きみはクラスメート(中編小説)
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もうすぐ期末テスト。
部活が休みになるこの期間は
放課後教室に残る人も多く、少し騒がしくなる。
隣を見ると種ヶ島はいつの間にか帰ったらしく
荷物は何もなかった。
あいつはいつも私に一声掛けて帰るのだけど
今日は珍しくなにも言わずに帰ったらしい。
このまま教室にいてもよかったけど
調べものもしたかったし
たまには図書室で勉強でもしてから帰ろうと思い
図書室へと向かうことにした。
だけど同じ考えの生徒は多く、席はかなり埋まっていて
勉強は帰ってからにするかと思い直し
私は調べものだけしようと目的の本がある本棚を目指す。
『あ……』
「お。玲ちゃんやん」
帰ったと思っていた種ヶ島が、本を片手に立っていた。
一瞬、誰かわからなかった。
そのくらい、彼がこの場所にいることが似合わなかったし
見たことがないくらい、真剣な表情をしていた。
『……本とか読むんだ』
「そら読むで。
まぁ、真面目に読書ってタイプには見えへんか」
種ヶ島が、試験勉強をしに
図書室に来たのではないことは明確だった。
だって彼がいるこの場所
この本棚は宗教と思想のコーナー。
高校の試験勉強にはほんとんど関係がない。
ちらりと見えた本の背表紙には
【六祖壇経の教え】と書いてある。
『中国禅宗…』
思わず声に出したら
種ヶ島はバッと、驚いたように顔をあげた。
「…驚いたわ。知ってるん?」
『あ、いや…詳しくはないよ。ほんのちょっとだけ』
「ほんのちょっとて
このタイトル見て反応する奴なかなかおれへんよ」
『う……その、宗教とか思想とかちょっと興味あって…
た、種ヶ島はなんで?興味あるの?』
本に視線を落とす姿は少しだけ憂いを帯びていて
窓越しに射し込む夕陽が
更に寂しいような、切ないようなそんな雰囲気を醸し出す。
「…本来無一物。これが俺の座右の銘やねん」
『確か…本当は何もないから執着するものはない
とかそういう意味だっけ?」
「せーかい。俺のテニスはそれで成り立ってん。
…全てを無にする技を身に付けて
相手に手の内を見せへんように
執着も、感情も、思考も、存在をも無にする。
せやけどたまにな、これでええんかって思うてまうんよなあ」
種ヶ島はそう話すと、パタン、と本を閉じた。
「ヒントでも得られへんかと思うてたんやけど
俺には難しすぎる内容やったわあ」
『…種ヶ島はテニスが好きで、テニスしてたら楽しいの?』
「好きやし、楽しいで」
『なら、そのままで良いんじゃないの?
よく、わからないけど
間違ってるって思ったら間違えてるし
合ってるって思ったら合ってる。
その判断、解釈って自分自身だもの。
今テニスが好きで、楽しいなら間違ってないよ、きっと』
そこまで話して、ハッとした。
相手は全国レベル、ましてや世界で
戦おうとしているほどのプレーヤー。
帰宅部が、何を熱弁しているのだろうと恥ずかしくなり
種ヶ島の様子を伺う。
「…玲ちゃんの言葉は
どないな本より俺には効果的やな」
『いや、偉そうなこと言ってごめん』
「おーきにな。ホンマに、軽くなったわ」
何が?と聞こうと思ったけど
種ヶ島は背伸びをして本を元に戻すと
私の頭をポンポンと撫で、いつものように笑って見せた。
その笑顔を見るとホッとして、くすぐったくて
種ヶ島の笑顔が好きだなあと思えた。
『…どういたしまして。ていうか、帰ったと思ってたわ』
「ん?なんで?」
『だって荷物もなかったし、いつも声掛けてから帰るから…』
ここまで言ってしまった、と思ったけど遅かった。
「俺の一言、ちゃーんと聞いてたんやな。
しかも言わへんの、気にしてくれてたん?かーわいっ☆」
少し悩んでいるようだったから調子が狂ったけど
種ヶ島はいつも通りのテンションではしゃぎだした。
