鈴原香、この会社の新入社員。
1カ月の新人研修を終えて、今日からが本番。
配属部署への初出勤だ。

面接の時も緊張したけど
今のほうがもっと緊張してる。
同期は私を入れて5人いて
3人は営業で、1人は経理、そして私は総務だ。
私は本社での勤務になるので余計に緊張してしまっていて
同じ本社勤務の男の子に笑われてしまった。
なんで彼はあんなに余裕なんだろうか。
私も頑張らねば、と思い自分の部署へと向かう。





『お、おはようございます！』

「あぁ。おはよう。早いな」





できるだけ大きな声で挨拶をすると
一人の男性が顔を上げて答えてくれた。
あ、この人何度か見たことがある。
研修期間の時に何度か研修資料を
持ってきてくれていた人だ。
何か話さなきゃと迷っていると
やたらテンションの高い総務部長がやって来た。
朝礼までの間ずっと私に話しかけていたので
そのおかげで緊張は大分ほぐれ
スムーズに朝礼で挨拶をすることができた。





「教育係を務める柳だ。よろしく頼む」


先程挨拶をしてくれた男性は柳さんというらしい。
切れ長の目にスラッとした身長。
和風美人って雰囲気の綺麗な人。



『よろしくお願いします！』

「ふっ、いい返事だ。
ではまず部署全体の業務について教えよう。
午後からは１日の流れについてだ」

『わかりました！』








その日から、１日はあっという間に過ぎて
１週間、１ヶ月、と気が付いたら
入社して半年が経っていた。
まだイレギュラーに対応するスキルはないけど
通常業務に関しては問題なく取り組めている、と思う。
これも全部面倒見の良い柳主任のおかげ。
業務マニュアルは完璧だし、教え方もうまい。
仕事だけでなく、先輩としてもすごく尊敬できる人。




「鈴原、入社して半年が経つが
仕事には随分と慣れてきたようだな」

『柳主任のおかげです。
いつも丁寧に教えて頂いているので』

「鈴原は理解力が速いから教えがいがある。
ただ、慣れた頃が一番注意が必要だ。
足元を掬われないよう、気を引き締めて取り組むように」

『はい！』







と、元気よく返事をしておいて
やってしまった初めての大きなミス。
備品の発注単位を間違えて頼んでしまって
大量に届いてしまった。
10本入りを5箱、と思って注文したら
100入りだったのだ。
50本でいいものを、500本在庫を抱えることになり
しかも返品もできない。

そればかりか、データの作成で
もとになるデータを間違えて消してしまったり
電話の取り次ぎが上手くいっておらず
他の先輩に迷惑をかけたり…
ここのところ、ミス続きだった。

柳主任もテンションの高い部長も
他の先輩達も、総務の人達は優しくて
注意はされてもすぐにフォローしてくれて
自分の不甲斐なさが情けなく感じてくる。