幸せの花嫁
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青いキャンパスに、ふわふわしてそうな雲を少しばかり浮かべた、思わず見上げたくなるような空。その日はとても気持ちの良い天気だった。
「ううっ…どうしよう…」
「心配することはありませんわ。***のドレス姿、とっても素敵ですもの」
「本当……?」
「ええ、本当ですわ」
目の前のメラグがにっこりと微笑む。その姿に、私は少しだけ安心する。
ベクターからのプロポーズを受け、結婚届を出してから、1ヶ月半。元々同棲していたため生活はあまり変わらず、結婚をしたという実感はあまり無かった。だが、今こうしてウエディングドレスを纏い、バージンロードを歩くことを考えると、ベクターと夫婦になった、という事実が意識にくっきりと浮かび上がり、自然と顔が熱くなってしまう。
「***、顔が真っ赤ですわ」
「だって、恥ずかしいもん…!」
「やることをやるのはおろか、前世からも前々世からもずっと一緒にいるのに?」
「まあ…その通り、なんだけどね…」
私とベクターが共に歩んできた時間は、遥か古代まで遡りそして現代まで、何千年にも及ぶ。途中、人外と成っていたからこその長さなのだが、あくまでその期間の殆どで私の想いは一方的であり、その関係は主人と奴隷以上のものではなかった。
だが、正真正銘、本当に『普通の』人間として生まれ変わり、いつものように過ごしていく中で、私とベクターの想いは共通のものとなった。それを知った時は、とても嬉しく、そして動揺もしたのだが。
そう、愛されない、叶うことなどない恋だと自覚していたからこそ、こうやって純愛の証とも言うべき行為をすると、逆に照れてしまうのだ。こっぱずかしいのだ。
「まあ、そんなものですわよね。貴方達の長く続いていた歪んだ関係を思えば、そう思うのも仕方ありませんわ。」
「…………。」
道具として使われる日々が苦しかった訳ではない。むしろ、どんな形であれ、神として崇める者に尽くせることが、何より幸せだった。だからこそ今、対等に話し、あまつさえ婚約を結ぶことが、身の程に余ってしょうがない!
「ううぅ………」
「もう、またですの? きちんとしないと、余計悪化しますわよ?」
「分かってるけど~……」
叱咤激励してくれるメラグの後ろのドアから、1人の男が顔を覗かせた。
「ベクターならもう行ったぞ」
「ナッシュ!」
元バリアン七皇のリーダー、そして今はプロデュエリストの、神代凌牙ことナッシュだ。今日は黒いスーツに薄い青のネクタイをしている。彼は今回の式で、父親役をすることになっている。これは私達が転生してすぐ、神代邸でお世話になっていたかららしい。確かに私達には親なんていないから、妥当な人選だと言えるだろう。
…というか、今回の結婚式、実は全ての役回りを顔見知りが担っている。これはベクターの意向によるものなのだが…理由はよく分からない。なんでみんなも出来ちゃうんだよ。決闘者万能かよ。
「ベクターは…何か言ってた?」
私の言葉に、ナッシュは少し思案する。
「………別に。大したことは言ってねぇよ」
ということは、何かしら会話はあったのだろう。推測するにいつも通りの煽りか。大分丸くはなっても、根本的には変わらないのだ。
「さ、そろそろ行くぜ。足元気を付けろよ。」
「は、はい!」
ナッシュに手をひかれ、目指すは赤い絨毯だ。
焦げ茶色のドアが重々しく開き、教会の神聖な風貌が目に飛び込んできた。左へ視線をやると、ドアを開けたミハエルがにこりと微笑む。右へ視線をやると、トーマスが私とナッシュへと、激励の笑みを浮かべる。
二人に感謝しながら、バージンロードへと、一歩踏み出す。…バージンじゃないことにつっこんではいけない。柔らかな絨毯は慣れないヒールでも歩きやすく、安定した足取りで、ナッシュと共に歩く。
