BUDDY・RING
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もう少しで埋まる絆のスクエア。
それは遂に、その時を迎えることを示す──────。
その日は朝から、真っ先にダ・ヴィンチのアイテム工房へと向かった。
資材と交換で、ずっとずっと欲しいと思っていたものをもらった。……きっとこの行動が何の準備であるか、彼女には見透かされただろう。
本当はもっと前から持っていたってよかった。しかしそれを、ずっと持ち続けていることは、結果的に隠し事をしているような状態は────自分としては、なんとなく嫌な気がした。
この行動だけでもっとドキドキするかと思った。しかし意外にも、期待の方が上回っている。それも振り回されるような過剰なものではない、自分の輪郭にそのまま沿うような、ちょうどいい大きさのものが体に満ちている。これは、この日のことを、何度も何度も考えたからだろう。自分の感情と向き合い、問いかけ、本質を知って、その上で今行動している。もしかすると自分が掴んだものはまだ途中かもしれないが、それでもできることをした確信が、足を進ませる。
クエストの準備をする。前衛はいつものメンバー。助けを借りるサーヴァントと、オベロン、ヘラクレス。暗い碧眼と目が合った。特に表情を変えることもない彼に、ただ、愛しさがあふれた。
クエストは、何事もなくいつも通り、始まって終わった。
「くだらない奴らだよ、本当に。」
舞う翅の後ろ姿を見ながら、耳に届いた彼の声。さらりとして、興味がなさそうに思わせながら、奥に感情が滲んでいる。
決着は、彼の宝具で起こった。
再現される黄昏の空。浮かぶは終わりの象徴。
自分以上の終末はないとする言葉は、彼の口上で最も好きなものだ。胸に熱いものが、こみ上げてくる。
ヘラクレスが咆哮した。本当の意味で感情を読み取ることはできないが、好意的なものであると思いたい。
リザルトを送る指が動く。いつもと同じ結果。だがその中で、唯一違うのは──────
オベロンが、絆15になった。
定められた刻限を超えた奇跡、それを成し遂げた証。数字が全てとは思わないが、それは確かに、私たちの歩みを保証した。
オベロンの顔を、こちらを見つめる暗い碧眼を見ながら、自然と涙が滲んでくる。だけどいけない、まだ泣くわけにはいかない。
「帰ろう」
そう言って、無事に帰還した。
「一緒に、部屋に来てくれる?」
わざわざそんなことを訊かなくても、業務が終われば同じ部屋に戻ることが習慣になっているのに。今日ばかりは、確認をせずにはいられなかった。
「ああ。」
オベロンはただ、何の感情も見せない顔で、承諾した。
部屋の明かりを点けると、いつも使っている白色光が降る。
「……照明、少し落としても、いい?」
「好きにしなよ」
言いながら、オベロンは普段通り、毎晩一緒に寝ているベッドに腰かける。
調整すると、白色光は柔らかい橙の光へと変わり、影を深く落とす。──夜の気配を感じさせる色だ。
そのまま、オベロンの隣に座った。光量が落ちた中でも、暗い色の髪が、浮き出た喉仏が、人でない形の手が、柔らかさと鋭さを同居させた眦 が、よく見えた。
手汗が滲む。後ろ手で持った金属製のそれに、自分の体温が移ってしまう。
もはや戻る選択肢はない。進む覚悟は、できている────。
──────それを、出会った頃から渡そうと考えていたことは、この眼によって知っていた。
すぐに与えることも可能だった。この場において、サーヴァントはマスターが施す強化を拒むことはできないのだから。
それでもその選択をしなかった。サーヴァントは泡沫の夢。どんな積み重ねも、終わりが来れば消えてしまう。特例の存在であっても全てを引き継ぐ保障はない。そもそも自分という存在自体いつまで在るかは分からない。それでも、そんな事実があっても。***は、俺と時間を重ねた上で、これを渡すことを選んだ──────
これは終わりの合図。そして始まりの合図。今まで重ねた罪とは別に、自分は暗い場所へと落ちることになる。そして受け入れれば、彼も。葛藤はした、悩み抜いた。それでも、それでもなお────これがしたいと、結論付けた。
「オベロン」
呼び慣れた、彼の名前を口にする。
「これを、受け取ってくれるかな?」
後ろ手から取り出した、それこそは──────白金によく似た、白銀でできた、輝く指輪。
ただの強化アイテムだ。そう捉えたっていい。だけれど今自分は、確実に、プロポーズとしてこれを渡そうとしている。
「…………」
橙色を照り返す指輪を、彼は暗い目で見つめている。
「────」
そして人でない形をした左手を、そっと、差し出した。
「…………!」
震える左手で彼の手を支え、なんとか指輪を持つ右手で、薬指に銀の輪を近付ける。
硬い外骨格の指を通り、最奥まで向かわせると──指輪は、オベロンの薬指にぴったり嵌った。
暗い部屋で、少し眩しいぐらいに光る指輪。オベロンはそれを一度手の甲から見ると、今度はこちらに見えるように軽く手を握った。
(よかった……)
ほっとして力が抜ける。抑えていた涙がまた出てこようとしてくる。──しかし彼は、不満げだった。
「……?」
無表情の時とほとんど変わらないが、あの顔のしかめ方は不機嫌な時のものだ。彼には今、不満がある。
全体の様子から理由を探す。下ろした手。されどしっかりとこちらを向いた体。あ、───あ!
