『あ、あの……寿三郎さん…？』

「…………」

『えっと……怒ってますか？』

「…………」



先程から無言でずっと抱き締められている。
いつもより力が入っていて、少し痛いくらい。



『……寿三郎さん、少し、痛い』



寿三郎さんは眉を下げて
悲しそうな顔をして私から離れた。



「……俺、ほんま情けないわ。余裕なさすぎやんけ」

『余裕…？』



寿三郎さんはまた黙ってしまった。
うまく言葉がまとまらないのか
なにか言いたそうに、でも言いにくそうにしている。



『……たまには、吐き出さなきゃって言ったのは
寿三郎さんですよ？
言いたいことはちゃんと話してください』

「……舞ちゃんが
他の男と仲良うしてるのが嫌やったんよ…」

『え…？』

「さっき、柳と幸村と楽しそうに話しよるの見て
やっぱり同年代ってええなぁって…。
舞ちゃんタメ口やし
俺とおる時とはちゃうなぁって…」



寿三郎さんはしゅんとして話し続ける。



「それに……舞ちゃんが可愛えから皆見てはるし
…種ヶ島さんは触ったりするし
ちょっと我慢できへんくて…俺、格好悪いわ」

『……えーと、やきもちってこと、です？』

「………せやね。妬いとる…めっちゃ妬いとる」



寿三郎さんは
やってしまったー、みたいな顔をして
頭を抱えているけど
私はただただ、嬉しさしかなかった。




「……舞ちゃんなんでニヤニヤしよるんよ」

『だって、嬉しいじゃないですか。
気にしてくれてるんだってことですもん』

「気になるに決まってるやんけ。好きなんやから」




改まって"好き"と言われて少し照れてしまう。




『……柳と幸村くんとは、寿三郎さんの話をしていました』

「俺の？」

『はい。馴れ初めを聞かれたので。
楽しそうに話をしていたのは
寿三郎さんの話だからですよ。
それに、俺といるときと違うって
同級生と恋人ですよ？違うに決まってるじゃないですか』



寿三郎さんの顔が赤く染まる。



『それに種ヶ島さんに
触れられたのは確かにビックリはしましたけど…
そのあと、寿三郎さんが助けてくれたのは
格好よかったです』



"触らんといて下さい"って、めちゃくちゃ嬉しかった。



「…俺、重ない？
舞ちゃんに嫌な思いさせてへん？」

『寿三郎さんにされて、嫌なことなんてありません』




ガバッと、思い切り抱きつかれたので
私はバランスを崩して
後ろ手にあったベッドに倒れてしまった。




「ごめっ…………あ……」

『大丈夫で、す……』


状況的には、ベッドに押し倒されたような状態。
昨日のこともあり
期待と不安が入り交じる。
さっきまで、叱られた子犬のような雰囲気だったのに
徐々に熱っぽい瞳へと変わる。
寿三郎さんのこのギャップに
いつもクラっとしてしまう。




「……ちょっと、俺って印、つけてもええ？」

『印？』



きょとんとしていると
首筋にチクッとした痛みが走る。




『んっ……や、首は……弱くって……！』

「…舞ちゃん、そないな顔、したらあかんよ」




唇が触れようとした時
"コンコン"とドアがノックされた。




「舞ちゃーん、毛利ー！おるんやろー！」

「またあの人は…………」



種ヶ島さんの声がして
寿三郎さんは項垂れながらもドアへと向かう。



「開けてくれておおきに。
ふたりとも、さっきはごめんなぁ。
ちょっとおふざけがすぎたわ！」




軽く謝る種ヶ島さんと
それを小突く大曲さん。




「俺からも謝るし。
こいつが変なことしたせいで悪かったな」

『いえ、私は大丈夫です』





種ヶ島さんと目が合うと
彼は一瞬目を見開いて、寿三郎さんと肩を組んだ。
ホソボソとなにか話しているようだったけど
私からは聞こえない。
大曲さんからは
「本当に悪かった。……無理はすんなし」
と言われたけど、何に対しての言葉だったのかは
まだわからないでいた。












(お前、やることやってるやん☆)
(ま、まだやってへんです……って、関係ないですやん！)
(キスマーク、見えるとこに付けたんやろ？
いっちょ前に牽制ってことかいな）
(種ヶ島さんが悪いんや)
(すまんすまん。
そうや。かわええ後輩のため、修さんからのプレゼントや！)
(え？いやいやいや、何渡すんですか！
なんで持ってはるんですか！)
(ええツッコミや！ええか、男の嗜みってやつやで☆)
(なんで合宿所にまで……)
(なにがあってもええようになっ)
(･･･一応、もろときます･･･)
(貰うのかよ。お前らいい加減にしろし)