小さな君へ
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“いつか、私を追い越したらね”
隣に住む男の子は
小柄で元気いっぱいで、とても可愛らしい男の子だった。
無邪気、という言葉がピッタリの彼は
私を見かけるといつも
“結姉ちゃん!“と手を振って駆け寄って
来てくれていた。
一人っ子の私にとっては弟ができたみたいで
学校での出来事を聞いてあげたり
宿題を見てあげたり
地域のお祭りに一緒に行ったこともあった。
随分と可愛がっていたし
彼も私に懐いてくれていた。
そんな彼が、引っ越すことになった。
中学1年生になって割とすぐに
泣きそうな顔をして彼は
“引っ越すことになってもうた…”と話してきた。
彼と過ごすことが楽しみになっていた私にとって
ショックで、寂しくて、悲しくて、泣きそうだった。
だけど彼より2歳も年上なのだ。
笑顔で送り出してあげなければならない。
彼が大阪を離れる前日
私の家に遊びに来た彼に、いつもの元気はなかった。
「神奈川のな、
立海ってとこに転校しやるんやけど馴染めるやろか…。
大阪とノリちゃう言うし」
『じゅさくんなら、大丈夫。きっとすぐに馴染めるよ』
そう伝えて彼の頭を撫でると
珍しくムッとした表情を見せた。
「……結姉ちゃんは寂しくないん?」
『…私も、寂しいよ。
でも、向こうに行ったらきっと
素敵な人たちがいっぱいいて
すぐに楽しいと思えるようになるよ』
「結姉ちゃんほど、素敵な人なんておらんよ。
それと、子供扱いするんやめんせーね」
『じゅさくん可愛いからつい、ね』
ごめんと笑うと
彼もつられて笑顔を見せてくれた。
そう。私は彼の屈託のない明るい笑顔が好きなのだ。
「あ、せや。俺と約束して!」
『約束?』
「俺の背が伸びて、結姉ちゃんを抜かしたら
ちゃんと一人前の男扱いしてな!」
『ふふっ…一人前の男扱いってなにそれ』
「それは…うーん」
じゅさくんは自分から提案したのに
腕を組んで考え込んでしまった。
うーんと、頭を動かすたびに
結んだ前髪が揺れて尻尾のよう。
その姿はやっぱり小動物のようで可愛らしい。
「よし!ほんなら、結姉ちゃんの彼氏にしてや!
それが一人前の男扱いっちゅーことで!」
じゅさくんの口から出た言葉にポカンとするも
冗談でも真っ直ぐな言葉に
胸がくすぐられるような感じがした。
『いつか、私を追い越したらね』
「約束でっせ!
また、会いに来る。絶対来る。待っとってな!」
あの日の約束からはや3年。
私は高校3年生になった。
じゅさくんとは、あれ以来会ってもなければ
連絡すら取っていない。
というか、連絡先を知らなかった。
当時、まだ携帯を持っていなかったので
電話番号もメールアドレスもわからず
彼を辿る手段がない。
手紙も一度書いたことがあったけど
住所が違っていたのか戻ってきてしまったし
同じ校区内だけどあれから私も引っ越したので
彼から手紙が来ることもなかった。
でも、本当に連絡する手段がなかったと言えば嘘になる。
彼と仲の良かった同級生は
きっと連絡先を知っているだろうし
繋がりは見つかるはず。
だけど、連絡するのが怖かった。
約束どころか、私という存在自体
彼は覚えていないかもしれないのだから。
いつまでも
彼のことを思い出すことは女々しいだろうか。
学校からの帰り道
昔よく一緒に遊んだ公園を通りながら自嘲する。
それだけ、あの頃は毎日輝いていたのだ。
「あ、あの………!」
唐突に、後ろから声を掛けられて立ち止まる。
夕暮れの、人気のなくなった公園で
声を掛けられることに少しだけ不安に思いつつも振り向くと
そこには癖っ毛の、背の高い男の子が立っていた。
『えっと…』
「結姉ちゃん、会いに来てもーた」
聞き慣れた、結姉ちゃんの呼び名。
会いたかった人の突然の登場。
俄に信じがたい姿に呆気に取られていると
彼はおろおろと、表情を曇らせる。
「えっ!も、もしかして俺のこと忘れて…」
ころころ変わる表情は、あの頃と変わっていなくて
目の前の彼は、紛れもなくじゅさくんなのだと
やっと私の頭が追いついてきた。
『忘れるわけ、ないでしょ。びっくりした…。
じゅさくん…背、伸びたね』
「えへへ、良かったわ。
あん頃は小さかったけど、今はもう191cmありまっせ」
会いたかった小さな男の子は、面影はあれど
一人の男性となって私の前に現れた。
笑うと可愛らしさはあるけど
背丈だけでなく
逞しい腕も、分厚い胸板も、がっしりとした肩も
子供扱いなんて到底できないほど
素敵な男性へと変貌を遂げている。
『いきなりすぎて、びっくりしたよ』
「ホンマはもうちょい早く会いにくるつもりやったんやけど…
色々気になってすぐには行けへんで」
気になることとはなんだろう、と首を傾げると
私の手は彼の大きな手にぎゅっと、包まれた。
「あの時の約束、覚えてはる?
