あなたと過ごす初夏の夜
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休憩ルームのテレビでは、見たこともないアナウンサーが
日本各地の風物詩の紹介をしている。
なんとなく流し見していたのだけど
蛍祭りの紹介VTRに、目が釘付けになった。
街灯もない真っ暗な小川に飛び交う蛍の舞い。
それは、特殊な映像効果でも
施しているのではないのだろうかと思うほどに綺麗な映像だった。
“蛍は九州エリアでは4月下旬から5月下旬頃まで。
関東エリアでは5月中旬から6月中旬頃まで見られます。
空気の澄んだ、静かで綺麗な水辺に生息していますので
ぜひ見頃の時期に蛍を探してみてはいかがでしょうか”
アナウンサーの言葉は私の胸に響き
あの美しい光景を実際に見てみたいと
私は早速合宿所を出たのだった。
『時間的には日没から2時間後か…』
今の時期からすると19時半から21時くらいが見頃なのだろう。
ここは山間だから少し気温が低いのが心配だけど
探せばここでも見られるかもしれない。
私は今のうちから蛍がいそうな場所を
探してみることにした。
とりあえず、近くの川を目指して
ふらふらと歩いていると、越知くんと毛利くんに遭遇した。
よく散歩している彼らなら
蛍がいそうな場所を知っているかもしれない。
そう思って聞いてみたのだけど
見たことはないとのことだった。
残念だな、と思っていたら
今度はよく滝行をしている石田くんに出会った。
水辺によくいる彼なら、と思ったのだけど
彼もこの辺りでは見たことがないそうだ。
石田くんとわかれたあとは
川で水切り遊びをいている田仁志くんに会った。
彼も皆と同様で見たことがないらしい。
しかも「そんな夜に水切り遊びなんてしないばー」って言われて
そりゃそうかと納得した。
生息地が特定できれば
あとはちょっと見に行く程度で済むなと思ったのだけど
もうこうなれば
予めいくつか目星をつけて、夜巡ってみようかと思う。
危ないと言われそうだし
お頭にバレたら怒られそうだから
こっそり外に出て一人で探してみよう。
なんだか、冒険みたいでわくわくしてきた。
19時半になり、辺りは暗くなり始めた。
守備はバッチリ。
誰にもバレてない。
意気揚々と靴を履いて外に出た瞬間
ジャージの首の後ろをくんっと、引っ張られた。
「お嬢さん、こないな時間にどこ行くん?」
『げっ……種ヶ島くん…』
にこにこと良い笑顔の種ヶ島くんは、私を掴んで離さない。
事あるごとに
私にちょっかいを掛けて来たり
意地悪してくるこの人に捕まるなんて最悪だ。
「げっ、ってひどいわぁ〜」
『種ヶ島くん、離して』
「どこ行くか教えてくれたらええで」
『ちょっと散歩に…』
そう伝えても彼はなかなか離してくれなくて
胡散臭い笑顔のまま「ん〜」と唸った。
「俺も行く☆」
『えぇっ』
「俺が行ったら嫌なん?」
『別に良いけど…』
せっかくの一人冒険を邪魔されることに
ちょっと残念だなと思ったけど
この感じ、種ヶ島くんは引き下がらないだろうから
渋々承諾することにした。
さて、とはいえどうしたものか。
正直なところ、蛍を探してる、なんて言ったら
種ヶ島くんのことだから
笑ったり、からかったり
「え?意外とロマンチストやん☆」とか言われそうで嫌だ。
越知くんとかだったら
風情があるなって一緒に楽しんでくれそうだけど
種ヶ島くんはこういうことに、興味がなさそうだ。
「まずはどこから行くん?
あっちの山の奥のほうは気温も低いし岩場も多いし
蛍はおらんのやない?」
『それもそうだね。じゃあ、あっちはやめてそこの…って、え?』
思わずつられて普通に答えたけど
なんで蛍のことを知っているのだろう。
「ツッキー達に聞いて回ってたんやろ?
