七皇
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時空の狭間に吸い込まれ、そしてまた体が再構築される。着いた場所は悪意の海よりも更に紅かった。床も、壁も、天井すらも、紅いクリスタルの様なもので形成されていた。
そこには数人の同族がいた。到着したナッシュの姿を見て、皆口々に驚きの声を上げる。その中でもナッシュに似た雰囲気を持つ、アルマと同い年くらいの少女が、この場にいる全員の声を代弁するかのように問うた。
「ナッシュ、その娘は一体誰ですの?」
「アルマ。悪意の海で倒れていた。記憶を失っているようだ」
ナッシュのその一言により、周りが一層ざわめき出す。
「これから暫く、こいつを俺逹の仲間として迎え入れる。異論は無いな。」
ナッシュの威厳のある声が響く。異を唱える者はいなかった。やはり彼は、リーダーのような存在なのだろう。
「なら、今ここで自己紹介をしておいた方が良いんじゃないかしら? 折角仲間になるんだし」
「…ああ、そうだな。」
先程問いを投げかけた、ナッシュにどこか似た少女が言う。その声には喜色が含まれていた。ナッシュはアルマを下ろし、階段に座らせる。
「私はメラグ。ナッシュの妹ですの。バリアン七皇の1人、なんですが…実は七皇には他の女性がいなくて、少し寂しかったの。お友達になってくだされば幸いですわ。」
軽い礼をし、メラグは微笑みながら言った。成る程、ナッシュと似ているのは兄妹だからか。ドレスのようなスカートを纏い、髪には豪奢な飾りが着いている。お姫様、という表現がよく似合う娘だった。
「じゃあ、次はドルベにお願いしますわ」
「了解した。…私はドルベ。バリアン七皇の1人だ。同じバリアンとして、キミを快く受け入れよう。」
深々と頭を下げるドルベ。彼はナッシュやメラグとは対極的に、装飾の少ない、シンプルな姿をしていた。髪型がどことなく猫のように見えるのは、言わない方が良いのだろうか。
「ハイハイ!じゃあ次俺! 俺はアリト!BK使いだ!よろしくなアルマ!」
ドルベの挨拶が終わった直後、元気の良い声がした。アリトと名乗った少年もまた、口にはしていないが恐らくバリアン七皇の1人なのだろう。だが、ここで一つの疑問が出てきた。
「BK使い……?」
「ああ、アルマは記憶無くしてるんだっけか。BKってのは、俺が使うカードのテーマのことさ!強いんだぜ!今度デュエルしてくれよ!」
「デュエル……」
「おっと、記憶無くしてるならデュエルのルールも分かんねぇか…うーん…」
「…デュエル、出来るよ。」
「本当か!?…あーでも、デッキは…」
「デッキも、ある。ほら」
「!?」
『デュエル』、という言葉を聞いた瞬間に、アルマの目付きが変わる。アルマは記憶を失っている。それに変わりはない。だが、不思議とデュエルのルールだけは、すんなりと蘇ってきた。更に、まるで魂に刻み込まれていたかのように、自然な動作でデュエルディスクを構築させる。腕に粒子が集まり出来たそれには、間違いなくデュエルモンスターズのカードが、1デッキ分備えられていた。それを見たバリアン逹は、驚愕の目でアルマを見る。
「本当かよ!じゃあさ、明日にでも俺とデュエルしようぜ!」
アリトは目を輝かせ、無邪気にそう言う。よほどデュエルが好きなのだろう。だが、それを諌める声があった。
「彼女はまだ万全の状態ではない。それに慣れない環境にいるのだから、緊張もしているだろう。もう少し後にしたらどうだ。」
「ちぇー…分かったよ」
ドルベが穏やかな口調で言うと、アリトは残念そうに引き下がった。だが、実際アルマは相当体力を消耗していたので、この制止はありがたかった。
「んじゃ、次はオレの番だな!俺はギラグ、バリアン七皇の1人だ。よろしくな、アルマちゃん!」
アリトの近くに立っていた、他のバリアンより頭ひとつ分背の高い巨漢が前に出る。雰囲気から怖そうな人かと思っていたのだが、案外フレンドリーな人なのかもしれない。
