それが私にできること(種ヶ島視点)
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ドイツ戦前夜
マネージャーである成美ちゃんと
明日の試合についての話をしてた。
何食わぬ顔してんねんけど
俺はこの子が好きで、今この瞬間も
話せるだけで嬉しいと思うほど好きだったりする。
それでも顔に出さないように、いつも通りに接して
それじゃあ、と別れる寸前
なぜかこのタイミングで
彼女が好きだという気持ちが溢れだしてもうて
「せや、成美ちゃん。
明日の試合勝ったら、俺と付き合うてくれへん?」
つい、口に出してしもうた。
なんやねん。色々ブレブレやん俺。
『は?え?か、からかってます?』
なかなか聞かへんちょっとアホっぽい声も
可愛いなと思うあたり重症やろか。
「ハハッ!声裏返ってもうてるやん」
『い、いや、だってそんなの……
そんなのいきなり言われたら…』
しどろもどろになってるけど
嫌がっている反応ではなさそう。
「考えといてな☆」
ウィンクしてそう告げれば
顔を赤くしてポカンと口を開けたままの成美ちゃん。
これは、明日は余計に負けられへんで。
そして迎えたドイツ戦。
俺は赤福とダブルスを組み
攻撃と守備に特化したペアが誕生した。
相手も、どうやらこちらと同じタイプのペアみたいで
ミハエルは赤福と。
ビスっちは俺と。
それぞれタイプそっくりやん。
こら一筋縄ではいかへん試合になるな。
試合が始まると、赤福とミハエル
二人の打ち合いが始まった。
可愛い後輩から
「一生のお願い聞いてくんないっすか?」と
頼まれれば無下に断ることもできずに
赤福とミハエルとのシングルスを
俺とビスっちは見守ることになった。
しかしお互い相討ちのように動けなくなり
今度はまさかの展開で
俺とビスっちのシングルスとなった。
ビスっちと打ち合っていると
この男がいかに手強い相手かひしひしと伝わってくる。
隠し持ってるもん、まだまだある感じやな。
なんとかリターンゲームへと持ち込み
タイブレークになれば勝てるかもしれへん。
仲間にも、後輩にも、彼女にも
俺が負ける姿は見せたくない。
せやけど、タイブレークはアカンかったかもしれへん。
タイブレークに入ってからのビスっちは余裕だ。
この男、慣れてる。
冷静さを失ってしもうたら負ける。
にしても、一球一球が
どえらいプレッシャーとなって俺に襲いかかってくるわ。
頭で計算はしてるつもりやけど
俺の計算が合ってるのか
読みが外れてないか
正直、けっこうしんどいで。
この試合に負ければ、日本の敗退が決まってしまう。
中学生のあいつらにはまだチャンスはあるが
高校生の俺達にとってはこれが最後である。
俺達の2年間が、ここで終わってまう。
アカン、余計なこと考えてもうた。
『種ヶ島先輩……!
勝てなくてもいい……絶対、負けないで!!』
聞き覚えのある台詞にハッとした。
成美ちゃんが、涙目になって叫び
彼女が放った言葉に
平等院やあのツッキーでさえも驚いている。
そらそうや。
その台詞は、俺が2年前平等院に言った台詞そのまま。
“平等院!勝てへんでもいい。負けんなや!“
まさか、自分が言われる側になるなんてな。
おーきにな。
成美ちゃん。
「戴き☆」
余計なことを、考えるのはやめた。
彼女の言葉に引き戻され
俺は、俺のテニスをやる。
それからは
ドイツの勝利が確定したかと思えば
意識のない赤福がボールを返して繋いでくれた。
そして、赤福とミハエルが動けるようになり
やっと、ここからダブルスが始まる。
ファイナルセットは日本のペースで始まったものの
『能力共鳴』と『同調』で流れはドイツのものとなり
一時日本が不利になった。
せやけど最後は
我ながら見事なコンビネーションで日本が勝利を得た。
攻撃と守備のペア。
この両極端な俺達だからこそできた試合だった。
平等院の試合が始まる前に
成美ちゃんが駆け寄ってきた。
「成美ちゃん、おーきにな。さっきの声、届いたで。
まさか自分が言われる側になるとはなあ」
あの時の昔話を少ししたろかと思っていたら
ふいに、彼女の香りが鼻をかすめた。
成美ちゃんが抱きついている。
「ちょっ!
めちゃくちゃ嬉しいねんけどタンマ!俺今汗だくやで!」
『そんなの、どうでもいいです…!言葉に、できなくて…
色々伝えたいのに、なんて言ったらいいか、わかんなくて』
ホンマに汗だくで、自分でさえ気持ち悪いのに
どうでもええって言ってもらえたのが
めちゃくちゃ嬉しかったり。
「ほんなら、俺頑張ってたやろか?」
『はい。めちゃくちゃ』
「格好良かった?」
『…はい。格好良かった、です』
「惚れてもうた?」
『……そんなの、最初からですけど』
え。と、思考が止まる。
笑わかしたろと思うて、冗談で言うてみたのに
そんなん、ズルない?
俺の動きが止まったことに
成美ちゃんが不思議そうな顔して見上げている。
多分、いまだらしない顔してるわと思い片手で口元を覆う。
『えっ?もしかして、照れてます?』
「…成美ちゃん、いきなりデレるんはズルいて。
修さんもびっくりやで」
『そんな顔、するんですね』
「そらするやろ。
好きな子からの特別サービスフルコンボやもん」
特別サービスフルコンボの言葉が面白かったのか
無邪気に笑っている。
この子の笑顔が、本当に好き。
成美ちゃんの手を取って
バレへんように、深く息をする。
「ほんで、勝ったんやけど俺と付き合うてくれるん?」
『勝っても負けても、私の答えはひとつです。
こんな私で良ければ、よろしくお願いします』
「成美ちゃんやないと、俺はダメやねんで」
成美ちゃんが俺の手を握り返すと
勝利を祝う声と、冷やかしの声に包まれた。
俺が自分に負けそうなときは、君が支えてくれる。
支えてくれる成美ちゃんを
俺は全力で、守ろうと心に誓った。
(タネガシマの女はいい女だな)
(ちょっかいかけるんはナシやでビスっち)
(ビスマルクさんはそんなことしませんよね?)
(なんでそんなに信頼してんねん)
(そうだな。男を簡単に信用しないほうがいいと思うぜ)
(だって、ビスマルクさん彼女いるでしょ?)
(え!そうなん?)
(おっと、よくわかったな)
(女の勘、なめないでください)
(タネガシマ、この子、うちにマネージャーとして
引き抜きたいな)
(アカン!絶対やらんで!)
(俺の彼女とも気が合いそうだ)
(ドイツのマネージャーは遠慮しますが
彼女さんとはお話してみたいですね)
(ちょっ、成美ちゃん、あんま
ビスっちと仲良くなったらアカンて)
(タネガシマ、試合中の余裕は全くないな)
(本当ですね)