短編
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ドキドキとうるさい胸を押さえ、私はじっと気配を殺した。
もう目標は目の前、手を伸ばせば触れられる距離。
私は今、過去最高レベルのミッションに挑戦しているところである。
「(お、落ち着いて‥)」
床に両膝をつきソファーの横に膝立ちになった私は、体重をかけないように、それでも身体を支えるようにそっと手をつく。
肘おきに立て掛けるようにして置いたクッションを枕にすうすうと眠るラックさん。珍しいことこの上なく、しかも完全な無防備状態。
携帯があればシャッター音で起きてしまうの覚悟で写真を撮るのに‥この時代にはまだカメラすら一般家庭に当たり前にあるものではない。
だから目に焼き付けておこうとじっと見詰めていたのだけど、不意に私はとんでもないことを思ってしまったのだ。
だって、こんな姿可愛いし、きゅんとするし、こんな機会滅多にないし‥‥寝てる間にき、キスしたい、とか。
「~‥っ」
かあっと顔が熱くなる。頬を押さえて首を振り、少しそのまま落ち着くのを待ってからぐっと拳を握って気合いを入れた。
ソファーの端に手をついてそっと身体を傾ける。
キシ、と僅かに軋んだソファーに一瞬動きを止めたものの、ここで止めたらもう一度決心をするまで時間がかかりそうだとそのまま顔を近付けた。
好き、大好き。もっと、ラックさんに伝わるといいのに。
息を止め、緊張で震える唇を重ねる。
「っ‥‥」
私何してるんだろう‥‥恥ずかしすぎる‥!
ぱたりとソファーに置いた手の上に額を乗せ羞恥に耐える。ばか、私のばか。
頬を押さえたままため息を吐き顔を上げると、目を丸くしてこちらを凝視しているラックさんと目が合った。
「ひゃあああっ!?なっ、ラッ、起き、」
思わず後退りすると腕を掴まれた。その掴まれた腕をブンブンと振って抵抗すると、更に強まった力にへにゃりと眉を下げる。
「‥今、」
「ご、ごめんなさいもうしませんー!」
「別に怒っているわけではありません。今のは‥‥私の夢ではないですよね」
つい、と僅かに外れた視線に逃げようと身体に入れていた力を抜いた。
よくよく見るとほんの少し色付いた目の下。‥もしかして、ラックさん、照れてる‥?
「‥‥可愛い‥」
こんなラックさん滅多に見られない。ついじっと見つめるとその眉間に皺を寄せられて、まずいと思った時には遅かった。
「わっ‥」
腕を引かれラックさんの胸に手をつく。
「それで‥貴女は私が寝ている間に何を?」
「えっ‥な、何も‥」
「‥何も」
すっと目が細められるとラックさんは自身の唇を親指でなぞった。寝起きの少し掠れた声とその仕草のコンボは私の心臓を鷲掴みにし、どうしようもない羞恥心が沸き上がる。
「まさか‥ユウに寝込みを襲われるとは思ってもいませんでした」
「襲っ‥私はただ‥!」
「ただ?‥キスをしただけ?」
「~~っ」
ぽすりとラックさんの胸に額を伏せる。するとなでなでと頭が撫でられ視線を上げれば、ラックさんが嬉しそうな表情で私を見詰めているから。
「‥ラックさん?」
「目覚めた瞬間に貴女が目の前にいるというのは‥幸せですね」
きゅう、と胸が絞まる。
頭を撫でていた手が頬に滑り、私はその手に自分の手を重ねてはにかんだ。
「ユウ」
「――‥、」
ラックさんが肘をついて半身を起こしたと思うと、瞬きする間もなく唇が重ねられ。
「今度は起きてる時にお願いします」
顔をますます真っ赤にすると満足げに笑みを浮かべたラックさんの手が後頭部に回された。
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