10000打企画小説
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「わっ‥」
ガシャ、と音がした方を覗くと、必死にエプロンを引っ張っている彼女の姿。
アルヴェアーレで働く彼女――ユウさんは、あの事件で偶然酒を飲んでしまい不死者になった一人だ。
酒瓶の入った木箱を一度持ち上げたはいいが、エプロンを挟んでしまったらしい。
横からそれを持ち上げるとするりとエプロンが手に落ちて、驚いたように彼女が私を見上げた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ぅ‥‥ありがとうございます‥」
失態を見られたからか、彼女の頬は見る見る真っ赤に染まっていく。
肌が白いから余計に映えるのだろうか‥と、不意に浮かんだ考えに思わず苦笑した。
「まさかとは思いますが‥これを一人で運ぶつもりだったんですか?」
きょとんと目を丸くして頷くユウさん。
さっきの様子から見て、どう考えても無理だろう。
「中に移動すればいいんですよね?」
「え‥‥あのっ、」
通り道ですから、と箱を持てば、ユウさんは慌てて追いかけて来る。
「重い物を持つのは男の役目ですよ」
「で、でも‥ガンドールさんはお客様なのに、そんなことしていただく訳にはっ‥」
「これ、貴女の仕事には含まれてませんよね?」
この仕事は女性には厳しい。聞けば、彼女はぱたぱたと私の先を行ってドアを開ける。
「ありがとうございます」
「いえ‥‥あの、もうストックがなくて。でも皆さん忙しそうだったので、持ってきておこうかと思って」
‥こういうところだ。
私はいつからか彼女に惹かれ、気付けば目で追っていることが多くなって。
内気な彼女は目立った行動こそしないが、こうした誰も気づかないような小さな事に気付く。
私がふっと笑えば、ユウさんは不思議そうにしながら頬を染めた。
「あ‥ここにお願いし、みゃあっ!?」
私の半歩後ろから小走りで台に向かおうとしたユウさんが、小さな段差に躓く。
私は箱を左腕で支えたまま、彼女の体を抱き寄せた。
「ごめんなさ‥‥びっくり、した‥!」
「‥‥‥」
みゃあ、って‥
ぺたりと座り込んでしまった彼女に耐えられず笑うと、怖ず怖ずと見上げてくる彼女は今にも泣きそうだ。
「ガンドールさんっ」
「すみません、あまりに可愛らしかったので‥」
「可愛っ‥!?」
口元に右手を添えて笑いをかみ殺す。
箱を台に乗せてから、座り込んでいるユウさんに手を差し出した。
「もう‥からかわないでくださいっ」
むくれる彼女が愛おしい。
普段見られない彼女が見られて、それだけで今日来たことに意味があったように思う。
「‥からかってませんよ。私は貴女をもっと見ていたいですし、こうして‥」
手を取って立ち上がったユウさんをふわりと抱き締めた。
「触れたいと、思いますから」
しばらくしても反応のない彼女に苦笑して、まだ早かったかと内心ため息をつく。
いつまでもそうしている訳にもいかず、腕を解いた時だった。
「‥そ、んなのっ‥期待、しちゃいますよ‥?」
「‥‥‥‥は‥?」
予想外の言葉に唖然としていれば、キュッと服が握られて。
俯いた顔は胸に埋まっていて見えないが、髪の隙間から覗く耳は真っ赤だ。
それだけで充分、彼女の気持ちを汲み取ることができた。
服を掴む小さな手を取る。
ぴくりと震えて私を見上げた彼女から視線は外すことなく、その手にキスを落とした。
「期待してください、その通りですから。‥‥ですが一つだけ」
「‥?」
「ラック」
頬を染めたままぱちぱちと瞬きする彼女に笑って、彼女の髪を摘む。
「ガンドールは三人いますから」
「えと、あぅ‥‥ラックさん‥?」
そのまま手を髪に滑り込ませ、彼女を引き寄せると同時に今度は耳元にキスを落とした。
「はい。慣れてくださいね、ユウ」
「‥‥‥!」
世界は僕らにひどく優しい
(‥不死者になって、よかった、かも)
(、突然どうしたんですか?)
(だって‥いっぱい一緒にいられます)
((‥‥‥‥‥可愛い‥))
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