終わりの始まり
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好きにならなければよかったと、もう何度思ったことか。
姿を見るたびに、声を聞くたびに
私は何度も何度も彼のことが恋しくなって
触れてくなって、会いたくなって、好きだと実感する。
だけど、それと同時に苦しくなるのも事実で
何度も好きにならなければよかったと後悔しては
冷めない恋に振り回されている。
もう、別れたというのに。
隣のクラスの修二くんに
片想いして1年が経った頃、私は玉砕覚悟で彼に告白をした。
ほぼ接点のなかった私の告白は
拒否されるだろうと思っていたのだけど
まさかのOKで、しばらくは夢見心地でいた。
恋人という実感もなかなか沸かなかったけど
毎日連絡したり、一緒に帰ったり
お昼ごはんを食べたりするうちに
徐々に恋人という自覚が芽生え
これ以上もう何も望まないほどに、幸せな日々を過ごせた。
付き合って、毎日幸せだったことは事実。
だけど修二くんは男女問わず人気者で
明るく、楽しく、いつもキラキラ眩しくて
それでいて優しくて格好良くて、本当に素敵すぎる人で。
それに比べて、私は普通すぎて、なにもない。
そんな自信のない姿のせいで
周りからも陰口を言われるようになり
隣に並ぶことが徐々に苦痛になってきた。
“釣り合わない”
“なんであんな子と付き合ってるの?”
“遊ばれてる”
そんな言葉を耳にするようになって
いじめとまでいかなくても
嫌がらせをされるようにもなって
次第に、私の心は疲れてしまった。
修二くんの眩しさと、私の心の弱さと、取り巻く環境に
自分の気持ちがついていかなくて
苦しいから、自ら終わらせてしまったのだ。
帰り道、鞄に入れたスマホがヴーッと震える。
恐らく修二くんからの連絡だろう。
『もう、別れる』
合宿中の彼に一方的に別れを告げてから、毎日連絡が来るのだ。
会うことはないから少し安心しているが
ブロックする勇気も、メッセージを見る勇気もなく
ただスルーする彼からの連絡は、あの日から貯まる一方。
そろそろ、諦めてもらえないだろうか。
学校に来る頃には、もう呆れて無視してくれないかな。
そんなことを考えながら
彼とよく行った公園に差し掛かったとき
聞き馴染みのある、聞きたかった声がした。
「やっと見つけたで…!」
『え…?なんで…?合宿中じゃ…』
肩で息をした修二くんが、そこには立っていた。
やっと見つけた、ということは
あちこち探し回ったのだろうか。
「合宿なんて、いつでも抜けられるで。
あんな一方的な連絡もろて、普通に過ごせるわけないやん」
私の行く手を塞ぎ、手首を掴まれる。
「ほんで?別れるってなんでや。
理由教えてくれへんと納得できひん」
『ただ、別れたい、の…』
「せやから理由教えてや。
俺のこと、もう好きやないん?」
怒っているのか、悲しんでいるのか
よくわからない目をした修二くんは
ただ、逃さないと言わんばかりに真っ直ぐ私を見つめる。
『好きじゃ…ない…』
嘘。そんなことない。
好き。大好き。
誰よりも大切な人なのに、私は今彼を傷つけている。
これ以上はダメ。目が涙で霞んできた。
泣きたくなんてないのに。泣く資格なんてないのに。
「さよか」
聞いたこともない冷たい声色に
身も心も引き裂かれたかのように、温度をなくしていく。
いっそのこと、嫌われれば良い。
そうも思っていたのに
いざ拒絶されると私は自分の足元が
すべてなくなっていくような感じがした。
修二くんが、離れていく。
私から離れたくせに、本当は離れたくない。
「嘘つかんで」
そう言われて、修二くんは掴んだ腕に力を入れて
グイッ私を引っ張った。
ずっと触れたくて、感じたかった温もりが身体に広がる。
『やだっ!離して…!』
「離さへんよ。ホンマのこと言うまで絶対離してやらん」
『本当に、もう…私は…!』
「俺は好きなんや」
優しい言葉に、私の目から涙が溢れ
堰を切ったかのように
同時に心の中に沈めていた想いも溢れた。