それを果たしに来たんよ」
『約束………まだ、有効なの?』
「無効になんかさせへんでっせ。
結姉ちゃんの背なんて、追い越してもーたよ。
これでもう子供扱いできへんですよね。
俺を結姉ちゃん…
いや、結さんの彼氏にしてくれませんか?」
あの時、小さなじゅさくんと過ごしていた日々は
毎日がとても輝いていた。
あの時以上にこれからの毎日が
輝くことになるだろうと、私は彼の手を握り返して
大きく頷いたのだった。
(そういえば、色々気になったってどういうこと?)
(いやぁ…実はハラテツから結さんのこと
聞いてたんやけど…)
(あぁ。あのお笑いの原くん)
(…彼氏いはるかどうかまではわからへんって
言うてたから
もし彼氏いはったらって不安になってもうて)
(彼氏なんて出来たことすらないよ)
(え!ほ、ホンマに!?俺が初めての彼氏なん?
うっは〜むっちや嬉しいでっせ!)
(じゅさくんは?)
(え゛。あ…お、俺は〜……)
(ふーん。
見た目だけじゃなくて色々と成長したのね)
(え、もしかして拗ねてます? かわええ…やなくて
ちゃうんです!ちょ、聞いて下さい!結ちゃーん!)
隣に住む男の子は
小柄で元気いっぱいで、とても可愛らしい男の子だった。
無邪気、という言葉がピッタリの彼は
私を見かけるといつも
“結姉ちゃん!“と手を振って駆け寄って
来てくれていた。
一人っ子の私にとっては弟ができたみたいで
学校での出来事を聞いてあげたり
宿題を見てあげたり
地域のお祭りに一緒に行ったこともあった。
随分と可愛がっていたし
彼も私に懐いてくれていた。
そんな彼が、引っ越すことになった。
中学1年生になって割とすぐに
泣きそうな顔をして彼は
“引っ越すことになってもうた…”と話してきた。
彼と過ごすことが楽しみになっていた私にとって
ショックで、寂しくて、悲しくて、泣きそうだった。
だけど彼より2歳も年上なのだ。
笑顔で送り出してあげなければならない。
彼が大阪を離れる前日
私の家に遊びに来た彼に、いつもの元気はなかった。
「神奈川のな、
立海ってとこに転校しやるんやけど馴染めるやろか…。
大阪とノリちゃう言うし」
『じゅさくんなら、大丈夫。きっとすぐに馴染めるよ』
そう伝えて彼の頭を撫でると
珍しくムッとした表情を見せた。
「……結姉ちゃんは寂しくないん?」
『…私も、寂しいよ。
でも、向こうに行ったらきっと
素敵な人たちがいっぱいいて
すぐに楽しいと思えるようになるよ』
「結姉ちゃんほど、素敵な人なんておらんよ。
それと、子供扱いするんやめんせーね」
『じゅさくん可愛いからつい、ね』
ごめんと笑うと
彼もつられて笑顔を見せてくれた。
そう。私は彼の屈託のない明るい笑顔が好きなのだ。
「あ、せや。俺と約束して!」
『約束?』
「俺の背が伸びて、結姉ちゃんを抜かしたら
ちゃんと一人前の男扱いしてな!」
『ふふっ…一人前の男扱いってなにそれ』
「それは…うーん」
じゅさくんは自分から提案したのに
腕を組んで考え込んでしまった。
うーんと、頭を動かすたびに
結んだ前髪が揺れて尻尾のよう。
その姿はやっぱり小動物のようで可愛らしい。
「よし!ほんなら、結姉ちゃんの彼氏にしてや!
