灰色の世界に彩りを
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「椿さぁん!!」
遠くから足音がして
看護師さんの“走らないでください!”の声した。
あぁ、きっと彼かなあと思っていたら案の定。
『はいはい、大丈夫だから落ち着いて』
両手にいっぱい荷物を持った寿三郎は
目に少し涙を浮かべて突っ立っている。
私の顔と、腕に刺さっている点滴を何度も見て
眉を下げて泣きそうにな顔をする。
座るように促せば
借りてきた猫のようにちょこんと座る…
うーん、座ってもちょこん、ではないし
猫でもないなあ。
叱られた犬みたいになってる。
「なんでニヤニヤしてはるん?」
顔に出ていたのか寿三郎がチラリとこちらを見て言う。
『ううん。寿三郎、元気ないなって』
「彼女の弱りきった姿見て
元気なんて出るわけないですやん…」
『ただの盲腸よ』
「それでも…!
顔色悪いし、細っこい手に点滴してはるし注射の痕とか…
また痩せたんとちゃいまっか?」
『あんまり食欲ないからねえ』
5日前、学校で急にお腹が痛くなって
動けなくなってしまった私は救急車で運ばれた。
そのまま入院して検査したら
どうやら盲腸らしく、手術したのだ。
もとからそこまで身体が強くはない私にとって
全身麻酔はかなり負担だったらしく
術後の痛みより副作用に苦しまされた。
普通はここまで副作用はないらしいのだが
私の場合はひどい頭痛と吐き気に襲われ
人と話すのも、スマホを見るのも辛くて
寿三郎には全く連絡をしていなかったから
余計に心配なのだろう。
「ちゃんと食べてますのん?」
『…果物とかなら、少しは』
嘘。本当は今朝オレンジを食べたら吐いてしまった。
だから点滴を外せないでいるのだ。
しゅん、とする寿三郎の頭を撫でる。
『寿三郎、私元気なあなたが好きよ。
私のせいで元気がないんだろうけど
せめて笑ってはほしいなあ』
寿三郎の、明るい笑顔が好きだ。
太陽みたいなキラキラした笑顔は
いつも周りを明るくしてくれる。
だから、冷たくて、暗い病室を照らしてほしい。
「…そうですよね。
俺が笑わんと、椿さんもっと寂しいですよね」
『え?』
「よっしゃ!ほんなら、持ってきたもん見らんせーね!」
そう言って寿三郎は両手に提げてきた
荷物を見せてくれた。
「まずはスポドリな!
これ後輩が入院してた時も同じの差し入れしてたんよ。
飲む点滴でっせ!
あとこれ、椿さん猫好きやろ?
寝るとき寂しくないように抱いて寝らんせーね!
あと、入院食飽きたらって思って自作のゼリーと
椿さんの好きな作家さんの新作!
まだ読んでへんかなーって…椿さん?」
寿三郎の笑顔と私のことを思って
持ってきてくれた物を見ていたら
いつの間にか涙が出ていた。
『あれ?なんで…わたし…』
ポロポロと流れる涙を、そっと寿三郎が指で拭う。
「…寂しかったんとちゃいまっか?
椿さん、最初から寂しそうな顔してはったから。
痛いし、しんどいし、一人でよう頑張りはったね」
そう。本当は寂しかった。
入院なんて初めてだし
手術だって初めてだし
面会時間は制限があって共働きしている両親は
なかなか来られないし
消毒液の臭いも、手術の痛みも、点滴の痛みも
全部全部、私を不安にさせる。
『…怖かった。
盲腸って聞いて安心したけど、吐いたりしてきつくて
病院は暗いし、心が冷えてしまうような
そんな感じがして…寿三郎に、会いたかった』
「椿さん、俺の前では素直になって下さい。
我慢せぇへんでええですから。
俺、頼りないかもしれへんけど
いつでも傍におりますから」
にっこり笑う寿三郎の笑顔と
背中をさすってくれる体温が優しくて
すぅっと、心と身体が軽くなる気がした。
「あ、せや。もう一個あったんやった。
俺の育てた夏野菜の浅漬け持ってきたんです。
病室食って彩り寂しいかな~思うて持ってきたんですけど…」
『けど?』
「俺の持ってきたもん
なんやオシャレでもなんでもあらへんなって…
花とかちゃんと持って来るべきやったわ…」
『寿三郎らしくて良いよ』
「ホンマに?」
『それに食べるときは寿三郎の浅漬けとゼリー食べて
暇なときは寿三郎が持って来てくれた本を読んで
眠るときは猫ちゃん抱いて寝て…
何するときも、寿三郎を感じられるから嬉しいよ』
寿三郎は顔を赤くして
私のベッドに顔を伏せてしまった。
またよしよしと彼の頭を撫でると
また形勢逆転してしもたやんけーと
呻く彼が可愛くて、愛しくてたまらなくなった。
灰色だった病室に、彩りを運ぶあなたに
ありがとうとキスをしよう。
(寿三郎ゼリーとかも作れるんだね)
(丸井に教えてもろたんよぉ!お菓子作り趣味やから)
(なるほど。
じゃあ本の話は柳生くんからのアドバイスかな?)
(えっ!?)
(浅漬けのアドバイスは柳くんとか?)
(うっ!)
(ぬいぐるみは可愛いもの好きの真田くんとか…)
(なっ! )
(じゃあ今日のこの花はさしずめ幸村くんチョイスかな?)
(え、選んだんは俺でっせ!