「おい気を付けろよアルマ、こいつメラグとは違って優しそうでかわいい子が来て鼻の下伸ばしてやがるからな」
「なっ、アリト!」
そばにいたアリトが親指でギラグを指し、茶化すように言う。焦るギラグの前に、おや、冷気が…
「なんですって…」
「ひぃ!」
吹雪を背負い鬼の形相を浮かべるメラグ。だが、それだけでそれ以上のことはしなかった。恐らくこれが、彼らの日常風景なのだろう。アルマはそう思った。
「最後はミザエル、頼む。」
「ああ。私はミザエル、誇り高きバリアン七皇の1人。…アルマよ、もし妙な真似をしたら、タキオンの餌食になることを覚悟しておけ」
「えっ……」
「大丈夫ですわ。彼、あんなこと言うけれど、本当はとても仲間思いですの」
「メラグ、貴様…」
ミザエルの青い目がメラグを睨む。しかしメラグが意にも解さない辺り、彼はあの態度が通常運転ということだろう。厳しそうな人だが、悪い人ではなさそうだ。『タキオン』という単語が気になったが、それは聞かないでおこう。それよりも今は他の疑問の方が気になった。
「…あの、バリアン七皇、とおっしゃいましたけど…今いるのって6人ですよね…?」
ナッシュ、メラグ、ドルベ、アリト、ギラグ、ミザエル。全員の視線が突き刺さり、思わず敬語になってしまう。もしかして、6人なのは意味があるのだろうか。地雷を踏んでしまったのではないだろうか。そんな考えが頭をよぎるが、答えはすぐに返ってきた。
「ああ…あいつなら、また遅刻じゃねえの?」
「いつものことですわ。」
「バリアン七皇召集の合図なら出したのだがな…」
「ベクターめ…次会ったらただではおかん…」
「……ベクター」
(ベクターという人は問題児なのだろうか。いや、それよりも、私はベクターという名に聞き覚えがあった。それどころか、その名を口にすると、心の奥底が疼くような感覚がした。私はベクターという人と何か関わりがあるのだろうか?)
アルマの困惑をよそに、6人の後ろに、ワープホールが開かれる。音を立てて粒子が集まり、バリアンのフォルムを作り出していく。現れたのは艶のある灰色の肌。腹部から足にかけて黒いラインが走り、黒いブーツのようなものを履いている。腰にはベルトのようなものと共に腰布を着け、腕には腕輪。そこかしこに赤い装飾がちりばめられ、胸元を金色の鉱石と紅い宝石が飾る。アメジストの瞳に睫毛は長く、黒いペイントが更なる彩りを加える。そして、彼には他のバリアンとは一線を格す特徴があった。羽だ。堕天使の様な黒い翼が、彼の背中で広がっている。全体的に黒いその姿に白殺し色の髪が映え、ハイセンスな様相をしていた。
「悪ィ悪ィ、遅れちまったな」
右手を挙げ、さほど悪く思っていなさそうな口調で彼は言う。先程までアルマに向いていた視線は、全て彼に注がれていた。それも、幾分か温度を下げて。彼こそが、バリアン七皇の最後の1人、ベクターなのだろう。
(なに、この感じ…)
体が急に熱くなり、奥底から、『何か』が這い上がってくる。足をぐっと閉じ、姿勢を正しても、それが収まることは無かった。
「あァ?誰だよソイツ」
他の七皇とは違い、警戒心を持った視線を向けるベクター。彼と目が合った瞬間、アルマは体をビクッと震わせ、体の力が抜けるのを感じた。
(これは…恐怖?いや、違う…恐怖なら、こんなに体が熱い理由の説明にはならない…)
頭がぼんやりする。視界がほんのり滲む。未知の感覚に襲われながらも、アルマはベクターから目が離せないでいた。
「彼女はアルマ。悪意の海で倒れていたところを、ナッシュが助けたらしい。記憶を失っているから、暫く我らと共にいることになった。ベクター、君も自己紹介をしてくれ」
「けっ、ナッシュ様の新しいオモチャかよ。俺はベクター。よろしくなアルマちゃあん」
「ぁ……はい…」
ドルベに促され、あまり好意的ではない様子で言うベクター。だが、自分に向けられる言葉1つ1つが、ゾクゾクと体を駆け巡っていく。
「で? 今日の召集ってのは、こいつについて話す為だったのか?」
「そうだ。バリアン世界は特に異常無し。いつも通り過ごしてくれ」
