5000打企画小説
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「ただいま」
静かに鍵をかけて、いつの間にか癖になった言葉を呟く。
返事はなく、彼女はもう寝たのだろうと思いながらスーツの上着を脱いだ。
「‥‥ん?」
ネクタイを緩めながら上着をソファーの背もたれへやると、見覚えのないそれが目に入る。
きっと誰もがこの部屋を見たらその存在に首を傾げるのだろう。
私の部屋にはひどく不似合いな可愛いクマのぬいぐるみ。それがソファーに我が物顔で座っていて。
思わず笑いながらクマを手に取ると、ほぼ同時にドアの開く音がした。
「あっ、ラックさんおかえりなさい」
「ただいま」
頬をほんのり上気させ、タオルで髪を拭いているユウ。
出た後だったのだろう、シャワーの音がしなかったから気づかなかった。
「これ、どうしたんですか?」
「シェリルさんがくれたの!」
私からクマを受け取ると、抱きしめながら嬉しそうに笑うユウ。
それがあまりに似合いすぎて、笑わずにはいられなかった。
「よかったですね。可愛いですし」
「うん、このクマさんすごくふかふかしてて‥」
「ユウが」
「‥‥‥へ?」
きょとんと首を傾げるユウに、私はソファーに腰を下ろしながら続けた。
「ですから、ぬいぐるみを持ったユウが可愛‥」
「わああっ」
ぼふっと押し付けられて口を塞いだのはあのクマ。
「どうしたんですか?」
わざと問えば、ユウは頬を染めたまま何か言いたげな表情で首を振る。
「‥ユウは結構頑なですよね」
「、頑な?」
「ここに来たときもそうでしたが、すぐ口を閉ざして首を振る」
微妙な表情で私を見るユウに小さく笑みを浮かべて、クマを返した。
「要するに意地っ張りってことです。まあ‥口に出さない分顔に出てるんですけど」
はっとしたように赤く染まった頬を両手で押さえたユウは、恐る恐る私を見て。
いじけたようにふいっと目を逸らしたまま、同じソファーに離れて座った。
「ユウ?」
どうやら彼女の機嫌を損ねてしまったようだ。
ソファーで体育座りしたまま、膝に乗せたクマを見つめている。
その様子は拗ねているようにしか見えなくて、私は小さく笑った。
「ユウ」
距離を埋めるように体を反転させる。
肩に掛かるタオルを抜き取って頭に被せれば、彼女の瞳が私を見上げた。
「髪はきちんと拭くように言っているでしょう。風邪でもひいたらどうするんです」
「むっ‥」
タオルを動かしていると、ユウの目がだんだんと薄められていく。
そのうち肩に入っていた力が抜け、気持ち良さそうに目を閉じた。
その姿が、あまりに無防備で。
「気持ち良いですか?」
「ん‥」
「知ってます。顔に出てますから」
はっと目を開けたユウは数回瞬きをすると頬を赤く染めて、クマにぽふりと顔を埋めた。
「‥ラックさん、からかってるでしょ」
「よく分かりましたね?ユウは反応が面白いのでつい」
言えば恨めしげに見てくるユウ。
再び飛んできたクマをよけて、その腕を掴みぐっと耳へ口元を寄せた。
「ですが‥可愛いのは本当ですよ」
「!!」
途端すごい勢いで後退りしたかと思うとソファーから落ちて、声をかける暇なく寝室に駆け込んで行く。
私はその速さに唖然としながら、可笑しくて笑った。
「おやすみ、ユウ」
これだから、ユウをからかうのはやめられそうにない。
ほんのり染まる
(それがあまりに可愛くて。)
(‥‥‥ラックさんの意地悪‥)
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