除夜の鐘が響く時
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『寒い……!』
「こら、縮まっとらんと急ぎんせーね。年越してまうやんけ」
時刻は23時30分。今日は大晦日。
私は、近所に住む寿三郎と一緒に
近くのお寺まで除夜の鐘つきに向かっている。
寒さが苦手な私にとって
この時期の夜は寒くて堪らない。
『だって、寒いんだもん』
「行きたい言うたんは亜美やん」
『そうなんだけど…』
「それにしても、いつもインドアなくせに珍しいやんけ」
『………たまにはいいでしょ』
普段の私なら行かない。
だけど、高校生になってテニスで忙しくなった寿三郎は
今までみたいに私の傍にはいてくれない。
三が日が過ぎればまたすぐ合宿所へと戻ってしまう。
今日みたいに
特別な時間を過ごせるチャンスが
なくなってしまうのが嫌で
私は、私らしくないけど
ちょっとでもふたりで過ごすために
除夜の鐘つきに行こうと誘ったのだった。
「お、けっこう人並んではる」
『ほんとだね』
お寺に着くと、既に30人くらいの人が並んでいた。
カップルから、小さな子どもを連れた親子。
おじいちゃんとお孫ちゃん。
皆白い息を吐きながら楽しそうに並んでいる。
「ここで亜美に会うたの思い出すわ」
『転校してきたばかりのときでしょ?』
「そうそう。
それで近所なんやーって話になったんやったね」
『懐かしいね』
その時、私は家族と一緒に来ていたのだが
背の高い寿三郎はかなり目立っていて
すぐに転校してきたばかりの彼だとわかった。
私たちが仲良くなったのは
このお寺で会ったのがきっかけだったのだ。
だから私にとっては、思い出の場所。
最近あった出来事などを話しながら並んでいたら
前の人たちが少しずつ進み始めて
ゴーンっと、一発目の鐘が響き渡った。
身体全身に響き渡るようなこの感覚が
私はけっこう好きだったりする。
鐘をつくのは結構力がいるので
私達の前に並んでいたらカップルは
二人仲良く撞木を引いていた。
共同作業って感じで少しだけ
いいなあと思いながら見ていたら
寿三郎が私の顔を覗き込んでいた。
「一緒にしやる?」
『え?』
「前したとき、亜美身体持ってかれて
転けそうになってもうてたやん」
『そ、そんなことないし』
「怪我したらアカンから、一緒にしんせーね」
嬉しいのに、素直になれずに
仕方ないなあみたいな反応しちゃって
ほんと可愛げがないと我ながら呆れる。
そうこうしてたら私達の番が来て
寿三郎と一緒に撞木の紐を握る。
自然と距離が近くなって、ドキドキと胸が高鳴ってきた。
住職さんが鳴らして良いよ、と合図をしてくれるまで
そのままの体制で待つ。
「…ホンマ、亜美はちっこいなぁ」
『…ここに来て喧嘩売ってる?』
「ちゃうって。守りたなるってこと」
え、と寿三郎の顔を見上げた瞬間
紐を握っていた私の手の上から
大きくて、あったかい彼の手が覆い被さり
ほな行くで、と声を掛けられてそのまま鐘を鳴らす。
今回は転けないようにと注意を払っていたのに
いつもより近い距離と
咄嗟の手のぬくもりと
耳元に掛かる声とに
気をとられて、私はまたよろめいてしまった。
「ほーら。やっぱり危ないやんけ」
『じゅ、寿三郎が…!』
「俺が?」
『なんでもない!ほら、行こっ』
意識させるから、なんて言えるはずもなく
逃げるように寿三郎の手をとって、鐘付き台から降りると
後ろから、あっ、と声がした。
くんっと手を引かれたので振り向いたら
「明けましておめでとうさん」
にこにことした笑顔で寿三郎が笑っていた。
『あ…明けまして、おめでとう…』
「好きな子と手ぇ繋いだまま年越せるとか
今年はええこと起こりそうやね」
『はっ?えっ?好きな、子…? 』
さらりと言われた言葉に頭が追い付かない。
「キョドりすぎやん。
よし、ほなら次はこのまま初詣行きまっせ」
『えっ、ちょっと寿三郎!』
「今年も、来年も、その先も
ずっとよろしゅう頼んます」
今はこちらこそ、と答えるのが精一杯だったけど
初詣の神社に着くまでには
なんとか気持ちを落ち着かせて
この気持ちを、貴方に伝えよう。
今年一番の、これから先もこれ以上ないってほどの
