02
「があァァあぁ――!」
狂ったような男の悲鳴がマイクさんのものだと気が付いたのは時折呻くように発する声が彼のものだったから。
失った意識を引き戻したのは彼の悲鳴で、視界を塞がれ両腕は背中で縛られている。
視界を奪われたまま悲鳴を聞かされる。その異常な現実に恐怖で頭がおかしくなりそうだった。
「目が覚めたか。お前、本当にただのウェイトレスらしいな。不幸な奴もいたものだ」
「っ‥」
恐怖の中にふつりと怒りが沸く。この人の声はレストランで聞いた。事を起こした本人が何を言うの。
「あの男は繋ぎ‥簡単に言えば情報や物の受け渡しを副業としていた。それが今回運悪くオレたちに見つかった訳だ」
「‥他の、従業員は」
「ああ‥お前と同じく“不幸な奴”か」
唇を噛み締める。彼らの笑う声を聞きながら、数ヶ月一緒に働いた彼らを想った。
「っ‥馬鹿にしないで」
「あ?」
馬鹿にしないで。あなたたちが奪った命じゃない。
「グアァァ!」
耳を塞ぎたい。嫌だ、どうしてこんな。
「しかしジェーンもバカな女だ。あんな男に殺されるとはな」
「ジェーンを‥知ってるの‥?」
「ジェーンはうちの組織の人間だった」
‥嘘、だ。ジェーンは普通の子だった。明るくて、優しくて、職を無くして困っていた私に仕事だって紹介してくれて。
「お前はジェーンについて何も知らないらしい」
唇を噛む。そんなはずない。そんなはずない‥のに。思い返してみると私は‥彼女の何を知っていた?
「気が狂いそうか?そうだろうな‥なあリズ。ジェーンのことを教えてやろうか」
撫でるような手つきで肩に触れられて小さく悲鳴がもれる。
「男の苦しむ絶叫をバックに‥ゆっくりと」
「やっ‥な、何っ」
声とは全く逆の方向から脚を撫でられて恐怖と嫌悪感に身体が震える。
身を捩るものの視界と両手を塞がれていれば防ぎようがない。
「っ‥触らないで!」
後ろから腕のロープが解かれたかと思えば後ろに引き倒され、頭上で纏めて押さえ込まれた。
「いたっ‥や、お願‥っやめて」
「オイオイ、もう勃ててんのか?」
「すみません。嫌がる女を従わせるのが好きなもんで」
「随分な趣味だなァ」
下品な笑い声と共に服の上から脇腹をツウ‥と指が上へとなぞる。かと思えば強い力で胸を鷲掴みにされて激痛に息を詰めた。
「いっ‥痛い!いやあっ、離して‥っ」
「時期に気持ち良くなる。お前はいい女だ。殺さずにじっくり可愛がってやるからな」
それなら‥それならいっそ殺してほしい。いやいやと首を振れば、顎を掴まれ口付けられた。
「ふっ‥!?んんっ、や‥!」
「そそる仕草だ」
耳に囁きを落として再び唇が掠めた瞬間、入ってきた報告に動きが止まる。
「‥何?」
「あの男によればこの女がメモについて何か知っているはずだと」
「なるほどな‥」
顎を掴む手に力が込められたかと思うと口に何かが押し込まれた。
「んぅ、っ」
それはころころと舌を転がり意に反して喉へとたどり着いたことで、私は反射的に飲み込んでしまった。
「な、に‥?」
「睡眠薬だ。どうやらお前にも話を聞かなければならないようだな。楽しみはまた夜にしよう、リズ」
グラグラと脳が揺れる感覚と共に男の声がどこか遠くに感じる。
「車の用意ができました」
「ああ。その男も引きずって行け」
視界を覆う闇が更に私の意識を奪っていく。腕は解放されたようだったけれど既に動かす気力すらなく、私の意識はそこで途切れたのだった。
誰に助けを乞うことも出来ずに
(なっ‥テメェどこから入って――ぐあっ)(うぐっ)(ギャアァ!)
(どこからも何も鍵は開いていたが‥まあいい。リズは返してもらおう)
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