今日、私達の為に集まってくれた人達が、私のウエディングドレス姿をまじまじと見つめる。今更恥じたりしない。もう、あの人のこんな近くにいるのだから。あの人に選ばれた者として、胸を張らなければならない。
教会の最奥へ向かうにつれ、既に入場を済ませた、新郎の姿がはっきりしてくる。その後ろ姿はひどく秀麗で…まずい、理性が壊れる。こっちを向かれたら確実に変な声出る。だが、その時は訪れてしまって。
ナッシュが歩みを止め、私の腕を離す。それを合図に、ベクターがこちらを振り向いた。白いシャツ、白いタキシード、白いネクタイ、白い靴。全身真っ白で染め上げた彼は、いつもより更に引き締まって見えた。長い手足にフィットしたそれは、清潔さや純真さ、普段の彼では見られないものを引き出している。ロイヤルパープルの瞳との対比がまた美しくて。いつものベクターが太陽をも食らう新月ならば、今日のベクターは満月だ。その白く尊い光は、彼の周りを輝かせ、どんな闇の中でも私を導いてくれる。神々しい。その言葉に尽きた。
ナッシュがフッと笑うと、ベクターはそれに応じるようにニヤッと笑った。そして私に手を差し出す。ベクターの麗しさに圧倒されながら、恐る恐るその手を取る。かつてない程優しく手を握られると、きゅんっと心が高鳴った。そのまま隣へ誘われると、ドルベによる聖書朗読が始まった。
「…零さん。あなたは***さんと結婚し、妻としようとしています。あなたは、この結婚を神の導きによるものだと受け取り、その教えに従って、夫としての分を果たし、常に妻を愛し、敬い、慰め、助けて変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の日の続く限り、あなたの妻に対して、堅く節操を守ることを約束しますか?」
「…はい、誓います。」
ああ、なんてこの人は素敵なんだろう。その厳かな声も、真剣な目つきも、全て私が作ったもの。その事実が、たまらなく愛おしい。
「***さん。あなたは零さんと結婚し、夫としようとしています。あなたは、
この結婚を神の導きによるものだと受け取り、その教えに従って、妻としての分を果たし、常に夫を愛し、敬い、慰め、助けて変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の日の続く限り、あなたの夫に対して、堅く節操を守ることを約束しますか?」
「はい、誓います。」
ーーーーーああ誓うとも。この身も心も、とうの昔にベクターに捧げている。本当はこんな言葉必要無いくらいに。死が二人を分かつ時まで? いいや、死なんて現象、障害ですらない。だって私達はーーーー
ベクターが指輪を受け取り、私の薬指に嵌める。まるで、ガラス細工を扱うかの様に。煌めくプラチナリングが、とても誇らしかった。今度は私が指輪を嵌める番。指輪を受け取り、ベクターの手を握る。私よりも大きな手。その薬指に同じ煌めきが宿ると、大きな充足感が心を満たした。
視界を覆っていた白いベールが、ゆっくりと持ち上げられる。そっと抱き寄せられ、互いの唇がゆっくりと近づく。さあ、誓いのキスをーーーー
「んぅっ!?」
油断していた隙に潜り込んだ、蛇のようにのたうつ舌。上顎を、下顎を、歯列を、口腔を、舌先でなぞり、かき混ぜ、犯す。溢れ出た唾液が口の端から伝っていく。ああああみんなが見てるのに! ちらりと目を参列者の方へやると、みな十人十色に反応している。遊馬は頬を赤らめほえー、という感じの表情を作り、隣の小鳥は顔をまっ赤にして口を手で覆っている。ナッシュは言葉にこそしていないがイラっとくるぜ!とばかりに眉間に皺を寄せ、メラグからは…やばそうな凍気が見える。アリトとギラグはあちゃーという仕草で、ミザエルは腕を組みイライラ、カイトはハルトの目を隠していた。もう、ハルトもそんな歳じゃないでしょうに…。ミハエルは絶句し、トーマスはドン引き、クリスも眉を顰めている。トロンだけは、彼らしいねぇと笑っていた。
