20000打企画小説
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「はいっ、好きです!」
モンキーレンチを投げては掴み、投げては掴みを繰り返していたグラハムは、廃倉庫の入り口でぴたりとその動きを止めた。
「だって、あのクリームがふわってしてるのとか最高じゃないですか!」
「だからって三つは無理っスよ‥」
「え?ショートケーキなら五個はいけますよ?」
「‥‥う‥」
想像したのか口元を押さえたシャフトにユウが唇を尖らせる。
「何故だ‥‥何故アイツとユウがあんなに楽しげにしかも二人で俺の知らない話をして盛り上がっているんだ‥!信じられない‥信じたくない」
そんな様子をこっそり見ていたグラハムは、顔を覆うようにして天を仰いだ。
「シャフトのくせに‥‥(俺の)ユウに笑顔を向けられるなんて10年早い!悲しい話だ‥俺は悲しすぎて涙が出そうだ!」
「‥あれ、グラハムさんそんなとこで何やってんスか」
「あっ、お邪魔してますグラハムさん」
両手を広げ天を仰ぐグラハムに声がかかる。
グラハムは石像のように動かなかったが、不思議そうに覗き込んできたユウにその身を後ろに反らせた。
「わあっ、グラハムさんすごいです!」
「プルプルしてますけどね」
「シャフト。レンチで頭振り抜かれるのとペンチで奥歯抜かれるのどっちがいい?」
「どっちも嫌です」
起き上がったグラハムに合わせ二人も場所を移動する。
既に先ほど感じていた悲しみはどこか遠くに霞み、彼の頭の中は今“嬉しい話”で埋め尽くされている。
「ユウ、今日はどうした?」
「いえ、特に用事があったわけじゃないんですけど‥たくさん焼いたから皆さんにと思って」
彼女の差し出したバスケットには、様々なクッキーやスコーンが入れられていた。
グラハムはキラキラと瞳を輝かせると奇声を上げ、レンチを高く振り投げる。
「嬉しい話だ!(俺の)ユウが(俺のために)菓子を持ってきてくれた!シャフトお前食ったら壊す」
最後の一言はユウに聞こえてはいない。ちなみに“俺の”とは心の声である。
シャフトは呆れたように肩を竦めながら首を振った。
「‥‥ところでユウ。こういうのは良く食べるのか?」
「はい」
「あれだ、甘いものとか」
「さっきシャフトさんともお話してたんですが、甘いものならいくらでも!」
「‥そうか」
きょとんとユウが首を傾げる。
一瞬グラハムが落ち込んだように見えたのだが、彼の移り変わる感情は急すぎて理解するのはなかなか難しい。
「ならあれだ。一番の動物」
「動物ですか?ウサギです!もふってしてて可愛いです」
「ああ‥うん、いいよね。俺もいいと思うウサギ」
「グラハムさんはあるんですか?そういう、えっと‥いいと思うの」
「壊す!」
「以外でお願いします」
語る前に遮られしゅんとしぼむグラハムに、ユウがほんのり頬を染める。
心の声を表すならば“可愛い”の大合唱なのだが、ユウはそれを口に出すのを必死に抑えているようだった。
「‥‥あった。あったぞ一つ!やはり俺は壊すことが一番楽しいが、ユウといる時間も楽しい!」
「えっ‥」
「えっ?‥‥ちょっと今からバラすから三分待ってろ」
「うわ、今の恥ずかし――ふごっ!」
「シャフトさん!?」
再び倉庫に響く声と轟音。
シャフトは小さく咽せながら、その姿をじっと見つめているユウにため息をついた。
「‥‥会話が回りくどい‥」
「だ、だって“好き”なんて恥ずかしくて言えないですよっ」
「俺と話してるときは普通に言ってたじゃないっスか。そもそも好きな“もの”の話ですよね?」
「グ、グラハムさんは、特別だから‥」
“好き”
互いに一度も口にしたことのない単語だった。
彼以外になら、彼女以外になら、何てことない言葉なのに。
「ユウ!嬉しい話を思い出した!」
「えっ、何ですか?」
楽しげに笑い合う二人。端から見れば、どう見ても想い合っているのだが。
「‥早くくっつけばいいのに」
まだしばらくこの状態を見る羽目になるのだろうと、シャフトは小さく苦笑した。
好きと言ったら死ぬ病
(シャフト俺はどうすればいい‥!?死ぬのか!?やばい医者に行かないと俺死ぬかも‥‥しかし医者は何故か皆精神科に回そうとするから嫌いだ!役に立たない!)
(まあ、妥当な判断ですよね)
(‥ちょっとユウに会いに行ってくる)
(‥‥まあ、妥当な判断ですよね)
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