夜景と雨粒
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「雨で残念やなあ。
ここ、晴れた日はもっと綺麗なんやで」
得意げに笑う修二を見て、少し寂しくなった。
観覧車と某有名な橋が綺麗に見える海沿いのこの場所は
雰囲気のあるデートスポット。
水面に映る夜景は、雨粒がなければ
きっとキラキラと輝いていたのだろう。
『雨でも、十分だよ。京都じゃ見られないもの』
言いたかった言葉は、本当はこれじゃない。
連れてきてくれたことは、すごく嬉しい。
だけど胸に引っかかる
その、もっと綺麗な夜景は誰と見たの?という問いを
言葉にする勇気はなかった。
修二とは、幼馴染とまでいかない
気の合う友人で、腐れ縁のような関係。
高校卒業後、修二は東京に
私は地元の京都の大学へと進学したのだけど
たまに連絡を取ったり、修二が帰省してきたときに
友達含めて数人で飲んだりする
そんな付き合いが続いていた。
今日は、たまたま好きなアーティストのライブが
東京であったので
なんとなく彼に連絡してみたら
会おう、ということになったのだった。
卒業後にふたりきりで会うのは初めてだったし
高校生の時よりも、大人びた修二を見て
最初はかなり緊張していたのだけど
相変わらずの楽しいトーク力のおかげで
緊張はずぐにほぐれた。
「大学はどうなん?」
『高校の時と違って好きなことを学べるし
バイトしたり、サークルしたり…けっこう充実してるよ』
ちょっとだけ、見栄をはった。
大学生活は楽しいのだけど、本当は少し物足りない。
物足りなさは、今日修二に会って確信した。
きっと、彼がいないからだ。
「さよか。良かったやん」
『うん』
修二はどう?って聞くべきなんだろうけど
あれこれ考えてしまって聞くことができない。
自分は見栄をはったくせに
彼が充実している様子が伺えたら
きっと私はまた少し寂しくなってしまうのだ。
駅までの歩き道、雨脚が先程より弱まってきた。
1つの傘で夜景を見つつ歩く私達は
はたから見たら恋人同士に見えるのだろうけど
カップルに見えるかな、とか冗談でも言おうものなら
そばにいられる今が崩れて、壊れてしまいそうで言えない。
肩が触れるのも、冗談を言えるのも
今までは友達だったから平気だった。
気持ちを自覚した今は
私はただただ隣を歩くことしかできない。
「せやけどちょっと残念やわあ。
俺がおらんくて
もうちょっと寂しがってくれるかと思ったのに」
『はいはい。寂しいですよ〜。
面白いこと言って笑わせてくれる人なんて
他にいないからね』
「俺おもしろ要因なん?
おかしいなあ。こっちではけっこうモテてるんやけど」
こっちではって、こっちでも、の間違いでしょ。
高校のときだっていつも可愛い子達が周りにいて
修二はいつでも人気者だった。
私はそれをただ気にしないふりをして
傍観していただけ。
思えばきっと、あの頃からずっと彼が好きだったのに。
とん、と触れる肩が熱い。
意識してしまって話せずにいたら
修二の口数もなぜか減ってきた。
こんなときこそ、話してほしいのに、と
そんなことをぼんやり思いながら
海の方に視線をやると
水面が綺麗に夜景を写していた。
雨は、いつの間にか止んでいる。
気づいていないのかな。
いや、このいつも周囲を見ている修二が
雨がやんだことに気が付かないはずがない。
なら、どうして傘を閉じようとしないの?
駅に向かうはずの信号を渡らず
向かったのは海に掛かったスロープ。
思わず修二を見上げると
ふっ、と目を細めて微笑んでくれた。
その表情に、その行動に、期待しても良いのだろうか。
「もうちょっと、歩こか」
『うん……もう少し、一緒にいたい』
手を繋ぐことも
寄り掛かることも
これ以上、先を望む言葉も交わすことも
まだできそうにはないけど
今は、そばにいられるこの時間が
ずっと続けば良いと、心から願ったのだった。
(次は、いつ会おか)
(え?次?あ……いつ帰ってくるの?)
(次はそやなあ…帰るんは盆になるけど
会うことはできるやん)
(え??)
(帰省せぇへんと会えんわけやないやろ?)
(それはそうだけど、それだと…)
(それだと?)
(い、いや…なんでもないです)
(えぇ〜。そこは私のために?ってなるとこやーん)
(わ、私のため、に?……私に会いたいの?)
(英理に会いたい。
せやから今日も会おうって言うたんやけど)
(……期待するんだけど)
(期待してや☆)