駆け引き
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“明日の13時によろしくな”
ドイツ戦を終えたある日の夜
スマホに届いたメッセージに私は頭を抱えていた。
会いたくないわけではなくて
何を話したら良いのかわからなくて悩んでいる。
明日、ドイツ代表のビスマルクさんと
ショッピングに行くことになった。
一人でいる時に、唐突に連絡先を聞かれて
あんたじゃないとダメなんだ、と
謎のお願いをされたのだ。
確か柳くんのデータによると彼女さんがいたはずだから
デートとかそういうのではないのだろうけど
なんなんだろう。
「なーに難しい顔してるん?」
『うわ!び、びっくりした……』
顔に出ていたのだろうか、種ヶ島くんに顔を覗き込まれ
眉間をつん、と突かれた。
種ヶ島くんとビスマルクさんは
試合のあと仲良さげに見えたし
ここは種ヶ島くんに相談したほうが良いのかな?
でもビスマルクさん的には誰にも言わないほうが良いのかな?
色々考えた結果、種ヶ島くんには話さないことにした。
一番変に誤解をされたくない相手だから
ふたりで出掛けることはバレたくない。
「なんかあったん?」
『ううん。なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ』
「…さよか〜」
この感の鋭い男を騙せたかはわからないけど
とりあえず彼はそれ以上聞いてはこなかった。
翌日、指定された場所へと向かうと
約束の時間までまだ15分前なのに
モデルさながらの格好でビスマルクさんが既に待っていた。
『ビスマルクさん、すみません。お待たせしてしまって』
「やっぱり日本人はマナーがちゃんとしてるな。
早めに来て正解だったぜ」
外国の人にとって、日本人は生真面目で計画的
そういうイメージがあるのだろう。
彼は日本人のスタイルに合わせてくれたようで
マメな人だという印象を受けた。
あ、そうか。
手塚くんがチームメイトなら尚更だろう。
『私に合わせてくれてありがとうございます。
それで今日は……』
「チッチッチ。敬語はナシだぜ。確か歳は同じだろ?
そんなに気負わず気楽に話そうぜ」
『あ……うん。わかった。じゃあそうするね』
さん付けもしないようにと言われて
ビスマルク、と呼ぶことにしたけど
少し気恥ずかしい気もする。
“敬語をなくす、名前で呼び合う”なんて
日本人同士ではほぼ初対面でなかなかしないような
コミュニーケーションのやり方だ。
こんなに一気に人との距離を詰めるなんて慣れないけど
彼は自然と相手に心を開かせるような
不思議な人だと思った。
そして今日のショッピングの主旨を聞いて
私が選ばれたことがやっと理解できて
昨日までの緊張は一気になくなった。
「どういうのが良いのか悩んでてな」
『そういうことなら任せて』
着いたのは、“Japanese”の看板が掛かったお店。
日本食や日本らしい雑貨が置いてあるお店らしい。
ところどころ、日本なのか怪しいものもあるから
ビスマルクがどれが良いのか悩むのもわかる。
彼は、恋人であるアスリットさんに
渡すプレゼントを悩んでいた。
前々から日本に興味のあった彼女に
日本の物を渡したいのだけど
この店でどれが良い物なのか検討がつかなかったらしい。
「クニミツにも聞いたんだが
あいつのチョイスは少しズレてる気がしてな」
『う、うん。確かに彼はそういうのに疎そうね』
手塚くんが女の子へのプレゼント、と考えて
あまり想像出来ず思わず笑ってしまった。
さて、日本らしい女の子向けのプレゼントは
何が良いだろう。
写真で見たアスリットさんを思い浮かべて小物を手に取る。
ハンカチ、手鏡、小物入れ。
伝統的な柄よりも、桜とか菊とか花柄のほうが似合いそう。
ビスマルクとあれこれ言いながら選ぶプレゼント探しは
すごく楽しい時間だった。
「今日はありがとな。おかげで良い物が選べたぜ」
