私の苦手な男の子
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「原田、これ種ヶ島に渡しといてくれ」
廊下ですれ違った担任から渡されたのは
クラスメート、種ヶ島くんのノート。
「あいつ明日からまた合宿でいないからな。
先に提出物返そうと思ってたら
ちょうど原田が通りかかって助かった」
よろしくな、と笑って去る担任の後ろ姿を睨む。
よりにもよって、なぜこの私に渡すのか。
この時間に、ここを通ったことを本当に恨めしく思う。
なぜなら私は
コミュニケーションが下手くそで
男子が苦手で
そのなかでも特に、種ヶ島くんが苦手なのだ。
とにかくすぐに渡してしまえば良いのだと思い教室に戻るも
そこには種ヶ島くんの姿はなかった。
戻ってきたら速攻で渡そうと身構えていたのだけど
彼は授業の始まる寸前に戻ってきたので渡すことはできず
私は英語の授業中、ずっとソワソワする羽目になった。
授業が終わったらすぐに種ヶ島くんの席に行こうと
決心したものの
今度は他の男子が種ヶ島くんに話しかけ
そのまま数人とおしゃべりを始めた。
あの中に割って入るのは無謀なので
私はノートを手にしたまま次の授業を受けることになった。
それからも、なかなかチャンスは訪れず
ついには放課後になってしまった。
担任に頼ろうにも
職員会議ですぐ教室から出て行ってしまったし
もうとにかく、自分で渡すしかない。
『た、種ヶ島くん…!』
私は帰りの玄関でなんとか種ヶ島くんを呼び止めた。
「ん?原田さんどないしたん?」
『あっ、あの、これ……預かっててて…その…』
「あぁ、俺のノートやん。おーきに」
今まで一言も話したことがないというのに
種ヶ島くんは怪訝な顔ひとつせずに
にこにこと笑いかけてくれた。
ノートを無事に渡して
心底疲れたミッションを達成しほっと一息つく。
これで心置きなく帰れる、と思った矢先
思わぬ提案を受けることとなった。
「せっかくやから、一緒に帰らへん?」
『へっ?わ、わたしと、ですか?』
「なんで敬語やねーん。いや?」
いや、と断ることができず
私は種ヶ島くんと肩を並べて帰ることになった。
「にしても、原田さんと話すんは初めてやな」
『そ、そうですね…』
いや、せやからなんで敬語やねんとつっこまれ
ぎこちないタメ口で
一言二言返事をするのがやっと。
私なんかと話しても面白くもないはずなのに
種ヶ島くんはずっと笑顔でいてくれて
他愛のない話をしてくれた。
俯いてばかりの私は
けらけらと、明るく話す種ヶ島くんが眩しくて
だんだん申し訳なくなってきて
つい、ポツリと『ごめんなさい』の一言を呟いてしまった。
「ごめんて、なんで?」
『あ…いや、その……。
わ、私男の子が苦手で………ごめんなさい。
うまく、話せなくて』
「謝ることあらへんよ。
それよりこっちこそ堪忍な。
苦手やったのに、一緒に帰ろて誘うて」
綺麗な眉を下げて
申し訳なさそうに笑う種ヶ島くんは本当に優しくて
チャラそうで苦手意識があったのだけど
私の誤解だったのだと改めて感じた。
「男子が苦手なのに、ちゃんと俺にノート渡してくれて
ホンマにおおきにな。
せやけど他の人に預けたり
机に置いてても良かったんとちゃう?」
『そ、そうなんだけど…
私が預かったものだから
人に頼んだり勝手に置いたりするのはマナー違反かなって…』
そこまで話すと、種ヶ島くんが
きょとんとしていることに気がついた。
なにかおかしなことを言っただろうか。
「苦手やのに、逃げへんかったんやな。
マナー違反か…ええな、そういうん」
なにがいいのだろう、と思っていたら
種ヶ島くんはこっちの話だと言って笑っていた。
よくわからなかったけど
種ヶ島くんは少し嬉しそうな顔をしていたので
まあ気にしなくて良いのだろう。
『あ、あの私家もうそこだから…』
「もう着いたんやな。残念。
もうちょい話したかったわ」
社交辞令でも、彼が言うとスマートでなんの嫌味もない。
こういうことがサラリと言えることが羨ましい。
『…あのっ、話しやすい雰囲気作ってくれて、ありがとう。
私、話すの苦手で下手くそだから…すごく
助けられたというか…』
「ハハッ!原田さんは律儀なんやな。
せやから色々考えてしもて話しにくいんやろなあ」
律儀なのかはわからないけど
確かに話す前から
なんて話しかけよう。
この話しておかしくないかな。
私が今話しても良いのかな、と色々と考えてしまって
うまく話せなくなる。
「難しく考えんと、思うままに話してええよ。
それができへんのやったら、俺が話し相手になったるから
俺とおしゃべりの練習しよか☆」
『えっ!いやっ、そ、それは申し訳ないから…!』
「言うたやん?俺もうちょい原田さんと話したいて。
おしゃべりしてくれたら嬉しいねんけど」
顔の良い種ヶ島くんからそんなことを言われたら
緊張どころかドキドキして
余計にしどろもどろになってしまった。
合宿から帰って来たら色々とおしゃべりしよか、と
言って去っていく姿を
私は頬を押さえて見送ったのだった。
後日、合宿から帰ってきた種ヶ島くんは
本当に私のもとへと来て
合宿の話やら、自分がいない間のことや
色んな話をしに来てくれた。
私たちがいきなり会話をしている姿は
余程違和感があったのか
クラス中がざわざわとしていた。
あのとき、一緒に帰ることを断らずによかった。
そう思って種ヶ島くんを見たら
