10000打企画小説
名前の設定
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「あのね、ラックさんがね」
アルヴェアーレで、この名前を聞くことが多くなったのは気のせいではないと思う。
本人の知らぬ所で話題は上がり、彼女を溺愛するカモッリスタの間でヤツは憎むべき存在だ。
最近居心地が悪い、と呟いていたラックを思い出して、思わず笑いが漏れた。
「あれ‥ユウはどこに行ったんですか?」
さっきまでマイザーさんと嬉しそうに話してたはずなのに。
「お出迎えに」
示す視線の先を辿れば、入店したらしいラックの裾を引いて何か話しているユウの姿。
「ユウの話って基本がラックですよね」
一緒に住んでるから、というのが一番理由としては大きいだろうが、それにしてもだ。
ラックがどうした、とか、ラックが教えてくれた店がどうだ‥とか。
「‥‥見せつけてくれますね」
「まあ本人たちはそんなつもりないんでしょうけどね」
苦笑しながら二人に視線を向ける。
上着を脱いだラックの手を取ったユウが目を丸くして、ラックが外を指差した。
何か話ながらこっちに向かってくるラックに片手を上げれば、ふっと表情を和らげる。
「外寒いのか?」
「は?ええ、今日はかなり冷えますが‥なぜ突然?」
「ユウが手触って驚いてたからな」
納得したように椅子を引いたラックが不意に腕を上げた途端、
「みっ‥!?」
変な鳴き声に全員がユウを見た。
「すみません、ユウ。動かないでください、今取りますから」
袖のボタンに髪が引っかかったらしく、ユウはさっきの痛みで涙目だ。
「待って待って、ラックさんっ」
ユウは慌てて頬に触れそうになった手を取って、両手で包み込む。
「ラックさんの手冷たいから、温かくなるまで待って」
「「「‥‥‥‥」」」
それは要するに、ユウの手で温める‥ということなのだろう。
「あったかい?」
「ええ‥とても」
‥駄目だ。いちゃついてるようにしか見えない。
「計算、じゃありませんよねこれは」
「マイザーさん、ユウにそんなことできると思います?」
「‥フィーロ、外してください」
「?」
不思議そうに首を傾げるユウに苦笑して、二人の後ろに回り込んで解いてやる。
「ありがとうございます」
「あっ、とれた?」
ラックの手から左手だけ離したユウは確認するように髪を梳く。
痛かった、と箇所を撫でるユウはぴたりと動きを止めて、今度は俺たちが首を傾げる番だ。
「ユウ?」
「‥‥‥、」
右手も離して、両手で頬を包んだユウはへらりと笑った。
「ラックさんの冷たいの、移っちゃった」
‥‥‥くそ、不覚。
ちらりと二人を見てみれば、ラックは口元を覆うように肘掛けに頬杖をついていて。
「‥ユウはいちいち仕草が可愛いんですよね」
いや、それ真顔で呟くことじゃないですからマイザーさん‥
「なら俺が温めてやろう」
突然入り込んできた声に顔を上げれば、後ろから抱きしめるように手を取るロニーさん。
「びっくり、した‥お兄ちゃんもっと普通に近付いて来て!」
「気配を消したつもりはないがな」
「それに、仕事があるからしばらくお部屋にこもるんじゃなかったの?」
顔だけで振り向こうとするユウの頭に顎を乗せたロニーさんはしばらく黙って、ちらりとラックを見る。
「‥‥気配を感じた」
「? 何の?」
「‥‥‥‥」
今の状態でユウが視線の先など見れるはずもなく。
ラックはそれに敢えて気付かないように、ひたすら酒を煽っている。
「‥‥大人気ない」
ため息をつくマイザーさんに苦笑して、俺はラックの肩を数回叩いた。
関係者のひとりごと
(ま、見てる俺は楽しいんだけどな)
(フィーロ‥)
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