『どういたしまして。きっと喜んでくれるよ』
結局選んだのは
ちりめん細工のポーチと桜が描かれた風呂敷。
風呂敷は車椅子に結んでリボンのようにしたらどうかという
私の案が採用され
ビスマルクは満足気にプレゼントを眺めていて
誰かを想う表情は、すごく素敵だった。
ふと、そんな彼を見て気がついた。
ビスマルクは、種ヶ島くんと似ている。
試合の時もふたりが似たタイプであることは
わかってはいたのだが
今回試合じゃないときの表情、仕草、話し方を見て
内面がすごく似ていると感じた。
まあ、種ヶ島くんのほうが軽いから
好きになるなら、ビスマルクのほうが堅実的で
理想的なのかもしれない、なんて勝手に思っていたら
彼はにやり、と笑った。
「何だ?タネガシマのことでも考えてるのか?」
『えっ!?なんで…!』
「お。カマかけてみたんだが、まさか本当だとはな」
やられた、と思ってジト目で見ると
ぽんぽんと頭を撫でられた。
「誰のこと考えてるのか、すぐにわかるな。
今日日和の色んな表情を見たけど
タネガシマを見るときの表情が、一番綺麗だぜ」
『それは…好きだから、ね』
ビスマルクにバレているくらいなら
本人も気づいているのではないだろうか。
私の、この片想いに。
いつになったら、気持ちを伝える決心がつくのやら
どこか他人事のように思っていたら
私の頭を撫でるビスマルクの手が止まった。
「ビスっち、手ぇ出したらアカンで?」
『え!種ヶ島くん!?』
いつの間に現れたのか
種ヶ島はビスマルクの手を掴み
私とビスマルクの間に割って入ってきた。
「色男の登場だな」
「ビスっちにそう言われると光栄やわあ」
ビスマルクは楽しそうに笑っているけど
種ヶ島くんは少し不機嫌そうだ。
この空気をどうしたらいいのだろうかと迷っていたら
ビスマルクは背を向けて片手を上げた。
「日和、今日は楽しかったぜ。またな」
『あ、うん!ビスマルクまたね』
ビスマルクが去った後
種ヶ島くんは彼の姿をじっと見つめてから
ニコッと笑って私の方へと振り向いた。
「ほんで?なんでふたりでデートしてるか教えてくれへん?」
『デートじゃないよ!
今日のはアスリットさんへのプレゼント選びで…』
種ヶ島くんに今日の主旨を話す。
だけど、私が話し終えたあとも彼は少し不機嫌そうで
普段見ないような表情をしている。
マネージャーとして、勝手に他の国の選手と交流を持つなんて
やっぱりダメだったのだろうか。
「…楽しかったん?」
『え?うん。楽しかったよ。
私あんまり海外選手の人と接したことがなかったから
良い機会になったし、良い経験にもなったよ』
「あ〜…日和らしい答えに安心すんねんけど…
…えらい親しげになってたやん」
『ビスマルクが、さん付けも敬語もナシって言うから…』
「距離も近かった」
『外国人って皆あんな感じじゃないの?』
「俺のことも名前で呼んでや」
『え?』
「俺より親しげなん、妬けるんやけど」
突拍子もない発言を聞いて思わず彼の顔を凝視した。
冗談なのか、本気なのか
どういう意図なのか、わからない。
妬けるって、どういう意味?
それだとまるで私のことを、と都合よく考えていたら
徐々に顔が熱くなってきた。
『私、修二…ともっと親しく、なれるの…?』
「俺はなりたいと思うてるんやけど」
スッと伸びてきた手は
先程までビスマルクに撫でられていた頭に触れた。
さっきからズルい。
本心が見えないくせに
まるで気があるよって、わざとアピールされているようで
試されている気がする。
やっぱり、ビスマルクみたいに
堅実的な人を好きになれればよかったのに
私は目の前の、少しだけ意地悪に微笑むこの人のことが
好きで好きで、たまらないのだと思ったのだった。
(そういえばよく場所がわかったね)
(あぁ。赤福がなちょうど見かけた言うてたから)
(そうなんだ。切原くんも声掛けてくれたら良かったのに)
(邪魔したらアカンって思ったんやって)
(……そんな風に見えるもの?)