まさか夜探しに一人で出歩くんとちゃうかって
皆心配しとったで」
『それで……』
それでついてくると言ったのか、と合点がいった。
他の人にまで心配されて
一人冒険だ、なんてはしゃいでいたのが恥ずかしい。
「女の子を夜道一人で出歩かせたくないし
川とか行くんなら尚更や。
なんかあったら誰も助けられへんやろ?」
『はい…』
「怒ってるわけとちゃうで。
日向ちゃん守るボディーガード付きなら話は別ってこと。
せやから、ほい」
そう言って差し出された手を見て
何が?と首を傾げていると
軽く頭をチョップされて、お手をどうぞ、と言われた。
少しドキッとしつつも
種ヶ島くんの手を取って私達は歩き出し
川べりへと向かって行った。
「おらへんなあ」
『ほんとだね…』
この辺りは標高が高いから気温も低く
やっぱりまだ時期が少し早いのかもしれない。
見たかったなあ、と落胆していたら
種ヶ島くんが次の候補地に行くで、と
笑いかけてくれて私のことを引っ張った。
力強くて逞しい手に、ドキドキする。
それでも、次に目星をつけていた場所にもいなくて
もう今回は諦めようかと
種ヶ島くんを見上げたら彼は優しく微笑んだ。
「そんな悲しそうな顔せんといてや。
こんだけええ環境やからおらんことはないで
。
今日見られへんでも、もうちょい気温高くなったら
リベンジしよか」
『うん……そうする。連れ回してごめんね』
「ええて。好きでついてったんやし。
それに、俺は楽しかったで。デートできて良かったわ」
『へ?これデートになるの?』
我ながら驚くほど素っ頓狂な声が出てしまったのだけど
種ヶ島くんは顔色ひとつ変えずに
そらデートやろ、と即答する。
言われて見れば、男女が夜手を繋いであるけば
そりゃデートっぽくなるわけで…と考えて
今いきなり顔が火照った。
「照れるん遅ない?」
『だ、だって…!』
蛍で頭がいっぱいだった、と言おうと思った瞬間
私達の間に、すいっと、光る何かが通った。
「「蛍!」」
ふたりで顔を合わせてその姿を追う。
追っていたら、他にもちらほら蛍がいて
乱舞、とまではいかないけれど
疎らに蛍が光っている。
『すごい…!いた!綺麗……』
「ホンマ、綺麗やな。ええもん見られたわ。
来週くらいにはもっといっぱい増えるんとちゃう?」
『そうかもね!』
しばらくふたりで並んで静かに見ていた。
来週辺りまたここに来てみたいな、と考えていたら
繋がれた手に力がこもる。
どうしたの?と種ヶ島くんの方を見たら
今まで見たことのない
柔らかくて、優しくて、穏やかな笑顔を私に向けていた。
まるで、愛しいものを見るかのような視線に
私は戸惑いつつもその瞳に釘付けになった。
遠くで聞こえる虫の声。
飛び交う蛍。
きつく繋がれた手。
どうしてか
目の前の種ヶ島くんが、すごく神秘的に見えた。
『種ヶ島くんって、綺麗だね』
そう思わず声にすると
彼はきょとん、としていつものような
屈託のない笑顔で笑った。
「ハハッ!綺麗、か。
俺にとっては日向ちゃんのほうが綺麗なんやけど」
『あはは、何言ってるの。綺麗ってキャラじゃないよ』
いつもの調子に戻ってホッとする。
さっきまでの種ヶ島くんの雰囲気は慣れなくて
ドキドキしたから。
「もうちょい一緒におりたいけど、そろそろ戻ろか」
『うん、そうだね。名残惜しいけど…』
「それって、蛍が名残惜しいん?それとも俺との時間が?」
『えっ…?どっちも、かな?』
聞かれて素直にそう答えたら
種ヶ島くんは満足そうに頷いた。
「まあ、今はそれでええわ。ほな行こか」
どういうこと?と聞いても彼は口笛を吹いて誤魔化した。
気にはなったけど
楽しかったし、種ヶ島くんもなんだか上機嫌だし
それ以上聞かないことにした。
私のことを心配してくれたことも
こういうことを一緒に楽しんでくれることも
あんなに優しい笑顔を向けてくれることも
今日初めて、種ヶ島くんと一緒に過ごしてわかったことだ。
少し心臓に悪いことをするのは変わらないけど
意地悪したり、からかってくるだけの
彼じゃないってことを知ることができて
私は満ち足りた気持ちになったのだった。
(来週、どうする?)
(また俺と見に行ってくれるん?)
(私は、一人でも良いけど…)
(けど?)
(種ヶ島くんの意外な一面が見られたし…)
(ふんふん、それで?)
(一緒に見るの楽しかったし…)
(俺も楽しかったで☆それでそれで?)
(ボディガードがいるんでしょ?)
(そう来たかぁ〜)
(ボディガードも、一緒に見るのも
種ヶ島くんが良いんだけどダメ?)
