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05



――やっぱり!絶対似合うと思ったの。だってほら‥リズの綺麗な瞳と同じ色だもの。

‥ねぇ、リズ。私あなたが大好きよ。



「―‥‥ジェーン‥」


こめかみに涙が流れていく感覚に意識が浮上した。見慣れない天井を見上げ、手のひらで目元を被う。


ジェーンは、私がニューヨークに出てきて初めて出来た友達だった。

明るく人当たりも良く、ふわふわとした空気を纏っているものだから色んな人たちから狙われやすかったけれど、思慮も深く聡明だった彼女は一度だって屈したことはなかった。


私はそんな彼女が誇りだったし、大好きだった。家族のように大切だった。


「‥起きなきゃ」


大きく深呼吸をして、涙を拭いベッドから出る。


まだ見慣れない部屋は私が前に住んでいた部屋よりも広く間取りも多い。

今までの給料じゃとても家賃を払えないところだったけれど、提示された給料は思わず間違いではと聞き返してしまうほどで、家賃を払っても充分暮らせるものだった。


今月の家賃と生活費は5ヶ月分の給料からそれぞれ分割で引いてくれるらしい。

見積もりを見せてもらったけれど、その5ヶ月間少し切り詰めて生活すれば問題ない。


昨日はあれから日付が変わるまでお店にいて、私は途中からアルコール以外のものに切り替えたけれど変わらず飲み続ける彼らに朝からの仕事に差し支えるのではと心配になってしまうほどだった。

それなのに皆酔っぱらってはいても泥酔した人は一人もいなくて、こういう世界の人は皆お酒が強いのだろうかと首を傾げた。


「カモッラかあ‥」


更にはその酔っぱらいの集団にマルティージョファミリーはマフィアではなくカモッラだと説明され、代わる代わる1時間以上もマフィアとカモッラの違いや世間の認識についての愚痴を切々と説かれ撃沈。

次に目を開けた時には夜道を再び横抱きの状態でロニーに運ばれていて、朦朧としながら何か文句を言ったような覚えがある。覚えてないけれど。


「どうしよう‥ロニーに会いたくない」


シリアルを口に運びながら自己嫌悪に陥る。私‥ロニーに弱味ばかり見せている気がする。

発狂して、泣き縋って、酔っぱらって。‥‥恥ずかしくてたまらない。


食後はシャワーを浴びて少しゆっくりしてから、二時間ほどマジックの練習をする。

仕事は明日からで、マジックは1ヶ月後からということになった。お客さんの前でやるならもっとしっかり準備をしたいという私と、お店の調整や準備期間を設けたいというマイザーさんの意見があったから。


いつもの基本練習に加えて本格的な練習をする。集中力の問題で長時間はできないのであとは午後にするとして。

午後は何をしようかと、手をプラプラさせながら窓から外を眺めた。


「お昼‥食べに出ようかな」


あの人たちもしばらくは戻って来ないってロニーが言ってたし。

もらった生活費を頭の中で計算して、途中本屋にでも寄ろうと少し余分に持って家を出る。


どこか良さそうなレストランはないかと散策を兼ねてうろうろしていると、角を曲がったところで出会い頭に人とぶつかってしまった。


「ごめんなさい、余所見をしていて‥」


「いや俺も見てなかったんで」


お互いに謝罪して通り過ぎると、彼が「あっ」と声を上げたのでつられて振り返る。


「どこ行ってたんすかグラハムさん!ここには長居しない方がいいって‥」


「俺は今日新しい発見をした‥嬉しい話だ!」


「とりあえず離れましょうって!」


お友達を見つけた声だったのかと、私は再び前に向き直る。

不意にいい匂いに誘われて辺りを見回せばカフェを見付けて、昼食はそこで済ませようと決めた。


お店に入って窓際のテーブルを確保する。注文を終えて外へ視線をやれば、ちょうど赤髪と黒髪の美男美女が通り過ぎて行った。

恋人特有のほのぼのとした幸せそうな雰囲気に自然と顔が綻ぶ。


ここ数日の出来事が嘘みたいに平和な一日だと、頬杖をついて雲ひとつない空を見上げた。



無自覚回避能力


(あれ、席開いてないねぇ。どうする?)(‥また後で来よう)
(あ、私もう出るからよかったらここどうぞ)
(いいの?)(ありがとうお姉さん)

((変わった歯と目‥でもあの子も普通に話してるしいい人なのねきっと))


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