調子にのっても良いですか?
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『今日は、飲んで帰ろう…』
ミスだらけの1週間を終えて
金曜日、一人で飲みに行くことにした。
同期を誘ってみたけど
今日は同じ部署の先輩と飲みに行くらしく
断られてしまった。
たまに行く居酒屋に入り
いくつか注文をした料理が運ばれてきた時
隣に誰か座ってきた。
「ほう、案外好みは渋いのだな」
『え!や、柳主任!』
「俺も飲みたい気分でな。隣に座らせてもらうぞ」
『もちろん、です』
渋いと言われても仕方がない。
私が頼んでいたのは
日本酒と刺身と揚げ出し豆腐。
もう少し、女子らしい
可愛らしいものを頼んでおけば良かった。
って、可愛らしいものってなんだろう。
カクテルとかチーズとか?
「俺はカクテルを飲むのが女性らしいとは思わないぞ」
『え!なんでわかったんですか…』
「お前は顔に出やすいタイプだからな。
さて、俺も同じものを頼もう。
どうやら好みが似ているようだ」
いつもはきっちりと着こなしているスーツを
少し着崩した姿はレアで
会社とは雰囲気の違う柳主任に緊張してしまう。
「では、乾杯」
『あっ、は、はい。いただきます』
柳主任が、日本酒飲んでる…
なんだろう、この慣れない風景。
いつも涼しい顔つきでコーヒーを飲んでいるのに
今日はネクタイを弛め、腕捲りをしてお猪口を傾けている。
『日本酒、飲むんですね』
「そうだな。飲むのなら日本酒か焼酎が多い。
元より日本の酒だ。食事にも合う」
『わかります!焼酎ってお好きなのは麦か米ですか?』
「正解だ。よくわかったな」
『スッキリした飲み口がお好みなのかと』
実は私はお酒が好きなのだ。
好きといっても、毎日家で飲むわけではなく
こうやってたまに良い酒を少し飲んで楽しむ。
自分の好きなお酒の話で緊張もなくなり
他愛のない会話を続ける。
「少しは顔色が戻ったな」
唐突に話を振られて、一瞬なんの話かと思った。
『はい…。
すみません、今週は本当にご迷惑をお掛けしました』
「いや、謝ることはない。それに今は会社ではないからな。
俺のことは単なる…そうだな、年上の知人のように
思ってくれてかまわない」
柳主任の気遣いが身に染みる。
『………私、学生の時から
これと言って取り柄も強みもなくて。
平凡で普通で。何しても真ん中、って感じでした。
それでも、何にでも一生懸命やるとこが唯一の強みで…』
唯一、人に自慢できると思っていたことですら
うまくできなくなってしまった。
一生懸命やっても、空振ってばかりで
正直なところ自信が皆無だ。
これからどう仕事していいかが、わからない。
私の話を黙って聞いてくれている柳主任に甘えて
私は自分の胸の内をさらけ出した。
「お前はもっと自信を持っていい。
俺は鈴原を評価している」
『どこがですか…同期のほうが、私より優秀です』
「優劣というのは人それぞれだ。
鈴原には鈴原の、同期の彼らには彼らの。
それぞれ秀でているところ、足りないところがある」
『………』
「例えば、経理に配属になった谷口は
定型業務は正確だが、柔軟性がない。
営業の田中は話上手で営業には向いているが
スケジュール管理能力がない。
山田は同時進行で業務に取り組めないし
山本はサボりたがる傾向にあるな」
別の部署なのに、柳主任は私の同期を把握していて驚いた。
…後半はかなり辛辣、というか
けっこう貶しているような気がするけど分析力がすごい。
『谷口くんとか、
けっこう仕事に自信があるって感じだったので
今の話、意外でした』
「人は良い面しか見せたがらないからな。
それに異性にはよく見られたいものさ」
『そう、なんですかね。
私は、良い面を見せようとはあまり思いません…というか
ただ人様に自慢できるとは思えなくて』
だんだん自分が卑屈になって来ているように思えてくる。
いじけた、ただめんどくさい女になっていて嫌になる。
「ふっ…。
俺はお前のそういう傲らないところが良いと思うぞ」
