その手のぬくもりを
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彼の大きな手に包まれたいと
思うようになったのはいつからだろうか。
マネージャーと選手。
先輩と後輩。
ただ、それだけの関係性なのに
彼の、毛利くんの細くて、長くて
それでいて男の子って感じのする大きな手に
憧れを感じてしまっている。
あの手に、触れたくて、触れられたくてもどかしい。
「明香、どうした?」
越知くんに声を掛けられてハッとする。
練習中に、なんて邪念を抱いているのだろうか。
『ううん、なんでもないよ。
毛利くん、調子いいなって思って』
「そうだな。最近はよく自主練もしている」
『越知くんのおかげだね』
越知くんの表情はわかりにくいけど
少しだけ雰囲気が和らいだ気がした。
ダブルスを組んでから、二人とも
良い意味で変わったと思う。
「うはーっ、むっちゃ汗かきましたわ!」
にこにこと満面の笑みを浮かべた毛利くんが
汗を拭いながら私たちの元へとやって来た。
『お疲れ様、毛利くん。はい、ドリンク』
「ありがとうございます!」
先ほどの邪念は頭から払いのけていたのだけれど
ドリンクボトルを渡した時、一瞬、彼の指と触れてしまい
私の体温は一気に上がった。
「ん?明香さん、どないしました?」
ピタッと動きを止めた私を心配して
二人が不思議そうにこちらを見つめている。
慌ててなんでもないよと答え
残りの仕事があると伝えてその場を去った。
その日彼の手に触れてしまったせいか
頭から毛利くんの手のことが離れなくなってしまって
集中できないまま夕食の時間になった。
マネージャー失格だな、と少し気を落としていたら
たまたま同じ時間帯に来ていた
鬼くん、入江くん、徳川くんに声を掛けられて
一緒に夕食を食べることになり
一人で食べるより、気が紛れるから良かった
そう思っていたのだけど……
さっきから、皆の手ばかりを見てしまう。
鬼くんは、大きくて太くて、がっしりとした
いかにも男の人って感じの手。
入江くんは、少し小さくて細くて、柔らかそうで
女の子の手のよう。
徳川くんは、すらりと指が長くて、骨張っていて
彼らしい少し神経質そうな手。
三人の手を見ても、正直何も思わない。
フェチとか、そういうのでもないし
毛利くんのことが
好きとか、そういう恋愛感情も、ない。
なのに、どうして毛利くんの手ばかりを見てしまうのだろう。
「明香ちゃん、上の空みたいだけどどうかしたの?」
『えっ…?あ、ごめんね。ちょっと考え事してて』
「何か悩み事ですか?」
「悩みってわけではなくて…その…」
はっきりと説明することなんてできないから
とりあえず
どうしても気になることがあって
だけどそれがなぜ気になるのかわからなくて悩んでいる
そんな感じに話してみた。
「気になるなら、確かめればいいだけだろ。
何が気になってんのかは知らねぇが
お前は難しく考えすぎるところがあるからな」
「鬼の言う通り、確かめたらスッキリするよ。
…例え誰かに聞かなければいけないことでも
明香ちゃんなら、大丈夫だよ」
この時の、鬼くんと入江くんの言葉は
私の背中を押すのに十分な言葉だった。
気になるのなら、確かめればいい。
触れてみたいのなら、触れてみればいい。
そうしたら何かわかるかもしれない。
とはいえ、なかなか行動に移すのは難しいもので
夕食を終えたあとは
どう本人に切り出したら良いものか
ずっともやもやとしていた。
このままだと、眠れそうにもないと思い
消灯時間まであと30分だけど
少し夜風に当たることにした。
「ん?明香さんやんけ」
『あ……毛利、くん』
外に出てすぐ、おそらく散歩から帰ってきたであろう
毛利くんと出くわした。
「今から散歩ですか?もうすぐ消灯時間でっせ?」
『あ、うん。ちょっと眠れそうにないから
少しだけ夜風に当たろうかと思って…』
「ほなら、俺も一緒におってもええです?