なにもかも見透かされたかのような笑顔で
ゆっくりと、彼は微笑んだのだった。
廊下ですれ違った担任から渡されたのは
クラスメート、種ヶ島くんのノート。
「あいつ明日からまた合宿でいないからな。
先に提出物返そうと思ってたら
ちょうど原田が通りかかって助かった」
よろしくな、と笑って去る担任の後ろ姿を睨む。
よりにもよって、なぜこの私に渡すのか。
この時間に、ここを通ったことを本当に恨めしく思う。
なぜなら私は
コミュニケーションが下手くそで
男子が苦手で
そのなかでも特に、種ヶ島くんが苦手なのだ。
とにかくすぐに渡してしまえば良いのだと思い教室に戻るも
そこには種ヶ島くんの姿はなかった。
戻ってきたら速攻で渡そうと身構えていたのだけど
彼は授業の始まる寸前に戻ってきたので渡すことはできず
私は英語の授業中、ずっとソワソワする羽目になった。
授業が終わったらすぐに種ヶ島くんの席に行こうと
決心したものの
今度は他の男子が種ヶ島くんに話しかけ
そのまま数人とおしゃべりを始めた。
あの中に割って入るのは無謀なので
私はノートを手にしたまま次の授業を受けることになった。
それからも、なかなかチャンスは訪れず
ついには放課後になってしまった。
担任に頼ろうにも
職員会議ですぐ教室から出て行ってしまったし
もうとにかく、自分で渡すしかない。
『た、種ヶ島くん…!』
私は帰りの玄関でなんとか種ヶ島くんを呼び止めた。
「ん?原田さんどないしたん?」
『あっ、あの、これ……預かっててて…その…』
「あぁ、俺のノートやん。おーきに」
今まで一言も話したことがないというのに
種ヶ島くんは怪訝な顔ひとつせずに
にこにこと笑いかけてくれた。
ノートを無事に渡して
心底疲れたミッションを達成しほっと一息つく。
これで心置きなく帰れる、と思った矢先
思わぬ提案を受けることとなった。
「せっかくやから、一緒に帰らへん?」
『へっ?わ、わたしと、ですか?』
「なんで敬語やねーん。いや?」
いや、と断ることができず
私は種ヶ島くんと肩を並べて帰ることになった。
「にしても、原田さんと話すんは初めてやな」
『そ、そうですね…』
いや、せやからなんで敬語やねんとつっこまれ
ぎこちないタメ口で
一言二言返事をするのがやっと。
私なんかと話しても面白くもないはずなのに
種ヶ島くんはずっと笑顔でいてくれて
他愛のない話をしてくれた。
俯いてばかりの私は
けらけらと、明るく話す種ヶ島くんが眩しくて
だんだん申し訳なくなってきて
つい、ポツリと『ごめんなさい』の一言を呟いてしまった。
「ごめんて、なんで?」
『あ…いや、その……。
わ、私男の子が苦手で………ごめんなさい。
うまく、話せなくて』
「謝ることあらへんよ。
それよりこっちこそ堪忍な。
苦手やったのに、一緒に帰ろて誘うて」
綺麗な眉を下げて
申し訳なさそうに笑う種ヶ島くんは本当に優しくて
チャラそうで苦手意識があったのだけど
私の誤解だったのだと改めて感じた。
「男子が苦手なのに、ちゃんと俺にノート渡してくれて
ホンマにおおきにな。
せやけど他の人に預けたり
机に置いてても良かったんとちゃう?」
『そ、そうなんだけど…
私が預かったものだから
人に頼んだり勝手に置いたりするのはマナー違反かなって…』
そこまで話すと、種ヶ島くんが
きょとんとしていることに気がついた。
なにかおかしなことを言っただろうか。
「苦手やのに、逃げへんかったんやな。
マナー違反か…ええな、そういうん」
なにがいいのだろう、と思っていたら
種ヶ島くんはこっちの話だと言って笑っていた。
よくわからなかったけど
種ヶ島くんは少し嬉しそうな顔をしていたので
まあ気にしなくて良いのだろう。
『あ、あの私家もうそこだから…』
「もう着いたんやな。残念。
もうちょい話したかったわ」
社交辞令でも、彼が言うとスマートでなんの嫌味もない。
こういうことがサラリと言えることが羨ましい。
『…あのっ、話しやすい雰囲気作ってくれて、ありがとう。
私、話すの苦手で下手くそだから…すごく
助けられたというか…』
「ハハッ!原田さんは律儀なんやな。
せやから色々考えてしもて話しにくいんやろなあ」
律儀なのかはわからないけど
確かに話す前から
なんて話しかけよう。
この話しておかしくないかな。
私が今話しても良いのかな、と色々と考えてしまって
うまく話せなくなる。
「難しく考えんと、思うままに話してええよ。
それができへんのやったら、俺が話し相手になったるから
俺とおしゃべりの練習しよか☆」
『えっ!いやっ、そ、それは申し訳ないから…!』
「言うたやん?俺もうちょい原田さんと話したいて。
おしゃべりしてくれたら嬉しいねんけど」
顔の良い種ヶ島くんからそんなことを言われたら
緊張どころかドキドキして
余計にしどろもどろになってしまった。
合宿から帰って来たら色々とおしゃべりしよか、と
言って去っていく姿を
私は頬を押さえて見送ったのだった。
後日、合宿から帰ってきた種ヶ島くんは
本当に私のもとへと来て
合宿の話やら、自分がいない間のことや
色んな話をしに来てくれた。
私たちがいきなり会話をしている姿は
余程違和感があったのか
クラス中がざわざわとしていた。
あのとき、一緒に帰ることを断らずによかった。
そう思って種ヶ島くんを見たら
なにもかも見透かされたかのような笑顔で
ゆっくりと、彼は微笑んだのだった。