『調子にのらないってことですか?』
「まぁそうとも言えるが…鈴原はただ直向きに
真摯に取り組む姿勢が良いってことだ。
あとは自分では気付いていないようだが
お前はよく周囲を見て判断できている。
いま自分がどうすべきか、どう動けば角が立たないか
自分の立ち位置を作るのがうまい。
だから…人から好かれやすいのだろうな」
スラスラと褒められて
恥ずかしがる暇もなかった。
あまり考えずに動いていたし
人に好かれている自覚もなかった。
それでも、ちゃんと私のことを見てくれている人がいて
素直に嬉しいし、ちょっとくすぐったい。
「総務というのは会社の中心だ。
お前の同期の中で、他には任せられる奴はいない。
だから、自信を持っていい」
頭を撫でられ
いつもより優しく微笑む柳主任にドキッとする。
改めて見ると、私の先輩はめちゃくちゃ
格好いいのだと実感する。
今さらになって、この状況が恥ずかしくなってきた。
二人で飲みって、かなりハードル高いのに。
「どうやら少し酔ったようだな。顔が赤い。
…それとも、その頬は俺を意識してのことだろうか?」
『うっ………どっちでしょうね』
「後者だと願いたいものだな」
月曜日。
金曜日のことを思い出しつつ
ちょっとだけあの時間を励みにしてたら
今まで通り、きちんとこなせるようになってきた。
調子に乗らない。
あの柳主任との出来事も、調子に乗らない。
ひっそりと、思い出にしておこうと思っていたけど
柳主任からは今度の休みに美術館に行かないかと誘われるし
私と柳主任の二人飲みの噂が、尾ひれをつけて出回っていた。
…少しは調子に乗ってもいいだろうか?
どうやら暫くは、集中できないかもしれない。
(すみません…、なんか噂が飛び交ってて)
(ああ。驚いたな。
ここまで尾ひれがつくとは、俺のデータにはなかった)
(…もしかして、少しは噂になるかもって思ってました?)
(無論、予想はしていた。
うちの社員も出入りする店だしな)
(予想してたのに一緒に飲むって…
そこまでして励まして下さってありがとうございます)
(………ふむ。俺の予想以上に、鈴原は鈍いようだな)
ミスだらけの1週間を終えて
金曜日、一人で飲みに行くことにした。
同期を誘ってみたけど
今日は同じ部署の先輩と飲みに行くらしく
断られてしまった。
たまに行く居酒屋に入り
いくつか注文をした料理が運ばれてきた時
隣に誰か座ってきた。
「ほう、案外好みは渋いのだな」
『え!や、柳主任!』
「俺も飲みたい気分でな。隣に座らせてもらうぞ」
『もちろん、です』
渋いと言われても仕方がない。
私が頼んでいたのは
日本酒と刺身と揚げ出し豆腐。
もう少し、女子らしい
可愛らしいものを頼んでおけば良かった。
って、可愛らしいものってなんだろう。
カクテルとかチーズとか?
「俺はカクテルを飲むのが女性らしいとは思わないぞ」
『え!なんでわかったんですか…』
「お前は顔に出やすいタイプだからな。
さて、俺も同じものを頼もう。
どうやら好みが似ているようだ」
いつもはきっちりと着こなしているスーツを
少し着崩した姿はレアで
会社とは雰囲気の違う柳主任に緊張してしまう。
「では、乾杯」
『あっ、は、はい。いただきます』
柳主任が、日本酒飲んでる…
なんだろう、この慣れない風景。
いつも涼しい顔つきでコーヒーを飲んでいるのに
今日はネクタイを弛め、腕捲りをしてお猪口を傾けている。
『日本酒、飲むんですね』
「そうだな。飲むのなら日本酒か焼酎が多い。
元より日本の酒だ。食事にも合う」
『わかります!焼酎ってお好きなのは麦か米ですか?』
「正解だ。よくわかったな」
『スッキリした飲み口がお好みなのかと』
実は私はお酒が好きなのだ。
好きといっても、毎日家で飲むわけではなく
こうやってたまに良い酒を少し飲んで楽しむ。
自分の好きなお酒の話で緊張もなくなり
他愛のない会話を続ける。
「少しは顔色が戻ったな」
唐突に話を振られて、一瞬なんの話かと思った。
『はい…。
すみません、今週は本当にご迷惑をお掛けしました』
