あの日の理由
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さらりと、長い髪に指が入る。ほんのりと紫色に色付いた髪は、背中の半分程までを覆い、窓から入り込む日差しを受けて輝いている。
「良いんですか? そろそろ行かないと、間に合いませんよ?」
髪を梳きながら女は言う。その前に座り髪を弄くられる男は、無表情を崩さぬまま答えた。
「心配する必要は無い」
その男性は女性的に見えた。長い髪は手入れが行き届き、端正な顔と相まって、『美しい』と感じさせた。だがすらりと伸びた手足は引き締まり、射抜く様な眼は、只者ではない風格を醸し出している。どこかちぐはぐな彼の装いは、却って調和を招いていた。
二人はまた、沈黙に戻る。冷めている訳ではなく、必要以上に語らないのだ。しかしそこには、確かな絆がある。
彼――鬼柳は、本来髪なんぞを大切にする性質は持ち合わせていない。だが勝手に伸びた髪を見て、
「勿体無い…」
と言った、***が始まりだった。鬼柳の長い髪を、最初は梳いた。彼は好く思っていなかったが、恋人に髪を触られるのも悪くないと許した。それから少しずつ協力的になり、今ではそこらの女性より綺麗な髪を保っていた。決闘疾走者である彼がDホイールに跨がり髪をたなびかせる姿は、何者よりも毅然としていた。
後ろ髪の整えが済み、***は鬼柳の前に立った。長い髪の彼は、前髪も長くしていた。適当な量の髪を掬い、櫛で梳く。それが終わると鬼柳は前髪の一部を手に取り、耳に掛けた。彼はそうするのが一番好きだった。
「じゃあ、行ってくる」
黒いコートを羽織り、鬼柳は振り返った。
「行ってらっしゃい」
***は櫛を手にしたまま、玄関を出る鬼柳を見送った。
倉庫を開け、青いDホイールに乗り、鬼柳は全速力で大会会場へと向かった。
「良いんですか? そろそろ行かないと、間に合いませんよ?」
髪を梳きながら女は言う。その前に座り髪を弄くられる男は、無表情を崩さぬまま答えた。
「心配する必要は無い」
その男性は女性的に見えた。長い髪は手入れが行き届き、端正な顔と相まって、『美しい』と感じさせた。だがすらりと伸びた手足は引き締まり、射抜く様な眼は、只者ではない風格を醸し出している。どこかちぐはぐな彼の装いは、却って調和を招いていた。
二人はまた、沈黙に戻る。冷めている訳ではなく、必要以上に語らないのだ。しかしそこには、確かな絆がある。
彼――鬼柳は、本来髪なんぞを大切にする性質は持ち合わせていない。だが勝手に伸びた髪を見て、
「勿体無い…」
と言った、***が始まりだった。鬼柳の長い髪を、最初は梳いた。彼は好く思っていなかったが、恋人に髪を触られるのも悪くないと許した。それから少しずつ協力的になり、今ではそこらの女性より綺麗な髪を保っていた。決闘疾走者である彼がDホイールに跨がり髪をたなびかせる姿は、何者よりも毅然としていた。
後ろ髪の整えが済み、***は鬼柳の前に立った。長い髪の彼は、前髪も長くしていた。適当な量の髪を掬い、櫛で梳く。それが終わると鬼柳は前髪の一部を手に取り、耳に掛けた。彼はそうするのが一番好きだった。
「じゃあ、行ってくる」
黒いコートを羽織り、鬼柳は振り返った。
「行ってらっしゃい」
***は櫛を手にしたまま、玄関を出る鬼柳を見送った。
倉庫を開け、青いDホイールに乗り、鬼柳は全速力で大会会場へと向かった。