(俺にも仲良しこよしに見えたで)
(修二の話をしたりしてたんだけどなあ)
(…お〜。言うてくれるようになったやん)
(やられっぱなしは悔しいもん)
ドイツ戦を終えたある日の夜
スマホに届いたメッセージに私は頭を抱えていた。
会いたくないわけではなくて
何を話したら良いのかわからなくて悩んでいる。
明日、ドイツ代表のビスマルクさんと
ショッピングに行くことになった。
一人でいる時に、唐突に連絡先を聞かれて
あんたじゃないとダメなんだ、と
謎のお願いをされたのだ。
確か柳くんのデータによると彼女さんがいたはずだから
デートとかそういうのではないのだろうけど
なんなんだろう。
「なーに難しい顔してるん?」
『うわ!び、びっくりした……』
顔に出ていたのだろうか、種ヶ島くんに顔を覗き込まれ
眉間をつん、と突かれた。
種ヶ島くんとビスマルクさんは
試合のあと仲良さげに見えたし
ここは種ヶ島くんに相談したほうが良いのかな?
でもビスマルクさん的には誰にも言わないほうが良いのかな?
色々考えた結果、種ヶ島くんには話さないことにした。
一番変に誤解をされたくない相手だから
ふたりで出掛けることはバレたくない。
「なんかあったん?」
『ううん。なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ』
「…さよか〜」
この感の鋭い男を騙せたかはわからないけど
とりあえず彼はそれ以上聞いてはこなかった。
翌日、指定された場所へと向かうと
約束の時間までまだ15分前なのに
モデルさながらの格好でビスマルクさんが既に待っていた。
『ビスマルクさん、すみません。お待たせしてしまって』
「やっぱり日本人はマナーがちゃんとしてるな。
早めに来て正解だったぜ」
外国の人にとって、日本人は生真面目で計画的
そういうイメージがあるのだろう。
彼は日本人のスタイルに合わせてくれたようで
マメな人だという印象を受けた。
あ、そうか。
手塚くんがチームメイトなら尚更だろう。
『私に合わせてくれてありがとうございます。
それで今日は……』
「チッチッチ。敬語はナシだぜ。確か歳は同じだろ?
そんなに気負わず気楽に話そうぜ」
『あ……うん。わかった。じゃあそうするね』
さん付けもしないようにと言われて
ビスマルク、と呼ぶことにしたけど
少し気恥ずかしい気もする。
“敬語をなくす、名前で呼び合う”なんて
日本人同士ではほぼ初対面でなかなかしないような
コミュニーケーションのやり方だ。
こんなに一気に人との距離を詰めるなんて慣れないけど
彼は自然と相手に心を開かせるような
不思議な人だと思った。
そして今日のショッピングの主旨を聞いて
私が選ばれたことがやっと理解できて
昨日までの緊張は一気になくなった。
「どういうのが良いのか悩んでてな」
『そういうことなら任せて』
着いたのは、“Japanese”の看板が掛かったお店。
日本食や日本らしい雑貨が置いてあるお店らしい。
ところどころ、日本なのか怪しいものもあるから
ビスマルクがどれが良いのか悩むのもわかる。
彼は、恋人であるアスリットさんに
渡すプレゼントを悩んでいた。
前々から日本に興味のあった彼女に
日本の物を渡したいのだけど
この店でどれが良い物なのか検討がつかなかったらしい。
「クニミツにも聞いたんだが
あいつのチョイスは少しズレてる気がしてな」
『う、うん。確かに彼はそういうのに疎そうね』
手塚くんが女の子へのプレゼント、と考えて
あまり想像出来ず思わず笑ってしまった。
さて、日本らしい女の子向けのプレゼントは
何が良いだろう。
写真で見たアスリットさんを思い浮かべて小物を手に取る。
ハンカチ、手鏡、小物入れ。
伝統的な柄よりも、桜とか菊とか花柄のほうが似合いそう。
ビスマルクとあれこれ言いながら選ぶプレゼント探しは
すごく楽しい時間だった。
「今日はありがとな。おかげで良い物が選べたぜ」
『どういたしまして。きっと喜んでくれるよ』
結局選んだのは
ちりめん細工のポーチと桜が描かれた風呂敷。
