誕生日〜二年目〜
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今年の***の誕生祝いはほとんど俺に一任された。理由は明白で、複数人から『トレジャーハンティング』という言葉が出た。***はああいうことを言いふらすタイプではないから、主催者であるダ・ヴィンチか、説教をしてきたネモ辺りから漏れたのだろう。今年は何故かまだ夏の気配が濃いこともあってか、カルデア全体が浮き足立っていて頭が痛い。
午前零時。やはりと言うべきか、俺を通常の格好に指定して、***が自室に突撃してきた。
「オベロン!! 私誕生日!!」
「知ってる。今年は何がほしいわけ?」
***は俺の隣に寝っ転がって、見上げる形になって答える。
「色々考えてはみたけど、やっぱりモノは何もなくていいや。プレゼントもらっても、なんか、違う気がする」
「じゃあしたいことは?」
「とりあえずもふもふだっこしてみてもいい!?」
「はあ、好きにしろよ」
外さずにしておいた翅の付け根の、ファーショールのような部分に***が抱きつき、頬擦りする。今時期に触って暑くないんだろうか。その顔は、なんとも満足げだ。
「ふわふわ〜」
「日付変わってるんだから満足したら寝なよ」
「うんうん」
多分このまま寝落ちする。
案の定そう時間は経たず、俺の翅の上で鱗粉ままれになりながら、***は丸まって寝た。
もちろん誕生日だろうと通常業務はある。やろうと思えば、なくさせることだってできるけど。
いつも通り資材集めに行き、戦闘をする。今日は余裕があるクエストだということを差し引いても、戦う俺を見る***はいつだって、喜色を隠しきれないでいる。
帰還したら報告書の提出だ。一度俺は***と分かれる。しかし俺が向かう方向に、***が疑問を呈す。
「あれ? 部屋に戻らないの?」
「ああ。最近初めてアペンドスキルを解放した関係で、色々と魔術や素材について、調べ直したいことがあってね」
「うーん、そっか」
「調べ直すだけだから、君が手伝えることはないよ。それより、再提出にならないようにちゃんと報告書書いてきなよ」
「も〜いつもちゃんと書いてるよ〜!」
***が頬を緩ませる。俺が注意をしたから……もあるにはあるが、とっくに***は察している。俺が完了していないことに対して詳細に説明する時、そこには性質上大なり小なり嘘が含まれる。だから、“何かやる”ことは筒抜けなのだ。
そして完全に今日の業務が終了して、***がマイルームへ戻っていった。俺は一枚の皿を持って、そのあとに続く。そして俺はごく普通に、何もない日常のように、皿をテーブルに置いた。
「はい、今日のおやつ。誕生日祝いの特別バージョンだって」
ベッドに座っていた***が身を乗り出す。それどころかたまらず立ち上がり、皿を持った。
皿の上には、三種類のクッキーが乗っていた。しっとりとした、手のひらぐらいあるチョコチャンククッキー。ステンドグラスのようなアップルジャムが乗ったクッキー。そして、マロンクリームを挟んだクッキー。どれも焼きたてで、香ばしく、甘い香りをこれでもかと放っている。
「こ、これって、もしかして、オベロンが作った?」
「いや、食堂に行ったらもらっただけだよ。聞いた話によると、君の好きな食感にしたとか、俺との思い出があるフルーツを使ったとか。──特に林檎なんて、種類にこだわって用意して、じっくり時間をかけて煮詰めたらしいよ。」
返答を聞いて、***が震え出す。事実が頭に馴染むまで時間がかかっている時の反応だ。それが終わると、一旦皿を置き、布団に埋まって足をバタバタした。
「〜〜〜〜っ!」
そうだ。君が俺とした林檎に関する会話も、AP回復用の林檎をジュースにした時も、俺と君以外の者はその場にいなかった。
暴れ終わった***がガバッと起き上がる。
「オベロン!!! 絶対に腐らない・劣化しない・風化しない魔術かけて!!!」
「そんなものないよ」
ないよ。
「ほら、おやつなんだから食べなよ。それにプレゼントはいらないんだろ? なら保管しちゃダメじゃないか」
「あ〜〜〜!」
***が身をよじって苦しむ。全然ゴメンじゃないけど、食べてもらわないと困るんだよ。
落ち着いた***が椅子に座って、改めてクッキーを見る。食べる前なのにもう目に光るものが見えつつある。
「いっ、いただきます。」
***はまず、件のジャムクッキーに手を伸ばした。口元に運ばれたそれは、新雪を踏んだ時のように、柔らかい音を立てる。
「おいしい……っ!」
***が目を見開く。予想外なほどだったらしい。
「ジャムが甘いんだけど甘すぎない! ちょっとアップルパイの中身みたい!」
保存性を優先しないから味重視で甘さは少し控えめだ。生地の甘さとバランスを取れるようにした。