「っぷは…」
漸く唇を離され、ベクターを見ると…最高によからぬ笑顔を浮かべていらっしゃった。最近はすっかり丸くなって、弾けるにしても割と常識の範囲だったのに…
「ううぅ……」
「どうしたんだよォ、***ちゃん? まさかこの俺がァ、こんな一生に一度の晴れ舞台で!なーんにもしないとでも思ったのかよォ?」
「…………うふふ。思ってなかった訳では…ないんだよ。むしろ最近のベクターにはちょっと違和感があったぐらい。だから…ベクターのその笑顔をまた見られて、すっごく嬉しい!!」
私の言葉に、ベクターは少し驚愕の色を浮かべて。
「…なっ、なんだよ…恥ずかしい事言いやがって……」
顔を赤らめ、ふいっと目を逸らす。かわいいなぁ、なんて思ったりして。
幾千もの花びらの雨。その中を、ベクターと共に歩いていく。ベクターに手を握られていれば、ヒールでも階段なんてへっちゃらだ。階段を降りきり、参列者の集まる場所へと辿り着くと、私はメラグからブーケを渡された。白い薔薇で作られた、美しいブーケだ。
「そーれっ!」
両手で持ったそれを、参列者に向けて大きく投げる。空中で舞ったそれをキャッチしたのは、緑髪の女性ーー小鳥だった。自らの手に収まったそれを見て、隣にいた遊馬と顔を合わせ、それから照れたように微笑んだ。
ああ、とても幸せな風景だ。戦火の中にいれば絶対に手に入る事の無い、本当の幸福。それが今、私達の間に満ち溢れている。
「ベクター」
「あん?」
人間に成ってから七年、転生して間もなくは私とベクターは同じくらいの背丈だった。今では私がベクターを見上げる形になる。
「大好きだよ」
ほんの少し背伸びをして、ベクターの唇に自分のものを重ねる。触れるだけのフレンチキス。でもそのあたたかさが、何より幸せだった。
青いキャンパスに、ふわふわしてそうな雲を少しばかり浮かべた、思わず見上げたくなるような空。その日はとても気持ちの良い天気だった。
「ううっ…どうしよう…」
「心配することはありませんわ。***のドレス姿、とっても素敵ですもの」
「本当……?」
「ええ、本当ですわ」
目の前のメラグがにっこりと微笑む。その姿に、私は少しだけ安心する。
ベクターからのプロポーズを受け、結婚届を出してから、1ヶ月半。元々同棲していたため生活はあまり変わらず、結婚をしたという実感はあまり無かった。だが、今こうしてウエディングドレスを纏い、バージンロードを歩くことを考えると、ベクターと夫婦になった、という事実が意識にくっきりと浮かび上がり、自然と顔が熱くなってしまう。
「***、顔が真っ赤ですわ」
「だって、恥ずかしいもん…!」
「やることをやるのはおろか、前世からも前々世からもずっと一緒にいるのに?」
「まあ…その通り、なんだけどね…」
私とベクターが共に歩んできた時間は、遥か古代まで遡りそして現代まで、何千年にも及ぶ。途中、人外と成っていたからこその長さなのだが、あくまでその期間の殆どで私の想いは一方的であり、その関係は主人と奴隷以上のものではなかった。
だが、正真正銘、本当に『普通の』人間として生まれ変わり、いつものように過ごしていく中で、私とベクターの想いは共通のものとなった。それを知った時は、とても嬉しく、そして動揺もしたのだが。
そう、愛されない、叶うことなどない恋だと自覚していたからこそ、こうやって純愛の証とも言うべき行為をすると、逆に照れてしまうのだ。こっぱずかしいのだ。
「まあ、そんなものですわよね。貴方達の長く続いていた歪んだ関係を思えば、そう思うのも仕方ありませんわ。」
「…………。」
道具として使われる日々が苦しかった訳ではない。むしろ、どんな形であれ、神として崇める者に尽くせることが、何より幸せだった。だからこそ今、対等に話し、あまつさえ婚約を結ぶことが、身の程に余ってしょうがない!
