不器用ちゃんな君へ
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マネージャーを招き入れるとの話を聞いたのは、つい先程。
コーチ達の話によると
元々人手不足ということもあり
監督やコーチとは違う人材を探していたらしい。
できれば、俺達選手と同世代で
テニスの知識に長けている人物、という条件で。
うちの大将辺りがマネージャーなんて、必要ないと
言いそうだなと全員が思っていたけど
それが、驚くことなかれ。
あの平等院本人が「当てがある」と答えて
一人の少女を
マネージャーとして迎えることになってもうた。
そんでもってその一週間後に
このむさ苦しい合宿所にやって来たが
平野香ちゃん。
女の子が来るってだけで俺は嬉しいんやけども
見た目の良さと
“あの平等院が連れてきた“ってだけで
彼女は一目置かれていた。
「いや~、まさか平等院さんが
香さん連れてきんさるとは・・・」
てきぱきと働く彼女を見て
毛利があんぐりと口を開けてる。
「寿三郎は平野さんと面識が?」
「はい。立海男子テニス部のマネージャーですやん」
なるほど、とその場にいた全員が納得する。
平等院に聞いても、どこで知り合った等何も答えないので
“彼女説“と“親族説“が浮上していたがその線は薄そうや。
「にしても、よく働くやつだし」
「香さん、昔から働き者で
なんでもできはるすごい人なんです!」
なんでもできる、ねえ。
どないなもんやろうか。
少ーし、値踏みしたろ思うてたら
毛利の言う、なんでもできるすごい人っていうのは
すぐに全員に浸透してった。
マネージャー業も文句の付け所がないくらいに完璧。
練習メニューの組み方も、選手の把握も
怪我の処置、備品の管理まで。
しかも料理もできるし、掃除洗濯家事全般も全て任せられる。
おまけに頭もええから、毛利は勉強見てもろうてるし
ホンマに、オールマイティー。
話しかけても
コミュニケーションちゃんと取れるし、顔もええし
女版の俺みたいやん☆
せやから、当然人気も出てくる。
1ヶ月が経った頃には、仄かに恋心抱いとる奴らも見え始め
ただ、ちらつくのは“お頭の女“説。
どないな関係なんやろか。
本人に聞いたろ、と思うて
香ちゃんの姿を探すことにした。
夕食が終わり、彼女の姿を探すもどこにもいなかった。
色々回ってやっと見つけたのは屋上。
けっこう肌寒いけど、大丈夫やろかと思いつつ
声高らかに彼女に声を掛けた。
「香ちゃん、めっけ☆
ずっと探してたんや…で……」
声を掛けてすぐに後悔した。
あかん。このタイミングあかんかった。
明らかに、泣いていた。
『種ヶ島さん、どう、されましたか?』
うまい具合に髪で顔を隠して、普段通りに返事をしてきた。
ここでなぜ泣いてるのか聞くべきかと一瞬迷ったが
彼女のこの対応に、そのまま合わせることにした。
「ちょっと、話したいな思うて探してたんや。
せやけど、ここ寒ない?」
寒いのは事実だが、とりあえず適当な会話をしよう。
『そうですね、少し、冷えてきましたね』
「俺のジャージ羽織りぃ。女の子が身体冷やしたらあかんよ」
香ちゃんの肩に、ジャージを羽織らせる。
我ながら様になっとるやろ、と自画自賛。
『……あったかい……ですね……』
良かったわ、と言おうと彼女のほうを見ると
綺麗な瞳から、涙が止めどなく溢れていた。
自分でも、驚きの行動やねんけど
衝動的に香ちゃんの身体を抱き締めた。
「…………無理しすぎてひん?」
『……っつ…………!』
ずっと思うてた。
なんでもできるすごい人って思われてるけど
そう思われるがために
影ながらすごい努力してんとちゃうかなって。
気丈に振る舞ってはいるけど
このそうそうたるメンバーのマネージャーって
ごっついプレッシャー感じとるんとちゃうかなって。
「よしよし。受けとめたるからぜーんぶ吐き出してみ」
『……うっく…………わ、わたし、ちゃんと出来てます?
