10000打企画小説
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「、何かあった?」
昨日。帰って来るなりシャワーに入ったラックさんの様子が、心なしかおかしい気がして。
そう尋ねた私の頭を撫でて、何もありませんでしたよ、とラックさんは笑った。
「‥‥うそつき」
休憩室で突っ伏したままぽつりと呟く。こてんと顔を反転させて、私は小さく息を吐いた。
ラックさんはいつも、私に嘘をつく。
確かに私はマフィアの世界なんて何も知らなくて、ラックさんが関わらせたくないと思ってるのは知ってる。
それは私を守るためで、だから私も迷惑をかけてまで知りたいとは思わない。
でも‥‥そうじゃない。ラックさんが隠してるのは感情そのものだ。
怒りとか、悲しみとか、そういうものをラックさんは表に出さないようにしてる。
それを知りたいって思うのは、私のわがままなんだろうな‥
「あら、ユウちゃんどうかした?」
休憩室に入ってきたシェリルさんは、私の向かいに腰を下ろす。
私は体を起こして、ちらりとシェリルさんに視線をやった。
「あの、シェリルさん‥」
「うん?」
「‥嘘だって分かってても、知らない振りをしなくちゃだめですか?」
シェリルさんはぱちぱちと数回瞬きをして、難しい質問ね、と頬杖をついた。
「ユウちゃんは‥知りたいのよね?」
小さく頷いた私に、シェリルさんは考えるように短い間を置く。
「勿論、内容によると思うの。嘘って言っても色々あると思うし、それを見極めるのって難しいけど‥」
私をまっすぐ見つめて、優しく細められる瞳。
「受け止めるだけの覚悟があるなら、真実を知るのもいいと思うわ」
あくまで私の意見だけど、と笑うシェリルさんは、私の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
帰宅後。結局いくら考えても答えは出せず、ソファーで読んでいた本は1ページも進まないまま。
ガチャン、とドアの音に動揺して、私は持っていた本を床に落とした。
「ユウ?まだ起きてたんですか?」
「おかえりなさい、えと、いま何時?」
驚いたように目を丸くするラックさんは深夜2時だと教えてくれて。
私は明日の準備のために慌てて立ち上がった。
「‥ユウ、」
すれ違い様、腕を掴まれてその感覚に私はキュッと唇を噛む。
「何かあったんですか?」
ふるりと首を振る。
「‥私には、言えないことですか?」
今度は二度、首を振る。
そうじゃない。だって私が悩んでるのはラックさんのことだから。
‥でも。
でもね、そんな悲しそうな声色で私が聞きたかったことを問うのはずるいと思う。
だって、だって、だって。
頭に浮かぶのは疑問と言い訳とシェリルさんの言葉。
ぐるぐる回るそれに耐えきれなくなって、気がついたら勝手に口が動いていた。
「ラックさんはずるい、だって、自分は隠すのにっ‥」
ほんの少し、腕を掴む力が強まる。
「どうして私にそれを聞くの?私が聞いても答えてくれなかったのに、なのにどうして同じ‥っ」
掴まれていない方の手で浮かんだ涙を拭う。
「私は何も知らないけど、子供かもしれないけど、だけどっ‥あんなに辛そうな顔してたのに、ラックさんが何も教えてくれないのは悲しいよ‥!」
背を向けたままその場に座り込むと自然と手からすり抜ける。
こんなの困らせるだけだって分かってるのに止められなかった。
「‥私のせい、ですね」
ぽつりと呟かれた声が聞き取れなくて、振り返ろうかと思った時だった。
「‥‥このままで」
布ずれの音がしたと思えば、体が後ろに引かれて温かさに包まれる。
寄りかかるようにすっぽりと腕に包まれた私の耳に、すぐ上から声が降ってきてくすぐったい。
「‥聞いても面白くないですよ」
「‥ラックさんの話なら、私は全部聞くよ?」
「‥‥負けますね、ユウには」
静かな声だ。まるで独り言のような小さな声。
私はそれを聞きながら、ひとつ思ったことがあった。
「‥ごめんなさい」
「なぜユウが謝るんです?」
「‥‥だって、すごいわがまま言ったから」
モゴモゴと言ってから、私はこてんと頭をラックさんに預ける。
「‥ラックさん、あのね」
午前3時。安心感もあって、さすがにうとうとして来た。
だけどこれだけ、伝えたくて。
「嘘、ついてもいいよ」
「‥‥はい?」
「でもいつか、話してほしいの。受け止める覚悟はね、ちゃんと、できてるから」
ふわりふわりと意識が微睡む。
半分夢の中に入っていた私には、ラックさんの呟きなんて理解できるはずもなく。
「‥‥なら、お言葉に甘えます」
こめかみに降ったキス。私がこれを知るのは、いつのことになるのだろう。
今はまだ、このままで
(昨日、何か言った?)
(どうだったかな、覚えてませんね)
(‥‥ラックさんうそつき‥)
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