「ううぅ………」
「もう、またですの? きちんとしないと、余計悪化しますわよ?」
「分かってるけど~……」
叱咤激励してくれるメラグの後ろのドアから、1人の男が顔を覗かせた。
「ベクターならもう行ったぞ」
「ナッシュ!」
元バリアン七皇のリーダー、そして今はプロデュエリストの、神代凌牙ことナッシュだ。今日は黒いスーツに薄い青のネクタイをしている。彼は今回の式で、父親役をすることになっている。これは私達が転生してすぐ、神代邸でお世話になっていたかららしい。確かに私達には親なんていないから、妥当な人選だと言えるだろう。
…というか、今回の結婚式、実は全ての役回りを顔見知りが担っている。これはベクターの意向によるものなのだが…理由はよく分からない。なんでみんなも出来ちゃうんだよ。決闘者万能かよ。
「ベクターは…何か言ってた?」
私の言葉に、ナッシュは少し思案する。
「………別に。大したことは言ってねぇよ」
ということは、何かしら会話はあったのだろう。推測するにいつも通りの煽りか。大分丸くはなっても、根本的には変わらないのだ。
「さ、そろそろ行くぜ。足元気を付けろよ。」
「は、はい!」
ナッシュに手をひかれ、目指すは赤い絨毯だ。
焦げ茶色のドアが重々しく開き、教会の神聖な風貌が目に飛び込んできた。左へ視線をやると、ドアを開けたミハエルがにこりと微笑む。右へ視線をやると、トーマスが私とナッシュへと、激励の笑みを浮かべる。
二人に感謝しながら、バージンロードへと、一歩踏み出す。…バージンじゃないことにつっこんではいけない。柔らかな絨毯は慣れないヒールでも歩きやすく、安定した足取りで、ナッシュと共に歩く。
今日、私達の為に集まってくれた人達が、私のウエディングドレス姿をまじまじと見つめる。今更恥じたりしない。もう、あの人のこんな近くにいるのだから。あの人に選ばれた者として、胸を張らなければならない。
教会の最奥へ向かうにつれ、既に入場を済ませた、新郎の姿がはっきりしてくる。その後ろ姿はひどく秀麗で…まずい、理性が壊れる。こっちを向かれたら確実に変な声出る。だが、その時は訪れてしまって。
ナッシュが歩みを止め、私の腕を離す。それを合図に、ベクターがこちらを振り向いた。白いシャツ、白いタキシード、白いネクタイ、白い靴。全身真っ白で染め上げた彼は、いつもより更に引き締まって見えた。長い手足にフィットしたそれは、清潔さや純真さ、普段の彼では見られないものを引き出している。ロイヤルパープルの瞳との対比がまた美しくて。いつものベクターが太陽をも食らう新月ならば、今日のベクターは満月だ。その白く尊い光は、彼の周りを輝かせ、どんな闇の中でも私を導いてくれる。神々しい。その言葉に尽きた。
ナッシュがフッと笑うと、ベクターはそれに応じるようにニヤッと笑った。そして私に手を差し出す。ベクターの麗しさに圧倒されながら、恐る恐るその手を取る。かつてない程優しく手を握られると、きゅんっと心が高鳴った。そのまま隣へ誘われると、ドルベによる聖書朗読が始まった。
「…零さん。あなたは***さんと結婚し、妻としようとしています。あなたは、この結婚を神の導きによるものだと受け取り、その教えに従って、夫としての分を果たし、常に妻を愛し、敬い、慰め、助けて変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の日の続く限り、あなたの妻に対して、堅く節操を守ることを約束しますか?」
「…はい、誓います。」
ああ、なんてこの人は素敵なんだろう。その厳かな声も、真剣な目つきも、全て私が作ったもの。その事実が、たまらなく愛おしい。
「***さん。あなたは零さんと結婚し、夫としようとしています。あなたは、