(……ダメやない。って、策士やん。
俺手のひらで転がされとるやーん)
(?)
日本各地の風物詩の紹介をしている。
なんとなく流し見していたのだけど
蛍祭りの紹介VTRに、目が釘付けになった。
街灯もない真っ暗な小川に飛び交う蛍の舞い。
それは、特殊な映像効果でも
施しているのではないのだろうかと思うほどに綺麗な映像だった。
“蛍は九州エリアでは4月下旬から5月下旬頃まで。
関東エリアでは5月中旬から6月中旬頃まで見られます。
空気の澄んだ、静かで綺麗な水辺に生息していますので
ぜひ見頃の時期に蛍を探してみてはいかがでしょうか”
アナウンサーの言葉は私の胸に響き
あの美しい光景を実際に見てみたいと
私は早速合宿所を出たのだった。
『時間的には日没から2時間後か…』
今の時期からすると19時半から21時くらいが見頃なのだろう。
ここは山間だから少し気温が低いのが心配だけど
探せばここでも見られるかもしれない。
私は今のうちから蛍がいそうな場所を
探してみることにした。
とりあえず、近くの川を目指して
ふらふらと歩いていると、越知くんと毛利くんに遭遇した。
よく散歩している彼らなら
蛍がいそうな場所を知っているかもしれない。
そう思って聞いてみたのだけど
見たことはないとのことだった。
残念だな、と思っていたら
今度はよく滝行をしている石田くんに出会った。
水辺によくいる彼なら、と思ったのだけど
彼もこの辺りでは見たことがないそうだ。
石田くんとわかれたあとは
川で水切り遊びをいている田仁志くんに会った。
彼も皆と同様で見たことがないらしい。
しかも「そんな夜に水切り遊びなんてしないばー」って言われて
そりゃそうかと納得した。
生息地が特定できれば
あとはちょっと見に行く程度で済むなと思ったのだけど
もうこうなれば
予めいくつか目星をつけて、夜巡ってみようかと思う。
危ないと言われそうだし
お頭にバレたら怒られそうだから
こっそり外に出て一人で探してみよう。
なんだか、冒険みたいでわくわくしてきた。
19時半になり、辺りは暗くなり始めた。
守備はバッチリ。
誰にもバレてない。
意気揚々と靴を履いて外に出た瞬間
ジャージの首の後ろをくんっと、引っ張られた。
「お嬢さん、こないな時間にどこ行くん?」
『げっ……種ヶ島くん…』
にこにこと良い笑顔の種ヶ島くんは、私を掴んで離さない。
事あるごとに
私にちょっかいを掛けて来たり
意地悪してくるこの人に捕まるなんて最悪だ。
「げっ、ってひどいわぁ〜」
『種ヶ島くん、離して』
「どこ行くか教えてくれたらええで」
『ちょっと散歩に…』
そう伝えても彼はなかなか離してくれなくて
胡散臭い笑顔のまま「ん〜」と唸った。
「俺も行く☆」
『えぇっ』
「俺が行ったら嫌なん?」
『別に良いけど…』
せっかくの一人冒険を邪魔されることに
ちょっと残念だなと思ったけど
この感じ、種ヶ島くんは引き下がらないだろうから
渋々承諾することにした。
さて、とはいえどうしたものか。
正直なところ、蛍を探してる、なんて言ったら
種ヶ島くんのことだから
笑ったり、からかったり
「え?意外とロマンチストやん☆」とか言われそうで嫌だ。
越知くんとかだったら
風情があるなって一緒に楽しんでくれそうだけど
種ヶ島くんはこういうことに、興味がなさそうだ。
「まずはどこから行くん?
あっちの山の奥のほうは気温も低いし岩場も多いし
蛍はおらんのやない?」
『それもそうだね。じゃあ、あっちはやめてそこの…って、え?』
思わずつられて普通に答えたけど
なんで蛍のことを知っているのだろう。
「ツッキー達に聞いて回ってたんやろ?