ナッシュがそう言うと、ワープしたり、その場に座り込んだりして、各々で勝手に何かし始めた。そんな中自分はどうすれば良いのかと、周りを見回すアルマだったが、その手をメラグが取った。
「さ、行きましょうアルマ」
「えっと…どこに?」
「これから私達と一緒に暮らすんですもの、部屋が必要ですわ」
「部屋…」
「だから私が、アルマの部屋を『造って』差し上げますわ!」
「造る?」
アルマの疑問をよそに、メラグはワープホールを開く。本日2度目のワープだった。
着いた場所は、洞窟というには狭過ぎる、穴と呼ぶに相応しい所だった。
「ハァ!」
メラグが片手を上げ、エネルギーを炸裂させる。すると驚く間も無い程の一瞬で、天井の高い部屋が姿を現した。ベッドや机や椅子と思しき物に加え、シャンデリアまで掛かっている。
「すごい…」
「ふふ、このぐらい、慣れればすぐに出来るようになりますわ。」
「ありがとう、メラグさん」
「メラグで良いですわよ。ところで…」
メラグはベッドに座り、横をぽんぽんと叩く。座れ、ということだろう。アルマはそこに座った。
「さっきはベクターがあんなことを言って…」
「ううん、メラグは謝らないで。それに、そんなに気にしてないよ。」
「それなら、良かったですわ…ベクターとナッシュは、あまり仲が良くないの。だから、いつもあんな感じなの」
「ああ、やっぱり…」
ベクターの口調からして、そんな気はしていた。…あまり思い出すと、また体が震えてしまうが。
「…ねぇ、ベクターって、『悪い人』?」
「え? うーん…そうですわね…『良い人』、とは言えないですわ」
なんとなくベクターという人物が掴めてきた。やはり彼は、問題児のような人物らしい。
「あまり近付くことはおすすめ出来ませんわ。」
「そっか……」
ならば何故、私はベクターに見覚えがあったのか、ベクターを見て熱くなったのか。問題は更に増えてしまった。
「そういえば、他の人達の部屋ってあるの?」
「ええ、1人1部屋ずつ持っていますわ。私の部屋ならいつでも来てくださいな」
「ありがとう。…そろそろ、休ませてもらっても良いかな?」
「ああ…ごめんなさい、アルマは相当体力を失っていますのに、気遣いができなくて…」
「ううん、良いんだよ。友達が出来て私も嬉しいし。」
その言葉を聞いて、メラグの表情がぱぁっと明るくなる。
「それじゃあ、おやすみなさい。アルマ」
「おやすみ、メラグ。」
そこには数人の同族がいた。到着したナッシュの姿を見て、皆口々に驚きの声を上げる。その中でもナッシュに似た雰囲気を持つ、アルマと同い年くらいの少女が、この場にいる全員の声を代弁するかのように問うた。
「ナッシュ、その娘は一体誰ですの?」
「アルマ。悪意の海で倒れていた。記憶を失っているようだ」
ナッシュのその一言により、周りが一層ざわめき出す。
「これから暫く、こいつを俺逹の仲間として迎え入れる。異論は無いな。」
ナッシュの威厳のある声が響く。異を唱える者はいなかった。やはり彼は、リーダーのような存在なのだろう。
「なら、今ここで自己紹介をしておいた方が良いんじゃないかしら? 折角仲間になるんだし」
「…ああ、そうだな。」
先程問いを投げかけた、ナッシュにどこか似た少女が言う。その声には喜色が含まれていた。ナッシュはアルマを下ろし、階段に座らせる。
「私はメラグ。ナッシュの妹ですの。バリアン七皇の1人、なんですが…実は七皇には他の女性がいなくて、少し寂しかったの。お友達になってくだされば幸いですわ。」
軽い礼をし、メラグは微笑みながら言った。成る程、ナッシュと似ているのは兄妹だからか。ドレスのようなスカートを纏い、髪には豪奢な飾りが着いている。お姫様、という表現がよく似合う娘だった。
「じゃあ、次はドルベにお願いしますわ」
「了解した。…私はドルベ。バリアン七皇の1人だ。同じバリアンとして、キミを快く受け入れよう。」
