1932 防御力ゼロ
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***
んく、と喉が動いたことでぼんやりと意識が持ち上がる。
水分が渇いた喉に染み込むような感覚に、もっと飲みたいと重い目蓋を上げた。
「もっと飲みますか?」
「ん‥」
ギシッとベッドが軋むと唇に柔らかいものが重なり水が喉を通っていく。
「っ、はあ‥」
頭が重い。頬がほんのり冷たさに包まれ再び目を開ければ、カーテンからもれる陽の光でラックさんの顔が見えた。
「‥わたし‥?」
「キッチンで倒れているのを見た時は‥久しぶりに焦りました」
「倒れて‥?」
額に濡れたタオルが乗せられて、その気持ちよさにゆっくりと息を吐く。
「風邪だそうです。‥気付かなかったんですか?」
小さく頷く。少し頭痛はしたけど他に風邪の症状もなかったし。
思い返してみると、ご飯を作っていたら突然目眩がして‥‥私倒れちゃったんだ‥
「‥場所はキッチン。貴女は調理中でした。それがどんなに危険だったか‥貴女にも分かりますね?」
「‥ごめん、なさい‥」
ラックさんはじっと私を見据えると私の手を取って、唇へと寄せながら目を閉じた。
「‥良かった」
きゅうっと心が締め付けられる。
もっと、もっとしっかり自分の体調を管理しておくべきだった。慣れない土地なのだから、尚更。
「心配かけてごめんなさい‥」
ラックさんは私の頭を撫でると優しく微笑んでくれた。
「軽い食事を作りました。それを食べたら休んでください」
「ん‥その前に着替えたい、かも」
汗をかいたのかシャツがしめって気持ち悪い。
ラックさんはシャツを出してくれると体を起こした私の背中に枕を挟んで部屋から出ていった。
のそのそと着替えを済ませる。元々ラックさんのものだったYシャツは、既に三枚私のものになっている。
私はそれを順番に着回してパジャマにしているのだけど、着心地に慣れすぎてパジャマを買ったらどうかというラックさんからの提案には何度か首を振った覚えがある。
ラックさんの作ってくれたリゾットを食べれば、当然薬の時間だ。
差し出された薬を見た瞬間、私は無理だと判断した。
「まさか、薬を飲まないとでも?」
「そ、そんなに大きいの飲めない」
「じゃあ砕いてきましょうか?」
「粉うまく飲めたためしがない‥」
「‥‥‥‥」
沈黙。だって、私カプセル飲めないのに、カプセルと同じくらいの大きさがある。
「風邪のせいだとは分かっているんですが‥そんな潤んだ目で見られるとさすがに」
がしりと顎が掴まれる。
「ほへ?」
ラックさんが膝をついた重みでベッドが軋み、嫌な予感がしてラックさんの胸を手で押した時には遅かった。
「やだっ、いやっ――」
薬が放り込まれ、コップを煽ったラックさんに唇を押し付けられる。
「んっ、んくっ‥」
流れ込んできた水が薬を奥に浮かせ、ラックさんの舌が私の舌を押しやる。
羞恥に情けなく眉を下げると、後頭部まで支えられてさらに深く舌が侵入してくる。
無理矢理喉へと流されたことで反射的に飲み込むと、ラックさんはしてやったりと言ったように目を細め舌を絡めた。
「!?」
そのままキスへと移行されて目を見開く。元々頭が重いのに、こんなことされたら‥
いつも以上に対応できない私が酸素不足でクラクラしてきた頃、ラックさんがそれに気付いて慌てて唇を離した。
「っ‥ラックさんのばか」
「ですが飲めたでしょう?」
「~っあれもうやだぁ‥」
「それは残念。‥恥ずかしがる姿が可愛かったのですが」
睨め上げる私を寝かせて、宥めるように頭を撫でる。
私は重い腕を持ち上げるとラックさんのほっぺをぺちりと叩いた。
「それにね、だめだよ。ラックさん、移っちゃったらどうするの」
「‥‥、私は不死者ですから、移ったとしても熱が出る前に治ります」
「あ‥そっか」
それもそうだ。ならよかったと、ふにゃりと笑えば額にラックさんの額が乗せられた。
「‥まだ熱いですね。今日は貴女のそばにいますから、安心して眠ってください」
「お仕事は‥?」
「休みをもらいました。兄たちにも早く元気な姿を見せてやってください」
こくりと頷く。私はラックさんの袖を引いて、眠る前に最後のお願いをした。
「ぎゅーってして‥」
ラックさんが抱き締めてくれると自分の体の熱さが分かる。
安心する。目を閉じると額にキスが降って、冷たいタオルが乗せられた。
「おやすみ、ユウ」
風邪=防御力ゼロ
(‥‥ボタンかけ違えてるし、潤んだ目で見上げて来るし、自分より僕の心配するし。‥ああ、もう。これ以上‥掻き乱さないでくれ)
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