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自主練終わりのコートで夕陽を見ながら
なんとなく物憂な気分になった。
朝晩は随分と涼しくなってきて
やっと秋を感じられる季節になってきたんやけど
こういう日の夕方は、何故か無性に切なくなって
物憂な気分になって
俺はぼんやりと昔のことを思い出していた。
今となってはテニスが好きで
勝ちたくて強くなりたくて
練習もサボらへんようになった俺やけど
過去にはテニスを辞めようとまで思ったこともあった。
幸村のおかげで俺も頑張らんとって
今のままじゃアカンって背中を押されて
テニスに向き合うようになったんやけど
ホンマは、それだけじゃない。
俺の背中を押して、支えてくれた人はもうひとりおる。
あの日、試合で怪我をして病院に行った俺は
幸村の賢明なリハビリ姿を目撃した。
なんやえらい大変な病気やってことくらいしか
知らんかった俺は
その姿に打ちのめされて、現実を知って
生半可な気持ちでテニスをしていた自分が
恥ずかしくなった。
俺もちゃんとテニスやろう。
そう思ったものの、いきなり部活に戻ったとしても
受け入れてもらえるのだろうか、と心配だった。
今更何してるんだって、言われるんじゃないかって
怖くなった。
「う〜。どないして部活顔出そか…」
放課後、このまま部室に行くかどうかをウダウダと考えながら
校舎中を歩き回る。
ここまで真剣に悩んだのは初めてかもしれないってくらい
頭がぐるぐるして考えがまとまらない。
もう今日はサボってしまおうかと
そう考えたとき
ツンとしていて、嗅いだことのある香りが鼻をかすめた。
なんやろ。
嗅いだことあるけど、なんやっけ。
どこからだろうと、近くの教室のドアを開けたら
筆を持った女の子と目が合った。
「あ、絵の具や」
『絵の具、ね』
今思えば、かなり間抜けな会話やったと思う。
いきなりドア開けて、開口一番に「絵の具や」って
なんのこっちゃって話やんけ。
それでも、彼女は当たり前のように返してくれて
それが何故か心地よかった。
「あっ!す、すんません…!いきなり開けてもーて…」
『ううん。構わないよ。教室通ったら絵の具の香りでもした?』
「あ、そうです。
なんか嗅いだことのある匂いしやるなって思ってつい」
『あはは。面白い人ね。一年生だよね?』
はい、と答えると彼女はやっぱり、と言った。
一年生だよね、と断言する辺り
俺のことを見かけたことくらいはあったのだろうか。
「二年生、でっか?」
『ううん。三年生。小柳絵麻よ』
「俺、毛利寿三郎言います」
『こんにちは、毛利くん』
キャンバスに身体を向けたまま
顔だけを俺に向けて微笑んでくれた絵麻さんは
すごく大人に見えた。
次の日、俺は何故かこの人が気になって
あの空間で、絵の具の香りを嗅ぎたくて
また美術室へと顔を出した。
変な顔をされるかと思いきや
彼女は昨日と変わらぬ姿で、変わらぬ笑顔で迎えてくれた。
彼女には人を安心させるというか
この人なら大丈夫と思わせる不思議な力があって
会って2回目だというのに
俺は部活のことを彼女に相談した。
『何か考える必要ある?
その幸村くんの姿を見て、テニス頑張ろって思ったんでしょ?
