『暑い……』



ジメッとした梅雨が過ぎ去ると
一気に気温が上昇して、真夏がやってきた。
燦々と照りつける太陽は、もはや殺人的な暑さ。
熱中症対策で練習中もしばしば休憩が入るようになった。

マネージャーである私も例外ではなく
ちゃんと休むようにとのお達しがあったので
こまめに水分補給は心掛けている。
がしかしこの暑さだ。
用意していた飲み物はすぐになくなり
体はキンキンに冷えた飲み物を欲しているので
炎天下の中、自販機へと向かうことにした。



「お、郁美ちゃんお疲れ☆」



軽快な声の主は種ヶ島。
種ヶ島はスポーツドリンク片手に
自販機のそばに立っていた。
この人は、背後に海が見えるような気がしてくるほど
暑い真夏がよく似合う。



『お疲れ様。今日はすこぶる暑いねぇ』

「ホンマやなあ。
夏は好きやけどここまで暑いとしんどいわ。
ジュース買いに来たん？」

『うん。そう。スポーツドリンクを……って…あれ？』




自販機を見ると、赤いランプが点いている。
仕方がないと他の自販機を見るも
なんとすべて売り切れで
残っているのは喉の渇きが癒えそうにない
甘ったるい飲み物ばかり。



『えぇ……全部売り切れ？』



落胆しつついくつか並んでいる自販機を
くまなく見てみるも本当に全て全滅。
今売り切れならば、補充されても
冷えるまでに時間は掛かるし
別の自販機に行く気力はない。




「残念ながら、これが最後の1本やってん☆」



種ヶ島はウィンクしながら
結露したペットボトルを見せつけてきた。



『そんなぁ……』



水道水を飲むしかないと肩を落としていたら
スッと、スポーツドリンクを差し出された。




「これ飲みぃや」

『え、でも…』

「熱中症なってまうで。
次の休憩まで何も飲まんのはきついし
水道水じゃ塩分補えんて」



私の行動はバレバレだったようで
心を読まれているかのような言葉にギクッとした。



『本当にいいの？』

「大事な女の子に倒れられたら困るからなあ」



大事な女の子、にちょっと
ときめきそうになったけど
種ヶ島のことだからこれが通常運転なのだろう。
まあ大事なマネージャーって意味か。



『じゃあ、一口だけもらうね』



カラカラの喉に冷たく優しい甘みが広がって
ほどよい塩分が体に染み渡る。



『生き返る〜！種ヶ島ありがとう！』



スポーツドリンクって
こんなに美味しかったっけ？と口にすると
種ヶ島は楽しそうに笑った。



「そら修さんの愛情入りやからな」

『あはは、何それ』

「それにしても、なーんも感じてくれへんのは
ちょっと男として自信なくしてまうなあ」




どういう意味なのか聞こうと
私より上にある顔を見上げると
ふっと微笑み、人差し指を私の唇に当てた。



「間接キス、やな」

『あっ……！？えっ…！そ、そういうつもりじゃっ…！』



言われて気がつき、ぶわっと、一気に体温が上る。
間接キスであたふたするほど子供ではないが
種ヶ島の仕草と、距離感がずるい。
こんなのドキドキするに決まっている。



「あらら。顔真っ赤やけど、熱中症になってへんやろか？」



ずいっと、より体を寄せられて
これ以上は無理だと、種ヶ島の体を押し返す。
押し返したことによって、触れてしまった筋肉質な胸板に
またドキドキしてしまって
顔が、全身が火照って仕方がない。



「意地悪しすぎたお詫びに、これもらってや。
残りの愛情も、ぜーんぶちゃんと味わってな☆」



手渡されたペットボトルを受け取ると
種ヶ島は満面の笑みを浮かべて
そのまま去って行った。
火照った体と沸騰しそうな頭を落ち着けようと
受け取ったスポーツドリンクを口にすると
なぜか先程よりも少し甘く感じた。

明日にでも
新しいスポーツドリンクを買ってお礼に渡そうか。
その時は、私の愛情が入っていると、伝えて。










(ん？これ俺にくれるん？)
(う、うん…お返し)
(わざわざええのに〜。おーきにな)
(こちらこそ…)
(どないしたん？なんかいつもとちゃうやん)
(えーと、その……
それ！私の愛情、入ってるから！それじゃ！)
(…ハハッ！言い逃げされてもーた。
こうくるとは思うてへんかったわ。
愛情入りのスポドリ、感想伝えなあかんなあ)