一周年企画小説
名前の設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「起立、礼」
ガタガタと椅子の音と共に教室が騒がしさに包まれていく。
休み時間に入ると、授業中とは打って変わって賑やかになった。
「おー、一年生は元気だねぇ」
「少し前まで私たちもああだったでしょうに」
二人の視線を追いかけて窓の外を見る。
行事を含め、初めて尽くしの一年間はあっという間に終わってしまった。
二年生になったからと言って変化がある訳でもないのだけれど、唯一あるとすれば‥
「あっ‥教科書間違えた」
慌ててロッカーに向かえば、入口のところでぽふっと顔から何かぶつかって。
「むっ‥」
「Are you ok?」
「わ、ラック先生、ごめんなさいっ」
「いえ、ですが次は気をつけるように」
諭すような口調にこくりと頷く。
唯一変わったことと言えば、英語の担当がラック先生になった。
当然、学年が変われば先生だって代わるだろうけど、私にとってそれが“ラック先生”であることが重要で。
「藤崎さん、予習やってきましたか?今日当てますよ」
「えっ‥‥当てられるのは、やです」
「大丈夫、藤崎さんの発音は綺麗ですから。自信を持ってください」
「うぅ‥」
沢山しゃべれるようになった。それが何よりも嬉しくて、私は俯いたまま小さく笑みを浮かべた。
「先生、何藤崎イジメてんすか」
「藤原くん」
「おや、イジメているつもりはないのですが‥そう見えましたか?」
クスクスと笑う背の高い二人を見上げて首を傾げる。
藤原くんは二年生になったら別のクラスになって、教室も離れてしまったけど今もこうしてたまに教室に来てくれた。
「あ、藤崎。現国の教科書貸してくれないか?」
「現国?うん、今日はもう終わったから返すのゆっくりでいいからね」
席に戻って教科書を渡す。
前々から藤原くんが教科書を借りに来ることがあった。けど、藤原くんは友達も多いし隣のクラスにもいるはずなのに。
「藤原くん、この教室遠くない?」
意味を察してか、藤原くんが苦笑しながらちらりと教室を見渡す素振りをした。
「あー‥牽制?」
「牽制?‥何の?」
藤原くんが肩を竦めて先生を見る。先生は意味が分かっているのか、ポンと藤原くんの肩を叩いた。
「それより二年になってだいぶ人入れ替わったよな。まだ人見知り発動してんの?」
「う‥‥だって‥」
「‥道理で男子の視線が痛いわけだ。でも先生も今年からなのに、平気そうだな?」
先生を見上げれば、ぱちりとその瞳と目が合う。
「去年から度々話していましたからね。慣れたのでは?」
「それは――ふぎゃっ!」
「ユウー!何話してんの?」
ドンッと後ろからの衝撃に、再びぼすっと先生の胸に激突する。
「藤原また来たの?マメだねぇ‥」
「うるせぇよ!」
「ご、ごめんなさいっ」
「けほ‥藤崎さんは大丈夫ですか?」
「あれっ?そんなに強くやったつもりなかったんだけど‥二人ともごめんね?」
苦笑しながら友達に返事を返している先生。
だけど私はそれどころではなく。
ぶつけた鼻を押さえながら、熱い頬を隠すように俯く。
二回も先生の胸にぶつかってしまった。ふわりと鼻を擽った先生の香りが脳を揺さぶって。
「藤崎さん?」
ふわりと、頬に差し込まれた先生の手。
「ああ、鼻が真っ赤になってますね。痛みますか?」
覗き込むようにして、目の前にある先生の顔。
クラスのざわめきで我に返った私は、熱が上がっていくのを感じながら。
「うにゃああっ」
変な奇声を上げて勢い良く後退り、友達に抱き付いた。
「先生‥」
「突然それは日本人には刺激強すぎるってば」
「、何か見てた俺らが恥ずかしいんだけど」
「そう‥ですか?すみません」
「先生!俺らにもそのテク教えてよ!」
「バカ男子!あれは日本人がやっても決まらないの!」
「もー、見てるだけなのにドキドキしちゃった」
いつの間にかクラス中から先生に声が飛んでいる。
先生は苦笑して、鳴りだしたチャイムにその場を収めて藤原くんを教室に返した。
「皆さん、いつまでも騒いでいると‥この間の小テストばらまきますよ?」
ぴたり、と騒音が止み全員の視線が先生へと向けられる。
にっこりと笑うラック先生は満足したようで、いつものように授業を開始した。
皆が顔を青ざめている中、私だけがそんなラック先生にすらときめいてしまっていたのは‥私だけの秘密だ。
恋は盲目。貴方に盲目
頬杖をついて先生の触れた頬に手を重ねる。
教科書をめくるところ、黒板をなぞる指先、質問を促しまっすぐ向けられる瞳。
先生の仕草を見ながら、先生の声を聞く。私が一番、幸せな時間。
.