普通に部活に行けば良いじゃない』
「せやから、なんで今更って思われへんかなって…」
『そりゃ思う人もいるかもしれないけど』
「ほら、おるやんけ…」
子供じみたことを言ってるのはわかってる。
そもそもサボってた俺が悪いんやから
良く思われへんのは仕方のないこと。
せやけど、人から向けられる
「批判」「拒絶」「敵意」「悪意」
それが怖いと思ってしまうのだ。
『今更って思われるのが嫌なら
“心を入れ替えました。今から一から頑張ります”って
宣言してしまえば良いじゃない?』
「宣言しても、うまくいかへんかったら?」
俺ってこんなに面倒くさいタイプやったか?と思うほど
ああ言えばこう言う、そんな状態。
それでも絵麻さんは、顔色ひとつ変えずに
接してくれていた。
『人の考え方なんてそれぞれよ。
同じことを言っても、解釈は十人十色。
私の描いてる絵だってそう。
見え方も人によって違う。
自分じゃない誰かに理解を求めることって難しいの』
「ほんなら、絵麻さんやったらどないします?」
『さっきも言った通り宣言する。
深く考えるのをやめる。
それと、とにかく、頑張る。
言葉で伝わらない人には、態度で示せってやつよ』
「絵麻さんって、実は体育会系でっか?」
『うん、そうかも』
そう言って笑った顔に、大人っぽさはなくて
はにかむような無邪気な笑顔にドキッとした。
明確な言葉に励まされて
俺は次の日から部活に顔を出すことにした。
せやけど最初はやっぱりうまく馴染めず
気まずい感じにもなったけど
絵麻さんの言葉を思い出して
とにかく、自分なりに頑張ってみた。
幸村には、まだ合わせる顔がなかったから
こっそり応援する気持ちでスポーツドリンクを
病院へと届けることにして見守ったり
今できることをやった。
へこんだときは美術室へ行って話を聞いてもらって
また背中を押してもらって
ホンマに、かなり支えてもらったと思う。
そうこうしてたら、徐々に周りの雰囲気が変わってきた。
少しは認められた気がして
絵麻さんにすぐ報告したかったんやけど
そっからすぐU-17の合宿が始まってもうて会えなかった。
連絡先を聞いておけば良かったと後悔したものの
またどうせすぐ会えると思って
合宿から帰る度に美術室に寄ってみたんやけど
それでも会えへんで
とうとう美術部の顧問にクラス聞いてみたら驚いた。
絵麻さんは、海外に引っ越していた。
顧問から聞いて、呆然としながら美術室のドアに手をかける。
ドアを開けたら
またいつもみたいにいてはるんやないかって期待するも
そこには誰もおらへんくて、寂しい空間が広がっていた。
顧問曰く、うちの学校の美術部は
どうやらあまり活動していないらしく
部員が集まるのは大抵コンクールに向けての時期だけらしい。
だから絵麻さんだけしかおらんかったのかと合点がいくが
絵麻さんは、何を描いていたんやろう。
絵の具の香りが薄くなった美術室で、今更ながら気づく。
俺はあんなに話を聞いてもらってたのに
絵麻さんのことを何も知らんかった。
今になって、彼女のことが知りたくてたまらない。
ふと、絵麻さんがいつも立っていた
美術室の窓側に足を向ける。
「何描いてはるん?」
「何が好きなん?」
「なんで転校するって教えてくれんかったん?」
聞きたいことはいっぱいあって
言いたいこともいっぱいあった。
「お礼すらまともに言えてへんやんけ…」
情けない、と俯いたとき
足元に何か置いてあるのが見えた。
布に包まれて立て掛けてあったそれは絵のよう。
もしかして、と期待して見てみれば
それはきっと絵麻さんが描いた
テニスコートへと向かう俺の後ろ姿の絵やった。
絵には小さな便箋が付いていて
そこには綺麗な字で“毛利くんへ”と書かれていた。
“この絵が、テニスコートに向かう姿に見えたならもう大丈夫。
毛利くんなら強くなれるよ。
いつかまた、どこかで”
絵麻さんが立っていた場所からは
テニスコートが見えていた。
ずっと、俺を応援してくれはったんやね。
繊細やけど、力強い絵から
絵麻さんの想いが伝わってくるような気がして
俺はそっと、キャンバスごと抱きしめたのだった。
「毛利、まだ練習していたのか」
「あ、月光さん!もう終わりまっせ。
ちょっと色々思い出してて、思い出に浸ってしもたわ」
俺の戻りが遅かったからか、月光さんが迎えに来はった。
片付けをして戻ろうと思った矢先
ポケットに入れたスマホが震えた。
通話アプリを見ると、そこには絵麻さんからのメッセージ。
あれから俺は美術部の顧問の先生と
絵麻さんのクラスメートに頼み倒して
彼女の連絡先を教えてもらったのだ。
「嬉しそうだな」
「えへへ。そう見えます?
やっと、会いたい人に会えるんでっせ。
せやから、勝たなアカン。絶対、勝ちましょうね!月光さん」
「あぁ」
もう、悩んだりして弱気になってる俺はもうおらへん。
オーストラリアにいる彼女に俺の姿を見てもらうためにも
絶対、負けられん。勝ってやる。
そう胸に誓って、俺は月光さんと夕日を眺めたのだった。
(恋人か?)
(え!?いや!そんなんとちゃいまっせ…!
俺の恩師というか相談役というか…)
(そうか。なら俺も今度挨拶しよう)
(え!?その〜…好きになったら、アカンですよ?)
(フッ…微笑ましいな)
(ちょ、月光さんどない意味!?月光さぁんっ!)