「いや、謝ることはない。それに今は会社ではないからな。
俺のことは単なる…そうだな、年上の知人のように
思ってくれてかまわない」
柳主任の気遣いが身に染みる。
『………私、学生の時から
これと言って取り柄も強みもなくて。
平凡で普通で。何しても真ん中、って感じでした。
それでも、何にでも一生懸命やるとこが唯一の強みで…』
唯一、人に自慢できると思っていたことですら
うまくできなくなってしまった。
一生懸命やっても、空振ってばかりで
正直なところ自信が皆無だ。
これからどう仕事していいかが、わからない。
私の話を黙って聞いてくれている柳主任に甘えて
私は自分の胸の内をさらけ出した。
「お前はもっと自信を持っていい。
俺は鈴原を評価している」
『どこがですか…同期のほうが、私より優秀です』
「優劣というのは人それぞれだ。
鈴原には鈴原の、同期の彼らには彼らの。
それぞれ秀でているところ、足りないところがある」
『………』
「例えば、経理に配属になった谷口は
定型業務は正確だが、柔軟性がない。
営業の田中は話上手で営業には向いているが
スケジュール管理能力がない。
山田は同時進行で業務に取り組めないし
山本はサボりたがる傾向にあるな」
別の部署なのに、柳主任は私の同期を把握していて驚いた。
…後半はかなり辛辣、というか
けっこう貶しているような気がするけど分析力がすごい。
『谷口くんとか、
けっこう仕事に自信があるって感じだったので
今の話、意外でした』
「人は良い面しか見せたがらないからな。
それに異性にはよく見られたいものさ」
『そう、なんですかね。
私は、良い面を見せようとはあまり思いません…というか
ただ人様に自慢できるとは思えなくて』
だんだん自分が卑屈になって来ているように思えてくる。
いじけた、ただめんどくさい女になっていて嫌になる。
「ふっ…。
俺はお前のそういう傲らないところが良いと思うぞ」
『調子にのらないってことですか?』
「まぁそうとも言えるが…鈴原はただ直向きに
真摯に取り組む姿勢が良いってことだ。
あとは自分では気付いていないようだが
お前はよく周囲を見て判断できている。
いま自分がどうすべきか、どう動けば角が立たないか
自分の立ち位置を作るのがうまい。
だから…人から好かれやすいのだろうな」
スラスラと褒められて
恥ずかしがる暇もなかった。
あまり考えずに動いていたし
人に好かれている自覚もなかった。
それでも、ちゃんと私のことを見てくれている人がいて
素直に嬉しいし、ちょっとくすぐったい。
「総務というのは会社の中心だ。
お前の同期の中で、他には任せられる奴はいない。
だから、自信を持っていい」
頭を撫でられ
いつもより優しく微笑む柳主任にドキッとする。
改めて見ると、私の先輩はめちゃくちゃ
格好いいのだと実感する。
今さらになって、この状況が恥ずかしくなってきた。
二人で飲みって、かなりハードル高いのに。
「どうやら少し酔ったようだな。顔が赤い。
…それとも、その頬は俺を意識してのことだろうか?」
『うっ………どっちでしょうね』
「後者だと願いたいものだな」
月曜日。
金曜日のことを思い出しつつ
ちょっとだけあの時間を励みにしてたら
今まで通り、きちんとこなせるようになってきた。
調子に乗らない。
あの柳主任との出来事も、調子に乗らない。
ひっそりと、思い出にしておこうと思っていたけど
柳主任からは今度の休みに美術館に行かないかと誘われるし
私と柳主任の二人飲みの噂が、尾ひれをつけて出回っていた。
…少しは調子に乗ってもいいだろうか?
どうやら暫くは、集中できないかもしれない。
(すみません…、なんか噂が飛び交ってて)
(ああ。驚いたな。
ここまで尾ひれがつくとは、俺のデータにはなかった)
(…もしかして、少しは噂になるかもって思ってました?)
(無論、予想はしていた。
うちの社員も出入りする店だしな)
(予想してたのに一緒に飲むって…
そこまでして励まして下さってありがとうございます)
(………ふむ。俺の予想以上に、鈴原は鈍いようだな)