地味な私と眩しい同期

絶対断るつもりだったのに
ついつい白石くんを含めた同期三人に押しきられ
飲み会に参加することになってしまった。
1時間参加して
あとは帰ろうかなと考えながらお店に入る。



「[#dc=1#]さん!こっちやで~!」


白石くんが満面の笑みで手を振っている。
これは簡単には帰れそうにないな、と諦めた。




参加人数は思っていたよりも多くて
15人くらいは集まっている。
ほとんどがここ数年に入社した若手ばかりだ。
どうやら白石くんは幹事らしく
慌ただしくも、にこやかに注文したり
先輩達と談笑してる。
相変わらず眩しくて仕方がない。
私に至っては同期の子の隣に座って
ただただ先輩達の話に相づちを打つだけ。


「あ、千歳来た」

『千歳くん、マイペースだよね』

「ごめん、ちょっと行ってくるね」



そう言うと彼女は千歳くんのもとに。
しっかりしている彼女と千歳くんって
不思議な組み合わせだけど
なんだかんだ仲が良いみたい。
本当に、私以外の同期3人は
皆それぞれキャラも個性も豊かで輝いてる。




「[#dc=1#]さーん、飲んでるぅ?」


一人で座っていたのに目をつけられたのか
だいぶ酔っ払った先輩が隣に座ってきた。


『あ、えーと、はい…飲んでます』

「俺ずっと
[#dc=1#]さんと話してみたかったんだよねー」

『あはは…そうですか』



どうしよう、名前もわからないや。
確か隣の部署なのはわかるけど…



「彼氏とかいるのー?」

『え、いや…いないです』

「じゃあ俺とかどう?あ、それか白石は?
同期だよね?」

『いや…それは…』

「え?何々?もしかして白石アリ?俺はダメ?」




こういう時、どうしたら良いかわからない。
戸惑っている間に先輩はぐいぐいと近づいてくる。
嫌だー…と思った瞬間、誰かが間に割って入ってきた。




「先輩、飲みすぎとちゃいます?」

『白石くん…』



さっきまで向こうの席にいた白石くんが
自分のグラスを持って座ってきた。


「お!王子様登場やん!」

「ちょっ、先輩、もうそういうん、ええですから」



邪魔者は退散するとかなんとか言って
先輩はいともあっさり、他の席へと移動していった。
私の苦労は一体何だったのか。



「[#dc=1#]さん、大丈夫?」

『あ、うん。大丈夫。…ありがとう』


助けに来てくれたのだろうか?
だとしたら本当に出来る人だと思う。


「[#dc=1#]さん、俺が親睦深められたらなんて言うたから
断れへんかったよな。ごめん」

『えっ!いや、謝らなくていいよ・・・
その、私本当は飲み会、嫌いではなくて・・・』

「そうなん?」



飲み会自体、嫌いではないのだ。
ただ、学生時代に参加した飲み会では
さっきみたいに誰かと誰かをくっつけようとか
人の噂話とか、悪口に同意させようとか・・・。
お酒が入ると口調も荒く激しくなりやすいから
余計に雰囲気が居心地悪くて
でもその雰囲気に反したら「ノリ悪い」とか言われるし。



「[#dc=1#]さんは、ほんまに優しくて
あったかい人やと思うわ。
せやからそんな雰囲気、嫌やねんな」

『違うよ、私はただ、怖がりなだけだよ・・・。
地味で根暗で、取り柄もなくって』



あぁ、話しながらなんだか泣きたくなってきた。
本当に根暗すぎる。


「地味でも根暗でもあらへんし
取り得ないなんてこともあらへんよ。
俺は、[#dc=1#]さんのこと・・・」



白石くんが何かを言いかけていたけど
ラストオーダーの呼び声にかき消されてしまった。
幹事である彼は呼び出されて、最後のお開きとなった。
二次会の参加者を募っていたが、私は帰路につくことにし
周りの人にお疲れ様です、と声を掛けて皆の輪を抜け出した。



「俺、[#dc=1#]さん送ってくるんで!」


数歩歩いた先で、背後から白石くんの声が聞こえた。
驚いて振り返ると同時に、手を引かれる。
後ろからは野次の声が聞こえていた。




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