幸村は手伝ってくれただけで…あ)
(ふふっ、寿三郎は本当に皆から慕われてるね。
退院したら皆にもお礼しようかな)
(全部お見通しですやん…)
遠くから足音がして
看護師さんの“走らないでください!”の声した。
あぁ、きっと彼かなあと思っていたら案の定。
『はいはい、大丈夫だから落ち着いて』
両手にいっぱい荷物を持った寿三郎は
目に少し涙を浮かべて突っ立っている。
私の顔と、腕に刺さっている点滴を何度も見て
眉を下げて泣きそうにな顔をする。
座るように促せば
借りてきた猫のようにちょこんと座る…
うーん、座ってもちょこん、ではないし
猫でもないなあ。
叱られた犬みたいになってる。
「なんでニヤニヤしてはるん?」
顔に出ていたのか寿三郎がチラリとこちらを見て言う。
『ううん。寿三郎、元気ないなって』
「彼女の弱りきった姿見て
元気なんて出るわけないですやん…」
『ただの盲腸よ』
「それでも…!
顔色悪いし、細っこい手に点滴してはるし注射の痕とか…
また痩せたんとちゃいまっか?」
『あんまり食欲ないからねえ』
5日前、学校で急にお腹が痛くなって
動けなくなってしまった私は救急車で運ばれた。
そのまま入院して検査したら
どうやら盲腸らしく、手術したのだ。
もとからそこまで身体が強くはない私にとって
全身麻酔はかなり負担だったらしく
術後の痛みより副作用に苦しまされた。
普通はここまで副作用はないらしいのだが
私の場合はひどい頭痛と吐き気に襲われ
人と話すのも、スマホを見るのも辛くて
寿三郎には全く連絡をしていなかったから
余計に心配なのだろう。
「ちゃんと食べてますのん?」
『…果物とかなら、少しは』
嘘。本当は今朝オレンジを食べたら吐いてしまった。
だから点滴を外せないでいるのだ。
しゅん、とする寿三郎の頭を撫でる。
『寿三郎、私元気なあなたが好きよ。
私のせいで元気がないんだろうけど
せめて笑ってはほしいなあ』
寿三郎の、明るい笑顔が好きだ。
太陽みたいなキラキラした笑顔は
いつも周りを明るくしてくれる。
だから、冷たくて、暗い病室を照らしてほしい。
「…そうですよね。
俺が笑わんと、椿さんもっと寂しいですよね」
『え?』
「よっしゃ!ほんなら、持ってきたもん見らんせーね!」
そう言って寿三郎は両手に提げてきた
荷物を見せてくれた。
「まずはスポドリな!
これ後輩が入院してた時も同じの差し入れしてたんよ。
飲む点滴でっせ!
あとこれ、椿さん猫好きやろ?
寝るとき寂しくないように抱いて寝らんせーね!
あと、入院食飽きたらって思って自作のゼリーと
椿さんの好きな作家さんの新作!
まだ読んでへんかなーって…椿さん?」
寿三郎の笑顔と私のことを思って
持ってきてくれた物を見ていたら
いつの間にか涙が出ていた。
『あれ?なんで…わたし…』
ポロポロと流れる涙を、そっと寿三郎が指で拭う。
「…寂しかったんとちゃいまっか?
椿さん、最初から寂しそうな顔してはったから。
痛いし、しんどいし、一人でよう頑張りはったね」
そう。本当は寂しかった。
入院なんて初めてだし
手術だって初めてだし
面会時間は制限があって共働きしている両親は
なかなか来られないし
消毒液の臭いも、手術の痛みも、点滴の痛みも
全部全部、私を不安にさせる。
『…怖かった。
盲腸って聞いて安心したけど、吐いたりしてきつくて
病院は暗いし、心が冷えてしまうような
そんな感じがして…寿三郎に、会いたかった』
「椿さん、俺の前では素直になって下さい。
我慢せぇへんでええですから。
俺、頼りないかもしれへんけど
いつでも傍におりますから」
にっこり笑う寿三郎の笑顔と
背中をさすってくれる体温が優しくて
すぅっと、心と身体が軽くなる気がした。
「あ、せや。もう一個あったんやった。
俺の育てた夏野菜の浅漬け持ってきたんです。
病室食って彩り寂しいかな~思うて持ってきたんですけど…」
『けど?』
「俺の持ってきたもん
なんやオシャレでもなんでもあらへんなって…
花とかちゃんと持って来るべきやったわ…」
『寿三郎らしくて良いよ』
「ホンマに?」
『それに食べるときは寿三郎の浅漬けとゼリー食べて
暇なときは寿三郎が持って来てくれた本を読んで
眠るときは猫ちゃん抱いて寝て…
何するときも、寿三郎を感じられるから嬉しいよ』
寿三郎は顔を赤くして
私のベッドに顔を伏せてしまった。
またよしよしと彼の頭を撫でると
また形勢逆転してしもたやんけーと
呻く彼が可愛くて、愛しくてたまらなくなった。
灰色だった病室に、彩りを運ぶあなたに
ありがとうとキスをしよう。
(寿三郎ゼリーとかも作れるんだね)
(丸井に教えてもろたんよぉ!お菓子作り趣味やから)
(なるほど。
じゃあ本の話は柳生くんからのアドバイスかな?)
(えっ!?)
(浅漬けのアドバイスは柳くんとか?)
(うっ!)
(ぬいぐるみは可愛いもの好きの真田くんとか…)
(なっ! )
(じゃあ今日のこの花はさしずめ幸村くんチョイスかな?)
(え、選んだんは俺でっせ!
幸村は手伝ってくれただけで…あ)
(ふふっ、寿三郎は本当に皆から慕われてるね。
退院したら皆にもお礼しようかな)
(全部お見通しですやん…)