深々と頭を下げるドルベ。彼はナッシュやメラグとは対極的に、装飾の少ない、シンプルな姿をしていた。髪型がどことなく猫のように見えるのは、言わない方が良いのだろうか。
「ハイハイ!じゃあ次俺! 俺はアリト!BK使いだ!よろしくなアルマ!」
ドルベの挨拶が終わった直後、元気の良い声がした。アリトと名乗った少年もまた、口にはしていないが恐らくバリアン七皇の1人なのだろう。だが、ここで一つの疑問が出てきた。
「BK使い……?」
「ああ、アルマは記憶無くしてるんだっけか。BKってのは、俺が使うカードのテーマのことさ!強いんだぜ!今度デュエルしてくれよ!」
「デュエル……」
「おっと、記憶無くしてるならデュエルのルールも分かんねぇか…うーん…」
「…デュエル、出来るよ。」
「本当か!?…あーでも、デッキは…」
「デッキも、ある。ほら」
「!?」
『デュエル』、という言葉を聞いた瞬間に、アルマの目付きが変わる。アルマは記憶を失っている。それに変わりはない。だが、不思議とデュエルのルールだけは、すんなりと蘇ってきた。更に、まるで魂に刻み込まれていたかのように、自然な動作でデュエルディスクを構築させる。腕に粒子が集まり出来たそれには、間違いなくデュエルモンスターズのカードが、1デッキ分備えられていた。それを見たバリアン逹は、驚愕の目でアルマを見る。
「本当かよ!じゃあさ、明日にでも俺とデュエルしようぜ!」
アリトは目を輝かせ、無邪気にそう言う。よほどデュエルが好きなのだろう。だが、それを諌める声があった。
「彼女はまだ万全の状態ではない。それに慣れない環境にいるのだから、緊張もしているだろう。もう少し後にしたらどうだ。」
「ちぇー…分かったよ」
ドルベが穏やかな口調で言うと、アリトは残念そうに引き下がった。だが、実際アルマは相当体力を消耗していたので、この制止はありがたかった。
「んじゃ、次はオレの番だな!俺はギラグ、バリアン七皇の1人だ。よろしくな、アルマちゃん!」
アリトの近くに立っていた、他のバリアンより頭ひとつ分背の高い巨漢が前に出る。雰囲気から怖そうな人かと思っていたのだが、案外フレンドリーな人なのかもしれない。
「おい気を付けろよアルマ、こいつメラグとは違って優しそうでかわいい子が来て鼻の下伸ばしてやがるからな」
「なっ、アリト!」
そばにいたアリトが親指でギラグを指し、茶化すように言う。焦るギラグの前に、おや、冷気が…
「なんですって…」
「ひぃ!」
吹雪を背負い鬼の形相を浮かべるメラグ。だが、それだけでそれ以上のことはしなかった。恐らくこれが、彼らの日常風景なのだろう。アルマはそう思った。
「最後はミザエル、頼む。」
「ああ。私はミザエル、誇り高きバリアン七皇の1人。…アルマよ、もし妙な真似をしたら、タキオンの餌食になることを覚悟しておけ」
「えっ……」
「大丈夫ですわ。彼、あんなこと言うけれど、本当はとても仲間思いですの」
「メラグ、貴様…」
ミザエルの青い目がメラグを睨む。しかしメラグが意にも解さない辺り、彼はあの態度が通常運転ということだろう。厳しそうな人だが、悪い人ではなさそうだ。『タキオン』という単語が気になったが、それは聞かないでおこう。それよりも今は他の疑問の方が気になった。
「…あの、バリアン七皇、とおっしゃいましたけど…今いるのって6人ですよね…?」
ナッシュ、メラグ、ドルベ、アリト、ギラグ、ミザエル。全員の視線が突き刺さり、思わず敬語になってしまう。もしかして、6人なのは意味があるのだろうか。地雷を踏んでしまったのではないだろうか。そんな考えが頭をよぎるが、答えはすぐに返ってきた。
「ああ…あいつなら、また遅刻じゃねえの?」
「いつものことですわ。」
「バリアン七皇召集の合図なら出したのだがな…」
「ベクターめ…次会ったらただではおかん…」
「……ベクター」
(ベクターという人は問題児なのだろうか。いや、それよりも、私はベクターという名に聞き覚えがあった。それどころか、その名を口にすると、心の奥底が疼くような感覚がした。私はベクターという人と何か関わりがあるのだろうか?)