彼にもっと近付く。駄目だ、自分の脚が邪魔だ。ベッドの上に乗って、膝立ちになって、もっと距離を縮めていく。
息がかかりそうだ。嫌な匂いとかしてるかも────そんなこと気にしてる場合じゃない。自分は今、求められているのだ。応える以外の分岐や心配は必要ない!
肩を持って、ゆっくり、ゆっくり、近付いていく。距離が分からない。目の前がどんどんオベロンだけに埋められていく。目を開けていても分からない、目を閉じて触覚に集中するしかない。そろそろか、もう少しか。乾いた唇を、そっと彼の唇に、押し当てる。
「っ────」
柔らかい。今、自分はフィクションの中で見たような光景になっているのだろうか。強張る自分の肩に、左右で形の違う大きな手が触れる。支えてもらえることで少し緊張が抜け、もう少し強く唇を重ねることができる。
離れると、湧き上がる恥ずかしさと共に抑え続けていた涙がこぼれた。きっとみっともない顔をしている。最後の最後で格好がつかない。────そんな私を、オベロンは強く強く、抱き締めた。
「けっこう、悪くなかったよ────君にしては。」
抑えをなくした涙は決壊し、もはや躊躇いはなく、声を上げて泣いた。
同時に、私の肩口を、熱いものが濡らした。
それは遂に、その時を迎えることを示す──────。
その日は朝から、真っ先にダ・ヴィンチのアイテム工房へと向かった。
資材と交換で、ずっとずっと欲しいと思っていたものをもらった。……きっとこの行動が何の準備であるか、彼女には見透かされただろう。
本当はもっと前から持っていたってよかった。しかしそれを、ずっと持ち続けていることは、結果的に隠し事をしているような状態は────自分としては、なんとなく嫌な気がした。
この行動だけでもっとドキドキするかと思った。しかし意外にも、期待の方が上回っている。それも振り回されるような過剰なものではない、自分の輪郭にそのまま沿うような、ちょうどいい大きさのものが体に満ちている。これは、この日のことを、何度も何度も考えたからだろう。自分の感情と向き合い、問いかけ、本質を知って、その上で今行動している。もしかすると自分が掴んだものはまだ途中かもしれないが、それでもできることをした確信が、足を進ませる。
クエストの準備をする。前衛はいつものメンバー。助けを借りるサーヴァントと、オベロン、ヘラクレス。暗い碧眼と目が合った。特に表情を変えることもない彼に、ただ、愛しさがあふれた。
クエストは、何事もなくいつも通り、始まって終わった。
「くだらない奴らだよ、本当に。」
舞う翅の後ろ姿を見ながら、耳に届いた彼の声。さらりとして、興味がなさそうに思わせながら、奥に感情が滲んでいる。
決着は、彼の宝具で起こった。
再現される黄昏の空。浮かぶは終わりの象徴。
自分以上の終末はないとする言葉は、彼の口上で最も好きなものだ。胸に熱いものが、こみ上げてくる。
ヘラクレスが咆哮した。本当の意味で感情を読み取ることはできないが、好意的なものであると思いたい。
リザルトを送る指が動く。いつもと同じ結果。だがその中で、唯一違うのは──────
オベロンが、絆15になった。
定められた刻限を超えた奇跡、それを成し遂げた証。数字が全てとは思わないが、それは確かに、私たちの歩みを保証した。
オベロンの顔を、こちらを見つめる暗い碧眼を見ながら、自然と涙が滲んでくる。だけどいけない、まだ泣くわけにはいかない。
「帰ろう」
そう言って、無事に帰還した。
「一緒に、部屋に来てくれる?」
わざわざそんなことを訊かなくても、業務が終われば同じ部屋に戻ることが習慣になっているのに。今日ばかりは、確認をせずにはいられなかった。
「ああ。」
オベロンはただ、何の感情も見せない顔で、承諾した。
部屋の明かりを点けると、いつも使っている白色光が降る。
「……照明、少し落としても、いい?」
