくれたのだろう。
失礼かもしれないけど
こんなに気配りできる人だと思ってなくて
私は深々と頭を下げた。
「いやいや、調子くるうやんけ」
『……あのね、さっきの人にね、片思いしてたの。
彼女さんいるなんて知らなかったからびっくりして』
唐突に話したくなってしまって
寿三郎の相槌なんて無視して一方的に話す。
『素敵な彼女さんだったよね〜。
ポテトで太るとか考えたことないんじゃない?ってくらい華奢で
守りたくなるようなタイプの人で…。
なんか、虚しくなっちゃった』
私は身長は170cm 近いし
華奢どころか逞しい身体付きをしているし
髪だって、部活するのに邪魔だから
短く切っていて女の子らしくはない。
好きな人に彼女がいたってことよりも
どう頑張っても、可愛らしい女の子になれないのだと
現実を突きつけられた気がして気持ちが沈む。
「あん人にはあん人の。
千都世には千都世の良さがあるやんけ。
そら好きな人に、好きな人がおるんは辛いけど
自分のこと、否定する必要はないんとちゃう?」
寿三郎はそう言うとまたポテトを差し出した。
ポテトには、マスタードソースが付いている。
「特別仕様でっせ」
『ありがとう。美味しい!』
寿三郎の笑顔と言葉は
卑屈になっていた私をいとも簡単に救ってくれた。
その後も話をしながら一緒に過ごしていたら
私って本当に先輩のことを好きだったのかなって思うくらい
気持ちがスッキリとしていた。
「調子戻ってきんさった?」
『うん。そうみたい。
私って単純だから、美味しいもの食べたり
楽しいことがあったらすぐに元気になるんだよね』
「それ俺もやねぇ。単純同士ええコンビやんけ」
『そうだね。
あ、ねぇ、そういえばスタンプラリーしてる最中だった?』
そういえば、と
出会い頭に手に持っていたカードを思い出した。
スタンプラリーの途中だったのではないだろうか。
「お、ようわかったね。
そうそう、商店街の企画らしくてやってたんよぉ」
『ごめんね、私のせいで途中だったでしょ?』
「別にいつでもできるし気にせんで…
あー…せや。一緒にやらへん?」
寿三郎は大きな目で
チラッと私の様子を窺うような表情を浮かべた。
やってみたいなと思ってはいたけど
一人ではしにくいから嬉しいお誘いだ。
『うん、やりたい!今からまわる?』
「ん〜今からやと遅くなるかもやし
明日待ち合わせしやらん?」
『うん、いいね。そうしよう…って、今テスト期間だったね。
勉強してないけど…』
「ほんなら、テスト期間は一緒に勉強会して
テスト終わったら打ち上げ兼ねてのスタンプラリーや!」
『あはは!寿三郎とばかり過ごすことになるね!』
一緒に過ごせることが
なんだか嬉しくて、明日からの日々がわくわくする。
ポテトもナゲットもいつの間にかカラになっていて
太るかもと悩んでいた気持ちも
先輩への淡い想いも
全部食べてしまって、綺麗になくなった。
そう告げたら寿三郎は嬉しそうに笑って
俺の焦りもなくなってもーたわ、と言ったけど
その意味がわかるのは、もうちょっとあとになってからだった。
(やっぱ女子は皆太るとか気にしやるんねえ)
(そりゃそうでしょ。恋してなくても気になるよ)
(せやけど千都世はもうちょい太ってもええやんけ)
(えぇ〜やだよ。別に華奢でもないのに)
(何言うてるん。細っこい身体して心配なるわ。
もうちょい食べんせーね)
(太って誰も見向きもしなくなったら寿三郎のせいだからね)
(そのほうが、俺的には安心なんやけど…)
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