毒に侵された者達
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いつも独りで本を読んでいる、取り澄ました孤高の女。頭が良くて、誰かと群れている所を一度も見たことがない。中学生ぐらいの女っていうのはやたらとグループを作るもんじゃないのか? それともこの歳で孤独を克服してしまっているのか? ***という少女は、真月零として活動する俺の興味を引くのに十分だった。
「それ、何読んでるんですか?」
笑顔の仮面を被って話しかける。すると***は心底関わってほしくない、という表情を作る。流石の俺も、ここまで露骨に嫌悪感を表されると引く。しかし渋々だが応えは返ってきた。
「オセロー。…シェイクスピアの。」
シェイクスピアという名前には聞き覚えがあったが、作品名の方には馴染みがない。俺は続けて質問をした。
「どういう話なんですか?」
「嫉妬によって引き起こされる悲劇。」
あらすじにすら成っていない短い返答。間違いなく突き放すような悪意がこもっている。だが、『真月零』はそれにすら好意的な態度を示す。
「ありがとうございます! 今度読んでみますねっ」
しかしそれにすら***は嫌な顔をする。恐らく社交辞令だと思ったのだろう。
それから二日後。
都合よく図書室で借りられたので実際にそれを読んでみた。どちらかと言えば一般ウケの悪そうな、俺好みの話だった。借りた本を返す足で、そのまま***の机へ向かうと、いつも通り奴は本を読んでいた。
「***さんがこの間読んでいたオセロー、よかれと思って僕も読んでみました! 確かにとても悲劇的でしたけど、僕はああいうお話大好きです!」
読んだという感想だけでは、きっとこいつは興味を示さない。感想を、それも意外性のあるものを言わなければ、こいつの興味は惹けない。
「…意外だね、全然そういうの好きそうじゃないのに」
「えへへ…隠れたシュミってやつです」
「あのさ、えーっと……」
「僕の名前ですか? 真月零と申します!」
「真月、くん。真月くんはさ、好きな台詞とかあった?」
「台詞ですか…最初の方でイアーゴーが『金を用意しとけよ』って連呼するところとかは、笑っちゃいましたね」
「そこ良いよね。私はその辺なら『性格! そいつは不正確だぜ。』っていう一連の台詞が……」
***はよく喋った、今まで見たことがない表情をいくつもした。こいつは普通の輩には自分の嗜好が理解されないために、人と関わることを諦めていたのだと、俺は自然と悟った。たまには遊馬達以外と関係を持つことも大切だろうと、俺も悪い気はせずに話し続けた。こうして図らずしも、『友情ゴッコ』をする相手が一人増えた。
サルガッソに***は来なかった。それもそうだ、遊馬達の仲良しグループとは関わりがないのだから、『真月』が連れて行かれたことを知る筈もない。
遊馬に負け、No.探しのため俺は再び人間界に降り立った。そのついでではあるが、かすかにある情のようなものに突き動かされて、俺は***に会いに行った。きっと、――――きっと『真月』が突如消えて心配しているであろうあいつに、真実を伝えるために。
結論だけ言うと、***という女は俺が思っていた以上に肝が据わっていた。
「なぁんだ、そういうことだったのね。寧ろ納得しちゃった、真月くんみたいな子がああいうの好きなのって違和感しかなかったし」
それが***の言い分だった。更にこうしてバリアン世界に連れてきて、俺の真の姿を見せてやっても、
「堕天使みたいでイケてるわ」
こう言う始末だ。
今ではまるで愛玩動物のように、しょっちゅう俺に抱かれてこうやって撫でられている。
「てめぇ本当に…本当に後悔してないのかよ?」
心地よさそうに目を瞑る***に、俺はそんな問いを投げかける。
「全然。だって貴方は、――『ベクター』は、私とおしゃべりしてくれたもの。」
当たり前のように応えた***の言葉が、何か失くした物を埋めたような気がして、不思議と心が安らいだ。
「それ、何読んでるんですか?」
笑顔の仮面を被って話しかける。すると***は心底関わってほしくない、という表情を作る。流石の俺も、ここまで露骨に嫌悪感を表されると引く。しかし渋々だが応えは返ってきた。
「オセロー。…シェイクスピアの。」
シェイクスピアという名前には聞き覚えがあったが、作品名の方には馴染みがない。俺は続けて質問をした。
「どういう話なんですか?」
「嫉妬によって引き起こされる悲劇。」
あらすじにすら成っていない短い返答。間違いなく突き放すような悪意がこもっている。だが、『真月零』はそれにすら好意的な態度を示す。
「ありがとうございます! 今度読んでみますねっ」
しかしそれにすら***は嫌な顔をする。恐らく社交辞令だと思ったのだろう。
それから二日後。
都合よく図書室で借りられたので実際にそれを読んでみた。どちらかと言えば一般ウケの悪そうな、俺好みの話だった。借りた本を返す足で、そのまま***の机へ向かうと、いつも通り奴は本を読んでいた。
「***さんがこの間読んでいたオセロー、よかれと思って僕も読んでみました! 確かにとても悲劇的でしたけど、僕はああいうお話大好きです!」
読んだという感想だけでは、きっとこいつは興味を示さない。感想を、それも意外性のあるものを言わなければ、こいつの興味は惹けない。
「…意外だね、全然そういうの好きそうじゃないのに」
「えへへ…隠れたシュミってやつです」
「あのさ、えーっと……」
「僕の名前ですか? 真月零と申します!」
「真月、くん。真月くんはさ、好きな台詞とかあった?」
「台詞ですか…最初の方でイアーゴーが『金を用意しとけよ』って連呼するところとかは、笑っちゃいましたね」
「そこ良いよね。私はその辺なら『性格! そいつは不正確だぜ。』っていう一連の台詞が……」
***はよく喋った、今まで見たことがない表情をいくつもした。こいつは普通の輩には自分の嗜好が理解されないために、人と関わることを諦めていたのだと、俺は自然と悟った。たまには遊馬達以外と関係を持つことも大切だろうと、俺も悪い気はせずに話し続けた。こうして図らずしも、『友情ゴッコ』をする相手が一人増えた。
サルガッソに***は来なかった。それもそうだ、遊馬達の仲良しグループとは関わりがないのだから、『真月』が連れて行かれたことを知る筈もない。
遊馬に負け、No.探しのため俺は再び人間界に降り立った。そのついでではあるが、かすかにある情のようなものに突き動かされて、俺は***に会いに行った。きっと、――――きっと『真月』が突如消えて心配しているであろうあいつに、真実を伝えるために。
結論だけ言うと、***という女は俺が思っていた以上に肝が据わっていた。
「なぁんだ、そういうことだったのね。寧ろ納得しちゃった、真月くんみたいな子がああいうの好きなのって違和感しかなかったし」
それが***の言い分だった。更にこうしてバリアン世界に連れてきて、俺の真の姿を見せてやっても、
「堕天使みたいでイケてるわ」
こう言う始末だ。
今ではまるで愛玩動物のように、しょっちゅう俺に抱かれてこうやって撫でられている。
「てめぇ本当に…本当に後悔してないのかよ?」
心地よさそうに目を瞑る***に、俺はそんな問いを投げかける。
「全然。だって貴方は、――『ベクター』は、私とおしゃべりしてくれたもの。」
当たり前のように応えた***の言葉が、何か失くした物を埋めたような気がして、不思議と心が安らいだ。