なんとなく物憂な気分になった。
朝晩は随分と涼しくなってきて
やっと秋を感じられる季節になってきたんやけど
こういう日の夕方は、何故か無性に切なくなって
物憂な気分になって
俺はぼんやりと昔のことを思い出していた。
今となってはテニスが好きで
勝ちたくて強くなりたくて
練習もサボらへんようになった俺やけど
過去にはテニスを辞めようとまで思ったこともあった。
幸村のおかげで俺も頑張らんとって
今のままじゃアカンって背中を押されて
テニスに向き合うようになったんやけど
ホンマは、それだけじゃない。
俺の背中を押して、支えてくれた人はもうひとりおる。
あの日、試合で怪我をして病院に行った俺は
幸村の賢明なリハビリ姿を目撃した。
なんやえらい大変な病気やってことくらいしか
知らんかった俺は
その姿に打ちのめされて、現実を知って
生半可な気持ちでテニスをしていた自分が
恥ずかしくなった。
俺もちゃんとテニスやろう。
そう思ったものの、いきなり部活に戻ったとしても
受け入れてもらえるのだろうか、と心配だった。
今更何してるんだって、言われるんじゃないかって
怖くなった。
「う〜。どないして部活顔出そか…」
放課後、このまま部室に行くかどうかをウダウダと考えながら
校舎中を歩き回る。
ここまで真剣に悩んだのは初めてかもしれないってくらい
頭がぐるぐるして考えがまとまらない。
もう今日はサボってしまおうかと
そう考えたとき
ツンとしていて、嗅いだことのある香りが鼻をかすめた。
なんやろ。
嗅いだことあるけど、なんやっけ。
どこからだろうと、近くの教室のドアを開けたら
筆を持った女の子と目が合った。
「あ、絵の具や」
『絵の具、ね』
今思えば、かなり間抜けな会話やったと思う。
いきなりドア開けて、開口一番に「絵の具や」って
なんのこっちゃって話やんけ。
それでも、彼女は当たり前のように返してくれて
それが何故か心地よかった。
「あっ!す、すんません…!いきなり開けてもーて…」
『ううん。構わないよ。教室通ったら絵の具の香りでもした?』
「あ、そうです。
なんか嗅いだことのある匂いしやるなって思ってつい」
『あはは。面白い人ね。一年生だよね?』
はい、と答えると彼女はやっぱり、と言った。
一年生だよね、と断言する辺り
俺のことを見かけたことくらいはあったのだろうか。
「二年生、でっか?」
『ううん。三年生。小柳絵麻よ』
「俺、毛利寿三郎言います」
『こんにちは、毛利くん』
キャンバスに身体を向けたまま
顔だけを俺に向けて微笑んでくれた絵麻さんは
すごく大人に見えた。
次の日、俺は何故かこの人が気になって
あの空間で、絵の具の香りを嗅ぎたくて
また美術室へと顔を出した。
変な顔をされるかと思いきや
彼女は昨日と変わらぬ姿で、変わらぬ笑顔で迎えてくれた。
彼女には人を安心させるというか
この人なら大丈夫と思わせる不思議な力があって
会って2回目だというのに
俺は部活のことを彼女に相談した。
『何か考える必要ある?
その幸村くんの姿を見て、テニス頑張ろって思ったんでしょ?