声を掛けて頂いたのだから
こんな機会絶対ないから
自分に出来ることを最大限しようって思って
ここに来たのにたのに
ここにいたら、私に出来ることはすごくちっぽけで……』
「おん……」
『マネージャーとしてこれで良いのか
何が足りないのか
自分の身の振り方が、わからなくなってしまって……
とにかく、なんでもやらなきゃって……
じゃないと、皆も期待してるんだから
申し訳ないって……』
香ちゃんは、所々吃りながらも
自分の気持ちを正直に話してくれた。
なにが、なんでもできるすごい人、や。
この子は、重いプレッシャーを一人で抱えて
なんでもできる人になるために、一人で頑張ってたんや。
話せる人もいなくて、ただずっと一人で耐えてた。
しんどくなっても、誰にも頼らんかった。
俺らは、なんも知らへんかったんや。
「なあ、頼ってや。
自分、しんどくなっても気づけへんタイプやろ。
要領よくやってるように見えるけど
ギリギリまで身をすり減らしてから
限界一気にくる不器用ちゃんやんなぁ」
『不器用……』
「自覚ないんやな。
自分のことに関しては不器用やで。
世話ばかりしてるから、自分のことは
後回しになりがちやねんな」
ポンポン、と頭を撫でていると
徐々に落ち着いてきたようで
涙は止まっているようだった。
好きな子の泣いてる姿はあかんな。
……ん?好きな子……。
あー、そーかぁ。好きやったんかー。
自分でもなんで抱き締めたんやろかって不思議やったけど
そういうことかいな。
珍しく俺自身も、自分のことわかってへんやん。
『た、種ヶ島さん、なんで笑ってるんですか…?』
気づけば俺は笑うてたらしく
香ちゃんが訝しげにこちらを見ている。
まだ俺に抱き締められているので
自然と上目遣いになっててかわいい。
「ん?人に言っておいて、俺も自分のこと
ようわかってへんかったなあ思て」
『…よく、わかりませんが、あの、もう大丈夫なので
そろそろ離してもらえたら、と……』
落ち着きを取り戻したら
今までの行為が恥ずかしくなったのだろう。
香ちゃんの顔は真っ赤だった。
「え~。俺としてはまだまだ抱き締め足りひんのやけど☆」
ボスっと、弱い力で殴られる。
あかん、何されてもかわいいとしか
思えへんくなってきよるぞ。
『その……、ありがとうございました。
ここに来てはじめて人に頼った気がします。
話して、スッキリもしました』
「…ちゃーんと、香ちゃんはやれとるよ。
自信もってええ。
俺も、皆も香ちゃんには助けられてばかりや。
いつもありがとうな。
せやけど、無理したらあかんよ」
『無理は、……するかもです。
だから、その時は種ヶ島さんに頼ってもいいですか?』
「…………!ええよ。俺が支えたるから。
俺にだけ、頼って甘えてな」
『はい!』
思わぬ言葉に、一瞬同様してしもうた。
こんな姿、誰にも見せられへんなあと思いつつ
彼女の清々しい笑顔も
誰にも見せたくないと思ってしまっていた。
思うてたより、重症やん、俺。
(え?平等院さんとの出会いですか?)
(せや。皆気になってんねんで)
(…ある試合の後、怪我をしたままだったので手当てしたんです)
(手当て?)
(はい。半ば無理矢理しました)
(え?大将のことやん、怒られへんかった?)
(怒鳴られましたよ。
でもなんで手当てしないのか、こっちも頭にきちゃって。
テニス捨てるのか!って言い返しちゃって)
(……大将に、言い返したん?)
(今思えば生意気でしたよね)
(香ちゃん、最高☆)