1932 のみすぎちゅうい
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時計の針は10時を過ぎている。それでも寝室の扉が開くことはなく私は苦笑した。
ラックさんがこんな時間まで起きてこないなんて、今までにないことだ。
私はたまにそんな時間まで寝てしまうこともあるけれど、ラックさんはとても早起きで。
そんな彼が起きて来ない理由が何であるか、それは簡単に予測がついた。
「お兄ちゃんたち‥どれだけ飲ませたんだろう」
昨日の深夜遅く、本を読んでいた私は来客を知らせるベルに肩を上げた。
ラックさんなら鍵を持っているし、寝ているかもしれない私を気遣ってベルなんて鳴らさないのに。
恐る恐るドアに近付いて耳を済ませば、聞き慣れたフィーロさんの声に安堵する。
「フィーロさん?」
「お、よかった起きてたか」
ドアを開けたその先に佇むフィーロさんの肩にはぐったりと支えられたラックさんの姿。
「ど、どうしたの?」
「悪い、皆で飲ませすぎた。潰しちまった」
「と、とにかく、寝室までお願いします」
私が支えられるわけもなく、フィーロさんに寝室まで運んでもらい、何とか背広とネクタイは外して寝かせたのだけど。
「ふふっ、」
昨夜を思い出してつい笑みがこぼれてしまった。
だって、ラックさんったらベッドに納まるとぴくりとも動かなくなって、頬をつついてみても髪を撫でてみてもされるがまま。
すーすーと寝息を立てるその無防備な姿が可愛くて、私はついなかなか見られない寝顔をまじまじと見つめてしまったのだった。
「そろそろ起こそうかな?」
今日は休みだと昨日の朝言っていたけど、何かしたいことがあるようなことを言っていたから。
寝室を覗くと相変わらず静かな寝息が聞こえる。カーテンを開けても動じないラックさんに笑いがもれた。
「ラックさん、朝だよー」
ベッドに両肘を置いて地面に膝をつきながら、ほっぺをつくつく。
眉を寄せたものの目を覚ましたわけではないらしい。
「もう起きないとですよー」
ぽむぽむと腕を叩くと、うめき声と共に掠れた声が返ってきた。
「‥‥あと‥少し‥」
「でも用事あったんじゃないの?間に合う?」
「‥今日‥‥なに‥?」
私に聞かれても。眉を寄せてこちらに寝返りを打ったラックさんの目蓋はまだ開きそうにない。
それにしてもどうしたものか。寝惚けてるラックさん‥可愛すぎる‥!
「もう少し寝る?」
「‥‥うん‥」
うんって‥!緩む頬を押さえながらも、寝かせてあげたいけど沸いた悪戯心に逆らえそうにもない。
「ふふ、ラックさん可愛い」
うとうとと再び夢の中へと片足を踏み込んでいたラックさんは、私の声に反応したように眉を寄せ髪をかき上げた。
「僕が‥?冗談‥‥可愛いのは、ユウの方でしょ‥」
「‥‥‥‥」
‥多分、ううん、絶対。顔が真っ赤になっているであろう私はそのまま腕を乗せていたベッドに顔を埋めた。
反則。今のはずるいよ‥完全に油断してた。砕けた話し方で、しかも可愛いだなんて、そんなの。
小さく唸っていれば、突然ベッドのスプリングが鳴って驚いて顔を上げた。
そこには上体を起こして唖然と私を見ているラックさん。私はぱちぱちと瞬きをして、よく分かっていなそうな彼に告げた。
「10時、過ぎたよ?」
「‥‥私は今‥何かおかしなことを?」
おかしな。そうではないけど‥どう答えれば。
「‥可愛かったよ?」
「‥‥‥答えになってません」
二日酔いか頭を抱えてしまったラックさんに事前に用意していたお水を渡す。
「大丈夫?薬飲む?」
「いえ‥どうせすぐ治りますから」
不死者とはそういうものだ。刺されれば傷となり出た血が戻って治るように、風邪を引けば症状は出るものの人の何倍もの早さで治るように。
二日酔いも同じこと。でもそれを思えば酔うことだって同じはずなのに、あそこまで潰れてしまうなんて本当にどれだけ飲ませたんだろう‥
「途中から記憶がないんですが‥どうやって戻って来ましたか?」
「フィーロさんに抱えられて。何しても起きないからびっくりしちゃった」
ラックさんは苦笑するとシャワーを浴びて来ると言ってよろよろと寝室を出ていった。
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