短編
名前の設定
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「悲しい‥‥悲しい話をしよう」
「ご、ごめんなさい、あたしが悪かったんです!だからそのっ、は‥離してください」
突然。
本当に突然声をかけられた。
たまたまアルバイト先で店先を掃除してたら、後ろから声がして。
鮮やかな青が目に入ったと思ったら、次には流れるような金髪。
綺麗――そう思ったのも束の間、振り返ったあたしが持っていたホースは自動的に彼に向くわけで。
水は彼に降りかかり、全身を水浸しにしてしまった。
慌てて謝るあたしが恐る恐る彼を見上げると。
彼はわなわなと体を震わせて、
「なんということだ‥この水で打たれたような感覚は何だ!?これはまさかあれか!世に言う恋ってやつなのか!?えっ‥‥どうしよう!俺一目惚れって初めてなんだけどどうしよう!どうしたらいいと思うシャフト!」
物凄い勢いで話し始めた。
あたし‥とんでもない人と出会ってしまったんじゃないだろうか‥
変にドキドキしながら様子を窺っていると、後ろにいたもう一人がため息をつく。
「いや実際水に打たれてますよ。でもまあ一目惚れならとりあえず自己紹介とかしてみたらどうすか?」
「なるほど!よし、お前今いいこと言ったぞシャフトのくせに!」
「はいはいどうもありがとうございます。まあひとこと言わせてもらうと既に彼女、俺の名前の方先に覚えちゃってると思いますけど」
突然矛先があたしに向いて、思わずびくりと肩を竦める。
「え、あの、あたし‥」
「本当か!?」
「ひあっ」
両肩を掴まれてぐっと顔が近づく。
ち、近い‥!
彼の背後に見えるバイト仲間も、関わりたくないのか見て見ぬふり。
う、恨んでやる‥‥!
涙目になるあたしを知ってか知らずか、後ろの青年は追い討ちをかけた。
「それにまだ貴方名乗ってないですしね」
「‥‥‥俺が‥シャフトに負ける‥?」
「早さの問題で言えばそうですかねぇ。誰も勝ち負けの話はしてなぐっ」
右手が離れたと思ったら、鈍い音と共に後ろの青年がうずくまった。
―――そうして、あの冒頭のやりとりに戻る。
「あ?ああ‥‥うん」
案外すんなり離してくれた。
ほっとして一歩下がると影が降って、見上げたあたしは息をのむ。
「あれ‥‥うん、つーか‥」
ぶつぶつ言いながらあたしを見る彼があまりに近くにいたから。
「お前、よく見たら可愛いな」
「えっ‥!?」
かあっと顔が熱くなる。
いろいろ突然すぎて頭が追いつかないあたしに、その人はなんでもないことみたいに頷いている。
「なんかドキドキしてきた‥ドキドキしてきたよ!やっぱこれが恋なんじゃねぇの!?やっべぇ‥‥なんだよこれ!」
「、あの‥」
「よしお前!いいか覚えろよ?」
びくっと体を竦める。その人はにっと笑うと、私の頭を鷲掴みにした。
「俺はグラハム・スペクターだ。お前は?」
「あ、あたしは‥ユウ‥です」
名前を教えるのにこんなに不安になったことがあっただろうか?
でも言わないとそれはそれで‥
思っていると、グラハムさんの左手がすっと頬を通り過ぎて髪に滑り込む。
「な、なにっ‥」
「ユウか‥‥よし、ユウ」
顔を傾けるグラハムさんの髪が重力に伴ってさらりと落ちる。
その隙間から見えた瞳は、嬉々と輝いてあたしを捕らえた。
「俺はお前が恋人になるまでお前に会いに来るから覚悟してろ?」
どうして出会ってしまったんだろう?
しばらくは、神様なんて信じられそうにありません。
もしもし、元気ですか?
あたしは今ピンチです
(ユウ!今日こそ恋人に‥)
(グラハムさんっ!店内でレンチ振り回すのやめてください!)
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