それが一人前の男扱いっちゅーことで!」
じゅさくんの口から出た言葉にポカンとするも
冗談でも真っ直ぐな言葉に
胸がくすぐられるような感じがした。
『いつか、私を追い越したらね』
「約束でっせ!
また、会いに来る。絶対来る。待っとってな!」
あの日の約束からはや3年。
私は高校3年生になった。
じゅさくんとは、あれ以来会ってもなければ
連絡すら取っていない。
というか、連絡先を知らなかった。
当時、まだ携帯を持っていなかったので
電話番号もメールアドレスもわからず
彼を辿る手段がない。
手紙も一度書いたことがあったけど
住所が違っていたのか戻ってきてしまったし
同じ校区内だけどあれから私も引っ越したので
彼から手紙が来ることもなかった。
でも、本当に連絡する手段がなかったと言えば嘘になる。
彼と仲の良かった同級生は
きっと連絡先を知っているだろうし
繋がりは見つかるはず。
だけど、連絡するのが怖かった。
約束どころか、私という存在自体
彼は覚えていないかもしれないのだから。
いつまでも
彼のことを思い出すことは女々しいだろうか。
学校からの帰り道
昔よく一緒に遊んだ公園を通りながら自嘲する。
それだけ、あの頃は毎日輝いていたのだ。
「あ、あの………!」
唐突に、後ろから声を掛けられて立ち止まる。
夕暮れの、人気のなくなった公園で
声を掛けられることに少しだけ不安に思いつつも振り向くと
そこには癖っ毛の、背の高い男の子が立っていた。
『えっと…』
「結姉ちゃん、会いに来てもーた」
聞き慣れた、結姉ちゃんの呼び名。
会いたかった人の突然の登場。
俄に信じがたい姿に呆気に取られていると
彼はおろおろと、表情を曇らせる。
「えっ!も、もしかして俺のこと忘れて…」
ころころ変わる表情は、あの頃と変わっていなくて
目の前の彼は、紛れもなくじゅさくんなのだと
やっと私の頭が追いついてきた。
『忘れるわけ、ないでしょ。びっくりした…。
じゅさくん…背、伸びたね』
「えへへ、良かったわ。
あん頃は小さかったけど、今はもう191cmありまっせ」
会いたかった小さな男の子は、面影はあれど
一人の男性となって私の前に現れた。
笑うと可愛らしさはあるけど
背丈だけでなく
逞しい腕も、分厚い胸板も、がっしりとした肩も
子供扱いなんて到底できないほど
素敵な男性へと変貌を遂げている。
『いきなりすぎて、びっくりしたよ』
「ホンマはもうちょい早く会いにくるつもりやったんやけど…
色々気になってすぐには行けへんで」
気になることとはなんだろう、と首を傾げると
私の手は彼の大きな手にぎゅっと、包まれた。
「あの時の約束、覚えてはる?
それを果たしに来たんよ」
『約束………まだ、有効なの?』
「無効になんかさせへんでっせ。
結姉ちゃんの背なんて、追い越してもーたよ。
これでもう子供扱いできへんですよね。
俺を結姉ちゃん…
いや、結さんの彼氏にしてくれませんか?」
あの時、小さなじゅさくんと過ごしていた日々は
毎日がとても輝いていた。
あの時以上にこれからの毎日が
輝くことになるだろうと、私は彼の手を握り返して
大きく頷いたのだった。
(そういえば、色々気になったってどういうこと?)
(いやぁ…実はハラテツから結さんのこと
聞いてたんやけど…)
(あぁ。あのお笑いの原くん)
(…彼氏いはるかどうかまではわからへんって
言うてたから
もし彼氏いはったらって不安になってもうて)
(彼氏なんて出来たことすらないよ)
(え!ほ、ホンマに!?俺が初めての彼氏なん?
うっは〜むっちや嬉しいでっせ!)
(じゅさくんは?)
(え゛。あ…お、俺は〜……)
(ふーん。
見た目だけじゃなくて色々と成長したのね)
(え、もしかして拗ねてます? かわええ…やなくて
ちゃうんです!ちょ、聞いて下さい!結ちゃーん!)