渇望
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「…ハッ、こぉんなにいっぱい傷付けちゃって。救えねえ奴」
長袖に隠された右腕の、無数の切り傷。それは私が自分で付けた物だった。ベクターはそれを晒させて、そんな事を言い捨てた。
実際、私は『救えない』のだろう。どんなに自分を偽っても、底にある強い自己嫌悪は変わらない。こうやって目に見える形で自分を傷付けて、漸く死なずにいられる程度だ。この紅い傷跡は、私が辛うじて生きている証拠なのだ。
その沢山のラインを、つつっ、と指でなぞられる。まるで弦楽器を爪弾いている様だ。整えられた爪と綺麗な指先が敏感な表皮をくすぐり、つい、びくんと反応してしまう。まるで血管まで撫でられているみたいで、背筋が粟立ってくる。
私が今どんな表情をしているのか、私自身はよく分からないが、ベクターはお気に召したらしい。目をにんまりと細めている。相変わらず見とれるロイヤルパープルだなぁ、なんて私は考えていた。ふと、ベクターは指を止め、両手で私の腕を持った。――え?ちょっ、待って、そんな私の言葉は発する事も出来ぬまま、ベクターの舌が傷に這う。
「う…っ……!」
先程指でされた事が、今度は舌で再現される。腕の関節から手首まで、一気に舐め上げられる。舌が傷口を絶妙に抉り、軌跡となった唾液がひりひりと痛めつける。微量の痛みが積み重ねられ、辛い反面もどかしい気持ちにさせられる。――いっその事、もっと…そう強請る様な感情がよぎり、また自己嫌悪に陥った。私なんかがベクターに望んではいけない。ベクターは神なのだ。今はただ戯れに私と接しているだけだ。思い上がってはならない。
舌を離したベクターが、珍しく真顔で私を見つめる。何かしただろうか? 典型的ではあるが、こんなに見つめられると穴が開いてしまいそうだ。目を合わせるなんて無理。なんだか石にされてしまいそうで。ベクターの視線には、それ程の重みがあった。
――ああどうしよう、何かやらかしてしまったに違いない。実際には五秒すら経っていないであろう刹那だったが、早くも私は死にたくなった。ああ、カッターで、カッターで切らなきゃ、手首…
「流石のベクター神サマも、***チャンがそのお口で言ってくれなきゃあ、何をどうして欲しいのか分かりませんよォ?」
いつものよからぬ笑顔と共に、唐突に言葉が降ってきた。ベクターがこういう風に煽る時は、私を導いている時だ。――言って、良いのかな。私なんかが望んでも、良いのかな。
「もっと…もっと、痛い事してくださいっ…」
――言っちゃった。怒られるかな。ベクターに嫌われるのは嫌だな。
「ヒャッハハ、よく言えましたァ」
ご機嫌な笑い声。ああ、良かった。やっぱりベクターはすっごく優しいなぁ。頭まで撫でてもらっちゃった。
「さあ、よからぬ事を始めようじゃないか」
私の腕に頬擦りされるのと共に、ベクターの決め台詞が炸裂した。
長袖に隠された右腕の、無数の切り傷。それは私が自分で付けた物だった。ベクターはそれを晒させて、そんな事を言い捨てた。
実際、私は『救えない』のだろう。どんなに自分を偽っても、底にある強い自己嫌悪は変わらない。こうやって目に見える形で自分を傷付けて、漸く死なずにいられる程度だ。この紅い傷跡は、私が辛うじて生きている証拠なのだ。
その沢山のラインを、つつっ、と指でなぞられる。まるで弦楽器を爪弾いている様だ。整えられた爪と綺麗な指先が敏感な表皮をくすぐり、つい、びくんと反応してしまう。まるで血管まで撫でられているみたいで、背筋が粟立ってくる。
私が今どんな表情をしているのか、私自身はよく分からないが、ベクターはお気に召したらしい。目をにんまりと細めている。相変わらず見とれるロイヤルパープルだなぁ、なんて私は考えていた。ふと、ベクターは指を止め、両手で私の腕を持った。――え?ちょっ、待って、そんな私の言葉は発する事も出来ぬまま、ベクターの舌が傷に這う。
「う…っ……!」
先程指でされた事が、今度は舌で再現される。腕の関節から手首まで、一気に舐め上げられる。舌が傷口を絶妙に抉り、軌跡となった唾液がひりひりと痛めつける。微量の痛みが積み重ねられ、辛い反面もどかしい気持ちにさせられる。――いっその事、もっと…そう強請る様な感情がよぎり、また自己嫌悪に陥った。私なんかがベクターに望んではいけない。ベクターは神なのだ。今はただ戯れに私と接しているだけだ。思い上がってはならない。
舌を離したベクターが、珍しく真顔で私を見つめる。何かしただろうか? 典型的ではあるが、こんなに見つめられると穴が開いてしまいそうだ。目を合わせるなんて無理。なんだか石にされてしまいそうで。ベクターの視線には、それ程の重みがあった。
――ああどうしよう、何かやらかしてしまったに違いない。実際には五秒すら経っていないであろう刹那だったが、早くも私は死にたくなった。ああ、カッターで、カッターで切らなきゃ、手首…
「流石のベクター神サマも、***チャンがそのお口で言ってくれなきゃあ、何をどうして欲しいのか分かりませんよォ?」
いつものよからぬ笑顔と共に、唐突に言葉が降ってきた。ベクターがこういう風に煽る時は、私を導いている時だ。――言って、良いのかな。私なんかが望んでも、良いのかな。
「もっと…もっと、痛い事してくださいっ…」
――言っちゃった。怒られるかな。ベクターに嫌われるのは嫌だな。
「ヒャッハハ、よく言えましたァ」
ご機嫌な笑い声。ああ、良かった。やっぱりベクターはすっごく優しいなぁ。頭まで撫でてもらっちゃった。
「さあ、よからぬ事を始めようじゃないか」
私の腕に頬擦りされるのと共に、ベクターの決め台詞が炸裂した。