余裕のある男でいたい
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種ヶ島とまどかが付き合い初めて一ヶ月。
この合宿のマネージャーである彼女は、種ヶ島の1つ年下。
合宿参加初日から、種ヶ島の猛烈なアプローチが始まり
ずっとかわしてきたまどかだったが
やっと彼女が折れて付き合いだした。
種ヶ島にとっては比較的長い片思いだったため
付き合いだしてからは、目に見えていちゃつくのだろうと
覚悟していた高校生達であったが
予想とは裏腹に、種ヶ島は案外ドライというか
片思い時代より落ち着いていた。
かのように、見えていた。
「なあ奏多、俺の彼女可愛すぎると思わへん?」
「修さん、顔とセリフが合ってないよ」
そう言う種ヶ島は
打ち合いをしている様子を真剣な顔で見ている、
ように見えて、その奥で作業をしている彼女を見ていた。
「今日な、いつもと髪型ちゃうんやけど
なにしても似合うよなぁ」
「え?いつもと変わらないと思ってたけど」
「前髪、ピンで留めとるやん。
あ、寝癖なおらへんかったんやろか。かわええ」
(修さん一氏君化してるような……)
マネージャーと選手という関係性と
まどかが照れ屋だということもあり
種ヶ島は極力彼女の前では
いちゃつくようなことをしたり
甘い雰囲気を出すようなことはしないようにしていた。
一見ドライに見えた関係性だったが
種ヶ島なりの気遣いだったのだ。
だからその分高校生メンバー達の前では
目の前でいちゃつくことはないものの
惚気のオンパレードだった。
「竜次~、まどかちゃん可愛すぎてつらい」
「知らねえし」
「サンサン見てや。
この服、まどかちゃんに似合うと思わへん?」
「そうですね。このブランドはまどかさんに合いそ
うですね」
「……って、まどかちゃんが言うてたんやけど」
「ははっ!それオモロイですやん!」
話の内容はまどかのことばかりで
特に大曲に至っては
練習でも部屋でもほぼ毎日聞かされていたので
多少うんざりしていたが
相棒の楽しげな表情を見ると、つい許してしまっていた。
入江は、隣で彼女を見つめる種ヶ島を見て
恋愛で、ここまで人が変われることに素直に驚きつつ
少しだけ、羨ましくも思えていた。
「あ、ちょお手伝ってくるわ」
ふと見れば、少し重そうな道具をまどかが運んでいる。
入江がじっと観察していると
種ヶ島の姿を見たまどかは、
今まで見たことのない、幸せそうな顔をしている。
(へぇ。修さんだけじゃないんだ)
そそくさと手伝いに行った種ヶ島だったが
次は自分と打ち合いする予定だったはずだ。
しばらく戻ってはこないだろうから
入江は別の相手を探すことにした。
『すみません、手伝わせてしまって』
「ええよ、ええよ。まどかちゃんには重たいやろ」
種ヶ島にとって、自然な流れで手伝うことができて
頬が弛みそうになっていた。
正直なところ、なかなかふたりで話すタイミングもなければ
ふたりっきりになれることも少なかった。
倉庫に運び込み、荷物を降ろす。
『ありがとうございました』
「いえいえ☆なぁ、まどかちゃん、すぐ戻らなあかん?」
『え?あ…………大丈夫、です』
種ヶ島の少し甘えるような視線を見てまどかは察した。
「触れてもええ?」
恥ずかしそうにしながらも
こくん、と頷く彼女を見てから
種ヶ島はそっと抱き締める。
緊張からか少し強ばる仕草すら、いじらしくて可愛い。
『少し、意外でした』
「ん?なにが?」
『種ヶ島先輩、付き合い出してから大人しかったので』
「甘えてきたり、ベタベタしてくると思うてた?」
『……はい』
本当はいつでも一緒にいたいし
触れていたいし、付き合っているということを
全面に出したい種ヶ島だったが
年上、という謎のプライドが邪魔をして
素直にまどかに伝えることはやめた。
「これ見よがしにいちゃついてたら
中学生らには刺激が強すぎるんとちゃう?☆」
『……そうですね。
それに他の皆さんの邪魔にはなりたくないですしね』
まどかのはっきりとした言葉に、少しだけ肩を落とす。
付き合ってからも、その前からも
まどかの態度はあまり変わらず
種ヶ島はたまに、無理やり付き合わせているのではないかと
柄にもなく不安に思うことがあった。
本当は抱き締められるのも、断れないだけかもしれない。
彼女は優しいから。
『……でも、私
もう少し種ヶ島先輩と一緒に……過ごしたいです』
「えっ?」
種ヶ島は聞き間違いかと思い、まどかの顔を見ると
ぎゅっと、種ヶ島のジャージを握りしめた彼女は
顔を真っ赤にさせていた。
『…種ヶ島先輩の彼女、なのに、あまり一緒に居られないし
こうやって、触れることもできなくて
少し、さみしいです……』
種ヶ島のさっきまでの不安は消し飛び
まどかを思い切り強く抱き締めた。
「仕事、やりにくくなるんちゃうかって思うてたけど
そんなん言われたら、我慢できひんやん」
『配慮、してくれていたんですね』
「ん。まあ、これでも一応色々考えてるんやで。
愛しの彼女様の邪魔はしたくないしなあ」
色々と考えてはいたものの
大好きな彼女からの
少し甘えた発言に、今まで取り繕っていた
年上の余裕も、理解ある彼氏という面も
全てが消えてしまう。
『少しだけ、不安になっていました。
私、種ヶ島先輩みたいに恋愛経験ないですし
私といても楽しくないんじゃないかなって…』
「そんなことあらへんよ。
まどかちゃんとおるんは楽しいし
俺にとって、めちゃくちゃ幸せな時間や」
『それが聞けて、嬉しいです。
あの、……お願いがあるんですけど…』
「なんでも言うて」
少し恥じらいながら
言うべきか悩んでいる姿から
ここでキスして欲しいとでも言われるのでは、と
種ヶ島は期待する。
『な、名前で呼んでもいいですか?』
「……ええに決まってるやん!」(キスは早かったかー)
予想外のお願いに肩透かしをくらったものの
名前で呼んで欲しいとは思っていたので
彼女からの提案は嬉しいものだった。
『しゅ、修二、さん…………修二さんっ』
まどかは嬉しくなったのか照れたのか、
種ヶ島のジャージを握っていた手を
背中に回して思い切り抱きつく。
名前を呼ばれたことと
彼女から抱きつかれたことで
一瞬、種ヶ島の頭は静止した。
ぶわっと、顔に熱が帯びていく。
この顔を見られるわけにはいかず
種ヶ島はただ強く、彼女を抱き締め続けた。
(竜次!!まどかちゃん、可愛すぎるんやけど
どないしたらええ?もう生殺しなんやけど限界なんやけど)
(あーはいはい。よかったな)
(この前なんて“修二さん“って上目遣いで呼んできて
俺、よう我慢したなあってくらい我慢したんやで。褒めてっ)
(えっ?種ヶ島さん、いつもとちゃいません?)
(あー、白石君たちはあの修さん見るのは初めて?)
(“あの“って、どない意味です?)
(修さんはね、まどかちゃん溺愛だから。
僕達の前ではいつもあんな感じだよ)
(……意外っスわ)
(恋愛に慣れてはって
もっと落ち着いた感じなのかと思うてました)
(そんなことないよ。あっ、そうだ。白石君と財前君
どちらかまどかちゃん口説いてみたら良いよ。
そうしたらもっと面白い修さんが見られると思うよ)
(嫌です)(嫌ですわ)