ずっと、劣等感を抱いていたこと。
ずっと、自信がなかったこと。
ずっと、我慢していたこと。
悲しかったことも辛かったことも
寂しかったことも悔しかったことも
話すうちに、ぽろぽろと剥がれた私の心は
むき出しになって
傷だらけになっていたけど
修二くんの手によって優しく、包まれた。
「しんどい思いさせてたんやな。俺に遠慮して黙ってたん?」
『テニスで忙しいのに、余計なこと言うのもって思って…』
「余計なことやないで。大事なことや。
大切に思うてる子が苦しんでるのに
なんもできへんなんて、彼氏失格やん。
それに、それも誰かに何か言われたんとちゃう?」
彼の読み通り
テニスで忙しい彼に余計なことを言って困らせるな、邪魔になる
そう言われて、私は修二くんに相談しないようにしていた。
彼の重荷にはなりたくなかったから。
「ええか?俺のこと考えてくれるんは嬉しいけど
そんなどこの誰かわからへん奴の言うことなんか無視やで。
大事なんは、俺らの気持ちやねん」
『うん…』
「俺のこと考えてくれるならなんでも言うて、頼って欲しい。
我慢なんてせんで、もっと甘えてや」
『うん…でも、本当にテニスで忙しいときは
言ってね。無理してまで私の話聞かなくて良いから』
「わかった。そうする。
せやけど無理してまで話聞きたなるんよな。
綾乃のこと、ホンマに大事やから」
修二くんは抱きしめながら
私の頭を優しく撫でてくれた。
修二くんのジャージに染みをつくるほど
私は泣いてしまっていて
ごめんね、と言って離れると
彼はなぜだか嬉しそうな顔をして笑ってくれた。
「なんか、やっと本音が聞けたな」
『うん。そうかも。すっきりした』
「そら良かったわ。
これで別れる、って言葉は取り消してもらえるやろか」
『うん。別れたくない。
私修二くんのことずっとずっと、好きだから。
もう絶対言わない。
傷つけてごめんなさい』
「俺らは、これからがホンマのスタートやな。
離さへんから、覚悟しといてな」
『うん!』
私は、普通すぎてなにもないけど
修二くんのことを好きな気持ちだけは誰にも負けない。
まだ劣等感はあるし、自分に自信は持てないけど
彼を想う気持ちを大切にして
これが私なんだって思って
彼と一緒に歩んでいきたい。
修二くんのために、彼との未来のために
私は私らしく生きていこうと思ったのだった。
(にしても、別れる、ってワードはこたえるわあ)
(ご、ごめんね)
(いや〜、ここまで何もできへんようになるほど
動揺するとは思わへんで)
(そんなに気にしてくれたの?)
(綾乃こと、それだけ好きすぎるねん)
(あ、ありがとう…)
(せやからエイプリルフールとかで
こういうん言うたらアカンよ。
次言ったら俺何するかわからへんから)
(絶対言いません…)
姿を見るたびに、声を聞くたびに
私は何度も何度も彼のことが恋しくなって
触れてくなって、会いたくなって、好きだと実感する。
だけど、それと同時に苦しくなるのも事実で
何度も好きにならなければよかったと後悔しては
冷めない恋に振り回されている。
もう、別れたというのに。
隣のクラスの修二くんに
片想いして1年が経った頃、私は玉砕覚悟で彼に告白をした。
ほぼ接点のなかった私の告白は
拒否されるだろうと思っていたのだけど
まさかのOKで、しばらくは夢見心地でいた。
恋人という実感もなかなか沸かなかったけど
毎日連絡したり、一緒に帰ったり
お昼ごはんを食べたりするうちに
徐々に恋人という自覚が芽生え
これ以上もう何も望まないほどに、幸せな日々を過ごせた。
付き合って、毎日幸せだったことは事実。
だけど修二くんは男女問わず人気者で
明るく、楽しく、いつもキラキラ眩しくて
それでいて優しくて格好良くて、本当に素敵すぎる人で。
それに比べて、私は普通すぎて、なにもない。
そんな自信のない姿のせいで
周りからも陰口を言われるようになり
隣に並ぶことが徐々に苦痛になってきた。
“釣り合わない”
“なんであんな子と付き合ってるの?”