この結婚を神の導きによるものだと受け取り、その教えに従って、妻としての分を果たし、常に夫を愛し、敬い、慰め、助けて変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の日の続く限り、あなたの夫に対して、堅く節操を守ることを約束しますか?」
「はい、誓います。」
ーーーーーああ誓うとも。この身も心も、とうの昔にベクターに捧げている。本当はこんな言葉必要無いくらいに。死が二人を分かつ時まで? いいや、死なんて現象、障害ですらない。だって私達はーーーー
ベクターが指輪を受け取り、私の薬指に嵌める。まるで、ガラス細工を扱うかの様に。煌めくプラチナリングが、とても誇らしかった。今度は私が指輪を嵌める番。指輪を受け取り、ベクターの手を握る。私よりも大きな手。その薬指に同じ煌めきが宿ると、大きな充足感が心を満たした。
視界を覆っていた白いベールが、ゆっくりと持ち上げられる。そっと抱き寄せられ、互いの唇がゆっくりと近づく。さあ、誓いのキスをーーーー
「んぅっ!?」
油断していた隙に潜り込んだ、蛇のようにのたうつ舌。上顎を、下顎を、歯列を、口腔を、舌先でなぞり、かき混ぜ、犯す。溢れ出た唾液が口の端から伝っていく。ああああみんなが見てるのに! ちらりと目を参列者の方へやると、みな十人十色に反応している。遊馬は頬を赤らめほえー、という感じの表情を作り、隣の小鳥は顔をまっ赤にして口を手で覆っている。ナッシュは言葉にこそしていないがイラっとくるぜ!とばかりに眉間に皺を寄せ、メラグからは…やばそうな凍気が見える。アリトとギラグはあちゃーという仕草で、ミザエルは腕を組みイライラ、カイトはハルトの目を隠していた。もう、ハルトもそんな歳じゃないでしょうに…。ミハエルは絶句し、トーマスはドン引き、クリスも眉を顰めている。トロンだけは、彼らしいねぇと笑っていた。
「っぷは…」
漸く唇を離され、ベクターを見ると…最高によからぬ笑顔を浮かべていらっしゃった。最近はすっかり丸くなって、弾けるにしても割と常識の範囲だったのに…
「ううぅ……」
「どうしたんだよォ、***ちゃん? まさかこの俺がァ、こんな一生に一度の晴れ舞台で!なーんにもしないとでも思ったのかよォ?」
「…………うふふ。思ってなかった訳では…ないんだよ。むしろ最近のベクターにはちょっと違和感があったぐらい。だから…ベクターのその笑顔をまた見られて、すっごく嬉しい!!」
私の言葉に、ベクターは少し驚愕の色を浮かべて。
「…なっ、なんだよ…恥ずかしい事言いやがって……」
顔を赤らめ、ふいっと目を逸らす。かわいいなぁ、なんて思ったりして。
幾千もの花びらの雨。その中を、ベクターと共に歩いていく。ベクターに手を握られていれば、ヒールでも階段なんてへっちゃらだ。階段を降りきり、参列者の集まる場所へと辿り着くと、私はメラグからブーケを渡された。白い薔薇で作られた、美しいブーケだ。
「そーれっ!」
両手で持ったそれを、参列者に向けて大きく投げる。空中で舞ったそれをキャッチしたのは、緑髪の女性ーー小鳥だった。自らの手に収まったそれを見て、隣にいた遊馬と顔を合わせ、それから照れたように微笑んだ。
ああ、とても幸せな風景だ。戦火の中にいれば絶対に手に入る事の無い、本当の幸福。それが今、私達の間に満ち溢れている。
「ベクター」
「あん?」
人間に成ってから七年、転生して間もなくは私とベクターは同じくらいの背丈だった。今では私がベクターを見上げる形になる。
「大好きだよ」
ほんの少し背伸びをして、ベクターの唇に自分のものを重ねる。触れるだけのフレンチキス。でもそのあたたかさが、何より幸せだった。
青いキャンパスに、ふわふわしてそうな雲を少しばかり浮かべた、思わず見上げたくなるような空。その日はとても気持ちの良い天気だった。