短編
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「美味しいっ」
どれを食べても出てくるのはこの言葉。他に表現の仕方があるんだろうけど、私には思いつかなかった。
「それはよかった」
腕を奮った甲斐があったと、ふわりと目尻が下がり嬉しそうなラックさんにきゅんとする。
頬が赤くなるのを感じながら料理を頬張れば、ラックさんの指が口の端を拭い。
ごく自然な流れで、指はラックさんの口に運ばれた。
「‥‥恥ずかしいっ」
「まあ、わざとですからね」
「!!」
「ユウの慌てる姿は可愛いので、つい」
からかいたくなるのだと、ラックさんは綺麗に笑う。
クリスマスの今日、外はとても静かだ。
アメリカでのクリスマスは日本での過ごし方とは違い、親戚が集まって豪華な食事を囲みゆっくり過ごすのだとラックさんに聞いた。
お店は大抵どこも閉まっていて、話を聞いた感覚としては日本のお正月に似ている。
「毎年何もなければキー兄の家に集まるんですが‥」
今ガンドールはごたついていて、ボスの三人は休んではいられないらしく。
今日も仕事だったところを、ラックさんは無理矢理時間を作ってくれたのだ。
「キースさんとベルガさんはお仕事なんだよね‥?」
「‥ユウにとっては初めてのクリスマスだからと、助言してくれたのも兄たちなんです」
「何か私、もらってばっかりだよ‥」
嬉しい気持ちも、プレゼントも。
一人用のソファーを陣取っているクマさんの周りには、隙間を埋めるようにプレゼントが置かれている。
うちにはツリーがないから、その役目はクマさんが果たしていて。
クマさんの首に巻いた赤いリボンと、耳から下げたツリー装飾用のベルと小さな靴下が部屋を彩っていた。
「私あんなにプレゼントもらったの生まれて初めて」
プレゼントは一人に一つではなく、二・三個高すぎないものを贈るのだとか。
事前にケイトさんに相談して話は聞いていたものの、次々送られてくるマスターたちやベルガさんたちからのプレゼントの山には目を見張った。
「‥まあ、これだけじゃ済まないと思いますけど」
「へ?どうして?」
「ユウを妹のように可愛がっているファミリーはもう一つあるでしょう?」
ぱかっと口を開けたまま、浮かんだ人数にぎょっとする。
「わ、私そんなにもらえな‥皆にプレゼントケーキぐらいしか用意してないっ‥!」
「いいんですよ。それこそ皆あげたいだけで貰おうなんて思ってないんですから」
「でも‥」
「ケーキを用意してると知れば、それだけで喜ぶと思いますよ」
そうかな‥?
確かに十人を超える人数にプレゼントを用意したら、私の貯金は大ダメージだけど。
「気持ち‥伝わるかな?」
ラックさんは返事の代わりに私の頭を撫でて、優しく微笑んでくれた。
「ラックさん、もうプレゼント開けてもいい?」
「どうぞ」
ドキドキしながらリボンを解く。
この時の気持ちは子供の頃と変わらず、頬が勝手に弛んでしまって。
「わ‥マフラーだ」
「ユウが風邪を引かないように」
首に巻くとふわふわとして暖かく、私はそのままラックさんの手をぎゅっと抱き締めた。
「ありがとう!すごくあったかい‥これで風邪対策は万全だね!」
「ユウがシャワーの後、髪を拭くのを忘れたりしなければ」
「ぅ‥‥それは‥気をつけます‥」
気を取り直して、ラックさんにプレゼントを差し出す。
解く指先をじっと見つめたまま、恐る恐る様子を窺った。
「私自身プレゼントを貰うのは久しぶりです。これは‥ネクタイピン、ですか?」
「ん。ラックさんに似合いそうなのいっぱいあって迷っちゃった」
「大切に使わせてもらいます」
お礼の言葉と一緒にこめかみにキスが降る。
私が赤くなるのを知っていてするんだから、ラックさんは根っからのいじめっ子体質だと思う。
むうっと唇を尖らせると、笑いながらむにむにと頬を摘まれて。
「機嫌を損ねましたか?」
「‥分かっててやったくせにー」
「すみません」
笑いながら謝られても説得力がない。
じっと見上げれば、小さく首を傾げるラックさんはやっぱり、どうしようもなくかっこいい。
こんな人が私を好きでいてくれるなんて奇跡みたいだ。
「‥‥ここにも」
ちょんと唇に触れておねだりして見ると、丸くした目を優しげに細め。
「‥姫のご要望とあらば、いつでも」
頬に添えられた手は骨ばっていて大きく、私を安心させてくれる。
「私が姫なら、ラックさんは王子様だね」
「そんな柄じゃありませんけどね」
二人でクスクスと笑い合う。
私にこんなにも幸せを運んで来てくれるサンタさんと王子様は、きっとラックさん以外にはいないのだろう。
「Merry Christmas」
(ラックさん白馬似合いそうだよね)
(‥‥‥はい?)
(へへ、王子様独り占めっ)
((ユウが嬉しそうならいいか‥))
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