夜遅くに女子一人は危ないですやん」
危ない、と気遣ってくれるのが
なんともくすぐったくて、優しい気持ちにさせてくれた。
ゆっくりと歩いて、近くの東屋に腰掛け
毛利くんは今日の練習のこととか
中学生の子達と旅行雑誌を見たこととか
楽しそうに話してくれる。
なんとなく会話が途切れた時、今しかないと思った。
『毛利くん、お願いが、あるんだけど』
「ん?なんです?」
『手を、触らせてもらえないかな?』
「へ?手?」
突拍子もない私のお願いに
毛利くんは目をぱちくりさせて、手をグーパー開いて見せた。
可愛いなあと思いつつ、頷くと
スッと右手が差し出される。
「ようわからへんけど、これでええんです?」
『うん。じゃあ、失礼します』
差し出された毛利くんの掌に、自分の掌を重ねる。
季節は少し肌寒くなってきたけど
毛利くんの手は暖かくて、心地の良い体温だ。
握ったり、指を絡めてみたり
手の大きさを比べてみたり
毛利くんは何か言いたそうにうずうずしているようだけど
私が話すまで、我慢してくれているようだった。
『私ね、毛利くんの手に触れてみたかったの。
なぜかはわからないけど、この手に、憧れてたみたいで。
どうして触れたいって
気になってしまうのかわからないから
触らせてって言ったんだけど…』
「理由は、わかりました?」
『ううん。わかんないや。ごめんね、変なこと頼んで』
勢いで頼んだものの、冷静になってみると
だいぶ自分が気持ち悪いことを言ったと自覚してきて
気まずさを感じ始めた。
明日から話してくれなくなったどうしよう。
そう思い手を離そうとした瞬間
ぎゅっと、手を握られた。
「明香さんの手ぇ、ちっこいですね」
『毛利くんと比べたらね』
「こないに小さくて、細くて、柔くて…
折れてまいそうなくらい華奢やのに
重いもん持ったり
俺らのために働いてくれはってたんですね」
言われて自分の手が、がさがさで
荒れていることを思い出した。
ハンドクリームくらいつけておけばよかった。
『ご、ごめん。
水仕事のせいで手荒れしてて…』
「なんで謝るんです?
むしろこないになるまで働いてくれて…
ホンマに、いつもありがとうございます」
毛利くんは両手で私の手を包むように握って
優しく微笑んでくれた。
その瞬間、どくん、と自分の鼓動が高鳴ったのを感じて
あぁそうか、と他人事のように呟いた。
どうして気がつかなかったのだろう。
手だけじゃなくて、私は毛利くんの全てに
憧れていて
惹かれていて
彼が、好きなのだ。
気になるから確めてみたら、そこにあったのは
まだ芽生えたばかりの小さな恋心。
始まったばかりの片思いに戸惑いながらも
毛利くんに向かって
これからよろしくね、と宣言したのだった。
(それにしても、手を褒められたんは初めてでっせ)
(褒めるのは、手だけじゃないけどね)
(身長高いーとか?)
(身長もだけど、優しくて明るくて
一緒にいたら楽しい気持ちになるし
可愛いかと思えば、かっこいいし
テニスだってサボらず自主練もして最近は後輩の指導も…)
(もっ、もぅええですっ!照れてまうやんけ!)
(本当のことなのに)
(ちょっ…ホンマに勘弁して…)
思うようになったのはいつからだろうか。
マネージャーと選手。
先輩と後輩。
ただ、それだけの関係性なのに
彼の、毛利くんの細くて、長くて
それでいて男の子って感じのする大きな手に
憧れを感じてしまっている。
あの手に、触れたくて、触れられたくてもどかしい。
「明香、どうした?」
越知くんに声を掛けられてハッとする。
練習中に、なんて邪念を抱いているのだろうか。
『ううん、なんでもないよ。
毛利くん、調子いいなって思って』
「そうだな。最近はよく自主練もしている」
『越知くんのおかげだね』
越知くんの表情はわかりにくいけど
少しだけ雰囲気が和らいだ気がした。
ダブルスを組んでから、二人とも
良い意味で変わったと思う。
「うはーっ、むっちゃ汗かきましたわ!」
にこにこと満面の笑みを浮かべた毛利くんが
汗を拭いながら私たちの元へとやって来た。
『お疲れ様、毛利くん。はい、ドリンク』
「ありがとうございます!」
先ほどの邪念は頭から払いのけていたのだけれど
ドリンクボトルを渡した時、一瞬、彼の指と触れてしまい
私の体温は一気に上がった。
「ん?明香さん、どないしました?」
ピタッと動きを止めた私を心配して
二人が不思議そうにこちらを見つめている。
慌ててなんでもないよと答え
残りの仕事があると伝えてその場を去った。
その日彼の手に触れてしまったせいか
頭から毛利くんの手のことが離れなくなってしまって
集中できないまま夕食の時間になった。
マネージャー失格だな、と少し気を落としていたら
たまたま同じ時間帯に来ていた
鬼くん、入江くん、徳川くんに声を掛けられて
一緒に夕食を食べることになり
一人で食べるより、気が紛れるから良かった
そう思っていたのだけど……
さっきから、皆の手ばかりを見てしまう。
鬼くんは、大きくて太くて、がっしりとした
いかにも男の人って感じの手。
