短編
名前の設定
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心を覗くことに慣れすぎている彼は、それを封じられた時、心を感じるということが物凄く下手だ。
「‥ロニー、彼女に何を言ったんですか?」
「‥‥何も」
そう、何も。小声で、しかし私の耳が捉えたその会話にまたふつりと嫌な感情が振り返す。
私はグラスに入っていたお酒を一気に煽り、カッと熱くなった喉に耐えてからその様子に唖然としているマイザーの隣にいる彼の前に歩み寄った。
「さて問題です私は何故怒っているでしょうか、1ロニーのバカ、2ロニーが鈍感、3ロニーのバカ」
一息で言いきったその言葉を最後に店を後にする。
カツカツと靴音が響くとそれがあまりに腹立たしげで、歩調を緩めて立ち止まった。
私って最低。激しい自己嫌悪に襲われてその場に立ち竦む。
夜も深いせいか人通りは疎らで、俯いたまま動かない私を不思議そうに見やっていく。
「‥気持ち悪い‥」
いつもは薄めて飲んでいるお酒をムカムカとした気分のままストレートで一気に飲み干したのだ。気分が悪くなっても当然かもしれない。
ぐるぐると回る視界に耐えられず壁に手をつく。ああ、やばい。本格的にやばい。
自己嫌悪と今の状況にじわりと浮かんできた涙を乱暴に拭うものの、お酒が入り昂った感情を抑えられない。
ついに脚にも力が入らなくなり座り込もうとした瞬間、腕を引っ張られて鼻を激突。状況が分からず鼻を押さえて抗議すると、聞きなれた声が落ちてきた。
「あんな強い酒を一気にいく馬鹿がいるか」
「‥‥ここにいまーす。ばかロニーにばか何て言われたくありません」
「‥まあいい。立て、帰るぞ」
ああ、何て可愛くないことを。もうやだ、逃げたい。腕を離そうとしないロニーに抵抗を試みるも、完全に酔っ払い扱いだ。
引きずられるようにして家に帰って来ると、ポイッとベッドに投げられ悲鳴を上げた。
「何す――っ‥!」
肘をついて起き上がろうとすれば覆い被さって来たロニーに唇を塞がれ、驚いてそれに抗議しようとすればまた塞がれる。
遊ばれているようなその感覚に腕を振り上げればそれぞれが顔の横に縫い付けられてしまい、完全に動けなくなった。
「何なの‥っ、どうせ気付いてないくせに。ばか、鈍感っ」
お酒が入っているとは言え、自分のボキャブラリーの少なさが悔やまれる。
「‥なるほどな」
「何がなるほどなのよ!離してよ‥っ」
「お前が言ったんだろう。誕生日は好きな人と過ごしたいと」
言った。それが精一杯だった。だから奮発して買った靴をはいて、おしゃれをしてアルヴェアーレに行った。
「お前が三時間もあそこで待っていたのは俺か?」
気持ちは決して覗かない。それが彼と出会った時にした約束で彼は律儀にそれを守っている。しかし彼はそうなれば人の気持ちには疎く、殊更恋愛という感情にはいくらアプローチしても不思議そうな顔をするだけ。マイザーたちは気付いてるのに。
けれど今回のかなり自分的には勇気を振り絞った作戦、それが全くうまくいかなくて、ロニーがお店に現れたのはほんの三十分前。日付が変わるまであと二十分。声をかけただけでマイザーのテーブルに向かったロニーに、ロニーが悪いわけじゃないのにすごく悲しくなって、どうしようもなく腹が立って。
「‥‥そうよ」
こんな無様な知られ方ってない。目を逸らすと暫くしてロニーの「そうか」という呟きが聞こえた。
「俺は何故かあの時お前が店にいると聞いて行くのをやめた。理由を考えたのだが‥どうやら俺はお前が好きな男とやらといるのを見たくなかったらしい」
「‥え‥‥要するに‥?」
「ふむ‥‥好きだ。これでいいか?」
告白されてこれでいいかと聞かれたのは生まれて初めてだ。展開に追い付けず唖然とする私に、ロニーが時計を見て囁いた。
「誕生日おめでとう」
日付が変わるまで、あと三分。
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