次にマロンクリームのサンドが手に取られた。軽めのクッキーを咀嚼する音が小気味良い。
「こっちのクリームは甘めだ! だけど生の栗の味が活かされてる! 刻んだのが入ってるのも楽しい〜!」
裏漉しだけでも面倒だっていうのに、みじん切りまで工程に入れた時には、自分で自分をなじろうかと思った。
最後に、大きなチョコチャンククッキーが、大きな一口で齧られた。────そして***の目に溜まっていた涙が、ついにこぼれた。
「……どうして……私の好きな味知ってるの……? カルデアではあんまり、こんなに甘いクッキー、焼かないのに……」
チョコも生地もたっぷり砂糖を使った、脳がしびれるような甘さのクッキー。理由は簡単で、去年夏に俺の部屋で菓子を食ってダラダラしてた時、かなり甘いドーナツへの食いつきがよかったから好きなんだろうと思った。というのが根本だが、念のため過去の特異点での様子などを、マシュに訊いて調査しておいた。
泣きながらでも、***は食べる手を止めない。
「おいしいよぉ……おいしいよ…………。ありがとう、オベロン……」
「俺は関係ないけどね。そんなペースで食べてたら喉詰めるよ、紅茶も持ってくる」
「ありがとう……」
食べながら、***の本音にふと、『オベロンは冷静に判断できるからいきなりケーキとかじゃなくて、最初はクッキーに挑戦したんだ。すごいなぁ、流石だなぁ。』という言葉が視えた。まったく、そんなところ気が付かなくていいのに。
マシュに質問をした時も、こんな提案があった。
「初めてお菓子作りに挑戦するんでしたら、先輩と一緒に作ってみるのはいかがでしょうか? きっとすごく喜ばれると思いますよ!」
それはそれで、とても楽しい思い出になるだろう。不恰好なものをお互いに食べ合えば、絆がより深まるに違いない。
だがそれでは違うんだ。俺がやりたい祝い方は、“これ”なんだ。
少なめに夕食を食べて、風呂に入って疲れを落とせば、また一日の終わりがやってくる。
同じベッドで俺と***は向かい合って寝転んでいる。本来は一人用だから、相変わらず狭い。
***の手が俺の手に重なる。一つの枕に二つの頭を乗せている今、身長差は存在しない。
しっかりと俺の手を握って、***は言った。
「オベロン。オベロンがいるお陰で、今年もこんなに嬉しい誕生日になったよ。本当に、ありがとう。時間はかかるかもしれないけど、お返しを絶対するよ。だから、これからも何度でも、一緒に誕生日を迎えてほしいな。」
ああ、嫌がってもそうしてやるとも。
これからの君の一年に、穏やかな日々があらんことを。
午前零時。やはりと言うべきか、俺を通常の格好に指定して、***が自室に突撃してきた。
「オベロン!! 私誕生日!!」
「知ってる。今年は何がほしいわけ?」
***は俺の隣に寝っ転がって、見上げる形になって答える。
「色々考えてはみたけど、やっぱりモノは何もなくていいや。プレゼントもらっても、なんか、違う気がする」
「じゃあしたいことは?」
「とりあえずもふもふだっこしてみてもいい!?」
「はあ、好きにしろよ」
外さずにしておいた翅の付け根の、ファーショールのような部分に***が抱きつき、頬擦りする。今時期に触って暑くないんだろうか。その顔は、なんとも満足げだ。
「ふわふわ〜」
「日付変わってるんだから満足したら寝なよ」
「うんうん」
多分このまま寝落ちする。
案の定そう時間は経たず、俺の翅の上で鱗粉ままれになりながら、***は丸まって寝た。
もちろん誕生日だろうと通常業務はある。やろうと思えば、なくさせることだってできるけど。
いつも通り資材集めに行き、戦闘をする。今日は余裕があるクエストだということを差し引いても、戦う俺を見る***はいつだって、喜色を隠しきれないでいる。
帰還したら報告書の提出だ。一度俺は***と分かれる。しかし俺が向かう方向に、***が疑問を呈す。
「あれ? 部屋に戻らないの?」
「ああ。最近初めてアペンドスキルを解放した関係で、色々と魔術や素材について、調べ直したいことがあってね」
「うーん、そっか」
「調べ直すだけだから、君が手伝えることはないよ。それより、再提出にならないようにちゃんと報告書書いてきなよ」
「も〜いつもちゃんと書いてるよ〜!」
***が頬を緩ませる。俺が注意をしたから……もあるにはあるが、とっくに***は察している。俺が完了していないことに対して詳細に説明する時、そこには性質上大なり小なり嘘が含まれる。だから、“何かやる”ことは筒抜けなのだ。
そして完全に今日の業務が終了して、***がマイルームへ戻っていった。俺は一枚の皿を持って、そのあとに続く。そして俺はごく普通に、何もない日常のように、皿をテーブルに置いた。