入江くんは、少し小さくて細くて、柔らかそうで
女の子の手のよう。
徳川くんは、すらりと指が長くて、骨張っていて
彼らしい少し神経質そうな手。
三人の手を見ても、正直何も思わない。
フェチとか、そういうのでもないし
毛利くんのことが
好きとか、そういう恋愛感情も、ない。
なのに、どうして毛利くんの手ばかりを見てしまうのだろう。
「明香ちゃん、上の空みたいだけどどうかしたの?」
『えっ…?あ、ごめんね。ちょっと考え事してて』
「何か悩み事ですか?」
「悩みってわけではなくて…その…」
はっきりと説明することなんてできないから
とりあえず
どうしても気になることがあって
だけどそれがなぜ気になるのかわからなくて悩んでいる
そんな感じに話してみた。
「気になるなら、確かめればいいだけだろ。
何が気になってんのかは知らねぇが
お前は難しく考えすぎるところがあるからな」
「鬼の言う通り、確かめたらスッキリするよ。
…例え誰かに聞かなければいけないことでも
明香ちゃんなら、大丈夫だよ」
この時の、鬼くんと入江くんの言葉は
私の背中を押すのに十分な言葉だった。
気になるのなら、確かめればいい。
触れてみたいのなら、触れてみればいい。
そうしたら何かわかるかもしれない。
とはいえ、なかなか行動に移すのは難しいもので
夕食を終えたあとは
どう本人に切り出したら良いものか
ずっともやもやとしていた。
このままだと、眠れそうにもないと思い
消灯時間まであと30分だけど
少し夜風に当たることにした。
「ん?明香さんやんけ」
『あ……毛利、くん』
外に出てすぐ、おそらく散歩から帰ってきたであろう
毛利くんと出くわした。
「今から散歩ですか?もうすぐ消灯時間でっせ?」
『あ、うん。ちょっと眠れそうにないから
少しだけ夜風に当たろうかと思って…』
「ほなら、俺も一緒におってもええです?
夜遅くに女子一人は危ないですやん」
危ない、と気遣ってくれるのが
なんともくすぐったくて、優しい気持ちにさせてくれた。
ゆっくりと歩いて、近くの東屋に腰掛け
毛利くんは今日の練習のこととか
中学生の子達と旅行雑誌を見たこととか
楽しそうに話してくれる。
なんとなく会話が途切れた時、今しかないと思った。
『毛利くん、お願いが、あるんだけど』
「ん?なんです?」
『手を、触らせてもらえないかな?』
「へ?手?」
突拍子もない私のお願いに
毛利くんは目をぱちくりさせて、手をグーパー開いて見せた。
可愛いなあと思いつつ、頷くと
スッと右手が差し出される。
「ようわからへんけど、これでええんです?」
『うん。じゃあ、失礼します』
差し出された毛利くんの掌に、自分の掌を重ねる。
季節は少し肌寒くなってきたけど
毛利くんの手は暖かくて、心地の良い体温だ。
握ったり、指を絡めてみたり
手の大きさを比べてみたり
毛利くんは何か言いたそうにうずうずしているようだけど
私が話すまで、我慢してくれているようだった。
『私ね、毛利くんの手に触れてみたかったの。
なぜかはわからないけど、この手に、憧れてたみたいで。
どうして触れたいって
気になってしまうのかわからないから
触らせてって言ったんだけど…』
「理由は、わかりました?」
『ううん。わかんないや。ごめんね、変なこと頼んで』
勢いで頼んだものの、冷静になってみると
だいぶ自分が気持ち悪いことを言ったと自覚してきて
気まずさを感じ始めた。
明日から話してくれなくなったどうしよう。
そう思い手を離そうとした瞬間
ぎゅっと、手を握られた。
「明香さんの手ぇ、ちっこいですね」
『毛利くんと比べたらね』
「こないに小さくて、細くて、柔くて…
折れてまいそうなくらい華奢やのに
重いもん持ったり
俺らのために働いてくれはってたんですね」
言われて自分の手が、がさがさで
荒れていることを思い出した。
ハンドクリームくらいつけておけばよかった。
『ご、ごめん。
水仕事のせいで手荒れしてて…』
「なんで謝るんです?
むしろこないになるまで働いてくれて…
ホンマに、いつもありがとうございます」
毛利くんは両手で私の手を包むように握って
優しく微笑んでくれた。
その瞬間、どくん、と自分の鼓動が高鳴ったのを感じて
あぁそうか、と他人事のように呟いた。
どうして気がつかなかったのだろう。
手だけじゃなくて、私は毛利くんの全てに
憧れていて
惹かれていて
彼が、好きなのだ。
気になるから確めてみたら、そこにあったのは
まだ芽生えたばかりの小さな恋心。
始まったばかりの片思いに戸惑いながらも
毛利くんに向かって
これからよろしくね、と宣言したのだった。
(それにしても、手を褒められたんは初めてでっせ)
(褒めるのは、手だけじゃないけどね)
(身長高いーとか?)
(身長もだけど、優しくて明るくて
一緒にいたら楽しい気持ちになるし
可愛いかと思えば、かっこいいし
テニスだってサボらず自主練もして最近は後輩の指導も…)
(もっ、もぅええですっ!照れてまうやんけ!)
(本当のことなのに)
(ちょっ…ホンマに勘弁して…)