普通に部活に行けば良いじゃない』
「せやから、なんで今更って思われへんかなって…」
『そりゃ思う人もいるかもしれないけど』
「ほら、おるやんけ…」
子供じみたことを言ってるのはわかってる。
そもそもサボってた俺が悪いんやから
良く思われへんのは仕方のないこと。
せやけど、人から向けられる
「批判」「拒絶」「敵意」「悪意」
それが怖いと思ってしまうのだ。
『今更って思われるのが嫌なら
“心を入れ替えました。今から一から頑張ります”って
宣言してしまえば良いじゃない?』
「宣言しても、うまくいかへんかったら?」
俺ってこんなに面倒くさいタイプやったか?と思うほど
ああ言えばこう言う、そんな状態。
それでも絵麻さんは、顔色ひとつ変えずに
接してくれていた。
『人の考え方なんてそれぞれよ。
同じことを言っても、解釈は十人十色。
私の描いてる絵だってそう。
見え方も人によって違う。
自分じゃない誰かに理解を求めることって難しいの』
「ほんなら、絵麻さんやったらどないします?」
『さっきも言った通り宣言する。
深く考えるのをやめる。
それと、とにかく、頑張る。
言葉で伝わらない人には、態度で示せってやつよ』
「絵麻さんって、実は体育会系でっか?」
『うん、そうかも』
そう言って笑った顔に、大人っぽさはなくて
はにかむような無邪気な笑顔にドキッとした。
明確な言葉に励まされて
俺は次の日から部活に顔を出すことにした。
せやけど最初はやっぱりうまく馴染めず
気まずい感じにもなったけど
絵麻さんの言葉を思い出して
とにかく、自分なりに頑張ってみた。
幸村には、まだ合わせる顔がなかったから
こっそり応援する気持ちでスポーツドリンクを
病院へと届けることにして見守ったり
今できることをやった。
へこんだときは美術室へ行って話を聞いてもらって
また背中を押してもらって
ホンマに、かなり支えてもらったと思う。
そうこうしてたら、徐々に周りの雰囲気が変わってきた。
少しは認められた気がして
絵麻さんにすぐ報告したかったんやけど
そっからすぐU-17の合宿が始まってもうて会えなかった。
連絡先を聞いておけば良かったと後悔したものの
またどうせすぐ会えると思って
合宿から帰る度に美術室に寄ってみたんやけど
それでも会えへんで
とうとう美術部の顧問にクラス聞いてみたら驚いた。
絵麻さんは、海外に引っ越していた。
顧問から聞いて、呆然としながら美術室のドアに手をかける。
ドアを開けたら
またいつもみたいにいてはるんやないかって期待するも
そこには誰もおらへんくて、寂しい空間が広がっていた。
顧問曰く、うちの学校の美術部は
どうやらあまり活動していないらしく
部員が集まるのは大抵コンクールに向けての時期だけらしい。
だから絵麻さんだけしかおらんかったのかと合点がいくが
絵麻さんは、何を描いていたんやろう。
絵の具の香りが薄くなった美術室で、今更ながら気づく。
俺はあんなに話を聞いてもらってたのに
絵麻さんのことを何も知らんかった。
今になって、彼女のことが知りたくてたまらない。
ふと、絵麻さんがいつも立っていた
美術室の窓側に足を向ける。
「何描いてはるん?」
「何が好きなん?」
「なんで転校するって教えてくれんかったん?」
聞きたいことはいっぱいあって
言いたいこともいっぱいあった。
「お礼すらまともに言えてへんやんけ…」
情けない、と俯いたとき
足元に何か置いてあるのが見えた。
布に包まれて立て掛けてあったそれは絵のよう。
もしかして、と期待して見てみれば
それはきっと絵麻さんが描いた
テニスコートへと向かう俺の後ろ姿の絵やった。
絵には小さな便箋が付いていて
そこには綺麗な字で“毛利くんへ”と書かれていた。
“この絵が、テニスコートに向かう姿に見えたならもう大丈夫。
毛利くんなら強くなれるよ。
いつかまた、どこかで”
絵麻さんが立っていた場所からは
テニスコートが見えていた。
ずっと、俺を応援してくれはったんやね。
繊細やけど、力強い絵から
絵麻さんの想いが伝わってくるような気がして
俺はそっと、キャンバスごと抱きしめたのだった。
「毛利、まだ練習していたのか」
「あ、月光さん!もう終わりまっせ。
ちょっと色々思い出してて、思い出に浸ってしもたわ」
俺の戻りが遅かったからか、月光さんが迎えに来はった。
片付けをして戻ろうと思った矢先
ポケットに入れたスマホが震えた。
通話アプリを見ると、そこには絵麻さんからのメッセージ。
あれから俺は美術部の顧問の先生と
絵麻さんのクラスメートに頼み倒して
彼女の連絡先を教えてもらったのだ。
「嬉しそうだな」
「えへへ。そう見えます?
やっと、会いたい人に会えるんでっせ。
せやから、勝たなアカン。絶対、勝ちましょうね!月光さん」
「あぁ」
もう、悩んだりして弱気になってる俺はもうおらへん。
オーストラリアにいる彼女に俺の姿を見てもらうためにも
絶対、負けられん。勝ってやる。
そう胸に誓って、俺は月光さんと夕日を眺めたのだった。
(恋人か?)
(え!?いや!そんなんとちゃいまっせ…!
俺の恩師というか相談役というか…)
(そうか。なら俺も今度挨拶しよう)
(え!?その〜…好きになったら、アカンですよ?)
(フッ…微笑ましいな)
(ちょ、月光さんどない意味!?月光さぁんっ!)