「はい、今日のおやつ。誕生日祝いの特別バージョンだって」
ベッドに座っていた***が身を乗り出す。それどころかたまらず立ち上がり、皿を持った。
皿の上には、三種類のクッキーが乗っていた。しっとりとした、手のひらぐらいあるチョコチャンククッキー。ステンドグラスのようなアップルジャムが乗ったクッキー。そして、マロンクリームを挟んだクッキー。どれも焼きたてで、香ばしく、甘い香りをこれでもかと放っている。
「こ、これって、もしかして、オベロンが作った?」
「いや、食堂に行ったらもらっただけだよ。聞いた話によると、君の好きな食感にしたとか、俺との思い出があるフルーツを使ったとか。──特に林檎なんて、種類にこだわって用意して、じっくり時間をかけて煮詰めたらしいよ。」
返答を聞いて、***が震え出す。事実が頭に馴染むまで時間がかかっている時の反応だ。それが終わると、一旦皿を置き、布団に埋まって足をバタバタした。
「〜〜〜〜っ!」
そうだ。君が俺とした林檎に関する会話も、AP回復用の林檎をジュースにした時も、俺と君以外の者はその場にいなかった。
暴れ終わった***がガバッと起き上がる。
「オベロン!!! 絶対に腐らない・劣化しない・風化しない魔術かけて!!!」
「そんなものないよ」
ないよ。
「ほら、おやつなんだから食べなよ。それにプレゼントはいらないんだろ? なら保管しちゃダメじゃないか」
「あ〜〜〜!」
***が身をよじって苦しむ。全然ゴメンじゃないけど、食べてもらわないと困るんだよ。
落ち着いた***が椅子に座って、改めてクッキーを見る。食べる前なのにもう目に光るものが見えつつある。
「いっ、いただきます。」
***はまず、件のジャムクッキーに手を伸ばした。口元に運ばれたそれは、新雪を踏んだ時のように、柔らかい音を立てる。
「おいしい……っ!」
***が目を見開く。予想外なほどだったらしい。
「ジャムが甘いんだけど甘すぎない! ちょっとアップルパイの中身みたい!」
保存性を優先しないから味重視で甘さは少し控えめだ。生地の甘さとバランスを取れるようにした。
次にマロンクリームのサンドが手に取られた。軽めのクッキーを咀嚼する音が小気味良い。
「こっちのクリームは甘めだ! だけど生の栗の味が活かされてる! 刻んだのが入ってるのも楽しい〜!」
裏漉しだけでも面倒だっていうのに、みじん切りまで工程に入れた時には、自分で自分をなじろうかと思った。
最後に、大きなチョコチャンククッキーが、大きな一口で齧られた。────そして***の目に溜まっていた涙が、ついにこぼれた。
「……どうして……私の好きな味知ってるの……? カルデアではあんまり、こんなに甘いクッキー、焼かないのに……」
チョコも生地もたっぷり砂糖を使った、脳がしびれるような甘さのクッキー。理由は簡単で、去年夏に俺の部屋で菓子を食ってダラダラしてた時、かなり甘いドーナツへの食いつきがよかったから好きなんだろうと思った。というのが根本だが、念のため過去の特異点での様子などを、マシュに訊いて調査しておいた。
泣きながらでも、***は食べる手を止めない。
「おいしいよぉ……おいしいよ…………。ありがとう、オベロン……」
「俺は関係ないけどね。そんなペースで食べてたら喉詰めるよ、紅茶も持ってくる」
「ありがとう……」
食べながら、***の本音にふと、『オベロンは冷静に判断できるからいきなりケーキとかじゃなくて、最初はクッキーに挑戦したんだ。すごいなぁ、流石だなぁ。』という言葉が視えた。まったく、そんなところ気が付かなくていいのに。
マシュに質問をした時も、こんな提案があった。
「初めてお菓子作りに挑戦するんでしたら、先輩と一緒に作ってみるのはいかがでしょうか? きっとすごく喜ばれると思いますよ!」
それはそれで、とても楽しい思い出になるだろう。不恰好なものをお互いに食べ合えば、絆がより深まるに違いない。
だがそれでは違うんだ。俺がやりたい祝い方は、“これ”なんだ。
少なめに夕食を食べて、風呂に入って疲れを落とせば、また一日の終わりがやってくる。
同じベッドで俺と***は向かい合って寝転んでいる。本来は一人用だから、相変わらず狭い。
***の手が俺の手に重なる。一つの枕に二つの頭を乗せている今、身長差は存在しない。
しっかりと俺の手を握って、***は言った。
「オベロン。オベロンがいるお陰で、今年もこんなに嬉しい誕生日になったよ。本当に、ありがとう。時間はかかるかもしれないけど、お返しを絶対するよ。だから、これからも何度でも、一緒に誕生日を迎えてほしいな。」
ああ、嫌がってもそうしてやるとも。
これからの君の一年に、穏やかな日々があらんことを。