まさか夜探しに一人で出歩くんとちゃうかって
皆心配しとったで」
『それで……』
それでついてくると言ったのか、と合点がいった。
他の人にまで心配されて
一人冒険だ、なんてはしゃいでいたのが恥ずかしい。
「女の子を夜道一人で出歩かせたくないし
川とか行くんなら尚更や。
なんかあったら誰も助けられへんやろ?」
『はい…』
「怒ってるわけとちゃうで。
日向ちゃん守るボディーガード付きなら話は別ってこと。
せやから、ほい」
そう言って差し出された手を見て
何が?と首を傾げていると
軽く頭をチョップされて、お手をどうぞ、と言われた。
少しドキッとしつつも
種ヶ島くんの手を取って私達は歩き出し
川べりへと向かって行った。
「おらへんなあ」
『ほんとだね…』
この辺りは標高が高いから気温も低く
やっぱりまだ時期が少し早いのかもしれない。
見たかったなあ、と落胆していたら
種ヶ島くんが次の候補地に行くで、と
笑いかけてくれて私のことを引っ張った。
力強くて逞しい手に、ドキドキする。
それでも、次に目星をつけていた場所にもいなくて
もう今回は諦めようかと
種ヶ島くんを見上げたら彼は優しく微笑んだ。
「そんな悲しそうな顔せんといてや。
こんだけええ環境やからおらんことはないで
。
今日見られへんでも、もうちょい気温高くなったら
リベンジしよか」
『うん……そうする。連れ回してごめんね』
「ええて。好きでついてったんやし。
それに、俺は楽しかったで。デートできて良かったわ」
『へ?これデートになるの?』
我ながら驚くほど素っ頓狂な声が出てしまったのだけど
種ヶ島くんは顔色ひとつ変えずに
そらデートやろ、と即答する。
言われて見れば、男女が夜手を繋いであるけば
そりゃデートっぽくなるわけで…と考えて
今いきなり顔が火照った。
「照れるん遅ない?」
『だ、だって…!』
蛍で頭がいっぱいだった、と言おうと思った瞬間
私達の間に、すいっと、光る何かが通った。
「「蛍!」」
ふたりで顔を合わせてその姿を追う。
追っていたら、他にもちらほら蛍がいて
乱舞、とまではいかないけれど
疎らに蛍が光っている。
『すごい…!いた!綺麗……』
「ホンマ、綺麗やな。ええもん見られたわ。
来週くらいにはもっといっぱい増えるんとちゃう?」
『そうかもね!』
しばらくふたりで並んで静かに見ていた。
来週辺りまたここに来てみたいな、と考えていたら
繋がれた手に力がこもる。
どうしたの?と種ヶ島くんの方を見たら
今まで見たことのない
柔らかくて、優しくて、穏やかな笑顔を私に向けていた。
まるで、愛しいものを見るかのような視線に
私は戸惑いつつもその瞳に釘付けになった。
遠くで聞こえる虫の声。
飛び交う蛍。
きつく繋がれた手。
どうしてか
目の前の種ヶ島くんが、すごく神秘的に見えた。
『種ヶ島くんって、綺麗だね』
そう思わず声にすると
彼はきょとん、としていつものような
屈託のない笑顔で笑った。
「ハハッ!綺麗、か。
俺にとっては日向ちゃんのほうが綺麗なんやけど」
『あはは、何言ってるの。綺麗ってキャラじゃないよ』
いつもの調子に戻ってホッとする。
さっきまでの種ヶ島くんの雰囲気は慣れなくて
ドキドキしたから。
「もうちょい一緒におりたいけど、そろそろ戻ろか」
『うん、そうだね。名残惜しいけど…』
「それって、蛍が名残惜しいん?それとも俺との時間が?」
『えっ…?どっちも、かな?』
聞かれて素直にそう答えたら
種ヶ島くんは満足そうに頷いた。
「まあ、今はそれでええわ。ほな行こか」
どういうこと?と聞いても彼は口笛を吹いて誤魔化した。
気にはなったけど
楽しかったし、種ヶ島くんもなんだか上機嫌だし
それ以上聞かないことにした。
私のことを心配してくれたことも
こういうことを一緒に楽しんでくれることも
あんなに優しい笑顔を向けてくれることも
今日初めて、種ヶ島くんと一緒に過ごしてわかったことだ。
少し心臓に悪いことをするのは変わらないけど
意地悪したり、からかってくるだけの
彼じゃないってことを知ることができて
私は満ち足りた気持ちになったのだった。
(来週、どうする?)
(また俺と見に行ってくれるん?)
(私は、一人でも良いけど…)
(けど?)
(種ヶ島くんの意外な一面が見られたし…)
(ふんふん、それで?)
(一緒に見るの楽しかったし…)
(俺も楽しかったで☆それでそれで?)
(ボディガードがいるんでしょ?)
(そう来たかぁ〜)
(ボディガードも、一緒に見るのも
種ヶ島くんが良いんだけどダメ?)
(……ダメやない。って、策士やん。
俺手のひらで転がされとるやーん)
(?)
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