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「大阪支店から異動してきました
財前です。よろしくお願いします」
皆の前で挨拶する彼は
今日付けで本社に異動してきた新しい仲間。
第一印象は少しゆるっとした、ダルそうな
覇気の感じられないイケメン。
大阪支店で一番の営業成績を誇るという話から
バリバリの営業マンが来るのだろうと思っていた分
少しだけ肩透かしを食らった気分だ。
今回私は上司から
彼に事務の内容を教えるようにと言われた。
元々彼は営業職なので、教えることはほんの少しだけど
男性の後輩は初めてなので少しだけ緊張する。
『あなたのペアを担当します永谷です。
よろしくお願いします』
「どうも…」
おっと、予想以上のポーカーフェイスで驚く。
“こちらこそよろしく”の一言もないのか。
“どうも”って、社会人としてよろしくないだろう。
入社して8年経つが、後輩のビジネスマナーに対して
不安に思ったのは初めてだ。
…ここで小言を言っても、と思い
とりあえず財前君に業務の大まかな流れを教えることにした。
『と、まあ事務の流れはこんな感じ』
「思うてたより、やり方違うんスね」
元々同じ会社なのだから、使用しているシステムは同じだし
特別難しいことはない。
ただ、本社のやり方と支店のやり方では
細かいところが異なる。
その部分を指摘しながら教えると
自分が思っていたよりも手順が違っていて
少し驚いているようだった。
『そうね。
本当は全支店やり方を統一させるべきなんでしょうが…
なかなかうまくいかないのよね』
この手順でしてくれ、と本社が指示をしても
うちの支店は昔からこのやり方でしているんだ
間違えてはいないからいいだろう、と
各々の支店長から野次がくる。
だから一概に統一させるということはかなり難しいのだ。
金融機関や役所関係ならまだしも
うちのような中小企業は尚更。
流石に財前君に話すには愚痴のようになるので
なかなかうまくいかない、と濁して伝える。
「話の通じひん奴がおると、本社は苦労しますね」
涼しい顔をして、あまりにもサラッと毒舌が
飛び出してきたので思わず笑ってしまった。
『財前君、人から毒舌って言われない?』
「よう言われます」
『私ハッキリと意見を言える人って良いと思うよ。
憧れる』
「…いや、永谷さんかてハッキリもの言うてますやん」
さすが大阪人、素早いツッコミだなぁ。
確かに私もハッキリと意見とか言うほうだったわ
と思っていると
今度は財前くんが声を押し殺して笑っている。
『え、そんなに笑う?』
「永谷さんなら大阪支店でもやっていけますわ」
『いや、遠慮しておくよ』
なんだかんだ言いながら
財前君は教えたことをサラッと覚えてしまって
時間を持てたあました私は
彼を連れて社内を案内することにした。
『ここが食堂ね。あとこっちが休憩室。
コーヒーとか自由に飲めるから
自分のカップ持ってきてね』
「了解っス」
財前君を連れて歩くと
他部署の女性社員からの視線を感じる。
顔が良い営業が異動してきた、という話は回るのが早い。
当の本人は気づいているのか
気づいていないのか
はたまた無視しているのか。
社内恋愛は自由だけど、揉め事だけは避けたいなと思う。
「めっちゃかっこいい~!私が案内したい~!」
「永谷さんがペアらしいよ」
「えー、替わりたいー」
陰で聞こえてくる後輩達の声。
揉め事に巻き込まれる予感がして
さっさと案内を終わらせることにした。