アルマの困惑をよそに、6人の後ろに、ワープホールが開かれる。音を立てて粒子が集まり、バリアンのフォルムを作り出していく。現れたのは艶のある灰色の肌。腹部から足にかけて黒いラインが走り、黒いブーツのようなものを履いている。腰にはベルトのようなものと共に腰布を着け、腕には腕輪。そこかしこに赤い装飾がちりばめられ、胸元を金色の鉱石と紅い宝石が飾る。アメジストの瞳に睫毛は長く、黒いペイントが更なる彩りを加える。そして、彼には他のバリアンとは一線を格す特徴があった。羽だ。堕天使の様な黒い翼が、彼の背中で広がっている。全体的に黒いその姿に白殺し色の髪が映え、ハイセンスな様相をしていた。
「悪ィ悪ィ、遅れちまったな」
右手を挙げ、さほど悪く思っていなさそうな口調で彼は言う。先程までアルマに向いていた視線は、全て彼に注がれていた。それも、幾分か温度を下げて。彼こそが、バリアン七皇の最後の1人、ベクターなのだろう。
(なに、この感じ…)
体が急に熱くなり、奥底から、『何か』が這い上がってくる。足をぐっと閉じ、姿勢を正しても、それが収まることは無かった。
「あァ?誰だよソイツ」
他の七皇とは違い、警戒心を持った視線を向けるベクター。彼と目が合った瞬間、アルマは体をビクッと震わせ、体の力が抜けるのを感じた。
(これは…恐怖?いや、違う…恐怖なら、こんなに体が熱い理由の説明にはならない…)
頭がぼんやりする。視界がほんのり滲む。未知の感覚に襲われながらも、アルマはベクターから目が離せないでいた。
「彼女はアルマ。悪意の海で倒れていたところを、ナッシュが助けたらしい。記憶を失っているから、暫く我らと共にいることになった。ベクター、君も自己紹介をしてくれ」
「けっ、ナッシュ様の新しいオモチャかよ。俺はベクター。よろしくなアルマちゃあん」
「ぁ……はい…」
ドルベに促され、あまり好意的ではない様子で言うベクター。だが、自分に向けられる言葉1つ1つが、ゾクゾクと体を駆け巡っていく。
「で? 今日の召集ってのは、こいつについて話す為だったのか?」
「そうだ。バリアン世界は特に異常無し。いつも通り過ごしてくれ」
ナッシュがそう言うと、ワープしたり、その場に座り込んだりして、各々で勝手に何かし始めた。そんな中自分はどうすれば良いのかと、周りを見回すアルマだったが、その手をメラグが取った。
「さ、行きましょうアルマ」
「えっと…どこに?」
「これから私達と一緒に暮らすんですもの、部屋が必要ですわ」
「部屋…」
「だから私が、アルマの部屋を『造って』差し上げますわ!」
「造る?」
アルマの疑問をよそに、メラグはワープホールを開く。本日2度目のワープだった。
着いた場所は、洞窟というには狭過ぎる、穴と呼ぶに相応しい所だった。
「ハァ!」
メラグが片手を上げ、エネルギーを炸裂させる。すると驚く間も無い程の一瞬で、天井の高い部屋が姿を現した。ベッドや机や椅子と思しき物に加え、シャンデリアまで掛かっている。
「すごい…」
「ふふ、このぐらい、慣れればすぐに出来るようになりますわ。」
「ありがとう、メラグさん」
「メラグで良いですわよ。ところで…」
メラグはベッドに座り、横をぽんぽんと叩く。座れ、ということだろう。アルマはそこに座った。
「さっきはベクターがあんなことを言って…」
「ううん、メラグは謝らないで。それに、そんなに気にしてないよ。」
「それなら、良かったですわ…ベクターとナッシュは、あまり仲が良くないの。だから、いつもあんな感じなの」
「ああ、やっぱり…」
ベクターの口調からして、そんな気はしていた。…あまり思い出すと、また体が震えてしまうが。
「…ねぇ、ベクターって、『悪い人』?」
「え? うーん…そうですわね…『良い人』、とは言えないですわ」
なんとなくベクターという人物が掴めてきた。やはり彼は、問題児のような人物らしい。
「あまり近付くことはおすすめ出来ませんわ。」
「そっか……」
ならば何故、私はベクターに見覚えがあったのか、ベクターを見て熱くなったのか。問題は更に増えてしまった。
「そういえば、他の人達の部屋ってあるの?」
「ええ、1人1部屋ずつ持っていますわ。私の部屋ならいつでも来てくださいな」
「ありがとう。…そろそろ、休ませてもらっても良いかな?」
「ああ…ごめんなさい、アルマは相当体力を失っていますのに、気遣いができなくて…」
「ううん、良いんだよ。友達が出来て私も嬉しいし。」
その言葉を聞いて、メラグの表情がぱぁっと明るくなる。
「それじゃあ、おやすみなさい。アルマ」
「おやすみ、メラグ。」
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