風呂敷は車椅子に結んでリボンのようにしたらどうかという
私の案が採用され
ビスマルクは満足気にプレゼントを眺めていて
誰かを想う表情は、すごく素敵だった。
ふと、そんな彼を見て気がついた。
ビスマルクは、種ヶ島くんと似ている。
試合の時もふたりが似たタイプであることは
わかってはいたのだが
今回試合じゃないときの表情、仕草、話し方を見て
内面がすごく似ていると感じた。
まあ、種ヶ島くんのほうが軽いから
好きになるなら、ビスマルクのほうが堅実的で
理想的なのかもしれない、なんて勝手に思っていたら
彼はにやり、と笑った。
「何だ?タネガシマのことでも考えてるのか?」
『えっ!?なんで…!』
「お。カマかけてみたんだが、まさか本当だとはな」
やられた、と思ってジト目で見ると
ぽんぽんと頭を撫でられた。
「誰のこと考えてるのか、すぐにわかるな。
今日日和の色んな表情を見たけど
タネガシマを見るときの表情が、一番綺麗だぜ」
『それは…好きだから、ね』
ビスマルクにバレているくらいなら
本人も気づいているのではないだろうか。
私の、この片想いに。
いつになったら、気持ちを伝える決心がつくのやら
どこか他人事のように思っていたら
私の頭を撫でるビスマルクの手が止まった。
「ビスっち、手ぇ出したらアカンで?」
『え!種ヶ島くん!?』
いつの間に現れたのか
種ヶ島はビスマルクの手を掴み
私とビスマルクの間に割って入ってきた。
「色男の登場だな」
「ビスっちにそう言われると光栄やわあ」
ビスマルクは楽しそうに笑っているけど
種ヶ島くんは少し不機嫌そうだ。
この空気をどうしたらいいのだろうかと迷っていたら
ビスマルクは背を向けて片手を上げた。
「日和、今日は楽しかったぜ。またな」
『あ、うん!ビスマルクまたね』
ビスマルクが去った後
種ヶ島くんは彼の姿をじっと見つめてから
ニコッと笑って私の方へと振り向いた。
「ほんで?なんでふたりでデートしてるか教えてくれへん?」
『デートじゃないよ!
今日のはアスリットさんへのプレゼント選びで…』
種ヶ島くんに今日の主旨を話す。
だけど、私が話し終えたあとも彼は少し不機嫌そうで
普段見ないような表情をしている。
マネージャーとして、勝手に他の国の選手と交流を持つなんて
やっぱりダメだったのだろうか。
「…楽しかったん?」
『え?うん。楽しかったよ。
私あんまり海外選手の人と接したことがなかったから
良い機会になったし、良い経験にもなったよ』
「あ〜…日和らしい答えに安心すんねんけど…
…えらい親しげになってたやん」
『ビスマルクが、さん付けも敬語もナシって言うから…』
「距離も近かった」
『外国人って皆あんな感じじゃないの?』
「俺のことも名前で呼んでや」
『え?』
「俺より親しげなん、妬けるんやけど」
突拍子もない発言を聞いて思わず彼の顔を凝視した。
冗談なのか、本気なのか
どういう意図なのか、わからない。
妬けるって、どういう意味?
それだとまるで私のことを、と都合よく考えていたら
徐々に顔が熱くなってきた。
『私、修二…ともっと親しく、なれるの…?』
「俺はなりたいと思うてるんやけど」
スッと伸びてきた手は
先程までビスマルクに撫でられていた頭に触れた。
さっきからズルい。
本心が見えないくせに
まるで気があるよって、わざとアピールされているようで
試されている気がする。
やっぱり、ビスマルクみたいに
堅実的な人を好きになれればよかったのに
私は目の前の、少しだけ意地悪に微笑むこの人のことが
好きで好きで、たまらないのだと思ったのだった。
(そういえばよく場所がわかったね)
(あぁ。赤福がなちょうど見かけた言うてたから)
(そうなんだ。切原くんも声掛けてくれたら良かったのに)
(邪魔したらアカンって思ったんやって)
(……そんな風に見えるもの?)
(俺にも仲良しこよしに見えたで)
(修二の話をしたりしてたんだけどなあ)
(…お〜。言うてくれるようになったやん)
(やられっぱなしは悔しいもん)