癪にさわるけど
いつもの種ヶ島のほうが落ち着くことを
私は認めざるを得なかった。
部活が休みになるこの期間は
放課後教室に残る人も多く、少し騒がしくなる。
隣を見ると種ヶ島はいつの間にか帰ったらしく
荷物は何もなかった。
あいつはいつも私に一声掛けて帰るのだけど
今日は珍しくなにも言わずに帰ったらしい。
このまま教室にいてもよかったけど
調べものもしたかったし
たまには図書室で勉強でもしてから帰ろうと思い
図書室へと向かうことにした。
だけど同じ考えの生徒は多く、席はかなり埋まっていて
勉強は帰ってからにするかと思い直し
私は調べものだけしようと目的の本がある本棚を目指す。
『あ……』
「お。玲ちゃんやん」
帰ったと思っていた種ヶ島が、本を片手に立っていた。
一瞬、誰かわからなかった。
そのくらい、彼がこの場所にいることが似合わなかったし
見たことがないくらい、真剣な表情をしていた。
『……本とか読むんだ』
「そら読むで。
まぁ、真面目に読書ってタイプには見えへんか」
種ヶ島が、試験勉強をしに
図書室に来たのではないことは明確だった。
だって彼がいるこの場所
この本棚は宗教と思想のコーナー。
高校の試験勉強にはほんとんど関係がない。
ちらりと見えた本の背表紙には
【六祖壇経の教え】と書いてある。
『中国禅宗…』
思わず声に出したら
種ヶ島はバッと、驚いたように顔をあげた。
「…驚いたわ。知ってるん?」
『あ、いや…詳しくはないよ。ほんのちょっとだけ』
「ほんのちょっとて
このタイトル見て反応する奴なかなかおれへんよ」
『う……その、宗教とか思想とかちょっと興味あって…
た、種ヶ島はなんで?興味あるの?』
本に視線を落とす姿は少しだけ憂いを帯びていて
窓越しに射し込む夕陽が
更に寂しいような、切ないようなそんな雰囲気を醸し出す。
「…本来無一物。これが俺の座右の銘やねん」
『確か…本当は何もないから執着するものはない
とかそういう意味だっけ?」
「せーかい。俺のテニスはそれで成り立ってん。
…全てを無にする技を身に付けて
相手に手の内を見せへんように
執着も、感情も、思考も、存在をも無にする。
せやけどたまにな、これでええんかって思うてまうんよなあ」
種ヶ島はそう話すと、パタン、と本を閉じた。
「ヒントでも得られへんかと思うてたんやけど
俺には難しすぎる内容やったわあ」
『…種ヶ島はテニスが好きで、テニスしてたら楽しいの?』
「好きやし、楽しいで」
『なら、そのままで良いんじゃないの?
よく、わからないけど
間違ってるって思ったら間違えてるし
合ってるって思ったら合ってる。
その判断、解釈って自分自身だもの。
今テニスが好きで、楽しいなら間違ってないよ、きっと』
そこまで話して、ハッとした。
相手は全国レベル、ましてや世界で
戦おうとしているほどのプレーヤー。
帰宅部が、何を熱弁しているのだろうと恥ずかしくなり
種ヶ島の様子を伺う。
「…玲ちゃんの言葉は
どないな本より俺には効果的やな」
『いや、偉そうなこと言ってごめん』
「おーきにな。ホンマに、軽くなったわ」
何が?と聞こうと思ったけど
種ヶ島は背伸びをして本を元に戻すと
私の頭をポンポンと撫で、いつものように笑って見せた。
その笑顔を見るとホッとして、くすぐったくて
種ヶ島の笑顔が好きだなあと思えた。
『…どういたしまして。ていうか、帰ったと思ってたわ』
「ん?なんで?」
『だって荷物もなかったし、いつも声掛けてから帰るから…』
ここまで言ってしまった、と思ったけど遅かった。
「俺の一言、ちゃーんと聞いてたんやな。
しかも言わへんの、気にしてくれてたん?かーわいっ☆」
少し悩んでいるようだったから調子が狂ったけど
種ヶ島はいつも通りのテンションではしゃぎだした。
癪にさわるけど
いつもの種ヶ島のほうが落ち着くことを
私は認めざるを得なかった。