20000打企画小説
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「ラックさんこれは?」
「ああ‥いい色ですね」
晴れた日の午後。ラックさん馴染みのお店で、私はネクタイを当てた。
「どっちがいいかな?」
二本のネクタイをラックさんに向けて、むう、と唸る。
こっちは今のスーツにすごく合うけど、こっちの方が色んなスーツに合わせやすいかも‥
「こっち!」
右手に持っていた方を差し出すとラックさんは小さく笑って、それをお店の人に渡した。
お店を出てからなぜ笑ったのかと聞くと、ラックさんはさり気なく私を建物側へやって。
「ユウがあまりに真剣なので可愛くて。おかげでいいものが買えました、ありがとうございます」
私は紅く染まった頬を隠すようにフルフルと首を振る。
「、本当によかったの?私が選んで‥」
「私は冒険心があまりないので、つい持っている物と同じような物を買ってしまうんですよ」
「わ、それ私も」
自分一人で選ぶとつい、似たような服ばかり買ってしまうのだ。
二人で顔を見合わせて、クスクスと笑った。
「――野郎ッ!」
「――が、―――しろ!」
通行人がさり気なく走り去る。先の路地から聞こえてくるらしいそれにラックさんは眉を寄せて、ふっとため息をついた。
「ユウ。この先の信号を右に曲がってしばらくするとカフェがあります」
指さす方向を見やって、ネクタイの入った包みを受け取る。
「ありがとう。赤い看板に白字で“ANNIE”と書いてある店です。そこで待っていてください」
頷くと私の頭を一度撫でて、ラックさんは路地裏に入って行った。
それを見送って、私は言われた方向に歩き始める。
ここはラックさんたちのシマだから、問題事が起こればもちろん見て見ぬ振りなんてしない。
“ガンドール”の名前は、ここでは脅しにも加護にもなるのだと教えてもらったのは記憶に新しい。
ラックさん大丈夫かな?怪我とかしてないよね?
悶々と考えを巡らせていれば、はたと気がつく。
信号を曲がってからずいぶん経つ。辺りを見回しても赤い看板はなく、来た道を戻った。
「えっと‥」
さっきあっちから戻ってきて、元は向こうから来た‥んだよね‥?
またしばらく歩いて、完全に見失った行き先に足を止めた。
「‥なんで?」
思わず首を傾げる。信号を右に曲がって真っ直ぐ、なんて迷うはずないのに。
‥今度から考え事しながら歩くのやめよう。
「それは俺への質問か?」
驚いて視線を向ければ、いつの間にか壁に寄りかかっていた男の人。
「それなら質問の内容も頼む。内容を知らなきゃ答えられないからな」
「、あの‥」
真っ赤な髪に黒いコートを羽織った男の人は、大袈裟に首を振りながら近付いてくる。
私が困惑していると、その人はぐっと私の顔を覗き込んだ。
「お前、日本人か?」
あまりの近さに驚いて後ずさりながらこくこくと頷く。
「へぇ、日本人の若い女を見るのは初めてだな」
それでも近付いて来てまじまじと私を見る男の人に、少し怖くなって私が目を伏せると。
「ふーん‥‥よし、結婚しよう」
「‥‥‥‥へ?」
「俺の世界に初めて入り込んできた日本人の女がお前。大丈夫、お前は俺を好きになるから」
‥頭がついていかない。
えっと、これは、プロポーズされてる‥?今初めて会った人に‥?
「あ‥の、」
冗談かとも思ったけど、どうやら彼は本気のようで。
あまりに近い距離に顔が紅くなるのを感じながら、私は一歩足を下げた。
「なんだ?」
「私っ‥好きな人がいるので、その、ごめんなさいっ」
勢いよく頭を下げて一目散に走り出す。
そのまま角を曲がると、思いっきり何かにぶつかって。
反動で倒れそうになったところを抱き留められた。
「っ‥ユウ!?」
「ラックさっ‥」
その姿に、私はぎゅうっと抱き付く。
走って捜してくれたのか、ラックさんの胸は乱れた息で上下していた。
「店に行っても来ていないと言われて‥何かあったんですか?大丈夫ですか?」
私は首を振って、呼吸を整えるように深く息を吐く。
「ごめんなさい。大丈夫だよ、その‥迷っただけで」
「‥迷った?あの道を?」
頷く私に小さなため息を漏らして私の手から包みを取ったラックさんは。
「考え事しながら歩くのは止めてくださいね」
「なっ、なんで分かったの?」
「ユウがしそうなことです。それより‥本当に何もなかったんですよね?」
さり気なく取られた手はすっぽりとラックさんの手に包まれたままコートのポケットの中。
私が顔を上げると、ラックさんは悪戯っぽく笑った。
「もう迷わないように。それにこうしていれば温かいでしょう?」
「‥‥ん」
ポケットの中で指を絡める。
体を寄せれば優しく微笑みを返されて、私はもう寒さなんて感じなかった。
触れた指先から続いて、
(‥あ、そういえばね、赤い髪の人にプロポーズされたよ?)
(‥‥‥は!?)
(確か‥俺の世界に初めて入ってきた日本人だからって)
((それ‥知ってる人かもしれない‥))
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