20000打企画小説
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「デートしませんか?」
お休みが重なったある日の昼下がり、ラックさんの問いに私は考える間もなく反射的に頷いた。
そんな私に一瞬目を見開いたラックさんはクスクスと肩を震わせて。
頬に熱が上がって行くのを感じながら、ちらりとラックさんに視線を向けた。
「あの、でも、いいの‥?」
「私がしたかったので誘ったんですよ」
折角休みが重なったのだからと続けるラックさんに、私は緩む頬を隠すように両手で口元を覆う。
では早速、と立ち上がったラックさんに慌てて続くと、出掛ける準備もそこそこに家を出た。
「どこに行くの?」
ぱたぱたと走り寄ると腕を差し出されて、私はそれに腕を絡める。
「まだ大分時間がありますね‥ウィンドウショッピングでもしますか?」
「うんっ」
どうやらどこに行くのかは教えてくれないらしい。
あのセーターはラックさんに似合いそうだとか、そろそろバスルームのカーテンが換え時だとか、バイト先で起こったこととか。
ゆっくり歩きながら、色んな話をしてウィンドウショッピングを楽しむ。
ラックさんは聞き上手だから、気がついたら私ばっかり話ていて。
慌てて口を塞いだらラックさんに笑われてしまった。
「わ‥綺麗なお店‥」
ガラス越しに飾られたドレスに、靴やアクセサリーが添えられている。
お洒落で落ち着いた雰囲気のブティック。とても自分だけの決心では入れそうもない、大人のお店。
それなのに、ラックさんはそのまま中に進もうとして。
「ラックさんっ?こ、ここ入るの?」
「はい。嫌ですか?」
「い、嫌とかじゃなくて、その‥私には場違い気がして‥」
「そんなことありませんよ」
クスリと笑って頭を撫でられる。
促されるようにして中に足を踏み入れれば、その先は夢のような空間だった。
「いらっしゃいませ。今日はどのようなものをお探しに?」
「彼女に似合うドレスを一着。メイクもお任せします」
「かしこまりました。どうぞこちらへ」
やりとりされる間、私はぽかんと二人を交互に見やった。
え?だって、どういうこと?
「ふふ、可愛らしい方ですね。サプライズですか?」
「ええ、まあ。この反応を見るのが私の楽しみで」
二人がクスクスと笑う。ついていけない私は様々なドレスを当てられ、絞った数着を試着して決定。
次に案内された奥で髪と化粧を施され、あっという間にドレスアップされてしまった。
「いってらっしゃいませ」
店員さんに見送られ、陽の落ちた街灯の下を歩く。
「ラックさん、このドレス‥」
「よく似合っていますよ。ユウの綺麗な黒髪によく合う」
「そっ、そうじゃなくて‥あのっ、えと、その‥‥ありがとうございます‥」
ぎゅうっとラックさんに絡めた腕に力を込める。
どういたしまして、と落ちてきた声は、笑いを含んでいるようだった。
「お待ちしておりました、ガンドール様」
高級そうなレストランのエントランス。
ラックさんを見上げても薄く口元に笑みをたたえているだけで。
お店に入る前に『質問の答えはあとで』と釘を刺されたのだ。
真ん中あるにダンスフロアを囲むように、個室風にカーテンで仕切られた中にテーブルが配置されている。
カーテンで中の様子が隠れ、必要以上に人目を気にする必要もない。
「どうぞ?」
「ありがとう‥」
ウエイターを断ってラックさんが椅子を引いてくれる。
カーテンの隙間からは音楽に合わせてフロアで踊るカップルが見えて、まるで何かの物語の中にいるような感覚だった。
「まだ緊張していますか?」
「ん‥だって、初めてのことばっかりで」
あんなブティックに入ったも初めてだったし、少し大人っぽいドレスも、こんなに高級そうなレストランだって。
「ここは外からは見えませんから、いつものようにリラックスしていいんですよ?ここの料理は美味しいと評判なんです」
「うん‥。実はね、すごくいい匂いがしてるから、お腹なりそうだったの」
優しく細められた瞳に促されて、グラスが小さな音を立てる。
運ばれてきた料理は本当に美味しくて、幸せだと零した私にラックさんが嬉しそうに微笑んだ。
「満足ですか?」
「うんっ、ラックさん今日はありがとう!」
「‥その笑顔が見たかったんです」
ラックさんはテーブルにナプキンを置くと立ち上がり。
「私と踊っていただけますか?」
私の横に膝を付いて、ゆっくり手を差し伸べた。
「わ、私ダンスなんてしたことないよ‥?」
「リードしますから。私の言う通りに」
「‥はい、」
手を取ると右手が腰に添えられて、私の左手を肩下に添えさせる。
体がぺたりとくっついて、抱き締められているみたいですごく恥ずかしい。
「そこで足を引いて‥次はターン」
ラックさんに教えてもらいながら音楽に合わせてステップを踏む。
「そう、上手ですよ」
「うー、難し‥わっ!ご、ごめんなさい足っ‥!」
「大丈夫。ユウ、顔を上げて‥音楽を聞いて、私に合わせてください」
くるりと小さくターンする度にドレスの裾が揺れる。
それがだんだん楽しくなってきて、いつの間にか私は足元ばかりを追うのをやめていた。
大人のデート。初めて尽くしの緊張も相まって、スマートなラックさんにドキドキさせられてばかりだ。
見上げれば優しい瞳と視線が重なって、ふふっと笑みが零れた。
「そういえばまだ質問に答えてませんでしたね」
今日のデートが特別なものだということは、私にも分かる。
でも今日は、何の記念日でもないのに。
「そうですね‥私はユウが望むなら毎回こういうデートでも構いませんが、強いて上げるなら‥」
‥何かラックさん今さらっとすごいこと言った?
「見てみたくなったから‥でしょうか」
「、何を?」
「この間ディスプレイされているドレスを見て、ユウに似合うのではと思ったんです」
頬が熱くなっていく。
くるり。ターンするとぐっと更に体を密着させられて、耳元にラックさんの唇が触れた。
「ですが困りました。‥‥ユウがあまりに綺麗で離したくない」
ぎゅうっとスーツを握って真っ赤になっている顔を隠すように俯く。
クスクスと笑っているラックさんに、私は僅かな抵抗とばかりにごつっと額を胸にぶつけた。
ふわふわまたひとつ
(‥ラックさんはね、いっつもかっこいいよ?)
(‥ありがとうございます)
(あれ?‥ラックさん照れた?)
(調子に乗るとお仕置きしますよ?)
(ごめんなさい)
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