短編
名前の設定
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「嬉しい、嬉しい話をしよう!これはお前らには関係のない、俺だけが、この世界で俺だけが嬉しい話なわけだがそんなの俺には関係なーい!」
バカでかいモンキーレンチを振り回しながら息継ぎもなしに言い切るバカ。
あ、一文にバカ二回出てきちゃった。
‥‥‥‥まあいいか。
「‥‥グラハムさん、前にも言いましたけどその誰もが話聞いてくれる前提で話すのやめ」
「おい待て‥お前らも関係なくて俺も関係ないならこの話の中心は誰だ!?可笑しな話だ!俺が中心だったはずなのにいつの間にかはじかれてるなんて可笑しすぎるぞ!」
「‥‥‥‥‥」
シャフトの声は最早聞こえていないらしく、奇声を発しながら近くの壁を殴りつける。
ちなみに今はたまり場となっている空き倉庫でいつものように騒いでいるのではなく、れっきとした仕事中なのだ。
銃声が飛び交い、鮮血が舞い、骨の折れる音、絶叫をBGMに奴はしゃべり続けている。
「だが今は可笑しな話よりも嬉しい話が先だからいくら可笑しくてもOKだ!俺は今清々しいほどにOKだ!」
「いや意味分からないっス」
「っていうか‥‥」
私は近くに刺さっていた手のひら大のレンチを抜くと、おもいっきりグラハムに投げた。
「うるさいバカ!」
確実に当たるタイミングで投げたはずなのに、グラハムは避けただけでなく私を見てぱあっと表情を明るくする。
「ユウ!これはお前からの愛と受け取っていいのか!?やべぇ‥やべぇよ燃えてきたよ俺!」
「私仕事は静かにやりたいのに、どうしてここにあんたがいんのよ!」
殺し屋として依頼されて来たこの場所で、私が一人を仕留めたのとドアが蹴破られたのはほぼ同時だった。
そこで誰より早く私を見つけたグラハムが私の名前を大声で呼ぶから。
その声で集まってきた奴らに反対側の出口を塞がれて、この今の状態に至る。
「そこだ!そこが嬉しい話だろう?俺は、俺が壊す予定だった楽しみにしていたあの車を、俺が解体する前に!ぺしゃんこにされた恨みがあってここにいるわけだが‥」
襲いかかってくる男のそれを器用に避け、まるで物を解体するように関節を外した。
「待ち合わせもしていないのにお前と会えるなんて、これは愛以外の何物でもない!‥‥うわ、ちょ、聞いた?今俺すげぇかっこいいこと言ったよ!?」
私は呆れてものも言えず、ツッコミすら放棄したらしいシャフトを見やる。
肩を竦めて首を振ったシャフトにため息をついた時、背後からの気配に息を呑んだ。
――やばい、気抜いた!
このまま振り返っても、確実に左腕はやられる。
私は右利きだし生活に支障はないか――瞬時にそう判断して振り返ろうとした時だった。
キィンッ!
甲高い音と同時に通り抜けて行った円盤状の銀が男の手からナイフをからめ取っていく。
そして次の瞬間には、目の前に映った鮮やかな青。
「ちょっとお前さ、俺の大切なユウに何してんの?」
「あ‥‥グラハム‥ッ」
「ん?」
男が崩れ落ちて、振り返ったグラハムの腕にはナイフが突き立てられていて。
私が後ろの気配に気づく直前グラハムとやり合っていた男がナイフを振りかざしていた図から想像するに、たぶん彼は。
自分の腕を盾に、私を守るためにレンチを投げた。
「ああ、これか?ユウを守るための名誉の負傷ってやつだ!‥‥やばい、自分に惚れそうなんだが‥それはさすがにどうだろうかと思っている自分がいる」
「‥‥どうして?私なんかじゃなくて自分守りなさいよ!」
ああ、こんな仕事中に感情に揺さぶられるなんて殺し屋失格だ
だから‥‥グラハムの前ではただの人になってしまうから、
こんなところで会うのは嫌だったのに
思わず服を掴んで揺さぶると、グラハムは当たり前のように言った。
さも、彼がレンチを振り回すときのように自然に。
「それは幸福なことに無理だ。なぜなら思うより早く体が動いてたからな」
「‥‥、なんで、幸福?」
「なんでってそりゃ、無意識にユウを守れるなんて俺かっこよすぎる程にOKだろ?」
反則だ。
周りは地獄みたいな光景なのに、こんな仕事場で泣きそうになるなんて。
「何、それ‥‥バカハム」
「えッ‥‥‥バカハム!?」
行動優先順位
(‥‥ユウさんってツンデ)
(シャフトうるさいっ!)
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