一斉一代の私の告白を、貴方に伝えよう。
そう、決心したのだった。
「こら、縮まっとらんと急ぎんせーね。年越してまうやんけ」
時刻は23時30分。今日は大晦日。
私は、近所に住む寿三郎と一緒に
近くのお寺まで除夜の鐘つきに向かっている。
寒さが苦手な私にとって
この時期の夜は寒くて堪らない。
『だって、寒いんだもん』
「行きたい言うたんは亜美やん」
『そうなんだけど…』
「それにしても、いつもインドアなくせに珍しいやんけ」
『………たまにはいいでしょ』
普段の私なら行かない。
だけど、高校生になってテニスで忙しくなった寿三郎は
今までみたいに私の傍にはいてくれない。
三が日が過ぎればまたすぐ合宿所へと戻ってしまう。
今日みたいに
特別な時間を過ごせるチャンスが
なくなってしまうのが嫌で
私は、私らしくないけど
ちょっとでもふたりで過ごすために
除夜の鐘つきに行こうと誘ったのだった。
「お、けっこう人並んではる」
『ほんとだね』
お寺に着くと、既に30人くらいの人が並んでいた。
カップルから、小さな子どもを連れた親子。
おじいちゃんとお孫ちゃん。
皆白い息を吐きながら楽しそうに並んでいる。
「ここで亜美に会うたの思い出すわ」
『転校してきたばかりのときでしょ?』
「そうそう。
それで近所なんやーって話になったんやったね」
『懐かしいね』
その時、私は家族と一緒に来ていたのだが
背の高い寿三郎はかなり目立っていて
すぐに転校してきたばかりの彼だとわかった。
私たちが仲良くなったのは
このお寺で会ったのがきっかけだったのだ。
だから私にとっては、思い出の場所。
最近あった出来事などを話しながら並んでいたら
前の人たちが少しずつ進み始めて
ゴーンっと、一発目の鐘が響き渡った。
身体全身に響き渡るようなこの感覚が
私はけっこう好きだったりする。
鐘をつくのは結構力がいるので
私達の前に並んでいたらカップルは
二人仲良く撞木を引いていた。
共同作業って感じで少しだけ
いいなあと思いながら見ていたら
寿三郎が私の顔を覗き込んでいた。
「一緒にしやる?」
『え?』
「前したとき、亜美身体持ってかれて
転けそうになってもうてたやん」
『そ、そんなことないし』
「怪我したらアカンから、一緒にしんせーね」
嬉しいのに、素直になれずに
仕方ないなあみたいな反応しちゃって
ほんと可愛げがないと我ながら呆れる。
そうこうしてたら私達の番が来て
寿三郎と一緒に撞木の紐を握る。
自然と距離が近くなって、ドキドキと胸が高鳴ってきた。
住職さんが鳴らして良いよ、と合図をしてくれるまで
そのままの体制で待つ。
「…ホンマ、亜美はちっこいなぁ」
『…ここに来て喧嘩売ってる?』
「ちゃうって。守りたなるってこと」
え、と寿三郎の顔を見上げた瞬間
紐を握っていた私の手の上から
大きくて、あったかい彼の手が覆い被さり
ほな行くで、と声を掛けられてそのまま鐘を鳴らす。
今回は転けないようにと注意を払っていたのに
いつもより近い距離と
咄嗟の手のぬくもりと
耳元に掛かる声とに
気をとられて、私はまたよろめいてしまった。
「ほーら。やっぱり危ないやんけ」
『じゅ、寿三郎が…!』
「俺が?」
『なんでもない!ほら、行こっ』
意識させるから、なんて言えるはずもなく
逃げるように寿三郎の手をとって、鐘付き台から降りると
後ろから、あっ、と声がした。
くんっと手を引かれたので振り向いたら
「明けましておめでとうさん」
にこにことした笑顔で寿三郎が笑っていた。
『あ…明けまして、おめでとう…』
「好きな子と手ぇ繋いだまま年越せるとか
今年はええこと起こりそうやね」
『はっ?えっ?好きな、子…? 』
さらりと言われた言葉に頭が追い付かない。
「キョドりすぎやん。
よし、ほなら次はこのまま初詣行きまっせ」
『えっ、ちょっと寿三郎!』
「今年も、来年も、その先も
ずっとよろしゅう頼んます」
今はこちらこそ、と答えるのが精一杯だったけど
初詣の神社に着くまでには
なんとか気持ちを落ち着かせて
この気持ちを、貴方に伝えよう。
今年一番の、これから先もこれ以上ないってほどの
一斉一代の私の告白を、貴方に伝えよう。
そう、決心したのだった。