“遊ばれてる”
そんな言葉を耳にするようになって
いじめとまでいかなくても
嫌がらせをされるようにもなって
次第に、私の心は疲れてしまった。
修二くんの眩しさと、私の心の弱さと、取り巻く環境に
自分の気持ちがついていかなくて
苦しいから、自ら終わらせてしまったのだ。
帰り道、鞄に入れたスマホがヴーッと震える。
恐らく修二くんからの連絡だろう。
『もう、別れる』
合宿中の彼に一方的に別れを告げてから、毎日連絡が来るのだ。
会うことはないから少し安心しているが
ブロックする勇気も、メッセージを見る勇気もなく
ただスルーする彼からの連絡は、あの日から貯まる一方。
そろそろ、諦めてもらえないだろうか。
学校に来る頃には、もう呆れて無視してくれないかな。
そんなことを考えながら
彼とよく行った公園に差し掛かったとき
聞き馴染みのある、聞きたかった声がした。
「やっと見つけたで…!」
『え…?なんで…?合宿中じゃ…』
肩で息をした修二くんが、そこには立っていた。
やっと見つけた、ということは
あちこち探し回ったのだろうか。
「合宿なんて、いつでも抜けられるで。
あんな一方的な連絡もろて、普通に過ごせるわけないやん」
私の行く手を塞ぎ、手首を掴まれる。
「ほんで?別れるってなんでや。
理由教えてくれへんと納得できひん」
『ただ、別れたい、の…』
「せやから理由教えてや。
俺のこと、もう好きやないん?」
怒っているのか、悲しんでいるのか
よくわからない目をした修二くんは
ただ、逃さないと言わんばかりに真っ直ぐ私を見つめる。
『好きじゃ…ない…』
嘘。そんなことない。
好き。大好き。
誰よりも大切な人なのに、私は今彼を傷つけている。
これ以上はダメ。目が涙で霞んできた。
泣きたくなんてないのに。泣く資格なんてないのに。
「さよか」
聞いたこともない冷たい声色に
身も心も引き裂かれたかのように、温度をなくしていく。
いっそのこと、嫌われれば良い。
そうも思っていたのに
いざ拒絶されると私は自分の足元が
すべてなくなっていくような感じがした。
修二くんが、離れていく。
私から離れたくせに、本当は離れたくない。
「嘘つかんで」
そう言われて、修二くんは掴んだ腕に力を入れて
グイッ私を引っ張った。
ずっと触れたくて、感じたかった温もりが身体に広がる。
『やだっ!離して…!』
「離さへんよ。ホンマのこと言うまで絶対離してやらん」
『本当に、もう…私は…!』
「俺は好きなんや」
優しい言葉に、私の目から涙が溢れ
堰を切ったかのように
同時に心の中に沈めていた想いも溢れた。
ずっと、劣等感を抱いていたこと。
ずっと、自信がなかったこと。
ずっと、我慢していたこと。
悲しかったことも辛かったことも
寂しかったことも悔しかったことも
話すうちに、ぽろぽろと剥がれた私の心は
むき出しになって
傷だらけになっていたけど
修二くんの手によって優しく、包まれた。
「しんどい思いさせてたんやな。俺に遠慮して黙ってたん?」
『テニスで忙しいのに、余計なこと言うのもって思って…』
「余計なことやないで。大事なことや。
大切に思うてる子が苦しんでるのに
なんもできへんなんて、彼氏失格やん。
それに、それも誰かに何か言われたんとちゃう?」
彼の読み通り
テニスで忙しい彼に余計なことを言って困らせるな、邪魔になる
そう言われて、私は修二くんに相談しないようにしていた。
彼の重荷にはなりたくなかったから。
「ええか?俺のこと考えてくれるんは嬉しいけど
そんなどこの誰かわからへん奴の言うことなんか無視やで。
大事なんは、俺らの気持ちやねん」
『うん…』
「俺のこと考えてくれるならなんでも言うて、頼って欲しい。
我慢なんてせんで、もっと甘えてや」
『うん…でも、本当にテニスで忙しいときは
言ってね。無理してまで私の話聞かなくて良いから』
「わかった。そうする。
せやけど無理してまで話聞きたなるんよな。
綾乃のこと、ホンマに大事やから」
修二くんは抱きしめながら
私の頭を優しく撫でてくれた。
修二くんのジャージに染みをつくるほど
私は泣いてしまっていて
ごめんね、と言って離れると
彼はなぜだか嬉しそうな顔をして笑ってくれた。
「なんか、やっと本音が聞けたな」
『うん。そうかも。すっきりした』
「そら良かったわ。
これで別れる、って言葉は取り消してもらえるやろか」
『うん。別れたくない。
私修二くんのことずっとずっと、好きだから。
もう絶対言わない。
傷つけてごめんなさい』
「俺らは、これからがホンマのスタートやな。
離さへんから、覚悟しといてな」
『うん!』
私は、普通すぎてなにもないけど
修二くんのことを好きな気持ちだけは誰にも負けない。
まだ劣等感はあるし、自分に自信は持てないけど
彼を想う気持ちを大切にして
これが私なんだって思って
彼と一緒に歩んでいきたい。
修二くんのために、彼との未来のために
私は私らしく生きていこうと思ったのだった。
(にしても、別れる、ってワードはこたえるわあ)
(ご、ごめんね)
(いや〜、ここまで何もできへんようになるほど
動揺するとは思わへんで)
(そんなに気にしてくれたの?)
(綾乃こと、それだけ好きすぎるねん)
(あ、ありがとう…)
(せやからエイプリルフールとかで
こういうん言うたらアカンよ。
次言ったら俺何するかわからへんから)
(絶対言いません…)