「好きにしなよ」
言いながら、オベロンは普段通り、毎晩一緒に寝ているベッドに腰かける。
調整すると、白色光は柔らかい橙の光へと変わり、影を深く落とす。──夜の気配を感じさせる色だ。
そのまま、オベロンの隣に座った。光量が落ちた中でも、暗い色の髪が、浮き出た喉仏が、人でない形の手が、柔らかさと鋭さを同居させた
手汗が滲む。後ろ手で持った金属製のそれに、自分の体温が移ってしまう。
もはや戻る選択肢はない。進む覚悟は、できている────。
──────それを、出会った頃から渡そうと考えていたことは、この眼によって知っていた。
すぐに与えることも可能だった。この場において、サーヴァントはマスターが施す強化を拒むことはできないのだから。
それでもその選択をしなかった。サーヴァントは泡沫の夢。どんな積み重ねも、終わりが来れば消えてしまう。特例の存在であっても全てを引き継ぐ保障はない。そもそも自分という存在自体いつまで在るかは分からない。それでも、そんな事実があっても。***は、俺と時間を重ねた上で、これを渡すことを選んだ──────
これは終わりの合図。そして始まりの合図。今まで重ねた罪とは別に、自分は暗い場所へと落ちることになる。そして受け入れれば、彼も。葛藤はした、悩み抜いた。それでも、それでもなお────これがしたいと、結論付けた。
「オベロン」
呼び慣れた、彼の名前を口にする。
「これを、受け取ってくれるかな?」
後ろ手から取り出した、それこそは──────白金によく似た、白銀でできた、輝く指輪。
ただの強化アイテムだ。そう捉えたっていい。だけれど今自分は、確実に、プロポーズとしてこれを渡そうとしている。
「…………」
橙色を照り返す指輪を、彼は暗い目で見つめている。
「────」
そして人でない形をした左手を、そっと、差し出した。
「…………!」
震える左手で彼の手を支え、なんとか指輪を持つ右手で、薬指に銀の輪を近付ける。
硬い外骨格の指を通り、最奥まで向かわせると──指輪は、オベロンの薬指にぴったり嵌った。
暗い部屋で、少し眩しいぐらいに光る指輪。オベロンはそれを一度手の甲から見ると、今度はこちらに見えるように軽く手を握った。
(よかった……)
ほっとして力が抜ける。抑えていた涙がまた出てこようとしてくる。──しかし彼は、不満げだった。
「……?」
無表情の時とほとんど変わらないが、あの顔のしかめ方は不機嫌な時のものだ。彼には今、不満がある。
全体の様子から理由を探す。下ろした手。されどしっかりとこちらを向いた体。あ、───あ!
彼にもっと近付く。駄目だ、自分の脚が邪魔だ。ベッドの上に乗って、膝立ちになって、もっと距離を縮めていく。
息がかかりそうだ。嫌な匂いとかしてるかも────そんなこと気にしてる場合じゃない。自分は今、求められているのだ。応える以外の分岐や心配は必要ない!
肩を持って、ゆっくり、ゆっくり、近付いていく。距離が分からない。目の前がどんどんオベロンだけに埋められていく。目を開けていても分からない、目を閉じて触覚に集中するしかない。そろそろか、もう少しか。乾いた唇を、そっと彼の唇に、押し当てる。
「っ────」
柔らかい。今、自分はフィクションの中で見たような光景になっているのだろうか。強張る自分の肩に、左右で形の違う大きな手が触れる。支えてもらえることで少し緊張が抜け、もう少し強く唇を重ねることができる。
離れると、湧き上がる恥ずかしさと共に抑え続けていた涙がこぼれた。きっとみっともない顔をしている。最後の最後で格好がつかない。────そんな私を、オベロンは強く強く、抱き締めた。
「けっこう、悪くなかったよ────君にしては。」
抑えをなくした涙は決壊し、もはや躊躇いはなく、声を上げて泣いた。
同時に、私の肩口を、熱いものが濡らした。